書籍の詳細

戦争に敗れ、アメリカ軍の占領下、日本国内では奇怪な事件が連発した。国鉄総裁が轢死体で発見された「下山事件」、民間飛行機「もく星」号の墜落後の隠蔽工作、昭電・造船汚職の二大疑獄事件、現職警部が札幌路上で射殺された「白鳥事件」、衝撃では「ゾルゲ事件」に劣らない「ラストヴォロフ事件」……こうした事件の捜査は、占領軍と日本側の権力筋の強権によって妨害された。多くの資料と小説家ならではの考察で真相解明しようとした金字塔的ノンフィクション。

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日本の黒い霧のレビュー一覧

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  • ちょうど63年前の今日――1949年(昭和24年)の7月6日、松戸行き終電の運転士が綾瀬駅助役に「轢死体らしきものがある」と伝え、確認に走った駅員が運転士の言葉通り四分五裂になった男の轢死体を発見した。男は初代国鉄総裁に就任した下山定則。7月5日の朝、日本橋の三越に入った後消息を絶っていた下山総裁が翌6日午前0時30分過ぎに轢死体となって発見されたという「下山事件」の発生です。時はアメリカ軍を中心とする占領下にあった日本で、自殺とも他殺とも結論がでないままに、その年の年末には捜査本部が解散され、占領期の謎の事件の一つとされていましたが、松本清張は事件から11年たった1960年に雑誌『文藝春秋』連載「日本の黒い霧」で、「下山国鉄総裁謀殺論」を発表。アメリカ軍防諜部隊(CIC=Counter Intelligence Corps )による謀殺という松本清張の結論は自殺説・他殺説の2説の間で揺れていた当時の社会に大きな衝撃を与えました。この連載を通じて松本清張の探求は、下山事件の他、「もく星」号遭難事件(日航機が大島の三原山に墜落。乗客33名が死亡。羽田離陸後20分後に消息を絶ったが、当初アメリカ軍サイドから救助したという情報が流された)、二大疑獄事件(昭電・造船汚職)、白鳥事件(札幌市中央警察署の警備課長が射殺された)、ラストヴォロフ事件(ソ連元代表部二等書記官が失踪。捜索願が警視庁に出されたが、後に米国ワシントンで開かれた記者会見の場に現れた)、革命を売る男・伊藤律(日本共産党からスパイ行為によって除名処分)、帝銀事件(帝銀椎名町支店に現れた男が行員に赤痢の予防薬と偽って毒を飲ませた)、鹿地亘(プロレタリア作家で、アメリカ軍の諜報機関によって拉致された)、松川事件(福島-松川間で国鉄の列車が転覆)、追放とレッド・パージ、謀略朝鮮戦争など多岐に及び、連載をまとめて『日本の黒い霧』として出版され大きな反響を巻き起こしました。社会派推理作家・松本清張がその調査力、分析力・推理力を駆使して、アメリカ軍が日本を占領していた間に起こった数々の事件の真相に迫ったノンフィクションの金字塔といっていいでしょう。松本清張はこう書いています。〈私はこのシリーズを書くのに、最初から反米的な意識で試みたのでは少しもない。また、当初から「占領軍の謀略」というコンパスを用いて、すべての事件を分割したのでもない。そういう印象になったのは、それぞれの事件を追及してみて、帰納的にそういう結果になったにすぎないのである。(中略)下山事件は、それ(引用者注:帝銀事件)よりもはるかに大きな意図の下に行われた占領軍の謀略であった、と私は考える。(中略)下山氏はなぜ殺されたか。すべて殺人事件には相手を消すことによって利益を受ける者が必ず存在する。すなわち、この事件では、その利益の享受者はアメリカ占領軍(正確にはG2)だったと考えても大した間違いではないように思っている〉当時、国鉄労組は日本最大の労働組合で、組合運動の中心でした。就任早々の下山総裁の緊急かつ大きな課題は大量の人員整理で、これはGHQの日本政府に対する勧告に基づくもので、「勧告」の形を取った命令と見なされていました。十二万もの大量解雇に直面した国鉄労組は当然、激しい闘争を開始しようとしていましたが、下山事件が起こったことで、この闘争は、清張の表現によれば「台風の眼の中に原子爆弾を打ち込んだように衰弱し、雲散霧消」してしまいます。最大の利益配当を受けた者はGHQ――米ソの冷戦がようやく激しくなりかけたこの年は、この事件によってどれくらい占領軍が当初自ら煽(あお)った日本の民主勢力を右側に引き戻したかしれなかった。丁度この時期に、アメリカ側は一年後の朝鮮戦争を予測していたと想像される、と松本清張は指摘しています。その結論は単なる政治論ではありません。「かなり時日を費やした」と清張自身が自負するように綿密な調査と徹底的な事実の検証のうえで、大きな時代背景を踏まえて到達した「推定」です。日本の占領時代に何があったのか。半世紀以上の時を経た今も『日本の黒い霧』は現代史、占領史の一級の資料としてぜひお読みいただきたい一冊です。下巻巻末には、占領が始まった1945年(昭和20年)8月から1954年(昭和29年)までの10年間の年表が参考資料として収録されていています。「首相」「政治」「経済」「社会」の動きなどが簡潔に記載されていて、時代の流れを大づかみする助けとなります。(2012/7/6)
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    投稿日:2012年07月06日
  • 1960年の後半に「文藝春秋」に連載されたノンフィクション作品がほぼ半世紀が過ぎようという今も、色褪せることなく読み続けられていること自体、注目すべき現象というべきです。松本清張の探求心の対象となった戦後、占領期の事件はいずれも真相が明らかにはならず、謎のままに時間が過ぎ去ってきたが、それだけに事実を積み重ね、そのうえに小説家としての推理・推論を加えたという清張の「仕事」は際だっている。「下山国鉄総裁謀殺論」「白鳥事件」(上巻)から「松川事件」「朝鮮戦争」までたんなる謀略史観という位置づけではかたづけるわけにはいかない、占領期日本の深層に光を当てた現代史の本。(2009/7/17)
    • 参考になった 2
    投稿日:2009年07月17日