書籍の詳細

「私は、一瞬ともいえるあいだに見せた母の強いけはいにたじろいだ。そして、自分と母とのあいだにピンと張られた糸が、巨大な指の爪先にビンとはじかれたような幻想におちいった――」母と私がはじめて会ったのは高校卒業の直前だった。新聞の上海特派員だった父は私の誕生前に腸チフスで死に、母は祖父・村松梢風の意志で、祖父の籍に入れられた私を残して他家へ嫁いだのだ……。不安定な思いを抱きながら母とともに、幼児期を過ごした千駄ヶ谷の家を探し、上海を訪ねる自伝的長篇。

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上海ララバイのレビュー一覧

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  • 新聞の特派員として上海に渡った父がチフスで亡くなった。そのため幼いときに別れた母と大人になって再会し、父と暮らした家を探す、いわばルーツを辿る村松友視の自伝的小説。「上海仕込みで、東京生まれ、そして清水みなとの育ち」という男が母とともに訪ねる町が、閑静な住宅街のところどころに連れ込み旅館の看板がでている不思議な町・千駄ヶ谷と魔都・上海。そのそれぞれに、結婚前から関係が続く女が関わるという筋書き。上海へのツアーには、彼女も同行していて、母親とも「旅でたまたま知り合った女性」として会い、話をする。女の勘で母親は自分たちの関係を知ったのではないか、という女の言葉に男の気持ちは揺れ動く。
    作家の祖父の下で、自分の過去をほとんど知らされずに育った男は、母親のお腹の中で聞いた子守歌(ララバイ)を聞きに魔都・上海に来たのか。かつて祖父をとりこにし、父の肉体を蝕んだ魔都・上海の風――毒々しくも魅惑的な風が男にもそそのかしの子守歌(ララバイ)を歌って聞かせ、妖しい世界への手招きをしている・・・・・・。まとわりつく風の感触を感じながら、ジャズクラブに流れるラブソングにあわせてダンスをする男と女。残像を残すようなエンディングがいい。永井龍男が「吉行淳之介に似ているねぇ」と言ったというが、村松友視ワールドの秀作の一つとして私の好きな作品だ。(2010/5/7)
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    投稿日:2010年05月07日