ともにがんばりましょう

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グリコ森永事件の闇を描いた『罪の声』で大ブレイクの塩田武士が、新聞社を退職して書いた渾身の長編。舞台は新聞社の労働組合。「組合」ってなに? 状態の主人公・武井涼は執行委員を押しつけられ、上方新聞労働組合の「七人の侍」と出会った――。仕事とは何か? 誰のため、何のためにはたらくのか? すべてのはたらく人たちへ、勇気を届ける傑作長編!

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グリコ森永事件の闇を描いた『罪の声』で大ブレイクの塩田武士が、新聞社を退職して書いた渾身の長編。舞台は新聞社の労働組合。「組合」ってなに? 状態の主人公・武井涼は執行委員を押しつけられ、上方新聞労働組合の「七人の侍」と出会った――。仕事とは何か? 誰のため、何のためにはたらくのか? すべてのはたらく人たちへ、勇気を届ける傑作長編!

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 年代も趣も異なる二人のアーティストによる、流れるような美しい旋律とポップなサウンド。前者は前奏とエンディングに流れて心地よい余韻を残し、後者は物語の大事なアクセントとなって労使の息詰まるような交渉劇に人間味を加えます。
 4月11日発表の「本屋大賞2017」で第3位に入った『罪の声』(講談社、2016年8月26日配信)著者の塩田武士の最新リリース作品『ともにがんばりましょう』(講談社文庫、2017年3月15日紙書籍と同時配信)。寺内隆信(てらうち・たかのぶ)委員長から口説かれて労働組合の執行委員教宣部長を務めることになってしまった入社6年目の社会部記者・武井涼(たけい・りょう)の眼を通して、大阪の地方紙「上方(かみがた)新聞」の秋年末闘争――緊迫の労使交渉劇を克明に描いた仕事小説です。
 著者はプロローグの前に短い文章をおき、物語を始めます。一部を引用します。

〈瞼に光を感じた。
 時を置かずして広がってゆく白く霞んだ世界に、姿形はない。ぼやけてはいるものの、確かにまばゆいその輝きに包まれ、男は一日の始まりを悟った。自らの心音を聞き、呼吸していることに気付く。(中略)
 ただ、生きること。
 それが男にできる精いっぱいの恩返しだった。
 毎日、毎日、先の見えない道に立って息子の無事を祈る。ずっとそばにいることが、実はどれほどつらいことか。漫然と過ごす日常からは決して見えない「生き続ける」という現実が、この白い病室にはある。
 寝ている男の頭上で音楽が流れた。
 ピアノが憂いの旋律を奏でる。朝だからといってイキのいい曲をかけないところが、いかにも母らしいと男は思う。
 ヘンリー・マンシーニは、母が好きな作曲家だ。映画『ひまわり』のメインテーマは、病室の朝には不釣り合いかもしれない。だが、物心がついたころにはこの曲を口ずさんでいた彼にとって、その選曲は違和感のないものだった。(中略)
 感情を表現できることの尊さを彼はこの五年間で十分に学んでいた。
 夏がきた。月日が流れるのは早い。
 季節が移ろえば、またあの人たちがたずねてくる。〉

 白い病室で「生き続ける」男。その男には〈静かなピアノの余韻と重なり合い、風鈴の音が優しく香るように聞こえた〉と綴られるヘンリー・マンシーニの「ひまわり」――1970年公開の名画(マルチェロ・マストロヤンニ、ソフィア・ローレン主演)のテーマソングは、物語の終盤に再び、そして初めて白い病室を訪れた人たちの心に静かに響きます。

 もうひとつの音楽――第3章「会社回答」に「横山剣」の名が突然出てきます。横浜生まれのロッカー、横山剣。大きな声では言えませんが、私じつは彼の「クレージケンバンド」がけっこう好きな「カクレ横山剣」派で、横山剣を「ヨコハマ・ローカル」と信じこんでいて、そのためこのロッカーの登場を“突然”と感じてしまったのです。
 新聞記者でありながら、極度のあがり症の武井涼記者と労組専従の書記・新見遥(にいみ・はるか)の間に“化学変化”の兆しが初めて見えたシーン。第1次回答が出た夜、一人残って組合ニュースを作成していた武井の孤独な作業をねぎらう遥。二人の“触媒”となったのが“横山剣”――秋年末闘争は始まったばかり、まだ前哨戦だ。

〈……明日は秋年末交渉に向けて、各支部長の決意表明を載せる『俺の話を聞け』って企画です」
「それってクレイジーケンバンドの?」
「知ってます? 『タイガー&ドラゴン』のサビから取ったんです」
「私、iPodにクレイジーケンバンドのベストアルバムが入ってるんです!」
「僕もです!」
「イーネッ!」
 バンドのリーダー横山剣のまねをする遥を見て、武井は案外明るい人だと思った。〉

 28歳の武井涼がサビのフレーズを「組合ニュース」に使い、同じ年齢(とし)の遥が感度よく反応した横山剣「タイガー&ドラゴン」。ご存じない人もいると思いますので、地元密着の詞を紹介しておきます。

トンネル抜ければ 海が見えるから
そのまま ドン突きの三笠公園で
あの頃みたいに ダサいスカジャン着て
お前待ってるから 急いで来いよ

俺の話を聞け! 5分だけでもいい
貸した金の事など どうでもいいから

お前の愛した 横須賀の海の優しさに抱かれて
泣けばいいだろう ハッ!

