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  •  1945年3月、太平洋戦争末期の沖縄本島。米軍の容赦ない空爆、艦砲射撃が開始され、そして4月1日上陸してからは火炎放射器が兵士ばかりか住民を追い回し、焼いた。家族をすべて失い、一人生き残った少女――占領下の沖縄からボリビアに渡り、激動の時代を逞しく生き抜いた知花煉(ちばな・れん)の一代記『ヒストリア』(角川書店、2017年8月25日配信)。1970年沖縄・那覇に生まれ、石垣島で育った気鋭作家、池上永一が20年前から温めてきた〈オキナワ〉の物語だ。
     ヒロイン知花煉の述懐を綴る、こんな一節がある。

    〈生きるか死ぬかの瀬戸際に追い詰められるまで、同時に家族、友人、知人が皆殺しにされるまで、戦争がどういうものなのか、ピンときていなかった。両親は誰かに憎まれて殺されたわけじゃない。友達も何ひとつ悪いことをしていなかった。それなのにある日、爆弾が落ちてきて、骨も歯も残らないほど粉砕された。極悪人の処刑でもここまでしないだろうというほどに。恐ろしいのは、アメリカ軍は私たち住民をまったく憎んでいなかったということだ。人は憎悪がなくても悪魔になれる。それが戦争というものだった。〉(「第十三章 私の魂の還る場所」より)

     米軍上陸前夜の空襲が始まり、〈最初の一発が女の叫び声のような音をたてて大地に炸裂し〉その衝撃で知花煉は〈自分の意志とは裏腹に大地を転が〉り、〈天と地が泥濘んでいるような曖昧な空間を木の葉のように舞〉い、マブイ(魂)を喪失した。普通なら肉体も失って〈死〉を迎えるはずですが、しかし肉体は存続し、知花煉が二人になった。マブイは地球の反対側のボリビアに飛ばされた。不発弾に守られるようにして横たわっていて覚醒し、〈長い死に際〉を生きることになった知花煉は沖縄戦の過酷な現実のなかに放り込まれ、100日間逃げまどう。「第一章 私の長い死に際」より引用します。

    〈私は敵を見た瞬間に殺されてしまう立場だった。敵と遭遇しないことこそ生き延びる唯一の道だった。この敵とはアメリカ兵はもちろん、日本兵も含まれる。銃を持った兵隊は全員が敵だった。〉
    〈もはや人の道に悖(もと)る連中だった。お国のためだと言って米を略奪する。水場を独占する。逃げ場の壕を奪う。泣いても喚(わめ)いても無駄だった。私が芋を両手で抱えている時のことだ。三日ぶりの食糧でやっと手に入れたものなのに、兵隊は恐ろしい顔をして、
    「いざとなったらこれで死ね」
     と手榴弾と交換させられた。私の命は手榴弾と同じだといわんばかりの口調だった。戦況は内側に日本軍というもうひとつの敵を内包し複雑になっていた。アメリカ兵は嫌いだが、日本兵は恐ろしかった。
    「せめて空腹を紛らわすお水だけでもください……」
    「貴様、なんだその目は!」
     私は眼鏡の日本兵が振りかざした銃床で殴られ泥のなかに突っ伏した。〉

     玉砕が迫る中で、この眼鏡の日本兵は奇形の芋虫にしか見えない陰茎を目の前に突きつけ、煉を自らのおぞましい性欲のはけ口にさえした。沖縄住民、とくに老人や子どもは、戦場の生態系のなかで最底辺に属していた。

     1945年6月23日。沖縄戦は終結した。夥しい屍体と、それと同じくらいの瀕死の生存者と、圧倒的な絶望。そんな占領下沖縄の戦後を知花煉は逞しく生きる。嘉手納飛行場近くのコザ市(現・沖縄市)の一角でアメリカ製品の横流しを請け負う商売を営み、後に初代琉球列島高等弁務官となるジェームズ・E・ムーア陸軍中将の知遇を得るが、ちょっとした手違いから米陸軍CIC(Counter Intelligence Corps 対敵諜報部隊)に追われる身に。そして、肉体を持つ知花煉も偽造パスポートを手に入れ白い移民船『チサダネ』号に潜り込みボリビアに渡ります。アフリカ最南端の喜望峰(きぼうほう)を回って大西洋に入り、ブラジルのサントスまで50日間の船旅です。
    〈煉、待ってるよ〉
     沖縄を離れる間際、知花煉の頭に響いた声。地球の裏側のマブイ(魂)が誘っているのだろうか。
     沖縄から遠く離れた南米ボリビアの地。二人になった知花煉――肉体を持つ「私」とマブイの「わたし」の物語が並行していく。入植地に入った知花煉は、大洪水や疾病による挫折を味わいながらも未開の地を切り開き、コロニア・オキナワを築きあげる。
     そしてもうひとりの知花煉がゲバラと出会い恋に落ちていき、物語は一気に戦後の裏面史を織り込んだスケールの大きな展開へと動き始めます。

    〈すっきりとした面持ちの青年が、まるで旧友との再会を懐かしむような顔で近づいてくるではないか。私は反射的に身を強張らせたが、青年の笑みは確信に満ちていく。
    「間違いないポデローサ号だ。懐かしい。おお神よ、一体なぜポデローサ号がボリビアにあるんだ!?」
     上流階級の服装をした青年のスペイン語のイントネーションから、アルゼンチン人だと思われる。〉

