書籍の詳細

【池上彰氏による解説を収録!】「この本でトランプ政権は終わるだろう(著者マイケル・ウォルフ、BBCのインタビューより)」――トランプ大統領がいかに「無知」で「臆病」か、トランプ一族と側近たちの確執、「ロシア疑惑」の真相、あの髪型の秘密まで……政権の内部と大統領の真の姿を赤裸々に描く!

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炎と怒り トランプ政権の内幕のレビュー一覧

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  •  北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)はもしかしたら、ホワイトハウス内部のリアルな生き様を描写した、この本──『炎と怒り トランプ政権の内幕』を読んだのではないか。そんな思いが頭をよぎった。2018年1月、トランプ大統領が「出版差し止め」に動き、繰り上げ発売されるや、売り切れ店続出。アマゾン、ニューヨークタイムズのベストセラーランキング1位、全米170万部突破の世界騒然の書だ。約1か月後の2月下旬、邦訳が書店に山積みされ、電子版の配信も始まった。

     2018年3月9日──ピョンチャン・オリンピックの前までは、「Little Rocket Man(チビのロケットマン)」「老いぼれの狂人」と一国の最高権力者が発する言葉としては世界をあきれさせるに十分な表現で罵倒し合っていたトランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が5月までに会談するという衝撃的ニュースが飛び込んできた。朝鮮半島を南北に分ける板門店で金正恩から「親書」と「特別な伝言」を預かった韓国特使をホワイトハウスに迎えたトランプは「首脳会談の要請」を聞いたその場で、「よし、会おう」と即答したというのです。

     いったい、何があったのか。実現すれば、歴史的な会談となる「米朝首脳会談」をめぐるニュースを追っていた時、上掲の『炎と怒り』のある一節が脳裡に浮かんだ。

    〈トランプの一日は予定された会議のほかは、大半が電話に費やされている。外から何度電話したとしても、トランプへの影響力は維持できない。これは微妙ではあるが重大な問題をはらんでいる。トランプはしばしば最後に話した人物から大きな影響を受けるが、実際には他人の言うことなど聞いていない。つまり、トランプを動かすのに個々の議論や陳情が果たす役割は小さい。トランプにとって大事なのはむしろ、とにかく誰かがそこにいることだ。トランプは妄想好きだが、その頭のなかでは固定された見解は存在しない。だからこそ、トランプの頭のなかで起きていることと、目の前にいる人間の思考を結びつけることが大事なのである。その誰かが誰であろうとどんな考えを持っていようとかまわない。〉

     気になるくだりは、もうひとつ、あった。

    〈かつて海軍士官だったスティーヴ・バノンは、わずか数週間で気づいていた。ホワイトハウスがじつは軍事基地であることに。そこは大豪邸の外観を備えた軍事オフィスであり、わずかばかりの式典室を頂点に戴(いただ〉くその施設の下には、軍隊的指揮にもとづいた強固な「基地」が広がっている。ホワイトハウスの背後にある軍隊的な秩序やヒエラルキーと、その表側で仮住まいの民間人たちが繰り広げる混沌。それはじつに鮮やかな対比だった。
     トランプ率いる組織ほど、軍隊式の規律から遠い存在はそうはあるまい。そこには事実上、上下の指揮系統など存在しなかった。あるのは、一人のトップと彼の注意を引こうと奔走するその他全員、という図式のみだ。各人の任務が明確でなく、場当たり的な対処しか行なわれない。ボスが注目したものに、全員が目を向ける。それがトランプ・タワーでのやり方であり、いまではトランプ率いるホワイトハウスのやり方となっていた。〉

     トランプはホワイトハウスの“わんぱくな子ども”であり、ご機嫌とりをしたり気を引いたりする人なら誰でもお気に入りになれる。しかし、そのひらめきは瞬間のなかにしかない。だから、今はホワイトハウスを去ったとはいえ、一時は“陰の大統領”の呼び名もあったスティーヴ・バノン(元大統領首席戦略官)は毎晩トランプのディナーに同席しようとしたし、長女のイヴァンカ(大統領補佐官)とその夫、ジャレッド・クシュナー(大統領上級顧問)は、とにかく大統領の近くにいることによってたんに家族であること以上の影響力を手に入れようと腐心した。大事なのはとにかく、その瞬間に居合わせるということ──そのチャンスをつかめば、トランプ大統領との直接取引(ディール)の可能性が拡がっていく。首脳会談の要請をうけたトランプは「金正恩は北朝鮮で意思決定できる唯一の人物。だから彼と直接会うのは合理的だ」と説明したといわれますが、トランプ自身もホワイトハウスで意思決定できる唯一の存在とみなされているのです。金正恩がこの本を読んでいれば、よし、“わんぱくな子ども”の懐に飛び込んでやろう。そう計算したとしても不思議はない。

