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  • ありとあらゆる金と欲望がストレートに集まってくる場所。そのニューヨーク国際金融市場が、一週間の死闘を終え、つかのまの眠りにつこうとしている金曜日午後4時16分――幸田真音『傷 邦銀崩壊』は、一日の、そして一週間の緊張がとけようとする瞬間を待っていたかのような突然の巨額取引から物語が始まります。冒頭シーンから引用します。〈ルーク・サイモンの思惑は見え透いていた。「臆病者!」吐き捨てるようにそう言って、州波はすぐに受話器の保留ボタンを解除(オフ)にした。(中略)州波は電話の相手にルークの売り値を告げた。ルークに対するのとは対照的な柔らかい声で、しかし明確に、あくまで毅然とした言葉遣いである。即座に州波は客の了解を得た。「オーケイ。取引成立(ダン)! ルークの売り、ミスター・ハニーフの買い。102の11/32で十億ドルの指標銘柄(カレント)の長期国債(ロング・ボンド)よ。いいわね」州波は再びルークに向かって叫ぶ。たったいま客との十億ドルの取引が成立したことを確認するためである。インターコムの向こうで、ルークが悪態をついたのが聞こえた。いや、悲鳴をあげたと言うほうが正しかった〉有吉州波(すなみ)は、世界のトップを競うモーリス・トンプソン証券で、国際営業部門のトップ・セールスとして実績を築き、日本人女性でありながら37歳の若さで取締役に取り立てられた。しかも類い稀な美貌の持ち主。その凄腕に巨額な投資資金を託す投資家たちの存在(「1本が100万ドル」を意味する世界で、一瞬にして1000本を売り買いする!)、そして彼らの欲望と思惑が交錯して行き詰まるようなディーリングの実態・・・・・・幸田真音のスピード感に溢れるテンポのいい文章によって読者は国際金融の世界、その舞台裏へと一気に引きずり込まれていきます。プロローグにみなぎるドキドキするような切迫感はいうまでもなく、かつて米国系銀行の債券ディーラーとして国際金融取引の現場を身をもって体験した幸田真音だからこそ書けるものです。ちなみに、筆名の「真音」は、「まいん」と読み、「買い」を意味する取引用語「mine」(マイン)からつけられたそうです。本書は1998年の出版時のタイトル『傷』が文庫化の際に『傷 邦銀崩壊』と改題されたことからもわかるように、バブル崩壊によって大打撃をうけた邦銀「康和銀行」内部で進行していく巨額損失隠しの策謀、そこにつけ込んで巨利をむさぼる外銀や外国証券会社の思惑を横軸に、そして縦軸には康和銀行ニューヨーク支店課長だった恋人・明石哲彦の死の真相を明らかにしようと動く有吉州波の仕掛けと復讐をおいて物語は展開されていきます。そして最後に待ち受けている思いも寄らぬ結末・・・・・・20世紀末の国際金融戦争の舞台裏――欲望の凄まじさとマネーをめぐる暗闘に傷ついていく男と女の哀しさを幸田真音は見事に描ききりました。新聞紙上を「ユーロ危機」「ドル不安」などの活字が踊るとき、その陰では「有吉州波」が静かに動き始めている。そんな思いがしてくる時代性をもつ力作です。(2011/12/9)
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    投稿日:2011年12月09日
  • かつて、野球とベースボールは違うといわれましたが、メジャーで活躍する日本人選手が増えるにつれて、あまり耳にしなくなった気がします。ただ、野球場とボールパークは異質のようです。『ボールパークへようこそ』(高田靖彦)に登場するビール会社の会長・鳥塚は「ひとつのチームの絶対的な強さじゃなく、高いレベルでのせめぎ合い」を求めてファルコンズを買い取り、仙台に天然芝の「仙台野球園」を作ります。あとは肝心の人材なのですが、メジャーリーグで大活躍する矢畑を獲得し、甲子園のかつての優勝投手・門前(もんぜん)をスタッフとして招きます。でも、従来からの負けグセがついた最弱球団はそんなに簡単に強くなりません。このマンガを読んで面白いと思ったのは、主人公・門前の野球に対してのひたむきさ、というかじたばたぶりです。かつて人気球団にドラフト1位で入団した門前は、故障によりプロ球界を離れます。そして、今度はファルコンズの裏方スタッフとして、ボールパークのように選手と観客が一体になって楽しめる球団作りを支えようとしますが、困難ばかりが待ち受けます。かつてのヒーローが挫折ばかり味わっても野球から離れられない、その情熱に胸を打たれます。どこかの球団のオーナーにも読んでほしいな、と思いました。 (2011/12/6)
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    投稿日:2011年12月06日
