書籍の詳細

ワンマン経営に疲弊する現場を克明に描く潜入ルポルタージュの傑作!サービス残業、人手不足、パワハラ、無理なシフト、出勤調整で人件費抑制――。「(批判する人は)うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」そんな柳井正社長の言葉に応じ、ジャーナリストはユニクロの店舗への潜入取材を決意。妻と離婚し、再婚して、姓を妻のものに変え、面接に臨んだ――。「週刊文春」誌上で大反響を呼んだ「ユニクロ潜入ルポ」をもとに、一年にわたる潜入取材の全貌を書き下ろした。読む者をまさにユニクロ店舗のバックヤードへと誘うかのような現場感に溢れたルポルタージュである。気鋭のジャーナリストが強い意志をもち、取材に時間をかけ、原稿に推敲を重ねた読み応えのあるノンフィクション作品が誕生した。序章 突きつけられた解雇通知第一章 柳井正社長からの“招待状”第二章 潜入取材のはじまりイオンモール幕張新都心店(1)(二〇一五年十月~十一月)第三章 現場からの悲鳴イオンモール幕張新都心店(2)(二〇一五年十二月~二〇一六年五月)第四章 会社は誰のものかららぽーと豊洲店(二〇一六年六月~八月)第五章 ユニクロ下請け工場に潜入した香港NGO第六章 カンボジア“ブラック告発”現地取材第七章 ビックロブルースビックロ新宿東口店(二〇一六年十月~十二月)終章 柳井正社長への“潜入の勧め”

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ユニクロ潜入一年のレビュー一覧

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  • 〈柳井社長が好きな言葉に「少数精鋭」というのがある。できるだけ少ない労働者で、店舗の運営を効率よく回し利益を上げていくことを意味している。嫌いな言葉は、「人海戦術」。多くの人件費が発生しながらも、仕事がはかどらない状態を指す。〉

     ユニクロの店舗でアルバイト・スタッフとして働いたジャーナリストによる潜入ルポルタージュ『ユニクロ潜入一年』(横田増生著、文藝春秋、2017年10月27日紙書籍刊行と同時配信)の一節です。
     文中の〈柳井社長〉は、いうまでもありませんが、持株会社ファーストリテイリング/株式会社ユニクロの代表取締役・柳井正氏――〈一介の町の洋服屋から日本の衣料品産業の六%以上のシェアを握るトップ企業に上り詰め、さらには海外への進出を果たし、ZARAやH&M、GAPなどと伍するような国際的なアパレル企業として成長しつづけてきた〉ユニクロのワンマン経営者その人をさしています。著者は、業績が計画未達に終わったことの責任を「人海戦術」に転嫁しているとして、こう続けています。

    〈二〇一五年八月期に二回の値上げのため業績が計画通りにいかなかったとき、柳井社長は「日経新聞」の「働き方改革に終わりなし」と題したインタビューで、その理由を人海戦術にあったと責任転嫁している。
    「まだ人海戦術の状況から抜け出せていないためだ。もっと少ない人数と短い時間で効率を上げないといけない。/仕事をしているフリ、商品整理をしているフリ、接客しているフリをする従業員がいる。自分が何のために売り場にいるのか、必要な仕事は何かをわかっていないとそうなる」〉

     いったいユニクロの内部はどうなっているのか。何が起きているのか。
     前著『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫、電子書籍未配信)で、国内・海外でサービス残業が横行するなどユニクロ(および下請け工場)の劣悪な労働実態を明らかにして問題を投げかけた著者の横田増生氏は、柳井社長の〈悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね〉という発言(「プレジデント」2015年3月2日号)に触発されてユニクロ店舗への潜入取材を思い立ちます。前著をめぐる名誉毀損訴訟でユニクロ側の訴えが最高裁で退けられて確定した後もなお取材を全面的に拒否されていた著者が長期アルバイト・スタッフとしてユニクロ内部に入り込むのは容易ではありません。
     どうしたらいいのか。著者は合法的に名前を変えました。

    〈いったん妻と離婚したあとで、妻と再婚し、妻の姓を名乗ったのである。妻の名字は日本に最もありふれた名前の一つであるため、この書籍で私の本名は〈田中〉としておこう。
     日本では馴染みが薄いが、取材対象が隠したがる事実を暴く手段としての潜入取材という手法が用いられることは、他国では珍しくない。潜入取材の本場であるイギリスでは、BBCの記者が警察やアップルの関連企業に勤務して、その模様を放送したこともある。また、上海のテレビ局が二〇一四年、日本マクドナルドの中国のサプライヤー(下請け工場)に潜入し、床に落ちたり、期限切れとなったりした鶏肉を加工している映像をニュースとして流し、その後の同社の業績に甚大なダメージを与えたことを覚えている人も少なくないだろう。〉

     ジャーナリスト・横田増生氏が改名して〈田中増生〉としてユニクロ〈イオンモール幕張新都心店〉のウェブサイトから面接を申し込んだのは、2015年10月1日の正午のこと。30分後、「応募ありがとうございました」という自動配信のメールが携帯電話に届き、さらに4時30分を過ぎた頃に見知らぬ番号から着信があった。