     知花煉の愛車、ミヤラビ号はその青年が手放したものを再生したバイクだった。意気投合してラパスまで一緒に行くことになった二人。ラパスまでの道のりは日を跨ぐ。この夜、二人はコチャバンバというボリビア第三の都市で休むことにした。亜熱帯のサンタクルスとは異なり、コチャバンバは高山性の気候に変わる。

    〈「レンのベッドはここ」
     エルネストは私の腕を引っ張り、全身で受け止めた。子供っぽい振る舞いだが、お見事でもある。
    「私は行きずりの関係は嫌よ」
    「ぼくだって嫌だよ」
     私たちは同時に唇を重ねた。すぐに私たちは全身に火がついたように昂(たかぶ)った。コチャバンバの夜の寒さなんてもう問題ではなくなった。私たちの肌は汗でぴったりとくっついてしまった。私は初めてなりふり構わない夜を過ごした。(中略)
     私はエルネストに恋をした。彼のまたの名をチェ・ゲバラという。〉(「第四章 風の中の初恋」より)

     世界は米国とソ連の冷戦の時代。ボリビアでは武装蜂起して政権を奪取した民族革命運動党(MNR)によるボリビア革命(1952年~1964年)が始まっていました。
     知花煉はボリビアで3人の“仲間”を得ます。
    ・カルロス・イノウエ………沖縄の血を引くボリビアの日系三世。機械の修理を得意とする。
    ・セザール・イノウエ………カルロスの兄。カルメンの熱烈なファン。
    ・カルメン……………………女子プロレスラー。ボリビアの国民的英雄。バット・プレスが必殺技。
     ひとつの肉体を巡ってぶつかり合い乗っ取りをはかる二人の知花煉の戦い。米陸軍が使っていた大型輸送機を手に入れ空賊として南米中を飛び回る煉と3人の仲間の大胆かつ危機一髪の連続シーン。沖縄の基地から盗み出されたメースB(中距離巡航ミサイル)の核弾頭を米ソ核危機(1962年)さなかのキューバに持ち込みカストロに渡そうと画策する〈わたし〉。キューバには恋人のゲバラがいる。そしてカストロの手に渡る前に核弾頭を〈欲望と本能の赴くままに動く野獣〉から奪い返そうとキューバに向かう〈私〉の息詰まる攻防。そして結婚と清香(さやか)の誕生。最愛の娘の誘拐と奪還。夫の死。

     およそ400字詰め原稿用紙2400枚、紙書籍629ページの長編エンターテイメント。それにしても、なぜ、ボリビアなのか。著者はあるインタビューでこう語っています。

    「発端は僕が二十七歳の時、帰省中に、NHK沖縄放送局制作の情報番組をたまたま見たんです。
     子どもたちが三線を弾いていて、どこか離島の学校かな、と見るともなしに見ていたら、インタビューに応えて喋る子どもたちの言葉が、古い沖縄の、祖父やその上の世代が喋っていたきれいな首里方言で、『えっ?』と思って、集中しようと意識を向けると「以上ボリビアからでした」と終わってしまった。
    『いまのがボリビアかあ』と頭に刷り込まれて、僕らの世代が聞くことはできるけれど、喋ることはできない言葉を喋る子どもたち。ウチナーグチの舌下音も声調も完璧で、これはどういうことなんだろう、もっと知りたいなと思ったんですよ。ボリビア移民について詳しく知っていそうな研究者に聞きに行くと、いい反応をしてもらえない。はっきりとは言わないんだけど『やめとけ』『彼らのことはそっとしておいてやれ』というニュアンスです。
     そうなるとさらに知りたくなるじゃないですか。自分なりに調べていくと、戦後の沖縄で、多くのボリビア移民が海を渡っていた。まるでパラダイスに行くかのように移民を勧める、移民局の資料も残っていました。
     沖縄では、ブラジルとかハワイに移民した親戚がいるのは割と普通のことです。けれど、戦後の、基地をつくるために農地の強制収容とセットで行われたボリビア移民のことは、忘れた、もしくはなかったことのようにされていた。当時の沖縄の論調というのは、自分たちは真っ白な被害者なんですよ。生きるうえで加害に与した部分もあるのに、そういう歴史は隠蔽してしまっている。そういう複雑な感情が、ボリビア移民に対してはあるんだと思う」(KADOKAWA発の文芸情報サイト「カドブン」より)

     そうした背景の中で、ボリビア移民だけが日本的なアイデンティティ-を死守しているという。
    「ブラジルもペルーもアルゼンチンもチリも、すべて同化の道を選んで日本語をすてているんだけど、ボリビアは違っていた。コロニア・オキナワでは、第一言語を日本語にして、スペイン語は中学を卒業してから学び始めるんです」(同)

    「沖縄の返還なくして戦後は終わらない」沖縄返還(1972年)時の首相で、安倍晋三首相の大叔父、佐藤栄作氏が残した言葉です。
     沖縄が日本に復帰するというニュースを聞いたヒロインの知花煉は、娘の清香(さやか)とともに沖縄に行くことを決意する。

    〈その夜、私はまた戦争の夢を見た。
    ──煉、早く沖縄に来て。私、苦しいよ。
     私は覚悟を決めて目を覚ました。この悪夢を断ち切らない限り、私の戦争は決して終わらない。そのために沖縄に戻るのだ。〉