  • なにかと理由をつけては酒を飲み、飲み屋に繰り出しては管を巻く! 日々、酒で笑い酒に泣く! 生産性ゼロ! …なんて素晴らしい酒飲みライフ!(゚∀゚) 酒飲みの真のバイブル『平成よっぱらい研究所』の二ノ宮知子が贈る、本格派酔っ払いビジネスストーリー!! 社内No1の業績を叩き出す営業二課は、ただ飲みに行くためだけに仕事をする!! 職場のノリは就業中から居酒屋そのもの!! もう、むっちゃくちゃで笑えます!!! うんちくとかどうでもいいもーん、ただ飲みたいだけだもーん派なあなたなら、きっと楽しくなってしょうがない爽快で豪快な傑作!(2011/12/6)
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    投稿日:2011年12月06日
  • 「私 甘子 28歳 独身 エロまんが家」の切り口上ではじまるコンビニのマンガが、この『甘子 28歳 独身!ぷちムカ・コンビニ』(フカザワ ナオコ)です。タイトル通り、コンビニに対してちょっとだけ物申したいネタが並びます。「いらっしゃいませ」のひとことも言わない無愛想な店員やお弁当の売り切れ、カップラーメンに入れるためのお湯切れなど、ぷちムカのストーリーが綴られているのですが、途中で笑ってしまいました。ある日突然、甘子が「コンビニのレジの中にいます」と、今度は店員の目で描き始められるからです。甘子が連載している出版社が倒産して収入が厳しくなり、コンビニでバイトしなければならなくなったからです。驚いたのは、コンビニでひそかに利用されているという「裏マニュアル」です。朝、行列が出来そうなときに運用されるらしく、本当にあるかどうかは知りませんが、これには笑わされました。ほかにも、立ち読みニート君やバカップルへの対応など、コンビニで巻き起こる笑えるドラマが満載です。(2011/12/6)
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    投稿日:2011年12月06日
  • 『弁護士のくず』小学館漫画賞を受賞した井浦秀夫のホラー・コメディ。『弁護士~』が異色弁護士の活躍する、ためになる系ドラマであるのに対し、こちらはタイトル通り、なんとも気の抜けた感のある作品です。妻を亡くして5年がたち、新しい恋人との結婚を考えはじめた漫画編集者。そこに死んだ妻・美保が幽霊になって現れて起こるひと騒動。古典怪談をなぞっているかのようなストーリー、昭和チックな絵柄と、『弁護士のくず』よりはるか以前に描かれたことがうかがえてその差に驚いてしまいました。ですが、読み進めてやっぱり同じ作者なのだなあと思うところも。人間の描き方なんですよね。主人公優作は美保の幽霊と恋人の間でふらふらして
    、それはダメだろうと思わせる描写でコミカルを演出しながらも、妙に説得力のある正論をかましてどっちがいいのかわからない問題を納得させる。基本構造はよく似てるじゃないかなあ。『弁護士~』には思い入れがあるので、作者の基本姿勢ぽいところが垣間見れたのがうれしかった。まあ、そんな見方をする人は少数派でしょうが…。(2011/12/1)
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    投稿日:2011年12月02日
  • いわずと知れたCLAMPの代表作!各方面で大ブームを巻き起こしたこちらの作品。私がこの作品に出会ったのは、昔衛星アニメ劇場で放送されていたアニメを見たのがきっかけです。魔法少女・さくらちゃんがコスプレをしてクロウカード集めに奮闘するという、夢と希望と勇気、そして愛が溢れたファンタジー作品。さくらちゃんのコスプレが毎回の見どころでして、とにかくコスチュームの可愛いこと可愛いこと!なぜコスプレをしているかというと、これには「さくらちゃん命」の親友・知世ちゃんが起因しています。知世ちゃんは自分が作ったバトルコスチュームをさくらちゃんに着せて動画を撮りまくって応援し、「さくらの勇姿は1秒たりとも逃さない」という信条を持つ変態じみた小学生です。まあ私はどちらかというとさくらちゃより知世ちゃん派だったんですが。うん、…でも本当は雪兎さん派だった!というか雪兎さんと桃矢のカップリングが大好きだった!え?だって公式でしょ?違うの??(^ω^)いつも発信される微妙な電波を敏感に感知しながら萌え萌えしておりました…。もちろん小狼くんもツンデレで好きだけどね!この作品のすごいところは、百合もホモもショタもロリもすべてが凝縮されていることです!!ターゲット層広すぎっ!!\(^o^)/でも連載は少女漫画誌「なかよし」というw確かにコスチュームや魔法など子供が好きそうなものが沢山盛り込まれていますが、大人でも十分楽しめる内容です。(色々な意味でw)ストーリー展開や伏線の張り方が見事で、雪兎さんやお父さんの正体には皆さん驚かされたのでは?この辺の緻密な計算とシナリオの鋭さはさすがCLAMP!って感じで歪みないです。いつもいい意味で裏切られます。そして何よりキャラクターが魅力的です!ひとりひとりに愛情を持って描かれているのが伝わってきます。まだ読まれていない方がいらっしゃったら、是非一度ご覧になってください!レリーズ!!
