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画業50年“突破”記念永井GO展 著者自らが明かす展示ガイド

2018年9月8日から9月24日まで大阪文化館・天保山で永井豪氏の「画業50年“突破”記念 永井GO展」が行われました。会場には600点を超える作品・資料に加え、フィギュアやギター、永井氏が監督した映像作品『空想科学任侠伝 極道忍者ドス竜』の絵コンテ、スケッチブックなどが展示されました。本展にさきがけて行われた永井氏への囲み取材の模様を通して、本展の見どころをご紹介します。

デビュー作から最新作まで
600点以上の作品・資料

これまでに発表された作品数は350を超え、現在でも精力的な創作活動を続けるマンガ家・永井豪氏。その足跡を振り返る「画業50年“突破”記念 永井GO展」が、2018年9月8日から9月24日まで大阪文化館・天保山で行われます。本展覧会では、デビュー作から最新作に至る直筆マンガ原稿、カラーイラストなどを、鬼、悪魔、ロボット、ギャグ、魅力的なヒーロー、ヒロインといったジャンル別に紹介しています。このほかに『マジンガーZ』や『デビルマン』の世界観をイメージしたエリア、実際の仕事場を再現した展示、通常は表に出ることのない秘蔵資料なども会場内で見ることができます。本展覧会用に描き下ろされたマンガ作品やイラストも展示されており、マンガ家・永井豪のイマジネーションあふれる世界を堪能できる内容となっています。ここでは本展示会に先駆けて行われた永井豪氏への囲み取材の模様をご紹介いたします。

━━本展の見どころについて教えてください。

自分で見どころというのもなかなか難しいのですが、ここには50年の自分の歴史の断片がたくさん散りばめられています。デビュー当時から、もし将来、自分の絵を展示する機会があればと思い、依頼された原稿を必要以上に大きく描いていました。そういうのが少しは役に立っているかなと思っていたのですが、この会場があまりに大きいので、自分では相当大きく描いたつもりだったのに、それほど大きく見えない(笑)。
今回は、これまでの展示会ではあまり出してこなかった鉛筆の下書きや既存の絵にイタズラ書きしたものも展示しています。その意味では、自分のいろいろな面を楽しんでいただけるのではないかな、と思っております。

━━600点を超える作品・資料のなかで特に思い入れがある作品や、これは見ておいた方が良いという作品があれば、教えてください。

難しい(質問)ですね。その時々で、その作品と一所懸命向き合ってきたので、思い入れは作品ごとにあります。ただ締切があるので「もうちょっと時間をかけたかったな」という作品もありますが、すべての作品を限られた時間内で、できうるかぎりで取り組んできました。世代、世代によって、思い入れがある作品が異なると思うので、ぼく自身は50年、同じ気持ちでずーっとやってきているのですが、(作品を)ご覧になる方によっては「これは思い入れがある」「これは見たこともない」というのがあると思います。そういう意味で、ご覧になる方のお好みにお任せしたいです。

━━今回の展示にはスケッチブックが展示され、鉛筆画もありました。鉛筆で描くときとペンで描くときで何か違いのようなものはあったりするのでしょうか?

鉛筆で描くときは「失敗してもあとで変えられる」という安心感があるので、ササッと描くのですが、ペンのときは「これで決まるな」という意識の違いがあります。 鉛筆の場合、プレッシャー無しに描けるので、のびのび描けることもあります。展示している鉛筆で描いたデビルマンレディのキャラクターも、もともと「デビルマンが女の子だったらどんな感じかな」とイタズラのつもりでスケッチブックに描いていたものです。当時、この絵を見た担当の方から「ああ、これだ!!」と言われて、『デビルマンレディ』の連載が決まった経緯もあります。担当の方からは「下書きの方がすごくいい」と言われて、じゃあ、少し残そうなかなと思って残していたものです。雑誌に載せるときは、この鉛筆画をコピーしてホワイトを入れたりしていました。

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「鬼と悪魔の黙示録」「ヒロイン・ヒロイックサーガ」「笑劇奇譚」「魔神伝説」と展示テーマごとに分けられ『デビルマン』『キューティーハニー』『マジンガーZ』などの原画が並ぶ。

『デビルマン』への思いと、
戦うヒロイン創出の裏側

━━『デビルマン』ではヒロインが惨殺される場面が衝撃的でした。連載当時を振り返って思い返すことはありますか?

あの場面を描くときは、編集部から(『デビルマン』の)連載を終えることを言われていたんです。何とかストーリーをまとめなきゃいけないプレッシャーと、時間短縮したなかで(自分の)描きたいことをどうやって描いていくかでエスカレートして、自分でも思わぬところに行ってしまいました。
「このままだとヒロインの(牧村)美樹ちゃんを殺してしまうことになる、どうしよう」と逡巡したのですが、「ここで救ってしまうと普通のヒーローマンガになってしまう」と思って。「助けられない」という選択肢を物語の文脈上、選ばざるをえなかった。じゃあ、どういう表現で描こうかと考えたとき、イメージを連続させる手法にしました。当時の自分としては「何とか描けた」という気持ちでしたが、いまでもやっぱり描けないですね。どうしても苦しくなります。

━━そして現在、『デビルマンサーガ』を連載されています。先生にとって『デビルマン』はどんな存在でしょうか?