     ボリビアでボリビア人として生きていくために、コロニアル・オキナワでボリビア人として死ぬために、やっておかなければならないことがある。固い決意を胸に飛行機を乗り継いで沖縄の地に降り立った知花煉。
     沖縄本島中部。煉の村があった場所には[CAMP HANSEN]のプレートが掲げられていた。村は立ち入りできない基地の中だ。頭の中に響く彼女の声――。
    〈──煉、私はここよ! ここにいるわ!〉

     胸の奥底から絞り出したようなヒロイン知花煉の内なる声、
    〈現在も、私の戦争は終わっていない。〉
     この一行で物語は終わります。

     今もそこにある〈戦争〉――ウチナーンチュ(沖縄人)に寄り添う作家の揺るぎない思いがこの巨編〈終わりなき戦争の物語〉を貫き、読み応えのある作品にしています。(2017/10/20)
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年10月20日
  • もうね、どきどきが止まらないんですよ
    絵が素敵。話がおもしろい。女の子がかわいい。
    男の人がやたらかっこいい!
    身体の線がすごくいい。
    読んだ後、シアワセになれる。
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年10月19日
  • 匿名希望
    発売日に関して
    そもそも紙代もかかってないのにそれなりの値段
    別に納得もするが発売日が遅いのが納得できない。
    電子書籍購入者は書籍購入者より劣るのでしょうか?
    発売日を同日にすべき。ecoの為にも
    • 参考になった 5
    投稿日:2017年10月19日
  • アニメ化と合わせて購入
    2017年秋アニメが放送されていてたまたまそれを見てハマった作品。
    遠い未来で宝石の身体を持つ者と月から襲い来る敵と戦うという不思議な世界観の作品。
    絵は魅力的だけど上手いという訳ではないですが、
    とにかく世界観、雰囲気、キャラクターが力があって凄く良い。
    とても美しく優しい宝石たちとその国を脅かす月人の存在。
    世界の謎、主人公の約束などなどを内包したストーリー展開が凄いです。
    先にも書きましたが、私はアニメの第一話を見て世界観に引き込まれました。
    興味のある方は作品のPVなどを見るとより良く世界観を理解できるのでオススメですよ!
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年10月19日
  • 匿名希望
    おい、Ebookさんよ
    これから読む人もいるのにあらすじのところに、誰が勝者とか書くんじゃないよ
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年10月18日
  • 匿名希望
    設定よかったのにもったいない
    最初の廃人ネットゲーム一家のアイデアがユニークだったのに、あっという間にオカルトになってしまった。話が急展開過ぎるだろ。もう少しゲーム一家を見ていたかったです。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月18日
  • アニメ化もされましたが原作はダメでした。
    アニメはほどよくホラーで絵も完成されていましたが、原作は絵がアニメ程完成されていないために安定性にかけていました。残酷描写はテレビの方が絵が完成され安定しているために怖さを感じましたが、漫画ではホラーではなくコントにしか見えません。
    う~ん、アニメが面白かったので原作もと思ったんですが、先にレビューかかれている方の通りで、こら失敗でした。
    ストーリー展開はいいんですけど、絵がねえ・・・
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月18日
  • 匿名希望
    気をつけてください
    この書籍は「Windows版BookReader」と「Macintosh版BookReader」でのみでiPhone/iPad/Android/ブラウザ楽読みはできません。
    もっとわかり易く表示して欲しいものです。
    買って読めませんでした。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月18日
  • ネタバレあり
    ハートフルストーリー
    主人公の男性の元に、同級生の娘が頼ってきて同居生活することに。
    主人公は普通の男性で、ヒロインの同級生の娘は非常によくできた子供として描かれています。主人公の職場は長時間労働が当たり前のブラック企業のような描写がかかれています。しかし、主人公を始め職場の人間関係は良好なようです。ヒロインの同級生の娘も特殊な家庭で特殊な育ち方をしている割には学校内では普通に過ごしていて学校内のコミュニテイーも安定しているように描写されていました。
    今はお互いに距離感がわからず、よそよそしい関係しか気づけていませんが、お互いにお互いの事に好意はもっているようです。(性的な意味ではなく人間的な意味で)
    今後のはなしの展開が気になるところです。
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年10月18日
  • 王道ストーリーの絶妙なエロさ
    急に父親が再婚したら、連れ子の美人三姉妹が定期的に家にやってきてくれてお世話してくれる、っていう王道のストーリーです。この作品の良いところは、全編フルカラーだし、女の子たちは可愛いしどちらかと言えば過激な描写は無くソフトだけどやることはやっているという絶妙なエロさが素晴らしいと思います。
    そんな三姉妹と繰り返す色んなシチュエーションのH、下品さは一切ありませんので激しめのHなマンガよりもソフトなHがみたいのであれば最適なマンガですね。オススメします!
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    投稿日:2017年10月17日