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    投稿日:2011年12月02日
  • すぐそこにある人生の哀感。藤沢周平が遺した唯一の現代小説『早春』は、妻子を守って懸命に生きてきた56歳のサラリーマン・岡村が主人公。5年前に妻に先立たれ、長男の雄一は地方の大学を卒業してそこで就職。入り婿の形で地元の素封家の娘と結婚して、年に二、三回電話があるだけ。娘の華江は勤め先の妻子ある上司と不倫の関係にあり、上司が離婚するのを待って一緒に生活を始める準備をしている。しかも単身赴任中の5年前に病弱の妻の看護を理由に本社への復帰を願い出て、その時から窓際族となって、以来なすべき仕事はない。日がな一日資料を整理するだけの毎日で、息子、娘が巣立っていって、一人になっていく日々をおくる岡村の孤独感が迫ってきます。その寂寥感が胸をしめつけ、岡村の人生をすごく身近なものに感じさせます。時代小説の名手といわれる藤沢周平ですが、現代小説は平板で時代小説ほどにうまくはないとする評価も少なくありません。しかし、あえてストリー展開を抑制して平々凡々たる窓際族のもの静かな晩年を描いたところに藤沢周平晩年の思いがあったような気がします。藤沢周平の素の部分が晩年になって現れたのが、本書表題作『早春』といえるのではないでしょうか。藤沢周平は岡村の胸中をこう書いています。〈膝を入れるほどの小さな家でいいから自分の家が欲しいと、焦がれるように思いつづけたことも、頭金のつごうがついてローンを組みおわったときの喜びも、いまは夢かと思うばかりに気持から遠かった。家というものに抱いたそのころの欲望のはげしさを、岡村は理解しがたいもののように思い返すことがある。そしてそんなふうに家に対する愛着がうすれた理由についても、岡村はぼんやりと思いあたるところがあった。家を欲しがったのは、自分のためというよりは自分をその中にふくめた家族というもののためだったろう。だが繭の中の蛹(さなぎ)のようにその家でまどろんだ時間はほんのいっときで、家族はいま四散を目前にしていた。家は御役ご免になったのだ〉〈子供や家に対するあの熱くてはげしい感情は何だったのだろう。こんなふうに何も残らずにきえるもののために、あくせくと働いたのだろうか。窓の光はいつの間にか消えて、考えに沈んでいる岡村を冷えたうす闇の中に取り残した〉文学青年の残り火ともいうべき藤沢周平の現代小説は、あくまでも物語性を排して晩年にさしかかった男の哀感を色濃くにじませて、読むものの胸を撃ちます。救いのなさ故の共感といったらいいでしょうか。本書にはこの現代小説とは対極をなす時代小説2篇――『深い霧』『野菊守り』が収録されています。いずれも平成の作品で、晩年の藤沢周平らしい人に対する温かみが溢れる名品です。さらに、時代小説への取り組みや、司馬遼太郎への思いを綴ったエッセイなど4篇(『小説の中の事実』『遠くて近い人』『ただ一度のアーサー・ケネディ』『碑が建つ話』)も収録。編集上の工夫があり、編集力が十分に発揮されて、これまでとは違った「藤沢周平」を味わえる短編集となっています。(2011/12/2)
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    投稿日:2011年12月02日
  • 今回も「フラワーズ」から…;^^ おもしろい漫画がほんとに多いのです。『雨無村役場産業課兼観光係』は、小学館漫画賞受賞作『町でうわさの天狗の子』の岩本ナオさんの作品。東京の大学を卒業し、華やかな都会暮らしに未練を残しつつも、故郷の村役場に就職することにした主人公の銀一郎。田舎に帰った彼を待っていたのは、若者は自分を入れて、幼なじみのメグミ、コンビニのバイト店員・澄緒のたった3人だけという、ちょっぴりさびしい現実…! この少ないメンツでいったいどんなドラマをやろうというのか!? と、一瞬思いますが、ゆるーい雰囲気がツボ。天然で超美形な澄緒というキャラがいい味出しています。そして、その澄緒が、気が付いたらびっくり仰天なことになっていたり…! ぜひご一読を。(2011/11/29)
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    投稿日:2011年11月29日
  • 日本シリーズと明治神宮野球大会が閉幕し、今年も野球のシーズンが終わってしまいました。ここ数年、プロ野球人気はすっかり低迷してしまいましたが、野球マンガはいろんな魅力的な作品が生まれています。『バッテリー』(かわぐちかいじ)は、高校野球でバッテリーを組んでいた、投手・海部(かいふ)と捕手・武藤の本格ストーリー。何が本格かというと、野球ファンをうならせる細かい描写までこだわっている点です。例えば、捕手が塁間約3秒の走者を刺すための脇の使い方や、投手が投球する時のかかとへの力の入れ方など、「フォーム」という言葉で大ざっぱにまとめない点です。加えて、このマンガの一番の醍醐味は海部の非凡さと、プロで対戦することとなる武藤のライバル心です。武藤は海部の投手としての怪物ぶりを知り抜いているがゆえに、敵対心としての炎も大きく燃えます。敵となっても相手のことがいつも頭から離れない、これが本物のバッテリーなのかもしれません。冬のストーブリーグは、野球マンガで熱くなりましょう!! (2011/11/29)
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    投稿日:2011年11月29日
  • 2009年に異例の4社合同フェアでデビューした漫画家なので、作品を読んだことがなくても河内遥(かわち・はるか)の名前を耳にした人は少なくないはずです。いろんなジャンルで描き分ける漫画家で、私は時代劇作品が好みですが、この『縁側ごはん』も素敵でした。「ばーちゃんのかたみ」の平屋に住むキー坊が主人公で、今風に言うと草食系のこの青年の作る料理を中心に描いています。淡々とした日常のなかで、時々訪れる姉と一緒に「ばーちゃんが教えてくれた」揚げ菓子や土佐煮を作るのですが、これがすこぶる美味しそう。ぐつぐつと、おでんを煮立てるシーンなんて、読んでいるほうも熱燗を用意したくなるほどです。食を通した歳時記としても、楽しめる作品です。ばーちゃんは回想としても登場しませんが、孫にとってのばーちゃん…縁側の日向の匂いが伝わってきそうな心を暖かくしてくれる作品です。(2011/11/29)
