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海猫沢めろん

講談社/文芸

ジャンル:文芸

1050円 (税別)

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eBookJapan発売日:2017年08月04日

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今までなかったタイプの子育て小説です。すごく面白いです。子育てといえば母の愛、みたいな社会通念がありますが、自らも子育て中の海猫沢めろんさんは、こうした考え方に否定的です。なんせ、子育てからは最も遠い存在である、ホストに子育てをさせてしまうのですから。ハチャメチャな設定なのですが、この設定だからこそ、子育てにまつわる様々な問題点や重要な視点が浮かび上がります。

ポジティブマインドを極めたホスト・白鳥神威は、いつもと同じように起床し、いつもと同じように自らが店長を務めるホストクラブに出勤。25時前に営業を終え、スタッフとの反省会のあとに帰宅すると、自宅玄関前にベビーカーが置かれていました。そして、おんぎゃあと響く泣き声を聞き、赤ん坊の上に「神威さまへ よろしくお願いします」と書かれたメモを発見します。

「(カリスマホストだった)恋田さんの前には自称息子がよく現れるけど、なにも聞かずにそいつら全員を受け入れるんだ。ホストとしてかっこいいよ。俺たちは女の金で生きてる。だからいつかはツケが回ってくる。そのときにそれを前向きに受け入れるかどうかで、自分の信念の正しさが決まる」
これは、後に神威が後輩に語るホストとしての矜持ですが、神威は母親を探すことなく、自らの手で子どもを育てることを決意します。

とはいえ、夜の繁華街で働くホストが子どもを育てるのは、並大抵のことではありません。様々な問題が起こりますが、そこはスーパーポジティブな神威のこと。友人で元ホスト、今はIT企業を経営する三國孔明に相談を持ちかけ、クラウドファンディングで子育て支援を募るサイト「KIDS-FIRE.COM」を開設します。いやはや、すごい展開です。

「生まれや戸籍ではありません。前向きに考えるべきは、育て方です。その結論のひとつがソーシャル子育てという方法論なんです」というセリフが小説の中にありますが、本書には、親(特に母親)の愛がないと子育てはできない、という社会通念を疑う考え方が貫かれています。実は主人公の神威自身、風俗嬢だった母親と客だった父親の間に生まれ、母親の愛を知らずに育ちました。それでも、大人になり生きています。

また、こんなセリフも出てきます。「君は子供が愛の結晶だと口にした。しかし、それは、愛のない家庭に生まれた人間にとっては、自分の存在を否定されるような暴力的な言葉だ」。このセリフを読んだとき、こんなことを思い出しました。最近小学校では、子どもが10歳になると1/2成人式だということで親への感謝の言葉を語らせることもあるそうです。また、赤ちゃんの魂が「この親のもとに生まれたい」と選んで母親のお腹に宿るのだ、といった考え方もあるそうです。こうした考え方に、賛同する意見もある一方、否定的な見方もあります。

なぜなら、現在進行形で不幸な生い立ちを歩んでいる子どもや、子どもがほしくてもなかなかできない大人にとって、「子どもは愛の結晶だ」とか「赤ちゃん自らが親を選ぶ」といった考え方は受け入れがたく、少なからず存在するそうした人々を、意味もなく苦しめてしまうからです。親の愛というものが絶対的なものではないとしたら、子どもが育つために不可欠なものとは何か? これからの時代に合った子育てとはどんなものなのか? 本書には、かなりラディカルな内容が書かれていますが、哲学的な思考実験として非常に面白いです。

小難しいことをタラタラ書いてしまいましたが、この小説、文章のテンポがよく、実際にホスト経験のある海猫沢さんによる綿密な取材に裏打ちされており、コミカルに脚色されていながらリアル感のあるホストの世界が垣間見られ、楽しみながらサクサク読み進められます。登場人物も、歌舞伎町ホスト界のレジェンドである恋田さんや、若手論客の荻窪リキなど、現実のパロディであったり、同時収録されている、神威が育てた赤ちゃんが6歳になった頃を描いた「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」には、当たり前ポエムがさりげなく挿入されていたりと、遊び心満載です。肩の力を抜いて作品世界を楽しむことができると思います。
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