陸王 第一章試し読み

【本書は、2016年7月8日配信開始の『陸王』第一章が読める、無料試し読み小冊子です】勝利を、信じろ――。足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。埼玉県行田市にある「こはぜ屋」は、百年の歴史を有する老舗足袋業者だ。といっても、その実態は従業員二十名の零細企業で、業績はジリ貧。社長の宮沢は、銀行から融資を引き出すのにも苦労する日々を送っていた。そんなある日、宮沢はふとしたことから新たな事業計画を思いつく。長年培ってきた足袋業者のノウハウを生かしたランニングシューズを開発してはどうか。社内にプロジェクトチームを立ち上げ、開発に着手する宮沢。しかし、その前には様々な障壁が立ちはだかる。資金難、素材探し、困難を極めるソール(靴底)開発、大手シューズメーカーの妨害――。チームワーク、ものづくりへの情熱、そして仲間との熱い結びつきで難局に立ち向かっていく零細企業・こはぜ屋。はたして、彼らに未来はあるのか?

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【本書は、2016年7月8日配信開始の『陸王』第一章が読める、無料試し読み小冊子です】勝利を、信じろ――。足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。埼玉県行田市にある「こはぜ屋」は、百年の歴史を有する老舗足袋業者だ。といっても、その実態は従業員二十名の零細企業で、業績はジリ貧。社長の宮沢は、銀行から融資を引き出すのにも苦労する日々を送っていた。そんなある日、宮沢はふとしたことから新たな事業計画を思いつく。長年培ってきた足袋業者のノウハウを生かしたランニングシューズを開発してはどうか。社内にプロジェクトチームを立ち上げ、開発に着手する宮沢。しかし、その前には様々な障壁が立ちはだかる。資金難、素材探し、困難を極めるソール(靴底)開発、大手シューズメーカーの妨害――。チームワーク、ものづくりへの情熱、そして仲間との熱い結びつきで難局に立ち向かっていく零細企業・こはぜ屋。はたして、彼らに未来はあるのか?

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書店員のレビュー

 リオ・オリンピック競泳女子200メートル平泳ぎで金メダルに輝いた金藤理絵選手と彼女が失意の底にあったときから変わることなく支えてきた東京・両国にある水着メーカー、フットマーク社との交流を、日本のメディアは「〝下町ロケット〟飛んだ」(デイリースポーツ)、「金藤の金 下町印」(朝日新聞)、「金藤 下町と金の絆」(日経新聞)と伝えました。
 終戦の翌年(1946年)創業、従業員61名の中小企業が一人の水泳選手と契約してサポートを続け、日本代表選手の中でただ一人同社の競泳用水着を着用して決勝のレースに臨んだ選手は先頭でゴールした。戦後おむつカバー造りから出発した下町企業が新しい事業分野に打って出るという自らの夢を重ね合わせて実現した金藤選手の夢。金メダル獲得の陰にあった選手と下町企業の心温まる物語にメディアと同様、池井戸潤の直木賞作品『下町ロケット』(小学館、2015年8月14日配信)を思い起こした人は少なくないと思います。陽のあたることの少ない下町の人たちが描いた夢が叶う物語というところが共感を呼ぶのですが、それ以上に金藤選手と下町企業の金メダルまでの歩みとピッタリ重なり合う小説として、ぜひ今お読みいただきたいのは同じ池井戸潤の最新作『陸王』(集英社、2016年7月8日配信)です。
 競泳に対し、マラソンを目指す長距離ランナー、おむつカバーから出発した下町企業に対し、世界的企業がひしめくランニングシューズの開発に企業サバイバルを賭ける足袋造り百年の老舗企業「こはぜ屋」。財務内容が必ずしも良くない衰退業種の零細企業の新たな挑戦に非協力的な地元のメインバンク、立ちはだかるシューズ大手の世界企業……逆境から夢を追い求める人間の成長していく姿を感動的に描く池井戸ワールド。
 物語は、老舗足袋業者の不渡り倒産シーンから始まります。池井戸潤のスピード感ある文体が緊迫感を生み出していく。

〈窓から差しこむ太陽光線に、音もなく埃(ほこり)が舞っているのが見える。床は板張りで、窓に顔を近づけると油の匂いがかすかに鼻孔をついた。目が慣れると、薄暗い工場内に並んだ黒光りしたボディの輪郭が浮かび上がってくる。ドイツ式八方つま縫いミシンだ。(中略)
 百年以上前のドイツで、もともと靴を縫うために開発されたミシンだ。やがて日本に渡って改良を重ねられ、当時国内に数多(あまた)あった足袋製造業者で足袋を縫うためのミシンとして生まれ変わり、いまなお使われている生きた化石。ドイツの製造元はとっくに倒産しているため、部品が壊れると国内に現存する同型ミシンの部品を転用するしか手がない。
「あるにはあるが、来るかな」
 腕時計は十時四十五分を指していた。約束の時間は午前十一時だ。
 壁の高いところに、菱屋足袋という、おそらく昭和初期のものだろう、さびの浮いた琺瑯(ほうろう)看板が留めてある。
 菱屋といえば、業界では知らぬもののない老舗(しにせ)足袋業者だが、五日ほど前に一回目の不渡りを出したと業界仲間から連絡があった。足袋業者は少ないから、近県ともなれば社長同士も顔見知りだ。すぐさま社長の菊池(きくち)の携帯に連絡を入れたがつながらず、ようやく捕まえてミシンを売ってくれという交渉をしたのは、三日前の午後十時過ぎのことである。〉