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    投稿日:2011年11月29日
  • 「三十七年、四谷へ妻を迎えた、妻はそれまで、宝塚で一人住いだったから、後生大事に米穀通帳を所持し、これを登録しなければならないと、おごそかにいった、ところが、ぼくは都内を転々とするうち、どこかへ置き忘れてしまい、やがて食い物も豊かになって、通帳の世話になることがない、早い話、四谷には新潟から、うまい米がトラックで運ばれてくる。その道理をいいきかせたが、妻は納得しない」――昭和25年から37年まで、東京の町を転々としながら暮らした野坂昭如は、その土地との関わりを綴った本書『東京十二契』で、結婚をして東京で妻と暮らし始めた頃のことをこう書いています。米穀通帳は日米開戦の翌年、1942年(昭和17年)に始まる食糧管理制度のもとで米の配給を受けるために必要とされた通帳で、引っ越しをするときには必ず新しい住所に変更しておかなければならなかった。身分証明の代わりにもなった大事なものだったが、米の流通が自由化されていくのにともなって、徐々に必要性が薄れていった。最終的には1981年6月に食糧管理法が改正されて米穀通帳は廃止となったが、1960年代前半(昭和30年代後半)は確かに必要で、これなしにはアパートを借りるのもままならない時代でした。「お米の通帳のない家なんてありません」世帯主なんだから、あなたを筆頭者とし、つづいて妻ナニコと記した通帳がいる、妻はそう主張して譲らない。小滝橋、戸塚2丁目、野方、沼袋、鍋横、参宮橋、梅ヶ丘、文京区柳町と遠い記憶をたどって思い出しはしたものの、ほとんど夜逃げ同然、不義理を重ねたあげくで、今更、配給の転出証明などいい出せない・・・・・・。それでも断固として探してくるよう命ずる妻。錦松梅を手に出かけていった野坂昭如、首尾よく通帳を手に入れてきたものの、今度は米屋がどこにあるのかわからない。妻は「お米屋さんを知らないで、どうやって食べてたの」と不思議そうだったとありますが、野坂昭如、米を買う金があれば飲んでしまっていて、東京で米屋に行ったことがなかったと、正直に書いています。今は妻に支えられてリハビリに励む日々と聞きますが、本書で語られる若き野坂昭如と妻との間の出来事からは、無頼派といわれてきた野坂昭如のもうひとつの顔が見えてきます。二人はこの後、昭和41年5月に練馬に転入します。そして転入の日から5日後、代表作『エロ事師たち』の出版記念会がホテルニューオータニで盛大に開かれます。無頼派作家への道を歩んだ時代、過ぎし日への旅立ちで野坂昭如は何を見、何を思ったのか。あとがきに、こうあります――「オリンピック前後を境に、東京の街は面目を一新し、もし以前のままであれば、街角のたたずまいや、見覚えのある看板に、いちいち胸ふたがれ、うなだれてそそくさと立去って当然のところ、幸いにしてというべきか、わが不真面目の痕跡は片鱗も残さず、消え去ってしまっていた。今浦島というよりは、定跡通り戻ってみたものの、犯行現場がすっかり変ってしまっていて、血の色も臭いもなく、とまどっている犯人の心境。だから十二契はまた、俺はここで、たしかに人を殺した、誰だ俺の死体を盗んだ奴はと、さけんでいるようなものだ」感傷を超えて変貌をとげた東京への、そして時代のうつろいに思いを馳せる時を過ごしました。(2011/11/25)
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    投稿日:2011年11月25日
  • 鈴木ツタ先生を知ったのはデビューコミックスである『hand which』が初めでしたが、当時、現代ものを描かれるのが多かった中、『この世 異聞』は人外ファンタジーもので、BE×BOYで連載が開始された時は非常に新鮮だった覚えがあります。人外の守り神・セツ×病弱な人間・昭雄の物語。山根昭雄の血筋は代々早死にしてしまい、親戚からは呪われた家系と忌み嫌われていた。そんなある日、昭雄が発病してしまう。思わず守り神を召喚した昭雄の前に現れたのは、耳と尻尾の生えた全裸男。「名前を付けろ」という全裸男に「セツ」と名付けた昭雄。セツは祟られた昭雄の家系を代々護ってきた人外で、「病気を治したい」という昭雄の願いを叶えるため、身体にはびこった病魔を食べて病の元を外に出してくれることになるが、まずい病魔を食べるついでに、昭雄も一緒に食べられてしまって!? …という、和風ファンタジーBL。昭雄にとってセツは、病魔は食べてくれるけど、ついでにいやらしいことをする嫌な奴という認識しかなかったのですが、一緒に過ごすうち、だんだんと心情に変化が現れていき、1巻でなんとか丸く収まる感じに。2巻ではセツの昔の話も描かれ、なぜセツが獣人になったのか、なぜ昭雄の一族を守るのかが明らかになります。過去話はシリアスな内容で、時代設定やストーリーがしっかりと練られており、ただのBLでは終わらないというツタさんの筆力が感じられます。そして犬の交尾ネタはb-Boy Phoenix「擬人化特集」に入ってましたよねリブレさんwBE×BOYの著者欄?に犬のアレの話ですみたいなことが書いてあって発売をすごい楽しみにしてた記憶がwええw犬のアレの話でしたw詳細は描かれていないので、犬のアレについては予備知識が必要ですが、そこは想像力を働かせて、存分に楽しませていただきました!(*´∀`*)あと、個人的に好きだったのが鳩木くん×館長さんのお話!年下攻めのオヤジ受けですよ!このオヤジが憎いくらい可愛らしいwほのぼのカップルで癒されます(*´ω`*)
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    投稿日:2011年11月25日