  • ネタバレあり
    興味深い
    全巻購入しましたが、1巻を読んだ後のレビューです。
    良くある男女入れ替わり物です。
    女子高生のストーカーをしていた主人公。
    朝起きたらストーキングしていた女子高生になっていた。
    しかも、すぐ別人格になっている事がばれてしまう。
    自分の体はどうなったのか?女子高生の精神はどうなったのか?
    しかし、この作品は「悪の華」の作者が描いた入れ替わり物です。
    普通の入れ替わり物にはならないであろう展開に期待が持てます。
    さて、続きを読みます。
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年10月15日
  • 王道ファンタジー
    主人公最強無双設定(地道に修練は積んでいますが)と、出てくる女性キャラがほぼ主人公に心を奪われてしまうところを気にしなければ非常に上質な剣と魔法のファンタジーだと思います。原作小説も根強い人気があるようですね。
    ここまで来ると、一大英雄譚、叙事詩の域ですね。
    個人的にはアルスラーン戦記にもそう引けを取らないと思っているのですが。どちらかというと「まおゆう」が好きな方向き?
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月15日
  • 二面性
    この作者様が描く女性の二面性も、日常と紙一枚隔てて隣り合わせの非日常も好きです。
    ダンスインザヴァンパイアバンド→ソウルリキッドチェインバースときてこちらの作品にもたどりつきました。ヴァイオレンス、ホラー要素の強い他二作と比べてサスペンス重視ですね。
    ロリ要素が苦手な方もこちらは大丈夫なのでは(私は全部許容範囲でした)。分冊版も読みやすいですね。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月15日
  • 劣等感の魅力
    天才俳優である兄にずっと強い劣等感を抱いてきた弟が、なぜか自分が幼少時既に死亡したことになっている平行世界で無名の存在から、同じ演技の世界で兄を超えようと足掻くわけですが。
    劣等感がある人の方が私は魅力を感じますね。やはり。
    「累」男性版なんて言ったら双方の作者に失礼かしら。兄も弟もなりきり、憑依型の演技者で、役になりきるための手段がいろいろぶっ飛んでて凄いです。ガラかめで言うところの努力の天才、亜弓さんタイプの人も出てきたら面白いなあ。どのキャラクターもかなり濃いので読み応えがあります。
    やたら優秀な兄弟姉妹や、毒親気味な親御さんをお持ちの方は共感しつつ身につまされるかも!?
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月15日
  • SF×不倫×ヒーロー
    SF、ヒーロー、不倫と三つの要素が両立する構成がすごいなあと。
    かわいい一途を通り越してガチでストーカー状態な主人公かのんさんなんですが、時々台詞が心に刺さる。
    「だって他人とか怖いじゃん」とか。「同じところをぐるぐる回ってるだけだし」とか。
    主人公、主人公の長年の思い人の先輩、先輩の奥さん、主人公の血の繋がらない弟、それぞれの心理描写が的確で無駄がなくて等身大で引き込まれます。
    好きな漫画家さんの一人が評価されていただけのことはあるなあと。
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年10月15日
  • ちゃんとSFしてる。
    近未来、謎の「蝶」という存在による高原から、ヒューマノイド「アダム」が地球を守るというお話です。
    題名や設定通り、鉄腕アトムや過去のSF名作へのリスペクトが随所に感じられます。アダムは人間的な心を持ち、作中で感情を獲得していきます。愛読書が村上春樹だったり、拾った子猫を飼ったりします。プルートゥは浦沢直樹さんリスペクトでもあるんだろうか?
    たびたび自己進化しながら襲撃してくる「蝶」が「新世紀エヴァンゲリオン」の「使徒」ぽかったり、「蝶」の襲来とそれを撃退できる唯一の存在「アダム」という構図自体に何やら裏がありそうなところ、絵柄がどことなくヴァンドデシネを感じさせたり、サスペンスシリアス系の海外映画やドラマっぽい雰囲気は、はまる人はすごくはまる作品かなと。
    作中、設定はかなり現実や近未来の研究、科学的エビデンスを尊重したつくりです。
    単行本おまけとして、SF要素であるとか、IT関係数学関係であるとか、その手の話のベースとなる知識をキャラクターが解説するコーナーや参考図書の紹介、おまけ漫画がついてます。お得。
    本編を読んだ後にそこだけ読み返しても楽しいです。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月15日
  • ウノハナ先生やはり最高です!
    流石だと思いました。ハズレなしです。
    トラウマを持つ受けと、イケメンの少しチャラいけど
    受けをいろんな意味で愛してくれる攻め。
    二人の距離の縮まり方や、受けの片思いの友人の心理描写が
    とても良かったです。勿論エロも大満足でした。
    • 参考になった 2
    投稿日:2017年10月15日
  • タイミングという物がある(-_-;)
    先に連載当時に端読みしてた所感をざっと(^_^;)。
    隠語に
    「右手が恋人(自慰行為)」
    ってのがあるが、ソレを文字通り斜め右にマンガにしたのがこの作品。
    ツッパリ硬派に慕うヒロインが、気が付いたら文字通り彼の右手にビルトイン!。
    もう秘め事だらけの恋路が身体の一部となっちゃってるし、彼氏も彼氏でその立場的にまさか女の子が・って事も明かせずの秘め事パラドックスのてんこ盛り。
    プライバシーもなんもあったもんじゃない。トイレ一つに一悶着。
    と、
    此処まで書いてて、
