スクープ(スクープシリーズ)

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TBNテレビ報道局社会部の布施京一は、看板番組『ニュース・イレブン』所属の遊軍記者。素行に問題はあるものの、独自の取材で数々のスクープをものにしている。時には生命の危機にもさらされるが、頼りになるのは取材ソースのひとりでもある警視庁捜査一課の黒田裕介刑事の存在だ。きらびやかな都会の夜、その闇に蠢く欲望と策謀を抉り出す。

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TBNテレビ報道局社会部の布施京一は、看板番組『ニュース・イレブン』所属の遊軍記者。素行に問題はあるものの、独自の取材で数々のスクープをものにしている。時には生命の危機にもさらされるが、頼りになるのは取材ソースのひとりでもある警視庁捜査一課の黒田裕介刑事の存在だ。きらびやかな都会の夜、その闇に蠢く欲望と策謀を抉り出す。

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書籍の詳細
  • 書籍名: スクープ(スクープシリーズ)
  • 著者名: 今野 敏
  • eBookJapan発売日: 2013年03月15日
  • 出版社: 集英社/文芸
  • 連載誌・レーベル: 集英社文庫
  • 電子書籍のタイプ: リフロー型
  • ファイルサイズ: 831.5KB
  • 関連ジャンル: 小説・文芸集英社文庫
  • 対応デバイス: WindowsMaciPhoneiPadAndroidブラウザ楽読み

書店員のレビュー

 型破りのテレビ局事件記者と警視庁敏腕刑事の“異色コンビ”を軸に据えた、今野敏の新シリーズ「スクープ」の第3弾『クローズアップ』が先頃文庫化(集英社文庫)されたのを機会に、再読しました。

 東都放送ネットワーク(TBN)の夜のニュース番組「ニュースイレブン」のスクープ記者・布施京一。社会部遊軍記者ですが、「ニュースイレブン」鳩村(昭夫)デスク班専属記者として働いています。物語は、その布施記者がある事件現場の映像をケータイで撮ったことから始まります。

 午前5時頃、東京赤坂にある檜町公園で男性の遺体が発見された。刃物で刺されたための失血死。被害者は、「極道世界の業界誌」と言われる週刊誌『週刊リアル』などで記事を書いていた43歳のライター。
そして布施記者が、朝方、殺人事件の現場検証が始まる模様を撮っていた。担当デスクの鳩村は、その映像に大きな関心を抱きます。

〈いつもは、午後六時の会議にやってくるかどうかもわからないのに、今日は午前中から局に来ている。珍しいこともあるものだと思いながら、鳩村は布施に近づいた。
「おまえがこんなに早く出社しているなんて、どういう風の吹き回しだ?」
 布施は、椅子に座ったまま言った。
「赤坂の現場に行ってたんですよ」
「おまえがか……」
「俺だって、記者ですからね」
「映像があるのか?」
「カメラ持っていなかったので、ケータイで映像を押さえましたが……」
「カメラを持っていなかった? 取材に行くのにカメラを忘れたということか?」
「……というか、六本木で飲んでいて、そろそろ帰ろうかと思っていたら、サイレンが聞こえたので行ってみたんです」
「六本木で飲んでいた? 遺体が発見されたのは、朝方の五時頃だと聞いたぞ」
「ミッドタウンの近くのバーで飲んでいたんです」
「朝方まで飲んでいたということか?」
「そうですよ」
 それが当たり前のことのように、あっさりと言ってのけた。〉

 報道の仕事一筋に生きてきた鳩村は、真夜中の酒場など無縁の生活を送ってきた。自分はすこし固すぎるという思いはあるが、それにしても布施は明らかに常軌を逸していると鳩村には思え、定例ミーティングの欠席もしょっちゅうという布施の勤務態度も問題があると思っていた。

