書籍の詳細

昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。山あり谷あり涙あり。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編!

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  • 昭和から平成にかけての塾業界・教育界の変遷と、三世代にわたってこの業界に深く関わってきた家族の奮闘が描かれた物語です。すごく面白かったです。各時代背景がリアルに描かれているので、どの世代の人が読んでも楽しめると思います。登場人物のキャラが立っているのもいいですね。

    子どもの能力を引き出す天才的な能力がありながら女性にだらしない、大島吾郎。自らが考える理想の教育のためには手段を選ばず猪突猛進する、大島千明。「千葉進塾」を創設したこの夫婦が主役です。三人いる娘達も個性的。長女の蕗子は、聡明で周囲に気を遣う人で、血のつながりのない吾郎を慕い、千明と対立します。次女の蘭は、手がつけられないほど我が強く、千明以上に冷徹に目的達成に向かいます。三女の菜々美は、快活で人懐こく、マイペースに育っていきます。そして、最終章の主役、蕗子の息子・一郎のキャラもいい。周囲をイラつかせるおっとりした性格だが、心に秘めた強い気持ちを持っています。

    また、「教育」というテーマにがっぷり正面から取り組んだことも、すごいと思います。これほど様々な考え方が存在し、歴史があり、誰もが「当事者」を経験してきたテーマはないでしょう。学校だけでなく、家庭、会社など、社会のさまざまな場所で、教育が行われています。

    「秩序」が存在するところ、必ず教育というものが存在します。なぜなら、教育は「支配」というものと密接な関係があるからです。言ってしまえば、教育とは、人々をコントロールして、支配者の目的を叶えるための手段でもあります。日本の公教育でいえば、大日本帝国憲法下の時代、GHQ支配下の時代、サンフランシスコ講和条約後、政権交代後など、支配者が変わるたびに教育方針が大きく変更されてきました。私たちは教育というものを通じて、支配者の都合に振り回されてきました。

    こうした状況に反発して、千明は「理想の教育」を求めて奮闘します。ところが、そんな千明も、「支配」というものから抜け出すことができません。「お母さん、前はよく言ってたじゃん。人の言うことに惑わされないで、自分の頭でものを考えろって。だから、あたし考えたの。そしたら、考えれば考えるほど、高校に行く意味がわかんなくなっちゃって」。高校受験前に勉強しない娘の菜々美を叱った(コントロールしようとした)ところ、こう反論された千明は、ぐうの音も出ませんでした。

    それでは、千明の奮闘は無意味だったのでしょうか。そんなことはありません。この小説には、教育という普遍的なテーマのもと、教育をする側の人、教育を受ける側の人など、様々な立場の人々、そして時代における実存のドラマが描かれています。最終章で描かれた一郎の取り組みは、現代における「理想の教育」の、一つの結論でしょう。ものすごく共感できるのですが、吾郎や千明、蕗子、蘭、菜々美たちの葛藤と試行錯誤が克明に描かれてきたからこそ、より感動的なものになったのだと思います。時が経っても読み継がれていってほしい名作です。
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    投稿日:2017年02月24日