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トランプ大統領誕生で世界は、日本はどう変わるか? 米・中・露の覇権は? 世界経済は好転するか、保護主義で恐慌に突入か? 日本は自主防衛できるか? 戦争のリスクは増大するか? ──反グローバリズムの奔流と新しい世界秩序を最強論客が読み解く!

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トランプは世界をどう変えるか? 「デモクラシー」の逆襲のレビュー一覧

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  •  2017年1月20日(日本時間1月21日)、ドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に就任して、「アメリカの世紀」の終わりが始まりました。
     全世界に700箇所の軍事基地を展開する「世界帝国」としてアメリカは存在しており、そのことを前提にアメリカの政治は行われています。〈しかし、この「帝国」としての姿勢を捨てることを、トランプははっきりと主張している〉という西谷修氏(フランス思想)の指摘は重要です(雑誌『現代思想』2017vol45-1所載〈「アメリカの世紀」の終わり〉より)。
    〈第一次大戦後の100年間、世界はアメリカがあることを前提にして動いてきました。ある意味ではその存在に寄りかかってきたと言ってもいいでしょう。そうした意識が多くの人々に内在化されてきました。しかしながら、いまそうした意識に冷や水が浴びせられ、アメリカの世紀100年が終わりを迎えた〉
     西谷氏の明敏な時代認識は、もっと広く共有されていいのではないでしょうか。

     ドナルド・トランプがホワイトハウスに入るのにふさわしかったかどうかを考えてもしかたありません。少なくともこれからの4年間――「核のボタン」はトランプに委ねられ、世界経済が「アメリカ・ファースト」を前面に押し出したトランプ主義によって席巻されていく、そういう「新しい時代」が始まったのです。この変化を選択したのは、いうまでもありませんが、選挙権を持つアメリカ国民です。大方のメディアの予想を覆して「トランプ大統領」が選択された背後には何があったのでしょうか? 8年前に初のアフリカ系大統領オバマに熱狂し、4年前にもその継続を支持したアメリカの有権者が、その系譜に連なるヒラリーという、史上初の「女性大統領」ではなく、「不動産王」トランプという破格の存在に自らの「命運」を託したのは何故なのでしょうか?
     私たちは、2016年秋の「チェンジ」から何を読み取り、何に備えなければならないのでしょうか?

     ほとんどのメディア、多くの知識人がヒラリー・クリントン大統領の登場を予想(期待)していた選挙前の状況のなかで、「トランプ勝利」を予見して注目を集めたフランス人学者がいます。歴史人口学を専門とするフランスの代表的知識人で、1976年に出版した『最後の転落』(邦訳『最後の転落〔ソ連崩壊のシナリオ〕』藤原書店、2013年1月、未電子化)で1991年12月のソ連崩壊を予見したエマニュエル・トッド氏です。
     そのトッド氏と、ヒラリー・クリントンの私用メール問題を重く見て、情勢次第ではトランプ当選も十分ありうると指摘していた佐藤優氏の二人の論者がトランプ以後の世界を読む『トランプは世界をどう変えるか 「デモクラシー」の逆襲』(朝日新聞出版、2016年12月26日配信)を緊急出版しました。敵か味方か、好きか嫌いかで発言内容を判断し、事実かどうかを重視すべき基準とはまったく思っていないらしく、「フェイクニュース(偽情報)」さえ厭わない新大統領の登場で、大新聞やテレビ報道もトランプの一挙手一投足に振り回されています。いま進行している事態の表層の泡のような情報に惑わされることなく、真に見据えるべき「トランプ時代」のポイントを摘出した好著です。
     前掲の『最後の転落』で、乳児死亡率の異常な増加に着目して数年後に現実のものとなる「ソ連の崩壊」の予測を的中させたトッド氏は現代アメリカで始まっていたある変化に着目していました。『トランプは世界をどう変えるか 「デモクラシー」の逆襲』で、トッド氏はインタビューに応えてこう述べています。

    〈──米大統領選挙で、ドナルド・トランプ候補の当選を予見していましたね。
     いや、私は当選の可能性があると言っただけです。それは不可能だと言った人がたくさんいましたが。
     今、実際にそれが起きた。皆さんご存じのとおりです。私は歴史家として、何年も起きていることを追ってきました。起きたことを注視してきました。それからすると、今回起きたことは当然のことなのです。
     つまり、アメリカ人の生活水準がこの15年で下がりました。これは10月に東京で開かれた朝日新聞のシンポジウム、朝日地球会議での講演でも触れたことですが、米国の白人の一部で死亡率が上がったのです。45歳から54歳の人たちです。で、米国の有権者の中で、白人は4分の3を占めます。この人たちは、不平等や停滞をもたらしたのは自由貿易であり、それが世界中の働いている人間を競争の中に放り込んだ、と理解しています。自由貿易と、ある意味で移民によってだ、と理解しています。
     そして、自由貿易と移民の自由を問題にする候補が選ばれた。これは当然のことが起きたと言うほかありません。〉

     生活水準が下がり、余命が短くなるのを目の当たりにしているアメリカの白人が政治に変化を求めた。これはごく自然なことで、逆にその結果にみんなが驚いているということの方が奇妙なことなのだというのです。そしてこう続けます。