 生産設備の補充部品を確保するために、不渡り倒産に直面した同業者の工場にミシンを引き取りに来たのは、本書『陸王』の主人公、埼玉県行田にある「こはぜ屋」の4代目社長・宮沢紘一と安田利允係長。
 かつては日本で生産される足袋の8割ほどを生産し、「足袋の町」といわれた行田で第1次世界大戦前夜の1913年創業以来、綿々と足袋製造を生業(なりわい)として続いてきた老舗です。といっても、和装に代わり洋装が主流になって久しい世の中で、足袋の需要はとっくに底を這(は)い、長く収益の柱だった地下(じか)足袋も、安全靴に取って代わられ、売り上げは減少傾向が止まらない。
 正社員とパート合わせて27名の小所帯。従業員の平均年齢は57歳。最高齢は75歳。ミシンも古いが社員も古い。
 そんなこはぜ屋がランニングシューズの開発に取り組むことになったのは、社長の宮沢が高校生の娘にスニーカーを頼まれてデパートの運動靴コーナーに立ち寄ったのがきっかけでした。そこで、宮沢の目にとまったのが、奇妙な形をしたシューズ「ファイブフィンガーズ」。文字どおり五本指がそのまま靴になったような形で、地面を掴んで走る感覚が出やすく、人気商品になっているという。こはぜ屋の主力商品である地下足袋に似ていなくもない。

〈地下足袋のようなシューズが人気なら、逆に地下足袋をランニング用に改良したってウケるかもしれない。地下足袋だったら誰にも負けない自信があった。
「ウチにもできないか、そういう商品……」
 突拍子もない考えだろうか。たしかに突拍子もないかもしれないが、検討してみる価値はある。新たな顧客を開拓できるかもしれない。
 さっき見たシューズ売り場に、こはぜ屋の地下足袋が並んでいる様子を想像してみた。口元が緩んでいく。
 伝統を守るのと、伝統にとらわれるのとは違う。
 その殻を破るとすれば、いまがそのときではないか。〉

 こはぜ屋には、100年にわたって培ってきた足袋製造の技術があります。そして、その技術を「裸足感覚」を追求したランニングシューズに生かそうという熱い気持ちをもつ従業員がいます。
 しかし、あるのはそれだけです。宮沢は、新規事業の必要性を説く地銀担当者の紹介でシューズやウエアのショップを経営するランニングインストラクターを横浜に訪ね、人間本来の走り方――ミッドフット着地というランニング理論に出会います。いま主流となっている踵を厚くしたシューズの場合、ヒール着地になっていき、それが故障の原因になっていることが分かってきたという。靴底(ソール)の平らな靴を履けば、人間の走りは自然にヒール着地からミッドフット着地に変わっていく。地下足袋も底は薄くて平らだから、それでもいいのだというのだ。

 現在のランニングシューズが見失っている人間本来の走り方を追求するところに活路がある。勇気づけられた宮沢は社内外の主だったメンバーを集め、開発チームを立ち上げます。先代社長――宮沢の父がかつて取り組んだというマラソン足袋「陸王(りくおう)」を現代に蘇らせたい。宮沢は新規開発するランニングシューズの名称をそのまま「陸王」とすると決めた――。

 巻頭に「足袋」、「地下足袋」、「ランニングシューズ」のイラストのページがあります。一口に同じフットウエアといっても、この三者、似ているようでいて共通しているものはほとんどありません。
 地下足袋はゴム底だが、決定的に重要なミッドソール、アウトソールの素材はどうする?
 アッパーの素材は?
 資金繰りはどうする?
 宮沢たち零細企業のメンバーたちが山積する課題の一つ一つを克服していく過程は、まさに手に汗握るシーンの連続です。
 生ゴムに代わるソールの素材の特許を持つ飯山晴之との息づまるような交渉、その果てに顧問として迎えた後の飯島の献身。
 最大のライバルと見定めた世界ブランドを販売するアトランティス社と袂を分かったカリスマ・シューフィッター村野尊彦の参加。
 そして、故障して走れない状況で苦しむ茂木裕人との出会い。茂木は箱根駅伝を走って実業団入りした期待のランナーでしたが、マラソンの途中で故障。もはや利益につながらないとばかりにアトランティス社からサポート契約を打ち切られ失意の底にありました。その茂木選手を、村野を通じて知り合ったこはぜ屋の社員たちは損得抜きで支え、応援するようになります。
 しかし、予想外の頑張りを見せ始めた目障りな零細企業を大手のアトランティス社が潰しにかかります。アッパー素材を提供するベンチャー企業に札束をちらつかせて供給を打ち切らせるように仕向け、さらには茂木選手に対し零細企業の苦境を強調し、その信頼関係にひび割れを生じさせようと画策する……。
 自社の利益追求に徹し、そのためには手段を選ばないアトランティス社の前にシューズ開発に企業生存をかけた、こはぜ屋の夢は潰え去るのか。
 茂木選手は、ピンチに陥り安定供給に黄信号が灯った陸王をそれでも履いてくれるのか。
 そして茂木選手、こはぜ屋の復活劇はあるのか。

 池井戸潤がスポーツの世界と企業活動の表裏を描き出した渾身作『陸王』。リオで金に輝いた金藤選手と下町企業の絆を彷彿とさせる感動の物語です。夏の夜、一人読むものの胸を熱くする池井戸ワールド、一気読みで堪能してください。(2016/8/19)
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