書籍の詳細

噴出する都政の問題。五輪は無事開催できるのか。新都知事は何と戦うべきなのか。副知事、そして都知事として長年都政に携わった作家が、東京という都市の特質を改めて描きつつ、現在の問題の本質を浮き彫りにする。

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東京の敵のレビュー一覧

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  •  作家の仕事に専念していた猪瀬直樹元都知事が、あえて都政の問題を語った。
     徳洲会からの借入金5,000万円の問題で都知事を辞任したのが2013年12月、そして選挙収支報告書への記載漏れがあったとして略式起訴され、政治資金規正法違反で罰金50万円と一定期間の選挙権・被選挙権停止の略式命令を受けたのが、2014年3月のことでした。
     それから3年――2017年1月20日、猪瀬直樹著『東京の敵』(角川新書)が紙・電子同時に緊急出版された。折しも――都議会百条委員会で問題点がどこまで解明されるか、小池百合子都知事vs石原慎太郎元都知事の豊洲バトルに都民ばかりか、国民の関心が高まる中、〈(都知事を)辞任した僕が、今回、「東京の敵」をこうして発信することについて、いろいろ思う人は少なからずいるとは承知〉した上での覚悟の情報発信です。

     著者が「東京の敵」と名指しで断罪しているのは二人の人物――長く自民党東京都連幹事長を務め、「都議会のドン」と称されてきた内田茂都議と東京五輪組織委員会会長の森喜朗元首相です。現在、豊洲問題の矢面に立ち、都知事時代の公私混同問題が追及される石原慎太郎氏は、著者を副知事に起用し、さらに後継都知事に指名したという関係であり、著者も事情の一端を知りうる立場にあると思われますが、石原氏については後ほど触れます。

     二人の「東京の敵」――まず内田自民党都連前幹事長です。2月25日、内田氏は7月の都議会選挙に出馬せず、都議会議員を引退すると表明しました。そもそも内田氏という「都議会のドン」の存在を東京都の看過できない構造問題として追及の先頭に立ったのは著者――猪瀬元都知事でした。それまで世間的にはまったく無名というか、闇に隠れた実力者だった内田茂都連幹事長を、著者が「東京のガン」として批判の口火を切り、「反内田」の姿勢を明確にした小池百合子都知事の誕生、日刊ゲンダイ、週刊文春などの集中的な報道を経て、内田都連幹事長は表舞台に引き出され、「都議会のドン」として誰もが知る存在になっていったのですが、ただの都議会議員にすぎない人物がなぜ、ドンと呼ばれるまでの権力を持つに至ったのでしょうか。
     日経新聞(2月26日付朝刊)によれば、内田氏は議員引退表明の場でも「自民党のために自分のできる政治活動はしていく」と強調し、小池都知事に関しても「二元代表制の世界に飛び込んできたんだから、そのことをわきまえて知事をやってほしい」と釘をさしています。
     この二元代表制について、猪瀬元都知事は次のように書いて、「都議会のドン」の闇の権力が何によってもたらされているのかを解き明かしていきます。

    〈都知事には膨大な権力があり、何でもできるように思っている人もいるかもしれない。たしかに直接投票で選ばれ、そのぶんの民意を受けているのだが、都議会の承認なしでは、予算は通らないし、政策も実行できない。国政と都政は仕組みが異なっている。多数派の国会議員が与党として内閣総理大臣を選ぶのが国政。都政のほうは二元代表制と呼ばれる。知事も直接選ばれるので民意を代表しているが、都議会議員も直接選ばれるので同じく民意を代表している。首相のように知事には与党があらかじめ存在するわけではない。
     都議会を、自民党東京都連幹事長として10年以上にわたって仕切っているのが内田氏なのだ。そして都議会は、自民党が圧倒的多数であるため、内田氏が承認しなければ、さまざまな政策が通りにくい状況にある。この二元代表制の下で、都庁の役人たちは右顧左眄(うこさべん)せざるを得ないのだが、内田氏の意向を汲んだ形での都庁の政策立案が、表には見えないところで進行してはならない。
     政策を訴え選挙戦を勝ち抜いた、表で光の当たる場所に立つのがトップである知事だとすると、都庁や都議会の仕組みを知り尽くし、長年にわたって築いた人脈などを駆使して調整に乗り出すのが闇に隠れた裏のボスである。〉


