書籍の詳細

物情騒然たる明治初期。新政府は首府東京の治安を求めて西郷隆盛に抜擢された川路利良大警視を筆頭に邏卒六千の警視庁を作り、いまその体制を着々と固めつつあった。片や、その大警視をむこうにまわし、「ちょいとお上をからかって、田舎っぺえのポリス野郎の鼻をあかせてやろう」と、まことによからぬ一味がいる。旧幕時代に十手取り縄を預かっていた神田三河町の半七、その手先冷や酒かん八。元同心千羽兵四郎、そして黒幕に控えるのは、隅のご隠居こと元南町奉行の駒井相模守……。

まだユーザーレビューはありません。最初のレビューを書いてみませんか?

警視庁草紙のレビュー一覧

絞込み条件
  • レビュアー絞込み
表示形式
  • 表示件数
  • 表示順
  • 山田風太郎といえば忍法帖、忍法帖といえば山田風太郎、というのが一般常識です。しかし山田風太郎の多彩な創作活動は忍法帖だけにはとどまりません。明治時代を描いた作品では司馬遼太郎がよく知られていますが、じつは山田風太郎もまた、すぐれた明治小説を数多く残しているのです。しかもこの両者が描く「明治」は、陽と陰、対極に位置するものとなっているところが面白い。今回紹介する『警視庁草紙』は、明治6年、征韓論に敗れて郷里鹿児島に帰る西郷隆盛を司法省警保尞(翌7年に警視庁に昇格)大警視・川路利良が部下とともに見送るところから物語が始まります。下野した西郷に対し明治政府の中枢として東京に残った大久保利通、大久保を支える大警視・川路に挑戦する元江戸南町奉行・駒井相模守と配下の八丁堀同心たち。司馬遼太郎は青雲の志をもった人物たちによる希望にあふれた時代として明治期を肯定的に描いています。『坂の上の雲』はその象徴的作品です。こうした司馬遼太郎の姿勢に対して、山田風太郎のとらえ方は180度違ってきます。光の届かない影の部分――時代の変化についていけなかった人々、いわば敗者にフォーカスすることによって正史には描かれない闇の世界に光をあてたのが山田風太郎明治小説です。東京を離れる西郷を見送るとき、お供をするとまで言った大警視・川路が警視庁抜刀隊を率いて西南の役に出陣していくシーンで物語が終わります。時代に押し流されていった人たちの哀切を描くことで、日本の近代化とは何だったのかを問う、山田風太郎明治小説の最高傑作です。表紙画像は文藝春秋版の上巻ですが、ほかに筑摩書房版角川書店版がそれぞれ上下2巻でリリースされています。(2010/9/3)
    • 参考になった 2
    投稿日:2010年09月03日