石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの

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『しんがり 山一證券 最後の12人』『プライベートバンカー』などで知られる著者の最新書き下ろし。舞台は警視庁捜査二課。2001年に発覚した外務省機密費流用事件、官邸、外務省を揺るがせた事件を掘り起こしたのは名もなき刑事たちだった。容疑者は、着服したカネで次々と愛人を作り、競走馬を何頭も所有する外務省の「ノンキャリの星」。機密費という「国家のタブー」に触れた二課刑事たちを待っていたのは――。

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『しんがり 山一證券 最後の12人』『プライベートバンカー』などで知られる著者の最新書き下ろし。舞台は警視庁捜査二課。2001年に発覚した外務省機密費流用事件、官邸、外務省を揺るがせた事件を掘り起こしたのは名もなき刑事たちだった。容疑者は、着服したカネで次々と愛人を作り、競走馬を何頭も所有する外務省の「ノンキャリの星」。機密費という「国家のタブー」に触れた二課刑事たちを待っていたのは――。

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 歴代の自民党政権は、官邸機密費について堅く口を閉ざしてきた。首相在任中に国会答弁で「機密費は公開できないから、機密費なんです」と、いかにもワンフレーズの達人らしい言い方で開き直った小泉純一郎元首相は、その典型例だ。
 小淵政権で官房長官を務めた野中広務氏がベールに包まれた機密費の一端を明らかにしたのは、2010年(平成22年)年5月のこと。政権交代によって民主党政権(鳩山由紀夫首相)が誕生して8か月、TBS「ニュースの視点」のインタビューを受けて野中元官房長官は大要以下のように証言したのだ。
・機密費の使途先は国会対策が多かった。
・総理の部屋に毎月1,000万円ほど渡す。
・衆議院の国対委員長と参議院の幹事長室に5,000万円ずつ。
・自民党の歴代総理にも、盆暮れに100万円ずつ(年間200万円)送っていた。
・政治評論家に盆暮れに届けていた。あいさつ程度。
・外遊する議員への餞別が慣例になっていた。50万円から100万円ほど。
・機密費の固定費は月に5,000万円。
・それとは別に出す分があり、大きいときには月に7,000万円出したこともある。

 野中広務氏の官房長官在任期間は1998年(平成10年)7月~翌年10月。2003年(平成15年)3月に政界を引退していたとはいえ、実力官房長官が自らが直接関わった機密費の一端を具体的に数字をあげて明かしたのです。〈総理の部屋に毎月1,000万円〉という証言は社会に波紋を呼びましたが、それをきっかけに機密費の全貌が明らかになっていったわけではありません。機密費は今も変わりなく、厚いベールに包まれたままです。安倍首相が標榜する「地球儀俯瞰外交」で税金がどれだけ、どのように使われてきたのか、官邸が進んで明らかにしたことはありません。

「機密費」という国家のタブー。その聖域に一歩でも近づこうと挑んだ、名もなき4人の警視庁捜査二課刑事がいた。刑事たちが外務省の「報償費」という名の機密費の存在を知り、捜査を始めたのは“野中証言”の10年前、1999年(平成11年)の秋のこと。捜査二課情報係主任・中才宗義警部補が〈外務省の三悪人〉に関する疑惑情報を入手、上司であり「相棒」である情報係長の中島政司とともに、その中の一人、ノンキャリアながら外務省官房総務課機能強化対策室長兼九州・沖縄サミット準備事務局次長の要職にある松尾克俊に的を絞って追い詰めていきます。そして捜査二課第四知能犯第三係長の萩生田勝警部と主任の鈴木敏(さとし)警部補を中心に総勢86名の特別捜査班が結成され、中才と中島も加わり特別な役割を担うことになります。捜査は松尾に対する任意聴取から強制捜査へと進みますが、はたして外務省疑惑の本筋、官邸「機密費」にメスは入るのか。
『しんがり 山一證券最後の12人』(講談社、2015年8月28日配信)で知られる清武英利が、外務書疑惑――消えた10億円を追及した4人の二課刑事を描いたノンフィクション作品『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』(講談社、2017年7月26日配信)が面白い。実は、上述の小泉元首相、野中元官房長官にまつわる話は本作より引きました。
著者の清武英利は本書「あとがき」にこう記しています。
〈ことわるまでもないことだが、これは創作ではない。ありのままに書いたために、重い口を開いてくれた関係者が不当な批判を受けることを恐れるが、ほんの少し前、総理官邸や外務省を舞台に起きた未曾有の公金詐取事件と、それを掘り起こした刑事たちの日々を思い起こしてもらうためには、ノン・フィクションという形しか私には思いつかなかった。だから、登場する捜査員や告発者、容疑者、官邸や外務省の官僚たちの名前は、現職刑事一人を除いてすべて実名である。〉