俺の俺の俺の話を聞け! 2分だけもいい
お前だけに 本当の事を話すから

背中で睨み合う 虎と龍じゃないが
俺の中で俺と俺とが闘う
ドス黒く淀んだ 横須賀の海に浮かぶ
月みたいな電気海月よ ハッ!

 さて、上方新聞労働組合は秋年末交渉で、80万円の大台を守る805,437円の一時金と経営側が打ち出している深夜労働手当引き下げの阻止を最重点課題とし、その二つにハラスメント対策の拡充を加えた要求書を提出。
 それに対し経営側は、第一回団体交渉で〈一時金の回答額は七〇万二一三五円。昨年の秋年末から比べれば、八千円ちょっとのマイナスだが、今年の夏闘、つまり前期比だと五百円のプラス〉という、回答がマイナス、場合によっては70万円の大台を割ることも覚悟していた武井ら執行部を困惑させる、減益の中でのプラス回答を出してきた。しかし一方で深夜労働手当については、〈心身ともに負担が大きいC、D時間帯を手厚くします。逆にA時間帯は深夜労働手当の対象時間とは言い難く、制度の趣旨に合わないとの判断〉に至ったとして、深夜労働が常態化している新聞社とはいえ、時代が大きく変わった以上深夜労働手当を見直し削減をしていかなければ、会社の存続も危ういのだという姿勢を明確にし、労組側の譲歩を強く求めるのだ。
 団交一日目、二日目、三日目・・・・・・このままでいけば会社が潰れる、時代にあわなくなっていると主張する会社側と深夜手当は基本給の一部であり譲れない、大幅削減の根拠を示せという労組側の主張が平行線をたどり、膠着した。組合は職場集約を経て一時金と深夜手当改定を拒否することに決定。秋年末交渉から秋年末闘争へ突入します。

 午後8時50分。闘争本部メンバーが団交部屋に揃い、10分後に拒否を経営側に伝えます。9時ちょうどに専務の朝比奈蓮労担、総務局長・権田勝、編集局次長・塚田剣志郎ら経営側が部屋に入ってきます。緊迫の団交――。

〈「長い間、お待たせしました。諾否検討の結果をお伝えします。一時金、拒否」
 この瞬間、朝比奈の顔が大きく歪んだ。権田、塚本は示し合わせたように、顔を天井に向け目を閉じている。
「深夜労働手当、拒否。ハラスメント、諾。以下、理由を申し上げます」
「ちょっと待って」
 緊張した寺内の声を遮ったのは朝比奈だった。
「聞き間違いかもしれないからもう一度聞くけど、一時金と深夜労働手当は何だって?」「拒否です」
 朝比奈は椅子の背もたれにふんぞり返ったまま黙ってしまった。離れていても怒りのオーラが伝わってくる。武井はパソコンのキーの上で手を止めたまま動けなくなった。
「それぞれ、結果に至った経緯を述べます」
 寺内の声は落ち着きを取り戻していた。この状況で平静を保つことなど武井には考えられなかったが、組合を束ねる者として彼はふさわしい態度をとった。
「もういいよ」
 朝比奈が首を振りながら言った。〉

 このまま交渉は決裂してしまうのか――物語はここから思いもよらないクライマックスに向かって一気に加速していきます。
 駆け足で見てきましたが、著者の塩田武士は、神戸新聞記者時代に労働組合の執行部で活動した経験があるそうです。『罪の声』の広告に惹句を寄せた弁護士・角田龍平氏の文庫版解説(残念ながら電子版には未収録)によれば、主人公の武井涼は新聞記者時代の著者の化身(けしん)だという。その眼を通した「労働組合小説」だからこその、リアリティだろう。そして新聞の現在を問う妥協のないまなざし。ネットの時代に新聞の存在意義はどこにあるのか。嘘のニュースの波に溺れないためには、どうすればいいのか、なにをすればいいのか。
 地方紙労使の本気の交渉劇に潜ませた著者の問いかけには、メディアに関わるものとしての確固たる矜持(きょうじ)がうかがえるのです。
 著者の2作品『罪の声』『ともにがんばりましょう』だけでなく、揺れる新聞社のこれからを描いた秀作が昨年から今年にかけて相次いでリリースされ、いずれも高い評価を得るなど注目の書となっています。
 本城雅人『ミッドナイト・ジャーナル』(講談社、2016年2月24日配信、吉川英治文学新人賞受賞)。
 同『紙の城』(講談社、2016年12月23日配信)。
 堂場瞬一『社長室の冬』(集英社、2017年1月13日配信)。
 3人とも新聞記者の経験を持つ気鋭の作家です。この機会に読み比べてみてはいかがでしょうか。(2017/4/14)
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