     著者が「都議会のドン」と反目するようになったきっかけは、副知事時代の参議院議員宿舎建設の中止でした。2007年夏のことです。
     新しい参議院議員宿舎の建設予定地である紀尾井町(東京都千代田区)の一角に清水谷公園があります。参議院議員宿舎の建設予定地は、この公園の斜め東側の森で、樹齢100年、200年の樹木に覆われ、清水谷公園と見た目には境目がないような緑の一帯です。

    〈現地を視察してみると、現在の参議院議員宿舎は清水谷公園の南側、赤坂見附から弁慶(べんけい)橋を渡り、ホテルニューオータニ・ガーデンコートと旧グランドプリンスホテル赤坂の間を通り抜けると、右手にあります。敷地も充分にあるのですから現地建て替えもできるし、老朽化はしていますが竣工(しゅんこう)が1969年なので無理に建て替えなくてもよい感じなのです。この参議院議員清水谷宿舎の後背地に位置する森をつぶし樹木を伐採して、一部屋80平方メートルという衆議院議員宿舎と同じレベルの豪華宿舎を建設する必要はありません。都民目線でものを考えれば、きわめてわかりやすい話なのです。(中略)
     もともとの参議院議員清水谷宿舎の高さは20メートル、旧グランドプリンスホテル赤坂の清水谷公園側の赤坂プリンスレジデンスは21メートル、国家公務員宿舎の紀尾井町住宅も21メートル、と高さ制限されています。そこに56メートルの新宿舎を建てようとするのだから、一種の横車なのです。〉

     森をつぶして参議院議員宿舎を建てる必要がないことを石原都知事に了解してもらわないならないわけですが、猪瀬副知事から話を聞いた石原都知事は意外な反応を示したという。

    〈その話をしたら、石原知事は、ちょっと困ったな、という表情で一瞬、考え込んでいる。そのときに僕はめずらしいな、いつも東京を緑にしようと発言しているのに、なんで迷っているのだろうと思いました。僕は無知だったのです。そこが千代田(ちよだ)区で内田氏の本拠地であることに思いが至らなかったのです。石原さんとしては“都議会のドン”とは、対立と妥協を組み合わせながら議会対策をやってきたので、些細(ささい)なことでつけ込まれることのないよう気を配っていたのでしょう。〉

     石原都知事でさえ気配りを怠るわけにはいかない。「都議会のドン」の権力がいかにすごいものであったかを示すエピソードです。結局、猪瀬副知事とともに現場の森の前に立った石原都知事が即座に脳幹で反応して〈こんな緑地があるのを知らなかった。わたしはここをつぶすのは反対!〉と即決。建設は中止となり、緑は守られました。猪瀬副知事の作戦勝ちでしたが、以来内田都議の反目が始まります。

    〈この計画中止で内田氏の怒りを買います。宿舎建設計画中止でメンツが丸つぶれになった格好です。宿舎建設については自分の本拠地ですから業者などの調整で苦労したのかもしれません。内田氏からすると「猪瀬、この野郎」となるのは当然です。
     僕は、内田氏が権力を持っていることも、東京都の権力構造もよくわかっていませんでした。また当時の僕は、自分の立ち位置を、道路公団民営化委員のときと同じくスーパー官僚みたいなものだととらえていて、選挙に出るつもりもなかったし、どこにも遠慮する必要がありませんでした。〉

     二元代表制の下で権勢ふるってきた「都議会のドン」――第一の東京の敵と並ぶ第二の東京の敵として猪瀬元都知事が名指しで批判する森喜朗元首相。2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備段階における迷走――新国立競技場建設問題、エンブレム問題、会場問題などなど、五輪を巡る不祥事がなぜ噴出するのか。すべてはガバナンスに問題を抱え、放言を繰り返す森喜朗元首相に起因すると手厳しい。

