オススメ特集

一覧を見る

新刊 1/16~22発売! 173冊

新刊一覧

趣味・実用

  • 週別日別

  • わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か
     仕事上の悩みやトラブルがあると、ふつうは上司に相談するとか、意見を聞きに行きますよね。でも、気の弱い私の場合、「そんなことでいちいち来るな!」なんて追い返されたりすると、その後、なかなか相談に行けなくなってしまうたちなんです。
     とはいえ、自分だけではいよいよ解決できなくなり、なんとか覚悟を決めて再び上司のもとを訪ねると、「そんな大事なこと、なんでもっと早く相談に来なかったんだ!」ってこっぴどく叱られるという──こんな経験、ありませんか?
    「いちいち相談に来るな」と言っていたはずの上司が、「なんで相談に来なかったんだ」と怒り出す理不尽……。著者の平田オリザさんによりますと、こうした二つの矛盾したコマンドが強制されている状態を心理学用語で「ダブルバインド(二重拘束)」といい、そのような環境に長く置かれると、人は「操られ感」や「自分が自分でない感覚」を感じるようになるそうです。

     企業による新卒採用の現場も、完全に「ダブルバインド」の状態に陥っていると、平田さんは指摘しています。多くの日本企業は、就活生に対し、「異なる文化や価値観を持った人にもきちんと自分の主張を伝え、説得し、そして妥協点を見出せる」異文化理解能力を期待する一方、「上司の意図を察して機敏に行動する」「会議の空気を読んで反対意見は言わない」という同調圧力も、同時に要求しているからです。平田さんはいいます。
    「何より始末に悪いのは、ふたつのコミュニケーション能力を求めている企業側が、その矛盾に気がついていない点です」

     ダブルバインドは、何も企業内に限られた話ではありません。
     わが子に対して「身体だけ丈夫ならいい」と言っておきながら、差し出された通信簿を見て、つい「なんだ、この成績は!?」と怒ってしまったことはありませんか。妻から「夕飯、何がいい?」と聞かれ、「何でもいい」と答えておきながら、(帰宅後、お昼に外で食べたものと同じ料理が出てきて)つい不機嫌になってしまったこととか……。家庭内でもダブルバインドは十分起こりうるわけで、親と子どもだけでなく、夫と妻も、あるいは冒頭の理不尽エピソードでいえば上司も部下も、これからは「わかりあう」「話が通じる」ことに重点を置くのではなく、そもそも「わかりあえない」「話が通じない」ことを前提に、コミュニケーションについて考えるべきではないか。なによりも、こうした「ダブルバインド」の状況が社会全体を覆っているがために、いまの日本の内向きな雰囲気やイヤ~な閉塞感につながっているのではないか―。劇作家として、教育者として、平田さんがかねて抱いていた疑問をもとに、本書は書き進められています。

     そんな中、生来、口数が少なく、口べたなことをコンプレックスとして感じ続け、ざっくばらんな酒席以外の場では「コミュ障(コミュニケーション障害)」を自覚している私にとって、ずいぶんと気持ちが楽になった箇所が本書にはありましたので、以下、ご紹介いたします。

    〈日本では、コミュニケーション能力を先天的で決定的な個人の資質、あるいは本人の努力など、人格にかかわる深刻なものと捉える傾向があり、それが問題を無用に複雑化していると私は感じている。世間でコミュニケーション能力と呼ばれるものの大半は、スキルやマナーの問題と捉えて解決できる。だとすればそれは、教育可能な事柄となる。そう考えていけば、「理科の苦手な子」「音楽の苦手な子」と同じレベルで、「コミュニケーションの苦手な子」という捉え方もできるはずだ〉

     要するに、理科の授業が多少苦手だからといって、その子の人格に問題があるとは誰も思わないように、もしくは、音楽が多少苦手な子なら、きちんとした指導を受ければカスタネットをリズムよく叩け、縦笛もちゃんと吹けるようになるように、コミュニケーション教育もまた、同様だというのです。

    〈口べたな子どもが、人格に問題があるわけでもない。だから、そういう子どもは、あと少しだけ、はっきりとモノが言えるようにしてあげればいい。コミュニケーション教育に、過度な期待をしてはならない。その程度のものだ。その程度のものであることが重要だ〉

     いかがでしょう? 40歳前の私がいまさら教育を受け直すことはかないませんが、少なくとも、「難しいもの」「自分には無理」と捉えていたコミュニケーション能力に対する懼れが、うすまるのではないでしょうか。

     最後に、念のため申し添えますと、この『わかりあえないことから』を読んでも、ロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングといったものは身につきませんし、グローバル・コミュニケーションスキルを磨くこともできません。

     しかし、従来のいわゆる自己啓発本とは異なる、コミュニケーションの本質を根本から問い直した本書は、「いま、本当に必要なこと」が知りえる必読の一冊です。

    (2015.03.01)
    投稿日:2016年02月24日
  • アドラーブームを引き起こしたベストセラーです。アルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングと並んで心理学の三大巨頭といわれており、欧米で絶大な支持を受けているそうです。自己啓発書の古典ともいえる『人を動かす』『道は開ける』を書いたデール・カーネギーや、『7つの習慣』を書いたスティーブン・コーヴィーも、多大な影響を受けたといわれています。

    本書の原案を担当した岸見一郎さんは、専門の西洋古代哲学と並行して長年アドラー心理学を研究し、精力的に講演・執筆活動やカウンセリングを行っています。この本は、岸見さんの著書を読んで感銘を受けたライターの古賀史健さんが、何度も何度も岸見さんと対話を重ねたことで生まれたそうです。岸見さんを彷彿とさせる「哲人」と、古賀さんを彷彿とさせる「青年」の対話を通じて、アドラー心理学(個人心理学)が分かりやすく解説されています。

    この対話が本当に面白い。特にこの青年のキャラがいい。幼い頃から自分に自身が持てず、出自や学歴、容姿に強い劣等感を持ち、他人の幸福を祝福できず、いつも自己嫌悪に陥ってしまう青年が、人は変われる、世界はシンプルである、誰もが幸福になれるという哲人を論破しようと、感情を爆発させて何度も何度も疑問をぶつけていく。ネガティブ全開の青年からの質問を、哲人は正面から受け止め、丁寧に答えていきます。この繰り返される対話によって、読者が抱くであろう数々の疑問が解消されていくので、読後にモヤモヤが残りません。

    では、アドラー心理学とは何なのか。私が特に心に残ったのは「目的論」と「課題の分離」です。例えば、「私は学歴が低いから成功できない」と考えるのが原因論、「成功するのに必要な努力をしたくないから、学歴の話を持ち出している」と考えるのが目的論です。厳しい考え方だという方もいるかもしれません。しかし、どんな過去があろうとも、自らの選択によって幸せになれるというアドラー心理学には、希望があると思います。「課題の分離」については……本書を読んでください(笑)。

    アドラー心理学をほんとうに理解して、生き方まで変わるようになるには、「それまで生きてきた年数の半分」が必要、と哲人はいいます。ただ、本書はとても読みやすいので、何度も何度も読み返し、理解を深めることができると思います。さらに、この本を原作としたドラマ『嫌われる勇気』が、2017年1月12日にスタートしました。本書を読んで、ドラマを見て、日々の生活のなかでアドラー心理学を実践する。そのくり返しで生き方が変わり、嫌われることを恐れず、幸せになる勇気を持つことができるようになれば、本当に素晴らしいですね。続編の『幸せになる勇気』も、ぜひあわせてお読みください。
    • 参考になった 1
    投稿日:2017年01月13日