     この本の原題は、〈Fire and Fury :Inside the Trump White House〉。2017年8月8日、トランプ好みのシャンデリアやゴルフのトロフィー、ネームプレートで飾られたベッドミンスターのクラブハウスで行なわれた昼食会の後で、集まった記者団を前に、
    「北朝鮮は、これ以上アメリカを威嚇するのをやめたほうがいい。さもなければ、世界がこれまで見たことがないような炎と怒りを目の当たりにするだろう。彼が行なってきた脅しは常軌を逸している。だからいま言ったように、世界がこれまでに見たことのない炎と怒り、むき出しの力に直面することになる。ありがとう」
     と語ったトランプの北朝鮮に対する警告メッセージからとられています。もともとは『旧約聖書』の中の「イザヤ書」にある“神の怒り”を象徴する表現だと池上彰氏の解説にあります。いかにブラフの掛け合いの中でのこととはいえ、核先制攻撃を示唆しているともとれる威嚇の言葉を発したのが、何をするかわからないトランプ大統領だけに、世界は十分に戦慄したし、金正恩の内部にも疑心暗鬼が渦巻いたであろうことは想像に難くない。

     さて、『炎と怒り』に描写されたトランプのホワイトハウスの内幕である。
     本当に望んだかどうかは別として、1年前にホワイトハウスの住人となってしまった“わんぱくな子ども”と“ご機嫌とりをしたり気を引いたりする人たち”のリアルな生き様は驚くほかないが、何より覗いてみたいのはトランプの頭の中だ。トランプをよく知る人たち、周囲の人たちが一致しているのは、「バカ」だという辛辣な評価だ。そのあたりの状況は次の一文からもうかがえる。
    〈トランプの知的能力を嘲笑するのはもちろんタブーだったが、政権内でそのタブーを犯していない者などいない。〉

     たとえばティラーソン国務長官(3月13日、突然トランプが「解任」をツイート)──大統領を「能なし」と呼んだことが暴露された。
     たとえばゲイリー・コーン経済担当大統領補佐官兼国家経済会議委員長(3月6日辞任を表明)──「はっきりいって馬鹿」と言った。
     たとえばH・R・マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官(フリンの後任)──「うすのろ」と言った。
     たとえばスティーヴ・バノン大統領首席戦略官兼上級顧問(のちに辞任)──〈トランプを、ごく単純な構造の機械にたとえた。スイッチがオンのときはお世辞だらけ、オフのときは中傷だらけ。卑屈で歯の浮くようなお世辞があふれるように口から出てくる──何々は最高だった、驚くべきことだ、文句のつけようがない、歴史に残る、等々。一方の中傷は怒りと不満と恨みに満ち、拒絶や疎外を感じさせる〉

     勝つはずではなかったトランプが、そして驚くほど政策を何一つ知らないトランプが、まさかの大統領になってしまったのだ。そして一人のジャーナリストがなぜかトランプ流に塗り替えられたホワイトハウスの内側を自由に動き回ることを許された。本書著者のマイケル・ウォルフです。ウォルフが描写するトランプのホワイトハウスの生々しい有り様は「やっぱり本当なのか」「まさか」の連続です。「誤報」がゼロとは思いませんが、普通の取材方法では入手できない内部証言に基づく衝撃の書であることはまちがいありません。内部の人間しか知り得ない秘密の暴露が随所に見られることが、この本の価値を保証しています。
     たとえばトランプの寝室をめぐる秘密──。