『デビルマン』を描くまでは、マンガの依頼だとギャグマンガの依頼が圧倒的に多かったんです。「この次ギャグマンガを描くから、ストーリーマンガを1本やらせて」と言いながら、なんとか(ストーリーマンガを)描く機会を狙っていたくらいで。『デビルマン』を描いていたときは、テレビアニメの放映もあって、それなりの評判がありました。でも「もしこれが失敗したら、もうストーリーマンガの注文が来なくなるんじゃないか」というプレッシャーがすごくあって「ストーリーマンガを確立したい」──そういう思いで必死に描いていました。その意味で『デビルマン』は、自分にとってのストーリーマンガのエポックになった作品だと思います。
『デビルマンサーガ』は、『デビルマン』を読んでいた編集長から「何とか『デビルマン』をもう1回描けない?」とずっと言われていて。「『ビッグコミック』の読者って、もうほとんど『デビルマン』をリアルタイムで読んだ世代でしょ? それで、もう1度描くのはつらいんですけど」と言ったら、「いや、『ゴジラ』だって『ハリウッド版ゴジラ』とか、いろいろあるじゃないですか?」と言われて「えーー」っと(笑)。
しかも「ビッグコミック」の年齢層はすごく高くて、50~60代の方がたくさん読者にいます。そういった方たちに納得できるようなかたちで『デビルマン』を描いてくれないか、と言われると、「これは難しいな」と思いました。いろいろ考えた結果、「挑戦してみよう」という気になって、いま描いています。正直なところ、まだ自分のなかで成功しているのか、成功していないのか分からないまま一所懸命描いています。

━━数多くの作品のなかでも『バイオレンスジャック』のスラムキングの存在が圧倒的です。

ジャックは、作品全体を動かすキャラクターだと思うのですが、心の闇みたいなものを背負ってくれたのはスラムキングだったんじゃないかな、と思っています。『デビルマン』のときの飛鳥了のような、そういったものをスラムキングに感じながら描いていました。

━━『キューティーハニー』をはじめセクシーでキュートな強いヒロイン像が印象的です。モデルのような人物はいますか? また女性キャラクターのキュッとしたヒップラインの描線は、どういったところから生まれたのでしょうか?

特にモデルというのはありませんが、影響を受けたのは『リボンの騎士』をはじめとした手塚治虫先生の作品でしょうか。『キューティーハニー』には「空中元素固定装置」や「アンドロイド」といったSFの要素もありますが、(ハニーが)剣を持っているところなんかも『リボンの騎士』が入っているんじゃないかなと思っています。
最初に女性を描こうと思って一所懸命勉強したのは、ミロのヴィーナスをはじめとしたギリシア彫刻でした。その後、いろいろとグラビアの写真を真似して描いたりしているうちに、だんだん自分で一番納得できるかたちに近づいてきていると思います。いまのラインは理想に近いのですが、現実にそれを求めることはないです(笑)。あくまで作品のなかだけです。

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『デビルマン』と『マジンガーZ』にはそれぞれの作品世界をイメージしたエリアが設けられ、原画の展示だけではなく、フィギュアや超合金魂の商品展示や、記念撮影スポットが用意されている。

内容、質ともに空前絶後の
規模で行われる作品展

━━改めてこの50年描き続けてきたこの節目をどのように受け止めていらっしゃいますか? また、この先、次の節目に向けて、描いてみたい作品はありますか?

そうですね、編集部から依頼されるのは「(編集の方が)過去に見て楽しかった作品をもう1度」というのが多いので、なかなか「これまでに描いていなかったものを」というのは難しいのかな、と思います。でも自分としては、もっとリアルなファンタジーや時代劇、神話の世界を描いてみたいと思っています。なかなか編集の方を説得することができず、企画を実現できないことが多いのですが……。まだまだ新しい作品に挑戦したいという気持ちは変わっていません。

━━最後にご来場される方にメッセージをお願いします。

ここには私の50年間のいろいろな想いが詰まっています。本当に一所懸命、目の前の仕事をただひたすらにやってきただけなのですが、その都度都度、その時代、時代で自分なりに工夫しながらやってきました。デビュー前、自分が思っていたことは、尊敬する手塚治虫先生や私の師匠である石ノ森章太郎先生のように、いろんなマンガを、幅広いジャンルでマンガを描けるようになりたいという思いでした。そのため、デビュー前から、どんな依頼にも対応できるよう、いろいろなジャンルのマンガを研究し、また勉強し続けてきました。今回の展示では改めて「ああ、いろんなことをやってきたなあ」という自分ながらの驚きがありました。
50年間のそれぞれの時代の作品の断片ではありますが、ご覧になる方の年齢によっては知らない作品があったり、いろいろな広がりを感じてもらえると思います。ご自身の経験なんかもプラスして、ご覧になる方、それぞれの思い出に浸っていただけたら、とってもうれしいかと思います。
これまでにも何度か作品展を行ってきましたが、今回ほど充実した作品展は初めての経験です。それほど、多岐にわたって作品が集められていると感じます。普段は出すことのない鉛筆で描いた絵やイタズラ書きなど、そういったものまで展示していますので、マニアの方もすごく楽しんでご覧いただけるのではないかと思います。

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永井豪氏の仕事場を再現した展示。机や椅子だけではなく、この展示スペースのみ床にもタイルが敷かれ、仕事場の再現への並々ならぬこだわりを感じる。もちろんペン立てに入れられたペンや、本棚の本も仕事場と同じものが並ぶ。
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「50年間のそれぞれの時代の作品の断片ではありますが、ご覧になる方の年齢によっては知らない作品があったり、いろいろな広がりを感じてもらえると思います。ご自身の経験なんかもプラスして、ご覧になる方、それぞれの思い出に浸っていただけたら、とってもうれしいかと思います」(永井豪)

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