  • 自宅から駅に向かう道の途中に小学校があり、その外壁に卒業制作のプレートが掛けられています。木の板に、卒業にあたってなのかな?、思い思いの言葉と絵が描かれており、これがなかなかに興味深い。「いつまでも友だち」と子供らしいのものや、漢字を使いたかったのか「弱肉強食」、妙に気合の入った「やればできる」、果ては「流れにまかせて」なんて疲れたサラリーマンみたいなものまで。子供の発想ってほんと自由でいいよなあ、と毎朝思いながら斜め見しています。そしてこの写真集。こちらの写真も主役は子供たちで、被災地の子供たちが撮った写真とコメントで構成されたシンプルなもの。子供の写真ですから芸術的価値はありませんし、被災後の復興ルポでもないので、けっして感心や感動を誘う作りではありません。けれど被災地の子供たちは、もうおびえずに前を向いて歩いてるのだな、普通に子供らしく生活しているのだな、ということが見てとれるのがうれしい限り。背伸びしたり、将来を語ったり。その辺の子供たちと変わらなくて安心できる、被災地のいまがここにあります。(2011/11/25)
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    投稿日:2011年11月25日
  • タイトルに使われているSPという職務は、最近ドラマや映画化もされているので、ご存知の方も多いかと思います。SPはセキュリティポリスの略称で、要人を警護する警察官ですね。警視庁から選ばれるエリート警察官ですが、職務の重さに反比例して、“世界で一番、軽い命”と皮肉られる言葉があるくらい、自分の生命を危険にさらさなければならない大変な仕事です。SPを題材にしたマンガというと、派手なアクションやヒロイックなシーンを連想しがちですが、この『SPセキュリティポリス』(国友やすゆき)には、SPという職務そのものに対しての覚悟のあり方にスポットを当てています。主人公の荒木はかつての同僚だったSP飯田の死をきっかけとして、「死ぬ覚悟のできている者に、何が見えているのか」が知りたくてSPに従事します。「死ぬ覚悟」と簡単に口にすることはできるかもしれませんが、その意味は大きいです。しかも、警護する対象が尊敬すべき人物だったらまだしも、いろんな政治家が警護の対象となるのですから…。作中に「警護対象者を好きにならなければ、守れない」という言葉が出てきますが、自分の命と引き換えに守る覚悟なのですから、そう思うのも当然です。荒木は答えを追い求めているうちに、上司が口にする「葉隠」(はがくれ)に接します。胸を打つシーンです。このマンガを読んで、SPこそが現代の侍なのかもしれない、そう思わされました。(2011/11/22)
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    投稿日:2011年11月22日
  • 藤井八雲の名において命ず! 出でよ土爪!!!(ノ゚∀゚)ノ ズバーン 出でよ光牙!!!(ノ゚∀゚)ノ ドカーン  あぁ…獣魔が欲しいっ!!! 三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)のパイと、もくもくしたケムリ(?)をあげ、何度も何度も死の淵から甦っていく藤井八雲。二人をつなぐのが「不老不死の法」。パイが死ねば自分も死ぬ。しかし彼女が生きている限り、不老不死どころか粉々になっても復活しちゃう!! 連載当時、圧倒的なおもしろさで、みんな夢中でした。日本、中国、チベット…世界を舞台に大スケールで描いた伝奇アクションは、10年以上に渡って連載され、全40巻という大大長編に。八雲はパイを守り通すことができるのか!? そしてパイは人間になれるのか、果たして結末は…!? 今週も少年時代へGo!! (2011/11/22)
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    投稿日:2011年11月22日
  • ただ今、「クリスマス2011~聖なる夜の恋愛作品特集~」実施中です!もうクリスマスシーズンなんですね~☆1年ってほんと早いなあ(´ω`:)こちらの特集では、掲載作品を10冊以上購入された方を対象に、なんとっ!!総額10万円相当のクリスマスプレゼントが抽選で5名様に当たっちゃうのですっ!ほんと~~に豪華なプレゼントなので、皆さん是非クリスマス作品を買って、奮ってご応募ください!(*^o^*) さて、その中から今回ご紹介する作品はこちらの『クリスマス心中』。山崎みちよ先生が1994年に描かれた心中シリーズの第一作目で、タイトルからも悲劇の結末が予想されるのですが、想像を絶する不幸に見舞われた可哀想な二人のお話です。2年目の交際記念日(クリスマス)、初めての夜を過ごそうと約束した、有紀(ゆうき)と浩志(こうし)。しかし、ある日、有紀が家に帰ると両親が多額の借金を抱え揃って首つり自殺。借金返済のために高校も辞め、キャバクラで働くことになった有紀。それを知った浩志は有紀をなんとか助け出すため奮闘するが、それは破滅への序章に過ぎなかった……!! 人生とは、愛とはなにか――!? あなたに強烈に問いかける、衝撃の問題作!! クリスマス作品といえば幸せな恋愛ものが多いと思いますが、これは本当に暗くて重いドロドロな内容で、二人がどんどん不幸になっていくのが読んでいて辛かったです。この作品の個人的な見どころは、有紀がかつて通っていた高校のセクハラ教師・宮地先生でしょうか…。有紀が働くキャバクラに毎晩のように現れ、有紀の身体をベタベタ触りまくるのですが、すごく……気持ち悪いんですwww見ればわかりますwまあ、この人も二人の不幸に巻き込まれた一人ではありますが、そこは自業自得かな…。あまり書くとネタバレになってしまうのでここでやめておきます><救いようのない話ですが、結末のクリスマスシーンでは、二人の強い愛の形に心を打たれます。他人から見れば不幸でも、この二人にとっては幸せな最後だったんだと思います。究極の純愛物語です。
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    投稿日:2011年11月18日
