書籍の詳細

1985年、御巣鷹山で日航機が墜落。その日、北関東新聞の古参記者・悠木は同僚の元クライマー・安西に誘われ、谷川岳に屹立する衝立岩に挑むはずだった。未曾有の事故。全権デスクを命じられ、約束を違えた悠木だが、ひとり出発したはずの安西はなぜか山と無関係の歓楽街で倒れ、意識が戻らない。「下りるために登るんさ」という謎の言葉を残して――。若き日、新聞記者として現場を取材した著者みずからの実体験を昇華しきった、感動あふれる壮大な長編小説。

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クライマーズ・ハイのレビュー一覧

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  • 「戦争が始まったかのようだった」1985年8月12日夕刻過ぎ。日航ジャンボ機墜落。死者520人をだした世界最大の航空機事故を追いかけた地方新聞記者の苦闘を描く横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』。横山秀夫自身が群馬県の上毛新聞記者としてこの時の報道を経験しています。その体験をもとに描かれた小説で、現場にいたものにだけ書ける迫真のシーン、苦悩する人間の姿がそこにはあります。冒頭に引用した一行もそうした横山秀夫の体験が凝縮されています。日航全権デスクを命じられた悠木のデスクで電話が鳴った。悠木がもっとも信頼を寄せていた佐山記者が御巣鷹山の現場雑感を送るための電話だったが、すでに朝刊は下版、印刷に回っていた。迫力に満ちた、見事な雑感だった。しかし、新聞には載らない。その一言が悠木には言えなかった。悠木は佐山にもっと書けと指示し、佐山はまったく違う現場雑感を書き上げた。〈若い自衛官は仁王立ちしていた。両手でしっかりと、小さな女の子を抱きかかえていた。赤い、トンボの髪飾り。青い、水玉のワンピース。小麦色の、細い右手が、だらりと垂れ下がっていた。自衛官は天を仰いだ。空はあんなに青いというのに。雲はぽっかりと浮かんでいるというのに。鳥は囀り、風は悠々と尾根を渡っていくというのに。自衛官は地獄に目を落とした。そのどこかにあるはずの、女の子の左手を探してあげねばならなかった――。 悠木は赤いペンを机に置いた。何度も前文を読み返し、それから本文を読み進んだ。感情が収まるのを待って席を立った。それでも、見てきたかのように現場の光景が瞼から離れなかった。整理部長の亀嶋に原稿を手渡した。「カクさん、これ、一面トップで」「どうしたん?赤い目して」悠木は答えず、ネクタイを緩めながらドアに向かった。〉東日本大震災にも通底する記者たちの物語はこれから始まります。(2011/3/18)
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    投稿日:2011年03月18日