大学時代に課題で描いた作品が、ハクメイとミコチの原型といえるものです。「小さな人たちの目線がどういうものなんだろう」と考えていて、その目線で漫画を描いてみたかったんです。その作品を担当編集者に見せたことがあって、それがきっかけになっていますね。 そして描いたのが『きのうの茜』というタイトルの読み切りです。その後、同じ世界観でまた読み切りを2本描いて、そのまま連載になりました。3本とも1巻に収録されています。
子供の頃から、生々しく描かれたキャラクターが好きだったので、描く側になった時もそのほうがいいだろうなと思ってそうしています。
人物を描くのが好きなんです。その人たちからつい出てしまう生の反応や言葉を、そのまま描きたい。「この場面ならば、絶対こう言うだろうな」というところまで引き出したいと思っています。
主人公のハクメイとミコチは、自然にまかせながら描くことが多いです。描きながら、「二人ともこんなことを言うんだ」って驚くようなときもあります。
キャラクターが掴みづらい時は、そのストーリーと直接関係ない日常の様子を想像してみたりします。たとえばご飯食べているところや、歌っているところ、寝る前にどんなことをするのか、とか。そうすると随分掴みやすくなります。
具体的な人物はいません。でも人に会って感じた自分の感情を探っていくうちに「この人の魅力はこれだ」と気づくことがあって、それを反映したキャラクターを描いたことはあります。石貫會のナライ会長がそうです。
大工組合[石貫會]のナライ会長。第2巻67ページより。
そのまま職人気質の人、というわけではありませんでした。すごく明るいんだけれど、「圧」がある人で、油断して近づくと切られそうだった。「魅力はあるんだけど、そこに甘えたら魅力が感じられなくなってしまう」、そういう人物像から考えました。
人を見る時に、表面だけで「楽しそう」「怖そう」と判断してしまうともったいなくて。それじゃあ面白くないから、油断せずに観察してみる。そうすると思ってもみなかった瞬間があります。
道具そのものが好きで、それにまつわる楽しい記憶が多いのでそれを描きたいんだと思います。例えば、祖父から小さい頃に山刀をもらったことがあったんですが、錆びだらけだったのをひとりでずっと研いできれいにするのが楽しかったんですね。鎌の柄を継ぐのを見ているのも楽しかったし、染め物についても、夏休みの自由研究で草木染めをして楽しかった、そういう記憶がいろいろあります。
感覚的に出せるか出せないかのラインもありますし、その感覚で判断つかない時は1900年代前半ぐらいの文明レベルに設定しています。あとは理屈が通るように調べたり考えたりします。多少無理があったとして、それでもどうしても出したい時は、目をつぶることも(笑)。
その回によって作り方が違っています。ひとつのシーンが浮かんで、そのシーンをベースに作ることもありますし、「こういうキャラクターを描こう」と思って描きはじめることもあります。
恐らく一番多いのは、形のないもの、感覚的なものから作り始める場合ですね。言葉には出来ないけど、「こういうこと楽しいよな」というところからスタートして、「それはなぜ楽しいのか」を掘り下げていきます。その結果「○○だから楽しい」という楽しさの正体みたいなものを見つけれられたら描く、という感じです。
そうですね。「何が面白いか」が見つかるまでは描き始められないので、打ち合わせには時間がかかります。面白いという自覚があっても、それが形になるかどうか自分でもわからないし、その「面白さの正体」を見つけたとしても、そのまま伝えられないこともあると思います。
だからせめて、絵や雰囲気や生活の描写を丁寧に描けば、言葉にしずらい部分が少しでも伝わりやすくなるかなと思って描いています。とにかく伝わるように描くということだけは決めています。
『ハクメイとミコチ』第5巻124、125ページより
まず雑草の中の廃墟というイメージが漠然とありました。そこに「家を壊す面白さ」という記憶もくっつけました。子供の頃に、祖父母の家の裏にあった小さな納屋を、妹と内側からハンマーで叩いて壊したことがあるんです。「もう取り壊すから好きに壊していいよ」って言われて。その時の面白かった記憶もきっかけのひとつです。
そのことを考えているうちに、家そのものに対する畏敬の念、みたいなものも思い浮かんできました。他人の家に気を使ってしまう気持ちとか、引越をする時に今まで住んでいた部屋が空っぽになったのを見て「世話になったな」と思った気持ちとか。そういった感覚はなかなか面白いものとして伝えられないものですが、登場人物たちに実行してもらったら伝わるかもしれない。そう考えながら描き始めました。
そこは、この先にどんなものを描いたとしても、ずっと変わらないと思います。テーマというよりスタート地点なんだと思います。特別な体験をしなくても、普段の生活の中で起きるなんでもないこととか、ちょっと面白いものを見たとか、そこから考えを掘り下げていくので。
雑談をしていても相手が「あ、それ面白い」って感じてくれれば、なんでそれが面白いんだろう、もっと面白くするにはどうすればいいんだろうと、考えがひたすら無限に広がっていくので、興味がいろんなところにいっているうちは描き続けられると思います。
緑尾老に会いに行く回(第30話 『紅髪の記憶』)の最後のシーンです。ぜひ読んで感想を頂けたらと思います。
樫木祐人(かしきたくと)
2010年2月に漫画誌『Fellows!』(現『ハルタ』)にてデビュー。2011年に発表した読切作品「あしたの茜」が、2012年『ハクメイとミコチ』として連載化(単行本の既刊5巻)。好きな漫画は『動物のお医者さん』、『DRAGON BALL』、『百鬼夜行抄』、『王ドロボウJING』、『ドロヘドロ』、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!! マサルさん』、『ファンシィダンス』など。
©Takuto Kashiki
本ページの内容は公開時点のものです。書籍の情報(販売の有無、価格、消費税込みか別かなど)について、予告なく変更される場合がありますので、購入内容確認画面においてご確認の上で、ご購入をお願いします。
|
![]() >>毎日更新!まんがをまとめ・大人買いする大チャンス! |
![]() >>おすすめの新刊・名作・無料まんがを探そう! |
![]() >> 最強無料まんがはこちらから |