 警視庁捜査二課。汚職や詐欺、横領、背任、選挙違反などの知能犯事件を担当する部署で、汚職の「汚」の部首から「サンズイ」と隠語で呼ばれる贈収賄事件を専門に摘発する刑事が多く集められています。二課刑事は〈サンズイは内側から体制をじわじわと蝕んでいく。それを摘むのがお前たちの仕事だ〉と教え込まれ、中才たち情報係は汚職などの情報を拾い集め、それを裏取りしてふるいにかけた後で、摘発部隊のナンバーなどに引き渡すという、重要だが光の当たらない黒子の役回りです。
 その中才警部補が外務省疑惑の端緒を掴むのは、情報収集で長い付き合いのあった元自民党総務会長の水野清からの一本の電話がきっかけだった。警視庁二課刑事の捜査がどう始まり、どんな経過をたどってゴールにたどりついたのかが明らかにされることは珍しい。しかも事件が終わってからそう日がたっていないとあれば、なおさらです。著者は捜査開始の第一歩をこんなふうに描きます。

〈・・・・・・「ナカサイ」と呼ばれる男につながると、水野は、
「あのな、けしからん話があるんだ」
 電話でいきなり話を始めた。
「外務省にとんでもない役人がいるらしい。サミットの入札で談合があるんだそうだ。信頼できる人が私のところに相談に来てんだ。その人の話を聞いてもらいたいんだよ」
「いいですよ、聞けというなら何なりと。私でよければね」
 電話の向こう側は、警視庁本部の四階にある捜査二課であった。
「その人が言うにはね、外務省の役人が仕事を妨害して他所の会社に取らせちゃうんだそうだよ。キャリア官僚も手出しができないやり手がいて、そいつらと業者がつるんでいるらしい。外務省に掛け合ったが埒が明かんのだよ。何とかしてくれって言うんだ。近々来れるかね」
「センセイの事務所ですか。いつでもいいですよ」〉

 時は1999年(平成11年)10月。電話から数日たった10月中旬、中才は水野事務所を訪ね、そこで小柄な老人〈廣瀬日出雄〉を紹介された。いつものように興味津々で同席している事務所の主、水野清が二人の顔を交互に見て言った。

〈「この人は誠実な人ですよ。途中で放り投げることはしませんから、廣瀬さん、安心してお話ししてください」(中略)
「うちの日成グループに、近代商事という会社があります。もともとは知人から頼まれて引き受けた会社で、実務はそこの番頭たちに任せていたので、私は相談役という形を取っています。
 その近代商事では、外務省に事務機器を納入したり、印刷物を引き受けたりしてきました。仕事は競争入札ですし、以前と違ってそれほど大きな儲けもないので、他の業者ともうまくやってきました。ところが昨年、近代商事から番頭格の人間が独立して新しい会社を興したあたりから、秩序が乱れるようになりました」
「社員たちがお宅の会社から飛び出したんですね。ただ仕事は競争入札で取り合うんでしょう?」
 と中才は言った。
「入札を仕切る役人たちがいるんですよ。その役人にうちにいた番頭たちも取り入って、受注しているらしいです」
「おたくの仕事も奪われたわけですね」
「…………」(中略)
 ある話に差し掛かったとき、聞き流しているように見えた中才が突然、聞き直した。話の途中で質問をするのは珍しいことだった。それは、納入業者が問題の役人にビール券やタクシーチケット(クーポン券)などを贈っているという証言に差し掛かったときだった。「それですが……どの業者もやっているんですか? おたくの会社も?」
「これまではね。儀礼的な挨拶ですが、そうせざるを得ないんですよ」
 中才が金券の提供に強い興味を抱いたことは、廣瀬にもわかったようだった。受け取っている役人は誰ですか、と中才が勢い込んで尋ねたからである。
 廣瀬は一人の役人の名前を挙げた。〉

