明治四十三年の転轍 大逆と殉死のあいだ

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石川啄木は明治43年を「時代閉塞の現状」ととらえた。明治国家体制がほぼ構築されたとき、幸徳秋水ら12人が大逆罪で処刑された衝撃は大きかった。本書は、乃木希典とその殉死を軸に、出来事の関連と群像を重ねて“明治の深層”を描いた労作。

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石川啄木は明治43年を「時代閉塞の現状」ととらえた。明治国家体制がほぼ構築されたとき、幸徳秋水ら12人が大逆罪で処刑された衝撃は大きかった。本書は、乃木希典とその殉死を軸に、出来事の関連と群像を重ねて“明治の深層”を描いた労作。

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書店員のレビュー

書店店頭に司馬遼太郎「坂の上の雲」をフィーチャーした雑誌やムックが並んで、「明治時代」がちょっとしたブームとなっています。いうまでもなくNHKの大作ドラマ「坂の上の雲」第2部放映がきっかけとなってのことですが、国家の建設という目標=夢の実現に向かって、坂の上の雲を見上げながら一歩一歩登っていくかのような登場人物たちの魅力もさることながら、日本人が今日よりは明日、明日よりは明後日が必ずよくなるという確信をもって生きていた時代への憧憬が「明治ブーム」の底にはあるような気がします。その到達点の一つである日露戦争の勝利(1905年=明治38年)から5年たった明治43年(1910年)が日本の歴史的な転回点だったとして、その意味を追跡したのが本書『明治四十三年の転轍(てんてつ)』(河田宏著)です。作家・森鴎外は『坂の上の雲』の秋山兄弟、正岡子規らと同時代を生きた軍医でもあるのですが、著者は鴎外の作品をひいて、次のように述べています。〈森鴎外が明治四十三年六月に書いた『普請中』という十枚ほどの掌編がある。ドイツからウラジオストックを経由して日本に渡って来た別れた女と、普請中のレストランで再会する話である。かつて愛し合い、いまはそれぞれの生活をしている男女の心の機微がこころにくいまでに、さらっと描かれている。とりとめのない会話のなかで、彼女がこれからアメリカへ行くというと、「それは好い。ロシアの次はアメリカが好かろう。日本はまだそんなに進んでいないからなあ。日本はまだ普請中だ」という表現がある。(中略)これは明治四十三年ごろの日本に対する鴎外の実感だったのであろう。彼は体制側の人である。優れた文学者ではあるが、山県(有朋)のブレーンであり、軍事国家建設の一翼を担っていた〉日露戦争に勝利したものの、その膨大な戦費の償還に追われた結果、経済的沈滞は極限に達して農村が疲弊、国民生活は困窮しました。そうした社会状況を著者は「大逆と殉死のあいだ」という副題で表しています。「大逆」は幸徳秋水的なものを、「殉死」は乃木希典的なものを代表しています。司馬遼太郎とはまた違った目で「明治という社会」をとらえた名著です。(2010/11/26)
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