    アレ?そんなハナシだったかな?どーだったかなと思い出せなくなってからの・・・・・・
    新刊。
    ちょっとまて、こっちもええ体オッサンを通り越してんだぞ。
    読もうかなどうかなと躊躇してしまう。
    色々事情もおありでしょうが、
    ちょっといまさら感が拭えないです。
    と言う訳でうろ覚え立ち読みもせぬままのレビューですみません。
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月14日
  • 小さな恋の尊大な物語
    前レビューで少し出たので、前半しか読んでいませんがこちらも。
    基本は神界と魔界のトラブルに主人公が巻き込まれると言ったもので、それがこちらの世界とのトランス障害か、真に二つの世界のニアミスなのかだったりしますが、平々凡々な大学生には身に余るトラブルの連続です。
    ただ本題のハズのこちらは数式や天体などに置き換えられて解りやすい一方で緊迫感を削いでいるので、
    実はこちらは余り面白くありません。
    この物語は
    実力神であるヒロインが男一匹不器用な主人公に恋慕する
    と言った、他愛のない物語が本題なのです。
    脇キャラに「小学生並みの恋愛感情」と嘲られるこの恋物語が実はこの物語で無敵の存在です。
    変人奇人の多い周囲の人々も、
    あらゆる力で干渉してくる神魔の民も、
    二人の恋路の傍観者になってしまうのです。
    ただ、
    ヒロインも全身全霊で不器用に恋愛の形を紡いでいくのですが、
    立場や力が尊大ゆえ、
    主人公に対して他愛のない恋慕にしか見えないようになっている。
    そこは少し残念。
    また周囲のキャラがフットワーク豊かで、独りキャラが招かれればソレがまた新しいキャラを連れ、または造っていく。
    そのキャラが「お前がソレをするんかいっ!」ってなボケを飛ばしてはトラブルに油を注ぐ。
    その拡がりがこんな長期連載を中だるみ無く綴って行ってます(前半の限りにおいて(^_^;)。
    小さな幸せを囲むちょっと尊大でコミカルな人間模様です。
    (~このギャップを見るに着け、「そらのおとしもの」にも通じる物アルかな?と)
    • 参考になった 0
    投稿日:2017年10月14日
  • 匿名希望
    電子書籍の仕様について
    アニメから入ったものです。続きが気になって購入しました。アニメは原作にほぼ忠実ですが、省略された細かい所や脇キャラのエピソードもあり、それらも含めて「恋と嘘」なので、是非買って100%の「恋と嘘」を堪能してもらいたいです。
    ただ、電子書籍には「裏表紙」と「背表紙」と、カバー下のおまけ(があるかわかりませんが)などはありません。表紙→本文→終わり、といった感じなので、一つも見逃したくないという方は、紙書籍をお勧めします。
    (※六巻までの情報です。将来これらも収録されると嬉しいですね。)
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年10月14日
  • 待望のコミカライズ!
    まずはコミカライズかなり嬉しいです(過去一度コミカライズされていたのですが、それはあっという間に終わったので)。原作ゲームなんて20年前くらいに発売されていて、さらに未完成だったものがPS4でリニューアルし、さらにはコミカライズとなったので感激です。こうやった優れたコンテンツがしっかりと再評価され世の中に改めて登場してくれるというのは感謝してもし足りないですね。
    この作品はとにかく複雑で濃厚で頭をフル回転させて事象を解明していく面白さに溢れています。キャラクターたちも癖だらけ。圧倒的な知性の持ち主や社会の裏に蔓延る影の行動員、表の顔と裏の顔を使い分ける面々等彼ら彼女らの人間性を追いかけるだけでも楽しいんですよ。
    といろいろ書いてますが、内容については殆ど触れたくないんです。なぜって?それはぜひこのコンテンツにまっさらな頭の状態で触れてほしいから。冒頭の場面から序章が終わる時点での衝撃、その後の意味不明な場面転換からの日常シーン、そしてさらなる激動。ぜひ楽しんでいただきたいんです。マンガで興味を持ったのならゲームを手にとって進めてほしいです。
    ただ、コミカライズの難点を少し言うと、無駄にパンチラといったお色気シーンが多いのが微妙かなと。確かにゲーム本編でもそういうシーンは多いし、そもそもエロゲではあるんですが、ちょっとコミックの表現が露骨すぎるかなと感じてます。でも、絵は可愛いし若干明るめな雰囲気の序章ではあるのでオススメではあるんですが。この作品のヘビーすぎるファンとしてはちょっと気になりました。
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年10月13日
  • 匿名希望
    この独特な世界観
    初めて見たときは読みにくそうと敬遠。
    しかし!評価は高く、シリーズ通して実に生真面目に任務を実行する様、
    色っぽいシーンも含め丁寧に描かれる各コマに何故か笑みがこぼれてしまう
    この他とは一線を画した面白さは読まないと伝わらないかも!
    • 参考になった 3
    投稿日:2017年10月13日
  •  2017年ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ(代表作『日の名残り』『わたしを離さないで』ほか8作品が早川書房より配信中)が受賞インタビューで「母と一緒に観た小津映画に影響を受けた」と語ったことから、小津安二郎の映画が話題になっていますが、先頃(2017年9月29日)配信が始まった内田百けん(「けん」は「間」と似ていますが、門構えに「日」ではなく「月」を置きます)の『ノラや』を久しぶりに読み直していて、紡がれる言葉、行間からわきたつ家族の温(ぬく)もりにしみじみ感じ入りました。晩年の内田百けんと奥さん、そして2匹の猫が一つ屋根の下で暮らすあれこれを日々綴った連作集は、小津が白黒映画で描いた昭和の家族に重なりあいます。

