東芝 原子力敗戦

著:大西康之

文藝春秋

ジャンル:ノンフィクション

1204円 (税別)

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eBookJapan発売日:2017年06月28日

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東芝 原子力敗戦の詳細

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 驚きの一冊だ。2017年6月28日に紙書籍、電子書籍同時発売された『東芝 原子力敗戦』(大西康之著、文藝春秋)――企業人としての見識も矜持もなく「国策」に寄り添い翻弄されたあげく、140年の歴史を持つ5兆円企業が壊れていく過程を数多くの内部文書と証言からつぶさに検証した、一級の企業ノンフィクション作品です。
 東芝の「半導体事業売却」を巡るニュースが連日、新聞を賑わしています。半導体事業売却の成否に東芝の生き残りがかかっているというわけです。確かに「半導体事業売却」の混迷も粉飾決算を巡る泥仕合ももちろん問題ですが、いま本当に問われるべきは、なぜ東芝が原発ビジネスの泥沼にはまり込んでしまったのかだ。
 その理由をズバリ示す東芝社員のビジネスダイアリーで、本書は始まります。まずは、「プロローグ そこに悪意はあったか」の書き出しをご覧ください。

〈きっかけは、筆者が入手した、ある東芝社員のビジネスダイアリーだった。
 表紙には、手帳の持ち主と思しき「田窪CFL」と綴られた付箋。ダイアリーには、東芝の社員である「田窪」が二〇一一年十二月から二〇一二年十一月末にかけて、アポイントを入れた人物が記されている。
 ページを繰っていて、ほどなく気づくのは、面会相手として頻出する、「今井」という名前だ。
《12年2月10日 10:00~11:00 METI 今井様(トルコの件)》
《12年2月23日 16:30~17:00 METI 今井次長》
《12年8月10日 15:30~17:00 エネ庁 今井次長》
「METI」とは経済産業省(Ministry of Economy, Trade and Industry)のことだ。当時、資源エネルギー庁で「今井次長」といえば、現・首相秘書官の今井尚哉ではないのか──。
 中には、食事をしたと見られる記述も目につく。
《12年2月1日 dinner今井〉〈12年4月27日 8:00~9:00 今井 レ セゾン》
《12年10月19日 dinner今井》
「レ セゾン」とは、帝国ホテルにある朝食が有名なフランス料理店だろう。「今井」の名前は一年間で約三十回登場する。〉

 東芝の経営破綻を取材する過程で、「田窪」と「今井」の関係をよく知る人物に行き当たった著者の大西康之氏は、ダイアリーを見たその人物の証言を引いてこう続けます。

〈「『田窪CFL』は、当時東芝電力システム社の首席主監(チーフ・フェロー)だった田窪昭寛氏のこと。電力システム社は原発事業などを手掛ける社内カンパニーで、彼はその陰の実力者です。『今井』氏は御指摘の通り、現・首相秘書官の今井尚哉氏です」
 そしてこう続けた。
「東芝が現在の惨状に陥った背景には、二人の親密な関係があったのです」〉
 監査法人との協議がまとまらずに数か月遅れて2017年8月10日になってようやく発表された東芝の2017年3月期決算――連結純損益は9,656億円の赤字でした。東芝がほぼ1兆円もの赤字という惨状に陥った〈最大の要因は、〇六年に約六千六百億円を投じて買収した米原発メーカー、ウエスチングハウス(WH)を核とする原発事業の不振である〉と、著者は断じます。WHは2017年3月29日、米連邦破産法第11章(通称チャプター11)の適用を申請しました。これで東芝のバランスシートは、5,400億円の債務超過になったが、6,600億円もの巨費を投じて手に入れたWHが実際には火の車で、東芝経営陣はそれを隠蔽するために粉飾決算に走った。

〈二〇一五年春に粉飾決算が発覚してから二年間。
 東芝が抱え込んでいた闇が徐々に明らかになっていった。半導体やパソコン事業でも粉飾は行われていたが、闇の正体は原発だった。二〇〇八年のリーマンショックと二〇一一年の東京電力福島第一原発事故。二つの要因によって原発を取り巻く環境は激変し、もはや事業としては成立し得なくなっていた。それでも東芝は原発事業を継続し、アクセルを踏み続けた。
 その経営判断に多大な影響を与えたのが、原子力事業部の“暴走機関車“田窪と、アベノミクス推進のために原発輸出を強行した今井だった。〉