    〈三十代と思しき男性の声がこう言った。
    「田中増生さんですか。こちらはユニクロ、イオンモール幕張新都心店の者です。今回は、当店へのアルバイトのご応募ありがとうございます。まずはお電話で、いくつかお聞きしたいことがあります」
     と前置きしたうえで、次の二点を尋ねてきた。
     一つは、土曜日・日曜日といった週末に働くことはできるのか。もう一つは、力仕事が多い職場だが大丈夫か──という質問。
     いずれも「問題ありません」と答える。〉

     面接の日時が一週間後の午前10時30分に決まり、当日店長室で待っていた30歳の店長、29歳の副店長による面接に臨んだ。〈アルバイトの時給が千円〉〈交通費が支払われない〉〈年中無休で店舗運営をしているので、繁忙期やクリスマス、大晦日から正月にかけてはできるだけ出勤してほしい〉〈働くときの服装はユニクロの商品を着てもらいます〉といった副店長の説明を受け、正体がばれやしないかと緊張した面接が終わろうとした時、最後にひとつと割り込んできた店長が「店員の多くは田中さんよりずいぶんと若いのですが、年下の人たちから教えてもらう立場になっても大丈夫ですか。」と確かめる。50歳という年齢に関する質問は想定内であり、即座に「問題ありません」と回答して30分の面接が終わった。
     結果は10日以内に連絡するという話だったが、その日の夕刻、副店長から電話が入った。

    〈急な話で恐縮ですが、明日、店舗に来ていただくことはできますか」
     翌日、入社の手続きがあるのかと思って話を聞いていると、
    「十時に店が開くので、そのタイミングで来ていただいて、その後、午後五時ごろまで働けますか。休憩一時間をはさんで、六時間勤務となるのですが」
     と副店長は言う。
     採用と同時に、翌日の出勤要請に、思わずガッツポーズが出そうになる。〉

    〈人海戦術〉は嫌いだという柳井社長の下で、アルバイト応募者が30分の面接で採用決定されるや即出勤要請・・・・・・潜入取材への第一関門というべき「面接」で早くも現場の逼迫感がきれいに浮かび上がった。
     とまれ2015年10月9日、著者のユニクロ潜入取材が始まりました。最初の店〈イオンモール幕張新都心店〉では2016年5月までの約8か月、続いて2016年6月から8月までを〈ららぽーと豊洲店〉で、そして2016年10月から12月にかけては三つ目の店舗となる〈ビックロ新宿東口店〉で潜入取材が続けられました。
     それぞれの店舗ごとに微妙に時給が異なることなど内部(なか)に入り込んで初めて見えてくる実情、休憩室で語られていること、スタッフの悲鳴、「部長会議ニュース」に載る柳井社長「上から目線」の檄・・・・・・内部情報の漏洩を厳しく規制しているユニクロの実態が克明に描き出されていきます。そのディテールは本書をご覧いただくとして、私が特に気になったことを二つ紹介しておきます。
     一つ目は、「ユニクロ販売六大用語」にまつわる話です。
    〈同年代の女性社員に軽作業を頼まれたので、「承知しました」と私が答えた。すると、彼女は、私の顔を覗き込むようにして、「ここで長く働くの?」と訊かれ、そのつもりだと答えると、「それなら、ここでは、かしこまりました、と答えるようになっているから」と教えてもらう。
    「かしこまりました」はその後、毎日唱和するユニクロの販売六大用語の一つである。
    「いらっしゃいませ」
    「かしこまりました」
    「少々お待ちくださいませ」
    「申し訳ございません。大変お待たせいたしました」
    「ありがとうございます」
    「どうぞまたお越しくださいませ」
     これを朝礼の後と休憩が終わって店舗に出るとき、同僚と唱和する。一年以上働く間、何度、唱和したことだろう。〉

     これが日本のアパレル企業のトップランナー? まるで新興宗教「ユニクロ教」ではないか。
     二つ目は、「閉店後のユニクロ」。ユニクロでは客がいる間は店内を走ることは厳禁とされています。潜入取材3店舗目のビックロでの体験です。

    〈ビックロは、閉店時間の午後十時を回ると、それまでとは別の顔をみせはじめる。 何人もの派遣社員が入ってきて、閉店後の店舗の立て直しを手伝う。ユニクロの社員やアルバイトも午後十時から午前零時直前まで、“最終商整”(閉店前の最終の商品整理)といって売り場の立て直しに駆けずり回る。退勤時間は十一時三十分だが、作業が終わらないと、社員から「延びれる?」という声がかかる。顧客が店舗にいる間、店舗を走ることは厳禁とされているが、閉店後は走って業務をこなすことが求められる。〉

     潜入取材によってユニクロ内部の“異様な光景”が浮かび上がった。(2017/11/24)
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    投稿日:2017年11月24日