〈「……で、その映像はどうした?」
「サーバーに入れてありますよ。でも、ケータイの動画ですからね。画素数もビットレートも悪い。定時のニュースでは使えないと言われました」
どんなに、画像がよくなくても、価値ある映像の可能性はある。定時のニュースでは使えなくても、『ニュースイレブン』のようなニュースショーならば、キャスターのコメント次第で、使いようはある。
 近くで飲んでいて、現場に駆けつけたのだから、他局よりも早い段階の映像が撮れているということだ。
「映像を見て、使うかどうか決める。それで、現場の様子はどうだった?」
 布施は、またあくびをした。
「どうって、ただの殺人の現場ですよ」
「ただの殺人現場だって? 記者が言う台詞(せりふ)じゃないな。何か気づいたことはないのか?」
「所轄と機動捜査隊が来て、すぐにブルーシートを張り巡らせたんで、様子はわかりませんよ。ただ、血がたくさん出ていたのは見ました。地面にも血だまりができていましたから、遺体の発見場所が殺人の現場と見ていいんじゃないかと思います」〉

 画面は暗く、ノイズが出ている。ケータイで撮った動画なのだから、仕方がない。 しかし、映っている内容は、よかった。制服の警察官が、ブルーシートを広げているところが映っている。出動服姿の鑑識係員の姿も見える。しきりにストロボが瞬くのは、鑑識が証拠品を写真に収めているのだろう。周辺で歩き回っている男たちは、私服の捜査員に違いない。所轄の刑事と機動捜査隊と思われた。時間的に、まだ警視庁本部の捜査員は臨場していないはずだ。殺人事件の現場の緊張感が映像から伝わってくるようだった――鳩村は、その夜の「ニュースイレブン」の項目表に、たまたま近くのバーで飲んでいた布施が撮った「初動捜査の映像」を書き入れ、約1分のケータイ動画を30秒の映像にまとめた。

 もう一人、週刊誌記者の遺体発見のニュースに強い関心を抱いた男がいました。警視庁捜査一課特命捜査対策室の敏腕刑事・黒田裕介です。死刑に当たる罪の公訴時効が廃止されたので、かつては25年で迷宮入りになっていた殺人事件なども継続的に捜査するようになった。そのために新設されたのが特命捜査対策室で、重要未解決事件を担当するための部署です。
 その日、黒田は登庁するなり、朝の挨拶もせずに部下の谷口に「檜町公園の件」を切り出しました。

〈「殺人犯捜査係は、臨場したんだろう?」
「そうだと思います。殺人事件と報道されましたからね」
「確かめてないのか?」
「担当している事案じゃないですから……」
 黒田は、顔をしかめた。
「どんな事案が、俺たちの仕事に関連してくるかわからないんだ。誰かを捕まえて話を聞いておけ」
「誰かを捕まえてって言っても、担当の係は、臨場してから、そのまま所轄署に詰めるでしょう。すぐに被疑者の身柄が確保されなければ、捜査本部もできるでしょうし……」
「だったら、所轄に行ってこい」
 谷口は驚いた。
 特命捜査対策室に異動になり、黒田と組んでから、いくつもの殺人事件が起きている。だが、こんなことを言われたのは初めてだった。
「そこまでする必要がありますか?」
「必要があるから言ってるんだ」
 単なる気紛れじゃないのか……。谷口は、心の中でつぶやいた。
「わかりました。赤坂署ですね……」
 出かける準備を始めた。
 まだ執務開始時間にもなっていない。外は、十一月とは思えない冷え込みだ。
 黒田が、ぽつりと言った。
「なぜか、気になるんだ・・・・・・」
「え・・・・・・?」
 谷口は思わず聞き返していた。「何です?」
「この殺しがさ・・・・・・。なぜか、テレビのニュースで見たときから、ずっと気になっているんだ」
「担当している事案のどれかと、関係があるということですか?」
「そんなことは言っていない。ただ、気になるんだよ」〉