    〈現在の都政の妨げになっているのは内田茂氏だけではありません。もう一人のドンは、現在2020年の東京オリンピック・パラリンピックを仕切っている、森喜朗・東京五輪組織委員会会長です。内田氏が、金メダル級のドンだとしたら、森氏はグランドチャンピオン級の大ボスであり、まさしく「東京の敵」です。
     新国立競技場の建設費の暴騰やエンブレムの問題など、なぜ五輪をめぐってこんなに不祥事が噴出し始めたのか。それは大会の実行委員会である東京五輪組織委員会のガバナンスに問題があるからです。組織委員会のトップである森氏がガバナンスを利かせていないがゆえに、意思決定ができない無責任体制ができあがってしまったのです。
     新国立競技場は、国際コンペで採用された建設プランが、二転三転の末、白紙撤回になった。その理由を文部科学省の第三者委員会は「意思決定がトップヘビー(上層部に偏り過ぎ)で、集団的意思決定システムの弊害があった」と結論付けています。つまり、「有識者会議」が決定権を持っていながら何もしないので現場は動きがとれなかったのです。その有識者会議の中心人物は森組織委員会会長でした。そして、現在も意思決定は不明瞭なままです。〉

     1937年(昭和12年)生まれの森喜朗元首相、今年80歳、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には83歳になります。高齢者が責任ある仕事をすることをすべて否定するつもりはありませんが、世界中のアスリートの祭典です。もっと若い力を抜擢する可能性はなかったのでしょうか。2000年、清和会出身議員としては22年ぶりで総理総裁に就任し、2001年に森氏が退任した後も、小泉純一郎、福田康夫、そして安倍晋三と清和会出身総理が続いたこともあって政治的影響力を残しているということなのでしょうか。
     いずれにしても、本書を読み進めていくと、森会長の下で組織委員会がまともに機能することはない、ありえないだろうことがいやでも分かってきます。
     では、どうすればいいのか。二人の「東京の敵」と対峙する小池百合子都知事による既得権益構造打破の成否にかかっている――というのが、著者の見たてです。

     私たちの眼前には、もうひとり石原慎太郎元都知事がいます。3月に予定される都議会百条委員会に証人喚問される予定と伝えられています。その場で議論される豊洲市場問題――感情論で終始することなく、著者が強調する「ファクト(事実)と「ロゴス(論理)」に基づいて事の真相が解明され、有害物質に対する不安があるのか、ないのか、何が重要で、何が重要でないかについて冷静な検証が行われることを期待したい。
     そして、豊洲問題とは別に、石原都政に対する疑惑として急浮上した「公私混同」問題。たとえば、週刊文春(2017年3月2日号)は〈石原慎太郎都政 謎の四男 延啓氏(50)に「親バカ血税」全調査〉と題する追及記事を掲載した。ダボス会議で行われた「東京ナイト」に1,748万円、若手芸術家育成事業「トーキョーワンダーサイト」(能オペラ)に2,400万円など、延啓氏が関わる事業に多額の税金がつぎ込まれてきたというのですが、事実なのか。同誌前号(2月23日号)の〈血税豪遊〉もあわせ、石原元都知事の公私混同、多額出費問題について、猪瀬元都知事は本書で具体的に触れていません。しかし、週刊文春に驚くべきコメントが紹介されています。
    〈「(延啓を重用したことについて)ただ働きしてもらった」と繰り返していましたが、実際には違った。知事が猪瀬直樹氏に代わると、TWS(引用者注:トーキョーワンダーサイト)の予算規模は縮小しますが、小池氏は知事選の演説で『石原さんから、“四男のイベントに予算を付けたが、猪瀬さんに減らされた。復活させて欲しい”と頼まれた』と暴露していました〉(都庁幹部)〉
     都知事になった猪瀬氏が石原慎太郎元都知事が四男のために付けた予算に大鉈をふるっていた――らしいのです。
     都知事としてやりかけていた〈既得権益の打破〉。任期途中の辞任で最後までできなかったと悔しさを滲(にじ)ませる猪瀬さん、次はぜひ、その経緯を明らかにしてもらえませんか。(2017/3/3)
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    投稿日:2017年03月03日