書籍の詳細

『蒲団』は明治四十年に発表された作者の大胆な懺悔録である。家庭の寂寞に堪えかね、しみじみと人生の孤独を感じていた中年男の恋を通じ、人間の正体を赤裸々に描いている。『一兵卒』は大戦争の中で小さく死んで行く哀れな一兵卒の死を描いて、人生の意義を追求したもの。自然主義文学の代表的作品。

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蒲団・一兵卒のレビュー一覧

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  • 「芳子が常に用いていた蒲団(ふとん)――萌黄唐草(もえぎからくさ)の敷蒲団と、綿の厚く入った同じ模様の夜着(よぎ)とが重ねられてあった。時雄はそれを引き出した。女のなつかしい油のにおいと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした夜着の襟のビロードの際立(きわだ)って汚れているのに顔を押し付けて、心のゆくばかりなつかしい女のにおいをかいだ。性欲と悲哀と絶望とがたちまち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷たい汚れたビロードの襟に顔を埋(うず)めて泣いた。薄暗い一室、戸外(おもて)には風が吹き暴(あ)れていた」自然主義文学を代表する明治期の作家・田山花袋の代表作『蒲団』のエンディングシーンです。『蒲団』は島崎藤村『破戒』(1906年〈明治39年〉)に刺戟をうけて、『破戒』出版の翌1907年に出されて、日本における私小説の出発点となったとされる作品です。時雄は田山花袋自身、芳子は田山花袋の弟子として同じ屋根の下で暮らしていた岡田美知代のことで、時雄は妻と三人の子どものある身でありながら、若く美貌の女弟子に密かな恋慕の情をいだき、それゆえ芳子の恋人の同志社大生が東京に出てきてからは二人の関係や行動が気になってしょうがない。結局時雄は芳子の監督者として芳子の父を郷里から呼び寄せ、芳子は国元に帰ることになる。そして冒頭に引用したシーン――芳子のいなくなった部屋の空虚な空間で、時雄が女の匂いの残る蒲団に顔を埋めてひとり泣く――でこの中編小説は終わります。自らの性を赤裸々に描き出した田山花袋『蒲団』は当時の文壇やジャーナリズムに衝撃を与えました。それから100年の時を経て、一人の新人作家が、田山『蒲団』を『FUTON』として打ち直しました。2010年に『小さいおうち』で直木賞を受賞した中島京子のデビュー作です。100年の間に、何が変わり、何が変わらなかったのか。『蒲団』を下敷きに『FUTON』を書くという行為が生み出したものは?『FUTON』は5月6日に講談社電子文庫からりリースされました。『FUTON』も『蒲団』も、iPad、Android端末、いずれでも楽しめます。ぜひ読み比べてみてください。(2011/5/6)
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    投稿日:2011年05月06日