 その夜、「ニュースイレブン」が報じた檜町公園の現場検証映像を見た黒田は、谷口を誘って、平河町にある「かめ吉」という居酒屋へ向かいます。警視庁から歩いて15分ほどで行けて、ツケも利くというので、警察官の利用が多い。そして刑事のいるところには必ず記者の姿があります。カウンター席に一人でいる布施の姿にちらりと目をやった黒田は、奥のテーブル席に陣取りました。
 黒田の脳裡には、担当している案件――関東の暴力団・茂里下組の茂里下常蔵組長の殺害を試みたヒットマン・木田昇が殺された事件――がありました。木田は茂里下組と対立関係にある関西の組織の三次団体の構成員で、殺害に失敗して逮捕され、服役。刑期を終えて出所してすぐに、何者かによって殺害された。茂里下組の犯行と思われたが、実行犯の特定ができないまま、現在も捜査中だった。その事件について、殺された週刊誌記者が記事を書いていた。
 事件記者と刑事という異なる立場ながら、お互いをどこか認め合う関係の二人の男――布施が、テーブルにやってきて腰を下ろしたとき、黒田は「(今日のスクープ映像は)何かつかんで、内偵していたんじゃないのか?」と言い、驚いた布施が「何を内偵するっていうんです。ほんとうに偶然ですよ。ミッドタウンの近くのバーで飲んでいたんです。そうしたら、サイレンが聞こえてきて・・・・・・」と、あっけらかんとした顔で返す。 
 何気ない会話を交わしながら、互いの胸の内を探り合う黒田と布施。その二人の脇に見知らぬ男が立っていた。ツイードのジャケットに、ジーパン。ぎょろりとした挑戦的な眼が印象的。

〈「失礼、布施さんだね?」
 布施はまったく緊張した様子もなくこたえた。
「そうだけど?」
「『ニュースイレブン』で流れた、犯行現場の映像、あんたが撮ったって聞いたんだけど・・・・・・」(中略)
「犯行現場の映像って、檜町公園の件?」〉

 檜町公園の件について話を聞きたいという。
〈「話を聞きたいんだよ」
「ええと・・・・・・俺、あんたのこと、知らないんだけど・・・・・・」
「藍本祐一(あいもと・ゆういち)っていうんだ。藍色の藍に日本の本。しめすへんに右数字の一・・・・・・。『週刊リアル』なんかで、ライターをやっている」
「へえ、『週刊リアル』・・・・・・?」
「そう。殺された片山さんは、自分の先輩だ」〉

『かめ吉』を出ていく二人の後ろ姿をじっと見つめていた黒田が、かたわらの谷口に言います。
〈「藍本祐一か・・・・・・。ちょっと、洗ってみろ」
「は・・・・・・?」
「何か知っているかもしれない。必要があれば、マークしろ」
 黒田が本気になった。それが伝わってきた。谷口も、そのときになって初めて、生々しい事件の肌触りを感じた。〉

 折しも、二つの殺人事件に深く関わっていると見られる茂里下組組長と将来の総理と目されている代議士・檀秀人の“ツーショット写真”が明るみに出て、社会問題化しました。女性ジャーナリストとの不倫の噂、原発をめぐる舌禍事件、それに暴力団組長とのツーショット写真・・・・・・檀秀人のスキャンダルが続出します。しかし布施は何者かが仕掛けた檀秀人に対するネガティブキャンペーンと見て、独自の取材を続けていきます。一方黒田は、殺されたライター片山の後輩ライターと自身を説明する藍本祐一の登場で本気スイッチが入ります。
 それぞれの立場から二つの殺人事件の解明に向かう“異色コンビ”――組織に埋没することを嫌う型破りの報道記者と一徹な敏腕刑事の前にたちはだかる謎とは? 二つの殺人事件と噴出する檀秀人スキャンダルとの関連性は? 二人は、二つの殺人を繋ぐ、黒い聖域に踏み込んでいきます。
 二人の主役〈記者と刑事〉の魅力溢れる人物造形と予想を超えて深まる事件の奥行き。警察小説の旗手・今野敏の新境地というべき、新たな傑作の誕生です。(2015/9/11)
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