  • リリース前からツイッタ―で話題になっていた作品。東日本復興支援のためのチャリティーコミックです。漫画家全員が無償で描く、本気で読みごたえのある読み切りを描き下ろす、とその志についてはHPに掲げられており、その言葉に偽りない仕上がり。魂のこもった作品群が収められています。こう書くと大上段に構えているようにとらえられるかもしれませんが趣は少々異なっていて、漫画は漫画らしく、ということでテーマを絞ったりせず、また背伸びもせずに、内容はあくまで娯楽の範疇。ギャグあり、四コマあり、耽美風あり。多彩なジャンルの作品をそろえており、漫画家の個性で元気が出る何かを魅せるという感覚です。私は一番最初の作品「YNWA」がお気に入り。隠れて応援、というのがボランティアっぽくていいかな、なんて思ったり…。ほかにも漫画家による支援という形はいろいろあって、どれも素晴らしいですが、漫画に携わる身としてこのような企画も出てきたということはうれしい限り。eBookでもできる限り応援しますので賛同いただければ幸いです。(2011/11/18)
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    投稿日:2011年11月18日
  •  その時の衝撃はいまもはっきりした記憶として私の脳裏に刻み込まれています。
     1974(昭和49)年10月10日。その日発売された雑誌『文藝春秋』11月号に発表された、時の総理・田中角栄に関する二つのレポート──立花隆さんによる「田中角栄研究──その金脈と人脈」と児玉隆也さん(1975年5月死去)による「淋しき越山会の女王~もう一つの田中角栄論~」を目にしたときの、衝撃です。
     当時、私は駆け出しの週刊誌編集者。2年前の7月、日比谷公会堂で行われた自民党臨時党大会の決選投票で福田赳夫を破って総裁の座についた田中角栄は「今太閤」「庶民宰相」ともてはやされ、日本列島改造論を掲げてまさに飛ぶ鳥落とす勢いでした。その田中角栄の金づくりの詳細を徹底したデータの集積、緻密な分析とそれに基づく論理的な詰めによって解明した立花レポートと、田中角栄の金庫番かつ愛人の一人として裏舞台に君臨した佐藤昭の存在を明らかにした児玉レポート。この二つのレポートによって時の総理、田中角栄は失脚へと追い込まれていくわけで、戦後日本のジャーナリズムの金字塔といっていい超弩級のスクープでした。
     立花隆さんはその後も田中角栄の追究を続け、上下2巻の『田中角栄研究全記録』にまとめます。田中金脈追及に始まってロッキード事件による田中逮捕に至るまで、戦後日本の政治・経済・社会を一変させた「田中角栄」という存在を徹底的に追究した記録ですが、そのすべてがこのほど「電子書籍版立花隆全集」の第1弾として電子書籍リリースされました。しかも紙の書籍の内容を忠実に再現するだけでなく、紙の書籍にはない生(ナマ)の核心的資料、データ類が巻末資料として増補され、オリジナル編集の電子書籍版となったのが本書です。
     増補の一例が、田中角栄系の企業が免許を喪失しているにもかかわらず、土地取引を行っていたことを示す登記簿謄本です。
    〈私たちは、新星企業がつい最近も土地取引をおこなっている事実を知っている〉
     紙の本では立花隆さんは証拠の存在をわずか35文字の1行で匂わせていました。しかし、今回電子書籍化に際して、1974年から37年の間立花隆事務所の地下室に保管されていた大量のダンボール箱から貴重な原資料、記録類が発掘され、スキャンされてナマのそのままの姿で収録されました(上巻373ページ~403ページ、下巻383ページ~386ページ「増補資料編」)。画像方式の電子書籍だからこそ可能となった新しい編集手法です。日焼けして一部変色もみられますが、それも含めてナマ資料だけが持つ迫力、面白さがあります。
     そしてもう一つ、10月に発売された『文藝春秋』11月号に「田中角栄の恋文」と題するレポートが掲載されました。最後に愛した女性──佐藤昭に宛てた田中角栄の未公開書簡が発見されて、娘の佐藤あつ子さんによって公表されたのですが、これに解説をつけたのが立花隆さんです。立花さんによれば、今回明るみに出た佐藤昭への書簡を読み直していくと、37年前の角栄研究の時にはまだ見えてこなかった背後の関係性がわかってくるという。
    『文藝春秋』1974年11月号に始まる本書『電子書籍版 田中角栄研究全記録』と同じ『文藝春秋』2011年11月号の「田中角栄の恋文」を合わせてお読みください。37年の時をへだてて「田中角栄」なるものの真相がまたひとつ明らかになってくるはずです。

     なお、上述の「文藝春秋」掲載の「田中角栄の恋文」をきっかけに、佐藤あつ子さんは2012年3月、『昭 田中角栄と生きた女』(講談社)を出版。6月に配信が始まり、電子書籍で読めるようになっています。また、立花隆さんの『田中角栄研究全記録』は、今回取り上げた原資料増補の画像版とは別に、2017年10月27日から講談社文庫版を底本に電子化されたリフロー版の配信も始まっています。
    (2011/11/18、2017/3/5追補)
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    投稿日:2011年11月18日
  • タイトルに使われている「駐車監視員」の文字に思わず目が釘付けになりました。「ハザードランプをつけて、たった数分車を離れただけなのに、もう駐禁のステッカーを貼られた」というドライバーは少なくないようです。私も一度経験があります。2006年にスタートした駐車監視員制度によって、駐禁取締りがしっかり機能しているようです。この『となりの駐車監視員』(松木和哉)は、東京・銀座でなんと6000枚以上の確認商標を貼り付けてきたという駐禁違反車両発見のプロの読み物です。ページをめくると、監視員と違反者のトラブルの多さに驚きます。「6分しかとめてないんだぞ!」「トイレもいけないのかよ!」「メシもゆっくり食えないのかよ!」「その制服を脱いでかかってきやがれ!」「死ね!」…罵詈雑言にまで及ぶ数々の言葉を違反者は口にします。いい大人が、どうしてそんなに感情むき出しに怒るのか、この本を読んで目からウロコが落ちました。それは、違反者の勘違いにあるようです。道路交通法によれば、「運転者がその車両を離れて直ちに運転することができない」のが放置車両であって、駐禁の対象となります。要は、数分だろうが時間はまったく関係ないのです。教習所でも習った、そのルールを忘れたドライバーがいかに多いことか。私も然りでした。そして、もしステッカーを貼られた直後に車に戻っても、もう諦めるしかありません。また、監視員は、そそくさと現場を離れようとしますが、それはしっかりとした理由があるからです。監視員の立場と、とんでもない事例、そして駐禁ルールがわかりやすく説かれていますので、車を運転する方はぜひ読んでください。(2011/11/15)