     私の手元にある中公文庫版『ノラや』の奥付には、
     1980年3月10日 初版発行
     1997年1月18日 改版発行
     2016年10月15日 改版19刷発行
     とあります。改版発行から19刷。20年もの間絶えることなく版を重ねてきた凄い本だということがわかります。初出が昭和31年(1956年)から昭和45年(1970年)にかけてで、翌昭和46年(1971年)に百けん先生は82歳で没します。それから半世紀近い年月を経てなお色褪せることなく、読み継がれている昭和の出版遺産。それが電子書籍になって、いつでも、どこでも読めるようになりました。

     作品の舞台は、戦後間もない昭和23年(1948年)、百けん先生が新居(三畳間が3つ並んだ「三畳御殿」)を構えた東京都千代田区六番町。JR市ヶ谷駅や作品中にしばしば登場する雙葉学園、区立番町小学校、法政大学に近く、また神楽坂、九段の靖国神社、皇居の半蔵門なども歩ける範囲にある一帯です。
     漱石門下の小説家・随筆家の内田百けんと奥さんの二人暮らしに、一匹の野良猫が加わります。日本海軍がハワイ真珠湾を奇襲、対米戦争に突入した翌年に結成された日本文学報国会への入会を拒否した一言居士の大先生(後年、芸術院会員に推薦された時、〈イヤダカラ、イヤダ〉と言って断っています)、野良猫との縁について独特のユーモアをまじえてこんなふうに綴ります。「彼ハ猫デアル」より引用します。

    〈うちの庭に野良猫がゐて段段おなかが大きくなると思つたら、どこかで子供を生んだらしい。何匹ゐたか知らないが、その中の一匹がいつも親猫にくつ附いて歩き、お勝手の物置の屋根で親子向き合つた侭居睡りをしてゐたり、欠伸(あくび)をしたり、何となく私共の目に馴染みが出来た。
     まだ乳離(ちばな)れしたかしないか位の子供が、夜は母親とどこに寝てゐるのか知らないけれど、昼間になると出て来て、毎日同じ所で、何だか面白くて堪らない様に遊び廻る。親猫にじやれついてうるさがられ、親猫はくるりと後ろ向きになつて居睡りを始めてゐるのに、まだ止めない。その内に、相手になつて貰へないから、つまらなくなつたのだらうと思ふ。物干しの棒を伝つてお勝手の庭へ降りて来て、家内が水を汲んでゐる柄杓(ひしゃく)の柄にからみついた。手許がうるさくて仕様がないから家内が柄杓を振つて追つ払はうとしたら、子猫の方では自分に構つてくれるものと勘違ひしたらしく、柄杓の運動に合はして、はずみをつけてぴよいぴよいとすつ跳んだ向うの、葉蘭の陰の金魚のゐる水甕(みずがめ)の中へ、自分の勢ひで飛び込んでしまつた。
     うるさいから追つ払つたけれど、水甕におつこちては可哀想である。すぐに縁(ふち)から這ひ上がつて来たさうだが、猫は濡れるのはきらひだから、お見舞に御飯でもやれと私が云つた。
     彼が水甕に飛び込んだのが縁の始まりと云ふ事になる。彼と云ふのは雄だからである。静岡土産のわさび漬の浅い桶に御飯と魚を混ぜたのを家内が物置の前に置いてやつた。よろこんで食べたらしいけれど、いつの間にか食べてどこかへ行つてしまつたと云ふ風で、何分野良猫の子だから、物を食べる時は四辺に気を配るらしい。その次にまた桶に入れてやつた時、それに気がついても抜き足差し足で近づくと云ふ様子だから、もつとはたから見えない様に、葉蘭の陰に置いてやれと云つた位である。〉

     家に馴染んできた猫はあくまでも〈彼〉であり、いつの間にか〈猫にご飯をやる〉ことが百けん先生と奥さんの癖になっていきます。けっして〈餌をやる〉とは書きません。〈お膳で食べ残した魚の頭や骨は、猫にやればいいと思ふ様になった〉のはごく自然の成り行きで、雨が降る日以降、ご飯を入れたわさび漬けの桶の置き場所もお勝手の上がり口へ変わり、猫は家に一歩近づいた。すっかり乳離れしたようで、親猫の姿を見なくなった頃合いに、先生と奥さんは〈この子猫を飼ってやろうかと云ふ相談〉をして、〈野良猫だからノラと云ふ名前〉を付けます。

    〈飼ふと云ふ事になれば、食べ物と寝床を与へなければならない。物置小屋の板壁の板を少しずらして、小さなノラが出入り出来る位の穴をつくり、その内側にわさび漬の桶と蜜柑箱を置く事にした。蜜柑箱の中には雑巾にする襤褸のきれが分厚に敷いてあつて暖かさうである。
     暫らくの間、彼はその装置に安住し、どこへ行つたのだらうと思ふと小屋の中の蜜柑箱でいい心持に寝てゐる様になつた。腹がへればお勝手口へ来て、にやあにやあ騒いでせがむ。まだ子供だから、そのにやあにやあ云ふ声も心細い程細い。〉(「彼ハ猫デアル」より)

     何日か経つうちに、ノラが風を引きます。まるっきり元気がなくなって、ご飯も魚も食べないノラ。先生夫妻の看病ぶりがけなげというか、ほほえましい。〈コンビーフをバタでこね廻したのに玉子を掛けてやつて見ると、少し食べた〉といって少し安心し、〈水の代りに牛乳を供し〉、さらに〈蜜柑箱の中にはヰスキーの罎に温湯を入れたのを湯たんぽの代りに入れて〉あげるという具合。