    〈みんなトランプ氏の勝利に取り乱していましたが、将来の歴史家は、このことについてまず「起きて当然のことが起きた」と書くでしょう。私も、トランプなる人物がまったくまともというわけでないことは認めますが。(中略)
     社会の上層階級の人たちは快適に生活していて、ものごとは正常に動いていると思いがち。高い報酬があり心地よく暮らしているとき、世の中のさまざまな不幸を考えるのはとても難しいものです。
     ここのところ、よく考えるようになったことのひとつは、世界を記述する上での「真実」とは何かということです。大統領選挙戦で両候補の間では、それぞれ個人のことについて多くのうそと侮辱の応酬がありました。しかし、候補者が社会の現状について語る場面では、真実を口にしていたのはトランプ氏の方です。
     彼は「米国はうまくいっていない」と言いました。それは真実です。米国の人たちの調子はよくありません。彼は「米国はもはや世界から尊敬されていない」とも言いました。「帝国はもはや存在しない」と公式に言ったわけではありませんが、彼は同盟国がもはや米国に追随しなくなっている事実をちゃんと見ています。
     直近の例はフィリピンですが、欧州でもEUをコントロールしているドイツが従わなくなっていることは知られています。トルコももうついてきません。サウジアラビアは米国の言うことをきかないどころではありません。なにしろ9・11米国同時多発テロの実行犯の大半がその支配一族とつながりがある者たちだったくらいです。つまり、そこでもトランプ氏は真実を語ったのです。〉

     民主主義が選んだのはトランプだった。クリントンではなかった。つまり、民主主義の国とは、国民を経済面で保護する国でなければならないというわけです。自由貿易を世界に押しつけてきた国で、自由貿易に異議を申し立てるトランプ政権の時代が始まったのです。これは思想的にきわめて大きなことだということが、明らかになっていくだろう――トッド氏はそう主張して、起きたことの重要性について考察を始めなければならないと説きます。
     そしてインテリジェンス分析の専門家、佐藤優氏もトッド氏とは別の切り口ながらトランプ現象がなにか異常なものに見えてしまうのは、アメリカ社会で起きている構造転換を理解していないからだと、同書で次のように語っています。神学者でありながら、政治や社会問題に対して積極的な言論活動を行い、モンロー主義(孤立主義)からの転換をアメリカに促したラインホールド・ニーバーの『光の子と闇の子 デモクラシーの批判と擁護』(聖学院大学出版会、武田清子訳、1994年3月、未電子化)を手がかりに展開される佐藤優流分析は、トランプ現象の実像を見事に浮かび上がらせました。

    〈冷戦期、アメリカにとっての最も巨大な「闇の子」はソ連であり、目に見えやすいところでは、朝鮮戦争、ベトナム戦争への介入は「闇の子」との戦いだと言えるでしょう。リビアのカダフィ大佐もキューバのカストロ議長もアメリカにとっては「闇の子」でした。冷戦崩壊後も、あるときはサダム・フセインが「闇の子」になり、あるときはアルカイダ、また別のときにはシリアのアサド大統領、あるいは「イスラム国」が「闇の子」だったのです。
     アメリカの「光の子」と「闇の子」という二元論は、戦後一貫して変わることなく、介入主義の精神的底流をなしてきたのでした。〉
    〈戦後70年にわたって貫いてきたアメリカの介入主義を、トランプは──大統領選期間中の演説を額面通りに受け取るならば──「米国は世界の軍隊や警察官をする余裕はない」と、切って捨てようとしています。
     ニーバーの考え方が血肉化している人々にとっては、トランプが「光の子」と「闇の子」の二元論からの脱却を主張しているように聞こえることでしょう。トランプが自覚しているかどうかは別として、アメリカが世界の警察官をやめるというメッセージからは、1941年12月7日(現地時間)より前のアメリカの精神風景が見えてきます。〉
    〈トランプ現象とは、1941年12月7日(現地時間)を境に、今に至るまで、「光の子」として国際社会で振る舞ってきたアメリカの、国家として、あるいは社会としての「疲れ」──その「疲れ」が限界に達して生じたものと見るほうが妥当だと思います。
     これが、私の考えるトランプ当選の歴史的意味であり、アメリカの今後を見ていく上で、第一の見極めのポイントになります。〉

     1941年12月7日(日本時間12月8日)以前のアメリカに戻す。つまり日本によってハワイ真珠湾が奇襲される前のアメリカです。真珠湾が攻撃されたことを契機に、アメリカは第2次世界大戦に参戦しました。それまでのアメリカは、ナチス・ドイツの侵略にさらされているヨーロッパでの戦争に対して、傍観者の立場にありました。
     真珠湾奇襲の報に接した英国首相チャーチルは「これでナチス・ドイツに勝った」と語りました。アメリカがモンロー主義から転換したことが世界に与えたインパクトはそれほど大きかったわけですが、それから76年たったいま、トランプ新大統領によって歴史の歯車が回されようとしています。
     1月20日にスタートしたトランプ新政権の底流には真珠湾奇襲前の精神風景への回帰願望が横たわっているようです。安倍首相が退任を控えたオバマ大統領とともに真珠湾を慰霊訪問したのはつい23日前のことです。歴史のアイロニー(皮肉)を感じます。
    「アメリカの世紀」の終わりが始まった、その時に緊急出版された『トランプは世界をどう変えるか?』――私たちがこれから歩む新しい歴史を読む一冊だ。(2017/1/20)
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    投稿日:2017年01月20日