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    投稿日:2011年11月15日
  • 漫画家が自らを主人公として描く「漫画家マンガ」のご紹介です。またもや、ですが面白いから仕方がありません。今回の『僕の小規模な生活』(福光しげゆき)が他の漫画家マンガと決定的に違うのは、高名な漫画家による過去を振り返った自伝的内容ではないことです。「モーニング」への掲載時に行われた編集者と漫画家と細々としたやりとりと漫画家の日常生活そのものが余すところなく描かれています。そもそも、この作品が「モーニング」で始まるてん末が波乱含みです。他誌とバッティングするような形で作品掲載を引き受けることになり、大モメする件は読んでいる方もちょっとドキドキしてしまいます。繊細というか、やや優柔不断気味な「僕」の慌てっぷりがリアルに伝わってくるからです。そして、忘れてならないのは「妻」の存在です。ちょっと、ずんぐりむっくりに描かれた「妻」の可愛らしいキャラクターぶりに惹かれるファンの存在も作品の支えのようです。「僕」は「小規模」といいますが、この本には間違いなくドラマが存在するようです。そもそも、何をやってもうまくいくサクセスストーリーなんて、ドラマとしては成立しないですからね。(2011/11/15)
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    投稿日:2011年11月15日
  • ここで書きたい書きたい、とずーっと思っていた作品です。昔、大好きでした! 舞台は戦国時代@日本と中国を足して2で割ったような、架空のオリエンタルワールド。国を滅ぼされた王子・鳳驍のもとに、強力な力を持った仲間が少しずつ集っていき、やがて巨大な敵国に挑んでいく、という王道ストーリーであります。「千人力の武神」と呼ばれる武将や、軍師、火薬師などといったジョブ(?)がいっぱいでてきて、いやがおうにも盛り上がります。この作品は、特にキャラの名前が秀逸だと思うのです。「鳳 驍(おおとり・たける)」ですよ!? 「巽 凱(たつみ・がい)」ですよ!? 甲冑や剣は、和風ベースのものに西洋風味を加えたようなデザイン。直線的な日本刀がカッコ良かったんです。この細見の刀が、巽が使うとものすごい堅そうに見えましたw こういっては失礼なのかもしれませんが、めちゃめちゃ中二魂をくすぐられる作品だと思いますw なんだか今週は少年時代の気持ちに戻ったようなわくわく感でいっぱいだ! (2011/11/15)
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    投稿日:2011年11月15日
  • 2008年4月に講談社学術文庫として刊行された『イザベラ・バードの日本紀行』(上・下)が電子書籍化され、先頃リリースされました。イザベラ・バードは1831年生まれのイギリス人紀行作家で、「ヴィクトリアン・レディ・トラヴェラー」(女性旅行家)として、世界中を旅してまわりました。そのイザベラ・バードが1878年(明治11年)に西洋人女性として初めて東北から蝦夷(北海道)を歩き、3か月間、のべ1400マイル(2240キロメートル)の旅を、イギリスに暮らす妹宛の手紙という形で綴った記録です。書名は『Unbeaten Tracks in Japan』で、初版は1880年ですが、じつは1885年に出版された普及版の翻訳本が『日本奥地紀行』のタイトルで平凡社の東洋文庫に入っていて、その電子書籍版がイーブックジャパンでもすでに販売されています。ただ、この普及版は日本全土に及んだイザベラ・ハードの旅のうち、東北・蝦夷(北海道)に絞ったもので、それ以外の京都・奈良・大阪の旅は収録されていませんでした。その点、講談社学術文庫版では、関西圏を含む彼女の日本紀行のすべてが完本から訳出され上下2巻に収められています。彼女が旅した明治初期の日本は西洋人にとってはどんな位置にあったのか。イザベラ・バードの興味深い叙述があります。上巻から引用してみます。〈船で米国から一六日、英国からは四二日、香港からは四日かかる日本はカムチャッカからわずか二〇マイル[約三二キロ]の位置にあり、アジア大陸にある朝鮮からは木造帆船で一日かければ着く。日本帝国は三八〇〇の島々でなるといわれ、北緯二四度から五〇度四〇分、東経一二四度から一五六度三八分に位置する。つまり最北端は英国南西端にあるランズエンド岬より少し南で、最南端はアフリカ、ナイル川上流のヌビア地方よりやや北に当たる。緯度で二六度分を上まわってまたがっており、北回帰線から三〇マイル内まで伸びているので、屋久島ではほぼ常夏の気候を楽しみ、蝦夷の北部ではシベリアなみの冬の酷寒に震えることになる〉アメリカから16日間の船の旅というのは意外に近いという感じがしないでもありませんが、イギリスから42日と聞けば、やはり遠い辺境の地であることは間違いありません。その辺境の地の、さらにUnbeaten Tracks(人跡未踏の道)へと彼女をかりたてたものは何か。未踏の地への旅支度は思いの外簡単なものだったようです。荷物の重量は約50キロ。一人ついた従者の荷物が約40キロ。柳行李(やなぎこうり)二個は紙で内張りがしてあって防水カバーの役割をはたしたそうです。折り畳み椅子(日本家屋は床しか座るところがなく、寄りかかれる壁もない)、ゴム製浴槽、軽い棒にキャンバス地を張った折り畳み式ベッド(わずか2分で組み立てられた)などが必携アイテムでした。食料についても――〈私が買ったのはリービッヒ製肉エキス少々、レーズン四ポンド[約一・八キロ]、食べるのと飲むのにチョコレート少々、必要時に備えてブランディ少々、それだけです〉食生活も違えば文化も異なる異境の、人跡未踏の地に踏み入ろうという女性作家の旅支度とはとうてい思えないほど簡単なもので驚きます。さて、辺境の地でイザベラ・バードは何に触れ、何を目撃したのか。明治期の日本を知るうえで貴重な文献として研究者の間でも高い評価を得ている名作です。(2011/11/11)