    〈手当ての効ありて、二三日でなほつた様だが、その間家内が可哀想がつて頻りに抱いたので、野良猫の癖に余程私共に親近感を抱く様になつたらしい。又寒い雨が降り続いたりしたので、いつの間にか小屋の中のわさび漬の桶はお勝手の上り口の土間に移され、夜も小屋へは帰らず、風呂場に這入つて風呂桶の蓋の上に寝る様になつた。いつの間に彼はその場所を発見したのか知らないが、私は毎日風呂に這入るので、中には大概いつも温かい湯が這入つてゐるから、蓋は何とも云へないいい気持の暖かさになつてゐる。朝鮮のオンドルは話に聞いてゐるだけで実際には知らないが、猫はさう云ふつもりで風呂桶の蓋の上に寝てゐるに違ひない。(中略)
     何しろ風呂桶の蓋がよくて仕様がないらしい。晩になつて私が風呂に這入らうとすると彼がその上を占領してゐるから摘まみ出す。さうしておいて裸になつて行くと、又這入つて来る。仕方がないから又摘まみ出す。もう掛け湯をして、そこいらが濡れてゐるのに又這入つて来る。這入つて来ても、もう蓋はない。すると彼は風呂桶の縁へ上がつて、狭い所で落ちない様に中心を取つてゐる。猫と混浴するのは困る。〉(「彼ハ猫デアル」より)


     仰向けでムササビ(原文では漢字)の様な恰好になつて、腋の下を出して寝ているノラを見て、いたずら心を刺激された先生、〈くすぐつてやつたが平気らしい。人間の様にくすぐつたがらない〉とも綴っています。

     夫婦二人きりの無人の家にすっかり馴染んで、家族の一員となったノラ。しかしある日、その姿が見えなくなります。

    〈三月二十八日木曜日
     半晴半曇夕ストーヴをつける。夕方から雨となり夜は大雨。
     ノラが昨日の午過ぎから帰らない。一晩戻らなかつた事はあるが、翌朝は帰つて来た。今日は午後になつても帰らない。ノラの事が非常に気に掛かり、もう帰らぬのではないかと思つて、可哀想で一日ぢゆう涙止まらず。やりかけた仕事の事も気に掛かるが、丸で手につかない。その方へ気を向ける事が出来ない。それよりもこんなに泣いては身体にさはると思ふ。午前四時まで待つた。帰つて来たら、「ノラや、帰つたのか、お前どこへ行つてたのだい」と云ひたいが、夜に入つて雨がひどくなり、夜更けと共に庭石やお勝手口の踏み石から繁吹(しぶ)きを上げる豪雨になつて、猫の歩く道は流れる様に濡れてしまつた。〉(「ノラや」より)

     翌3月29日、百けん先生、こう続けます。
    〈快晴夕ストーヴをたく。
     朝になつてもお天気になつても、ノラは帰つて来ない。ノラの事で頭が一ぱいで、今日の順序をどうしていいか解らない。夕方暗くなり掛かつても帰つて来ない。何事も、座辺の片づけも手につかない。夜半三時まで、書斎の雨戸も開けた侭にして、窓の障子に射す猫の影を待つてゐたけれどノラは帰らなかつた。寝るまで耳を澄ましてノラの声を待つたがそれも空し。〉(「ノラや」より)

     人を頼んで近所を探してもらい、奥さんがノラが仲よくしていた猫を飼っている家を訪ね、さらに警察に相談し、朝日新聞に〈猫ヲ探ス、猫が無事に戻れば薄謝三千円を呈し度し〉の広告を出した。それよりも効果があろうと折り込み広告を印刷して新聞販売店に配ってもらいもした。情報が寄せられれば、確認に出向く。しかしノラは見つからず、戻って来ない。〈ノラやと思つただけで後は涙が止まらなくなり、紙をぬらして机の下の屑篭を一ぱいにしてしまふ〉そんな毎日が始まりました。日々の営みも激変します。

    〈ノラが帰らなくなつてからもう十日余り経つ。それ迄は毎晩這入つてゐた風呂にまだ一度も這入らない。風呂蓋の上にノラが寝てゐた座布団と掛け布団用の風呂敷がその侭ある。その上に額を押しつけ、ゐないノラを呼んで、ノラやノラやノラやと云つて止められない。もうよさうと思つても又さう云ひたくなり、額を座布団につけて又ノラやノラやと云ふ。止めなければいけないと思つても、ゐないノラが可愛くて止められない。〉(「ノラや」より)

    〈ノラが帰らなくなつた三月二十七日からもう半年になるが、その間一度も鮨を取つてゐない。今でもまだ註文する気になれない。私は仕事を続けてゐる時、晩のお膳にはその日の仕事が終つてからでなければ坐らない事にしてゐるので、その順序は毎晩遅くなる。だから仕事に掛かる前に一寸した小じよはんをしておく為にお鮨の握りを取り寄せる事がよくある。一日置き、どうかすると毎日続いた事もしよつちゆうで、御贔屓の鮨屋があるのだが、三月二十七日以来ノラに触れるのがこはくて持つて来させる事が出来ない。〉(「ノラに降る村しぐれ」より)

     ノラは、奥さんの手から貰う鮨の屋根の玉子焼に目がなかった。奥さんの膝に両手を乗せて、玉子焼を貰う恰好を思い出してしまう、だからもう鮨はとらない、というわけです。

     4月15日月曜日――夕方近く洗面所の前の屏の上にノラに似た猫がいた。痩せて貧弱だが、ノラももうその位は痩せたかと気になるので奥さんが追って行くと、後姿の尻尾が短かかつたのでノラではないことがはっきりした。
     5月25日土曜日――書斎の窓の障子の外で音がする。ノラがいつも帰ってきた時の気配だ。急いで開けた――。
    〈例のノラに似た猫がゐて、人の顔を見てノラのする通りにニヤアニヤア云ふ。堪らなくなつて暫らく泣き続けた。本当にノラだつたら、どんなにうれしいだらう。この一瞬から万事が立ち直るのに、と思つた。〉(「ノラやノラや」より)

