疑薬

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東大阪にある居酒屋「二歩」。生稲怜花は、母の怜子、育ての父である誠一と穏やかに暮らしていた。しかし、怜花には忘れられない過去がある――。11年前、生死の境を彷徨った母は、入院先の三品病院で新薬を処方され、一命を取り留めるも、容体が急変、失明してしまったのだ。ある日、「なにわ新報社」の矢島に接触し、母の失明の原因を示唆された怜花。閉ざした過去と対峙したとき、製薬会社を巻き込む驚愕の真実が明かされる!

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東大阪にある居酒屋「二歩」。生稲怜花は、母の怜子、育ての父である誠一と穏やかに暮らしていた。しかし、怜花には忘れられない過去がある――。11年前、生死の境を彷徨った母は、入院先の三品病院で新薬を処方され、一命を取り留めるも、容体が急変、失明してしまったのだ。ある日、「なにわ新報社」の矢島に接触し、母の失明の原因を示唆された怜花。閉ざした過去と対峙したとき、製薬会社を巻き込む驚愕の真実が明かされる!

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書店員のレビュー

 2017年5月26日に紙書籍と同時発売された『疑薬』(講談社)。「疑薬」は本作品を書き下ろしたミステリー作家・鏑木蓮による造語です。ブックカバーや本扉に「giyaku」とあり、読みは「ぎやく」というわけですが、辞書、事典には載っていない言葉だ。
 国語辞書や百科事典に載っているのは同音の言葉「偽薬・擬薬」で、これは文字通り〈にせ薬〉。英語ではプラセボと呼ばれ、新薬開発過程では新薬と形・色・味などが同じでありながら、薬理作用はまったくない乳糖やでんぷんで作ったニセの薬が新薬の効果を確かめるために欠かせないものとなっています。
 こちらの「偽薬」は本作にも出てきますが、「偽薬」ではなく、「疑薬」という造語をタイトルにすることによって、鏑木蓮は何を描こうとしたのか。

 2006年に『東京ダモイ』(講談社文庫、2015年10月9日配信)で江戸川乱歩賞を受賞して作家デビュー。大ヒットとなった『白砂』(双葉文庫、2014年4月18日配信)で社会派ミステリーの旗手の位置を確立した鏑木蓮が書き下ろしで挑んだ製薬業界、医療界の闇。著者は題辞(エピグラフ)として、次の言葉を置いています。

〈──将棋では即時に失格となる禁じ手、「二歩(にふ)」というものがある。初歩的なミスではあるがプロ棋士も犯すことがある。しかしその過ちに相手が気づかず、自らも沈黙を通して勝負に勝てば、勝敗は覆(くつがえ)らない。この沈黙に、私はたえられるだろうか──。〉

 プロ棋士も犯すことがあるという初歩的なミスであっても、その過ちに相手が気づかず、自らが沈黙を保てば勝利は我がものとなる・・・・・・このエピグラフに込められた意味とは? 何を暗示しているのか?

 日本でも有数の中小零細企業密集地帯である東大阪市にある居酒屋「二歩」を営む三人家族――生稲誠一(いくいな・せいいち)、怜子(れいこ)の夫婦と娘の怜花(れいか)が一方の主役です。10年前の師走、母の怜子が風邪をこじらせて入院。治験中の新薬を使い一旦は快方に向かったものの、急に全身のかゆみを訴えるようになった。医師の説明は「失明するかもしれない」という思いもよらぬものだった。音楽で身を立てようと青森から上京、関西まで流れてきたギター弾きの夫、守屋伸三(もりや・しんぞう)は医師の説明を聞くと、そのまま病院を出て戻ってくることはなかった。視力をほとんど失った母と小学生だった娘を「うちに来ないか」と誘ってくれたのが、義父の誠一だった。
 以来、視力を失いながらも二歩で出す焼き物と煮物以外のすべての料理をこなす一方、ビートルズなどの洋楽を奏でる母の三味線は店の目玉となり、ファンもついた。21歳になる怜花には、父親のパッケージ工場を継いだばかりの恋人がいる。その吉井玄(よしい・げん)が夜遅く店に来て、二歩の周辺をなにわ新報社の名刺を持つ男が聞き込みに歩いているという。怜花は翌日、北浜のなにわ新報社に名刺の男――矢島公一(やじま・こういち)を訪ねた。矢島記者は「お母さんの失明の原因を調べている」といって新聞記事のコピーを差し出した。2か月ほど前の昨年12月21日付、高齢者施設で発生したインフルエンザ集団感染と老人二人の死を伝える記事だった。

〈大阪の高齢者施設でインフル集団感染、八〇代男女二人死亡
 大阪市は二〇日、天王寺区鶴橋の有料老人ホーム「なごみ苑」で、入所者と職員計三八人がインフルエンザに感染、うち患者二人が死亡したと発表した。
 府保健予防課によると、男性が一八日に心不全で、女性が一九日に肺炎で死亡した。二人はインフルエンザに感染し、一〇、一一日に発症。同施設の顧問を務める三品病院、三品元彦院長によると、二人は持病を抱えており、感染が死亡と直接関係があるかどうかは不明としている。
 二人とも予防接種を受けていたことが確認されている。同施設では六~九日に、職員二〇人、入所者一八人がインフルエンザに感染。迅速検査では全員がB型陽性だった。〉