 国策として「原発輸出」を強引に推し進める官僚と、その意を受けて言わば「死に体」の原発企業を将来戦略の切り札と思い込んで買った日本を代表する企業。東芝の転落はここから始まった。原発輸出という「国策」の闇に引きずり込まれた東芝にはもはや、解体への道しか残されていなかった。

 東芝がWHを買収する8年前の1998年6月22日。全国紙朝刊に奇妙な広告が掲載されました。

〈RCサクセッション レコード発売中止の御知らせ
「COVERS」8月6日発売予定/「ラブ・ミー・テンダー」6月25日発売予定
上記の作品は素晴らしすぎて発売できません。 東芝EMI株式会社〉

 東芝傘下の東芝ENIが8月6日の広島原爆忌に予定していた忌野清志郎率いるロックバンド「RCサクセッション」の新譜(うちシングルカットを6月25日に先行発売予定)の発売を中止すると告知したのです。
 ボブ・ディラン「風に吹かれて」やジョン・レノン「イマジン」などの洋楽に新たな日本語の詞ををつけたカバー曲集。戦争や核、原子力発電などをテーマに原曲とは異なる忌野清志郎らしい作品世界を創造した。シングルカット予定だった「ラブ・ミー・テンダー」と「サマータイム・ブルース」は原発の安全性を問う詞が秀逸だ。なじみ深いメロディに乗せて口ずさんでみてください。〈素晴らしすぎて〉の深い意味が見えてくると思います。
・ラブ・ミー・テンダー
 何 言ってんだー ふざけんじゃねぇー
 核などいらねえ
 何 言ってんだー よせよ
 だませやしねぇ
 何 言ってんだー やめときな
 いくら理屈をこねても
 ほんの少し考えりゃ 俺にもわかるさ

 放射能はいらねえ 牛乳を飲みてえ
 何 やってんだー 税金(カネ)かえせ
 目を覚しな
 巧みな言葉で 一般庶民を
 だまそうとしても
 ほんの少しバレてる その黒い腹
(以下略)

・サマータイム・ブルース
 暑い夏がそこまで来てる
 みんなが海へくり出していく
 人気のない所で泳いだら
 原子力発電所が建っていた
 さっぱりわかんねえ 何のため?
 狭い日本のサマータイム・ブルース
(中略)
 電力は余ってる 要らねえ
 もう要らねえ
 電力は余ってる 要らねえ
 欲しくない
 原子力は要らねえ 危ねえ
 欲しくない
 要らねえ 要らねえ
 電力は余ってるってよ
 要らねえ 危ねえ

〈素晴らしすぎて発売できません〉というコピーは、“発禁”に対する制作現場の精一杯の抵抗だったのはないか。もしそうだったとして、まだそうした抵抗が新聞の広告になって実現できた時代だったことに改めて思いを馳せてします。

 とまれ、レコードは別な会社から発売され、今もCDなどで入手できるし、何より忌野清志郎の時代を先取りする予見性、物事の本質を見抜く感性は時を超えて今という時代を照らしだし、色あせることがありません。一方、原子力発電を撃つ忌野清志郎の批評精神を〈発売中止〉によって封じ込めようとした東芝は今、原発輸出の泥沼に引きずり込まれ、壊れていく過程にあります。
 著者によれば、東芝には二度、路線を修正して引き返すチャンスがありました。〈一度目は東芝社内で「WHのインペア(減損処理)」がささやかれ始めた二〇〇九年〉であり、二度目は福島第一原発事故の時。あの時点で世界の原発投資が減少に転じることは、誰にでも容易に予想できた。原発撤退を決めたシーメンスや、はっきり原発事業に関して「退却」の意志を示したGEなどライバルたちの動きを見ても、原子力が成長産業でなくなったことは理解できたはずだという。〈それでも東芝はアクセルを踏み続けた。あるいはブレーキを踏むことを許されなかったのかもしれない。首相の懐刀、秘書官の今井尚哉が背後にいたからである〉として著者は、「国策」大合唱に乗り、その失敗を隠蔽するために粉飾に走った経営陣、そして「チャレンジ」という名の会計操作(粉飾)指示に唯々諾々と従った一般社員たちへの疑問を突きつける。結局のところ、自らの判断を避け、思考停止に陥った「サラリーマン全体主義」が惨状を招いた原因だったのではないか。東芝・原子力敗戦の淵源をそこに見いだします。自らの言葉で原子力発電を撃った忌野清志郎の詞に正面から向き合っていたら、そして原発推進の当否判断から逃げて思考を停止させることがなかったら・・・・・・。
 歴史の皮肉を感じざるを得ません。(2017/9/15)
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