    〈トランプは入居初日に、すでに部屋に備えられていた一台に加えて、さらに二台のテレビを注文した。ドアに鍵を付けさせ、緊急時に部屋に入れないと困ると言い張るシークレットサービスと小競り合いを起こしたりもした。床に落ちていたシャツを片づけようとしたハウスキーパーに対しては、「シャツが床にあるのは、私がシャツを床に置いておきたいからだ」と言って叱責したという。やがて彼はいくつかの新しいルールを定めた。私の持ち物には誰も手を触れてはならない、特に歯ブラシに触れることは厳禁だ(トランプは昔から毒殺されることを恐れていた。マクドナルドのハンバーガーを好んで食べるのもそのためだ。マクドナルドなら誰も彼が店に姿を現すとは思っていないし、ハンバーガー自体もあらかじめ調理済みで安全だからである)。また、シーツを換えてほしいときはハウスキーパーに伝えるが、ベッドから外すのは自分でやると言いだした。〉

     ちなみにメラニア夫人の部屋は別にあり、大統領夫妻が別々の部屋で暮らすのはケネディ大統領以来のことだそうです。いずれにしても寝室に一人でこもりマクドナルドを食べながら三台のテレビを見るのが秘密のライフスタイルというわけですが、もう一つ“トランプの秘密”が暴露されています。しかも長女のイヴァンカによってです。

    〈イヴァンカはよく、あのヘアスタイルの構造を友人に話して聞かせたものだ。スカルプ・リダクション手術(髪の毛のない部分の皮膚を除去し、髪の生えている皮膚を寄せて縫い合わせる手術)を受けたあとのつるつるの頭頂部を、フワフワとした毛が取り巻いている。その毛を中央でまとめるように梳(と)かし上げ、さらに後ろになでつけて、ハードスプレーで固定しているのだ。さらに・・・・・・〉

     イヴァンカによる秘密の暴露は男性専用のヘアカラーの商品名にもおよび、あのオレンジがかったブロンドのヘアスタイルが出来上がるまでをおもしろおかしく語っているのですが、いずれにしても、トランプは何事も“自分ファースト”を貫く“わんぱくな子ども”なのだ。1年前の大統領就任式を終えたトランプが「観衆は過去最大。150万人くらいに見えた」と、オバマ前大統領の就任式と比較した写真や映像を「嘘」と非難したことは記憶に新しい。事実にもとづいていないと容易に証明される「笑い話」でしかないトランプの主張がどうしてでてくるのか。本書が解き明かしています。

    〈「君が信用しているのは誰だ? ジャレッドか? 君が何かしようとする前に、誰か相談に乗ってくれる相手はいないのか?」興奮気味に電話してきたジョー・スカボロー(引用者注:元下院議員。MSNBC(米国のニュース専門放送局)の『モーニング・ジョー』の共同司会者)は、トランプにそう尋ねた。
    「うむ」と大統領は言った。「君は気に入らないだろうがね、答えは私だ。この私さ。私は自分に相談するんだ」
     そんなわけで、就任式から二四時間と経たないうちに、大統領はこの世に存在しない人間を一〇〇万人ほど創出することになった。新任のホワイトハウス報道官、ショーン・スパイサー(すぐに「そんなでたらめやでっち上げはまずいですよ」が彼の口癖になった)に命じ、就任式の観衆の人数に関して自分の見解を発表させたのである。この一件により、それまで実直に政治畑を歩んできたスパイサーは一瞬にして国民的な笑いものになり、今後もその汚名はすすがれる気配がない。おまけに大統領は、一〇〇万人の観衆が本当に存在したかのように伝えることができなかったといって、スパイサーを責め立てた。
     これは、トランプが大統領になって最初の暴挙だった。〉

     ホワイトハウス報道官および広報部長として、大統領就任式に立ち会ったスパイサーは、7月に辞任してホワイトハウスを去ることになりますが、「相談するのは誰でもない、自分だ。自分しかいない」というトランプ流は薄まるどころか、より顕著に、いっそう激しくなってきていることは、米朝会談に動き出した矢先のティラーソン国務長官解任からも明らかだろう。
    “わんぱくな子ども”を大統領に選んだアメリカは、トランプ大統領に対する初めての評価となる中間選挙に動き始めた。再びの「まさか」が起きるのか。それとも──まさに“神の怒り”が炸裂するのか。『炎と怒り』──トランプを知り、先行きを見定めるために必読の書だ。(2018/3/16)
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    投稿日:2018年03月16日