 記事にある三品元彦院長こそ、10年前に風邪をこじらせて入院、後に視力を失うことになった怜花の母の担当医師だったのだ。

〈・・・・・・三品医師の名を目にしたとたん、母の病状を告げられたときと同じ、冷たさと痛みを手足に感じた。
 一一歳だった怜花には、話の内容もそうだが三品の細い目と鼻の下にあったちょび髭(ひげ)も嫌な思い出だ。
 矢島がこれを手渡したのは、記事に三品医師の名が出てくるからにちがいない。だとすれば、母の失明の原因は三品医師にあったとでも言いたいのだろうか。
 あの日、三品医師が何を言ったのか思い出そうとしてみた。不思議なことに何も出てこない。たぶん母の命だけは助けてほしいという気持ちが強かったからだろう。全面的に三品医師に頼るしかなかった。それに、そのあとすぐに父がいなくなったこともあって記憶がバラバラになっていてちゃんとつながらない。母が退院してから嫌なことはみんな努めて忘れようとしていたことも手伝っているのかもしれない。
 そうだ、確か日記があった。そこには病院でのことを詳しく書いた覚えがある。〉

 さて冒頭に製薬・医学界の闇に挑むミステリーと書きましたが、もう一方の主役はヒイラギ薬品工業の社長代行、川渕良治(かわぶち・りょうじ)です。ヒイラギ薬品の前身は江戸時代に大阪で創業した薬種問屋。創業家の楠木悟(くすのき・さとる)社長がまだ10代だった頃に陣頭指揮した総合ビタミン剤「Vミン」の輸入販売で売上げを驚異的に伸ばして国内シェア第5位の製薬メーカーへと異例の発展を遂げた。川渕良治の母、照美は良治が高校生の時、楠木悟と離婚していた。そのため姓こそ違っているが、悟は良治の実父です。良治の大学進学の資金も出してくれ薬学の道に進む道筋もつけてくれた。前妻の子供を入社させたのはゆくゆくは継がせようと考えていたからでしょうが、良治が入社後、後妻の紗子(さやこ)に男児――良治にとっては楠木家を継ぐ異母弟――ができた。

〈一一年前──。
 川渕良治は司会者から呼ばれ、壇上へと向かう。登壇すると、会場のあちらこちらからカメラのシャッター音が聞こえた。〉

 大阪研究所主任研究員の良治が中心になって開発した抗インフルエンザウイルス薬、シキミリンβが新薬承認を得た功績によって35歳の良治が悟社長から表彰されるシーン――物語はここから始まります。
 新薬開発の成功率はわずか2万分の1といわれています。10年もの間、それこそ心血を注いできた新薬の承認を実現した良治に社員全員の目が注がれていた。しかし華やかな表彰式の陰で、思いもかけない事態が起きていた。
 副作用が限りなくゼロに近いことが最大の利点であるシキミリンβを治験投与された怜花の母が全身のかゆみを訴え、後に視力を失ったのです。10年がかりで市場に送り出したばかり、これからようやく投資資金の回収に入ろうという矢先の思わぬ事態に、楠木悟社長はある決断を下します。急成長する製薬メーカーにとっては“禁じ手”というべき、この決断を知るのは、悟社長と主任研究員だった良治の二人だけです。

 それから10年――2年前に社長の楠木悟が脳梗塞で倒れ、社長代行となっていた川渕良治に大阪の三品病院の院長から連絡が入った。シキミリンβ投与後失明した生稲怜子の担当医であり、昨年末に高齢者施設で発生した二人の老人の死亡を伝える新聞記事に施設の顧問として名前が載っていた三品院長だ。
〈シキミリンβのことで個人的に相談したい〉
 10年の時を隔てて突然届いた不気味な連絡。三品院長はいったい、何を狙っているのか? 闇に葬ったはずの失明事故を念頭に因縁をつけられていると感じとった川渕良治は三品院長の身辺調査を決意。学生時代からの友人で、薬品卸会社「薬研ホールディングス」の営業担当部長をしている海渡秀也を小石川後楽園に呼び出した。奥まった、人気のない築山にある古びたベンチに腰を下ろした二人の会話――。

〈「そもそもどんな人物か知りたい。もみ消すのにそれなりのリスクを払ってるのに、何のためにいまごろ蒸し返してきたのかが知りたいんだ。いまつまらんことで躓(つまず)きたくない、分かるだろう」
「まあな。会社の舵取り、厳しそうだからな」
「多角化より、やっぱり創薬だとおれは思ってる。時代に逆行しているようだが、それで乗り切れる力がうちの研究員にはある。研究畑にいたおれだからこそ、彼らの力量を知ってるし、信じてやれる。〉

 怜花の母が光を失ったのは新薬の副作用だったのか? 医療ミスだったのか?
 怜花だけでなく、病院、高齢者施設周辺を執拗に嗅ぎ回る雑誌記者。
 11歳の時の日記を手がかりに真相に迫る怜花。
 異母弟を押し立てて経営権を奪おうと画策する抵抗勢力に追い込まれた社長代行の川渕良治。
 意を決した良治が大阪に怜花を訪ねます。立場は異なるものの、ともに真相を知ろうという強い意志を持つ二人が出会って、事態が大きく動き始めます。

〈薬はもともと毒〉
 著者は繰り返し書いています。その毒を薬に変えるのが創薬だとすれば、製薬メーカーと医療の世界の正義と悪もまたシンプルに区分けできるものではないのかもしれません。「正義」が転じて「悪」となり、さらに転じて「正義」となる、その弁証法にも似る難しさ、転移していく狭間に何があるのかを見据えた社会派ミステリーの新たな傑作の誕生を率直に喜びたい。(2017/7/14)
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