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    投稿日:2011年11月11日
  • 今だから話せますが、数年前にこの作品がドラマされたとき、黒田硫黄という漫画家の存在を知りませんでした。当時の私はテレビ誌の記者をしており、ドラマの企画書をパラパラと見ていたら、漫画の切り抜きがいくつか貼ってあって。「絵のうまいプロデューサーもいるもんだなあ」と思っていたという…、そんなことがありました。なんでそう思ったかというと、決め台詞に芝居がかったカッコよさがあって、絵も動きを意識した絵コンテのように見えたからなんですね。そんなことを思い出しながら読み返しましたが、そのときに感じたことはまったく的外れではなかったようです。主人公は「スパイか占い師になりたい」という14歳の少女。頭脳は明晰、行動力もあり、数々の事件に首を突っ込んでくるくると動き回るのがとにかく小気味良い。ごちゃっとした構成、絵柄も魅せるときは魅せてくれて、謎の老人と初めて出会う、テーブルひとつ間に挟んだ会話シーンなんて、映画のシーンみたいでため息がでるほど。ただロボは漫画ではダメ男すぎ。なんでドラマでは松山ケンイチだったのか、とても不思議。(2011/11/11)
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    投稿日:2011年11月11日
  • 昔お隣に住んでいた幼馴染で今は高校の先生・若菜さん×女の子に間違われる程可愛い高校生・隆の初恋物語「一途なの」シリーズと、一見遊び人風のゲイのサラリーマン・熊木×片思い中のノンケのデザイナー・尚人さんのラブコメディ「ままごとキッチン」シリーズの2本を収録した大満足の一冊です!! まず、「一途なの」。門地かおりさんといえば、基本的に芋系平凡受けと超絶可愛い美形受けの2種に分かれると私の中で勝手に認識していますが、「一途なの」の受けは、後者の超絶可愛い美形受け。しかも年齢差があるので若干ショタコン?入っちゃってます。子供の頃、隣に住んでいたお兄さん(若菜さん)に恋をしていた隆は、入学した高校で偶然、教師になっていた若菜さんと再会。隆は今でも若菜さんが大好き。でも若菜さんはある理由から、隆への想いを封印して……。門地先生の、ちょっぴりシリアスなピュアラブ★これはくっつくまでがすっごい切ないんですよ~~隆が本当に一途で…感極まって泣いちゃうところがもう可愛いのなんのって!!そして若菜さん。「喪失感がたまらない…もう嫌なんだ、たまらない……」と縋りついて拒絶する若菜さんを隆が後ろからギュッと抱きしめて「もう、俺……自分で考えて選べて決められる年なんだよ――…」というシーンが一番の見せ場ですが、ここがもう切なくて胸が詰まります…門地さんはキャラクターの表情や仕草で感情を表現するのが本当にお上手です。雰囲気作りがとてもうまくて、ドキドキ感がたまらないです!そして、その後素直になった若菜さんのタガの外れ様と言ったら…ただのツンデレのヘタレだったんだなとw隆が意外と男っぽい性格で、実は隆に一途なのは若菜さんなのでした^^そして「ままごとキッチン」。受けは実は隆のお兄さんで、タイプは2種のどちらでもなく、というか微妙にリバ?最後までの表現がないので不明ですが、見た目はどちらも攻めって感じです。これはいつもの残念なイケメンが主役。イケメンなのに、ヘタレのゲイです。そして隆のお兄さんが実は乙女で可愛い!コメディっぽくて楽しく読めます。合体の話はもうおかしくって笑っちゃいましたw1粒で2つの味が楽しめる作品、超オススメです!
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    投稿日:2011年11月11日
  • 南洋の孤島・唄美島で、ある時、ただ一人の小学生が転校し島を出ていくことになった。村の唯一の公的機関である「学校」がなくなると、廃村も危ぶまれる状況になってしまう。島の存続のため、洋平は東京で暮らす甥の光を、島に連れて来ようとするのだが──。森口豁氏のルポルタージュ『子乞い』を原案として描かれた作品です。やがて島の小学校に入学した光の健気な姿に心を打たれます。洋平は、故郷を守りたいという思いと、光の人生を犠牲にしているのではないかという思いの痛切な葛藤にさいなまれ、光少年もまた、島がどんどん好きになり、一方では、やはり親に会いたい気持ちの板挟みになり……。「もっと島が東京に近ければいいのに!」と無茶なことを何回思ったことでしょうか。また、本作では、村の問題と並行して、登校拒否になり、島の小学校へ転校してくる子供たちの物語が描かれていきます。深刻な過疎化を抱える島の大人たちと同様に、自らの力では乗り越えがたい困難な状況に向き合い、戦い続ける姿です。その描写は迫真です。学校にいかなくなった理由は千差万別で、子供たちの心情が、読むのが苦しいほどに痛々しいまでに描かれます。問題児というレッテルを貼られてしまった子供たち。型にはまることができない個性が周囲との行き違いをうんでしまったり、愛情は持っていても、それを向ける方向が少しずれている親との関係をどう保てばよいのか分からなかったり。どちらかが「悪」ということはなく、それがまた辛く歯がゆい現実であることを突き付けられます。しかしながら、なにか事が起これば、イニシアティブは、常に大人の側のものであることに変わりなく、「問題児」という言葉は一方向からしか見ていない決めつけであって、危ういものだとあらためて思いました。考えさせられることの多い作品です。ぜひご一読ください!(2011/11/8)
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    投稿日:2011年11月08日