〈廣瀬さん、また話を聞かせていただけますね。できれば現場の担当者もご紹介いただけると助かります〉廣瀬にそう告げて水野事務所を出た中才は、警視庁に戻ると、そのまま捜査二課長室の隣にある資料室――20畳ほどの小さな図書館に潜り込んだ。

〈中才は資料室に誰もいないのをもう一度確認すると、外務省職員録や大蔵省印刷局編の職員録で外務省の項を開き、廣瀬が口にした官僚の名前を探した。ビール券やタクシーチケットをもらっているという役人の名前である。
 確かに、その男はいた。
「外務省欧亜局西欧一課課長補佐 浅川明男」
 中才は備え付けのコピー機でその項を複写し、椅子に腰かけた。それからゆっくりと古い職員録を繰って浅川の経歴をさかのぼっていった。
 いいネタだ、と彼は思っていた。中才は廣瀬の言葉を反芻していた。彼は二つの疑惑を証言したのである。〉

 中才がひとりで進める情報収集は資料による裏付け、確認を経て次第に捜査の色彩を強めていきます。ほどなくして浅川明男の後任、松尾克俊・九州・沖縄サミット準備事務局次長の名前が浮かび上がり、「サンズイ」を目指す二課刑事たちの捜査が本格化していくのですが、最終的には松尾克俊による〈未曾有の公金詐取事件〉で決着したことは、先述の著者「あとがき」にあるとおりです。

 著者は、「ある警察官からのメール」を本作冒頭に置いています。
〈僕が新任だった頃、ある係長が二・二六事件の将校を称え、「警察官もまた国家のために奉公することこそ、男子の本懐とすべし」という趣旨のことを言いました。
 その人はとても実直で僕の好きなタイプの人でしたが、僕はそのとき、この「急訴事案」に駆けつけ、反乱軍の兵士に射殺された警察官の話をし、警察官の本質はそこにあると反論しました。
 時代の状況がいかなるものであれ、治安を守るそのことこそ警察官の役割である、そしてそれに対する見返りなど微塵も期待しない、歴史上に無名の士としても残らない、「石礫(いしつぶて)」としてあったに過ぎない。僕は奉職しているかぎり密かにその覚悟だけはいつも持っていようと、思っています。〉

 そしてメールを送ってきた「ある警官」が著者の古い友人であることを明かした上で、書名を「石つぶて」とした理由を、「あとがき」でこう記します。
〈友人は、本書に登場する中才宗義氏ら四人の元刑事と同じ世代に属している。この本をほぼ書き上げたとき、公金詐取事件を巡って、一群の刑事が霞が関に投じた一石や刑事たちの存在自体もまた、「石つぶて」と呼ぶにふさわしいと考えた。〉

 国民の目が届かない裏舞台で、政治家やその意向を忖度する役人たちが何をしているのか――盤石のはずだった体制に小さな亀裂が入り、なんだかとんでもないことが進行していたということがわかってきた。それが森友学園の問題であり、加計学園の問題です。本作の4人の刑事がみずから「石つぶて」となって霞ヶ関に投じた一石によって、役人が地位を利用して億単位の機密費(税金)を「領収書がいらないカネ」と言って湯水のように使っていたことが明らかになりました。犯罪として立件されたわけですが、その温床となった政官界の構造が完全に改められたわけではありません。それは森友、加計疑惑を見れば明らかです。前理事長夫妻の詐欺事件だけで終わらせていいわけがありません。
 出世を望まず、悪戦を生きる全国の無名の刑事たちは、そんな日本社会をどう見ているのか。彼らへの思いを込めて清武英利が書きあげた『石つぶて』は、日本社会の闇を照らしだしています。(2017/9/1)
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