     ノラの弟かもしれない、よく似た尻尾の短い猫。奥さんがご飯を与え始め、家族の一員となる、2匹目の登場です。尻尾が短いところから、「クルツ」という名を考える。6月8日のことです。
    〈ノラに似た尻尾の短かい猫はこの頃いつも物置にゐる。こんなにゐつくなら、名前をつけてやらうかと思ひ出した。一両日前からそんな気になつてゐた。尻尾が短かいから「クルツ」と云ふ事にする。三音で呼びにくかつたら、「クル」でも「クルツちやん」の「クルちやん」でもいいだらう。しかしまだ一人で考へてゐるだけである。
     クルツがノラに似てゐる点は毛並や動作だけでなく、表情がそつくりなので正視する事が出来ない。家内はいつも何かやつてゐる様だが、私は成る可く見ない様に目をそらす。〉(「ノラやノラや」より)

    「クル」と声をかけてかわいがりたいけれど、2か月ほど前に雨の中を出かけたまま戻らないノラを思い出してしまうので懸命に目をそらす百けん先生の姿が目に浮かぶようです。
     8月8日木曜日 立秋 ノラがいなくなって135日――夫婦は相談して、ノラが戻ってきた時のために用意しておいた頚輪をクルにはめてやることにします。そうすれば、金具に所番地や電話番号が彫りつけてあるから、迷っても手がかりになるだろうというわけです。もちろん、ノラのためにはもう一つもっと皮の柔らかいのを造って帰りを待つ二人です。
     ノラを待ち続ける百けん先生と奥さんの二人暮らしにクルが加わった穏やかな日常は、この後5年3か月続きます。そして8月9日から11日間、毎朝8時頃に九段のドクトルが来診、夫婦揃って懸命に尽くした最後の日々。

    〈クルを撫でてゐる家内が、吃逆をすると云つたので、すぐに跳ね起き附き添つてやる。臨終也。余り苦しみはなく、家内と二人でクルに顔をくつつけ、女中が背中を撫でてやる内に息が止まつた。午後四時五分。三人の号泣の中でクルは死んだ。ああ、どうしよう、どうしよう、この子を死なせて。取り乱しさうになるのを、やつと我慢した。しかしクルや、八月九日以来十一日間、夜の目を寝ずにお前を手離すまいとしたが、クルやお前は死んだのか。〉(「クルやお前か」より)

     クル臨終の稿、こう続きます。
    〈縡切(ことき)れたクルを暫らく抱いてやる。無論まだ温かく、可愛い顔をしてゐる。しかしすつかり痩せて、ふだんの半分よりまだ軽い。可哀想な事をした。こんなに痩せる迄、どうにもしてやれなかつた。顔をくつつけて、「クルや、クルや」と呼んだ。クルの小さな額(ひたい)や三角の耳に、クルの毛が濡れる程涙が落ちた。〉

     生あるものへの温かいまなざし。その不在に涙するまっすぐな気持。時代に追われるように駆け足で生きる私たちが喪(うし)ってきた、人生の確かな営みが、ここにはあります。一夜一話読むもよし、秋の夜長、14編を一気に読むもよし。(2017/10/13)
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    投稿日:2017年10月13日
  • 普通に面白くはあるのだけど
    その強力な能力を持っているが故に、残り寿命3年と言われたヒーロー(冥二郎)が、力の解除のために世界に12人居るという星の巫女を探す、っていう内容なのですが、じゃあ、世界を渡り歩くのかというとそういうわけでもありません。
    彼のために動いている人が居て、世界を探すのはそちらに任せて、彼自身は学園生活を送りながら巫女を探すことになります。
    この冥二郎、他の作品と比べても、「人に助けてもらって生きている」という描写が結構あります。この描写は大変好ましいです。人間味が深くなっているので。
    ヒロイン1人1人にじっくりと時間をかけて交流しているので、物語のスピードは緩やかに感じます。そのおかげか、捨てキャラのような子が出てきていないのは〇(5巻時点)。
    でも、12人は多いと思う。
    というか、本当に12人出るのだろうか。
    この調子で、他の子たちにも真摯に向き合っていけるのかは、ちょっと不安要素ですね…。
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    投稿日:2017年10月12日
  • 安定した面白さを持っている
    ヒーロー(ろくろ)とヒロイン(紅緒)、2人で双星。
    なので、この2人がメインで描かれていきます。
    2人のビジュアルはそれなりに個性的なので、好みが分かれるかも。
    表紙でご確認くださいませ。
    あと、劇中で2年の時が流れます。つまり少しばかり大人っぽくなります。
    キャラ・人間関係・バトルに成長要素、どれもしっかり揃ってる王道な少年漫画です。
    ストーリーは結構骨太。
    皆、それぞれに戦う理由があり、ソレに対する掘り下げもしっかりあります。
    丁寧に漫画を描かれていますね。
    重い過去を持ちながらも、懸命に戦い続けるキャラクターたちは見ていて眩しいです。
    登場キャラクター数がかなり多いです。
    この多さはなかなか無いですね。誰もが個性的なのも魅力の1つ。
    ただ、その分、濃い味で食傷を起こしてしまうかもしれません。
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    投稿日:2017年10月12日