つくられた桂離宮神話

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紋切型”日本美”の象徴たる桂離宮。その神話化の過程を実証的に読み解き日本美の再検討を迫る

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桂離宮を初めて拝観して「まったく感激しなかった」、そして「感激することができない自分自身に落胆した」著者が、美術の世界で疑う人のいなかった「桂離宮神話」を追究した。どちらかといえば美的な感受性のゆたかな人間と思っており、空間芸術の現象学的考察を研究課題にしようとさえ考えていた井上章一は、桂離宮に感激しなければいけないと自分自身を叱咤してもだめだった、感激することができなかったという。そこから井上は「日本美を象徴するものとして文化史上に君臨している桂離宮」とその権力――自身の実感をねじふせて感銘の言葉を口からはき出させる力――がいかにして形成されてきたのかを問い直す。探求の旅は、ユダヤ系ドイツ人の建築家、ブルーノ・タウトの足跡を追うことから始まります。タウトが初めて日本にやってきたのは1933年(昭和8年)5月のことで、彼はそれ以降3年半ほどを日本で過ごし、来日の翌年には「ニッポン」を、その2年後には「日本文化私観」を出版する。それまで見向きもされていなかった桂離宮を高く評価したタウトは「桂離宮の発見者」を自認するようになります。彼の言説を基礎に桂離宮の神格化が始まっていきます。面白いのは、桂離宮が評価を上げていく一方で、日光東照宮はタウトによって「俗悪」と酷評され、それまでの「絢爛豪華な芸術美の粋」という評価から転落していったのです。タウトは日光東照宮に対する日本人の美意識を逆転させたのです。本書は、そうした「権力」の形成経過の探求であると同時に、「権威」から自由になろうとする個人の闘いの記録としても興味深いものがあります。(2009/11/27)
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