帰ってきたヒトラー 下

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テレビで演説をぶった芸人ヒトラーは新聞の攻撃にあうが民衆の人気は増すばかり。極右政党本部へ突撃取材を行なった彼は、徐々に現代ドイツの問題に目覚め、ついに政治家を志していくことに…。静かな恐怖を伴ったこの爆笑小説は、ドイツで大反響を巻き起こした。本国で250万部を売り上げ、映画で240万人動員したベストセラー小説。

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テレビで演説をぶった芸人ヒトラーは新聞の攻撃にあうが民衆の人気は増すばかり。極右政党本部へ突撃取材を行なった彼は、徐々に現代ドイツの問題に目覚め、ついに政治家を志していくことに…。静かな恐怖を伴ったこの爆笑小説は、ドイツで大反響を巻き起こした。本国で250万部を売り上げ、映画で240万人動員したベストセラー小説。

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書籍の詳細

書店員のレビュー

 ドイツ降伏が5月8日。それから3か月後の8月15日に日本が降伏。ちなみにイタリア戦線終結はドイツ降伏の6日前の5月2日――第2次世界大戦が終わってから70年の節目の年となる2015年5月、集団的自衛権の行使を含む安全保障関連法案が国会に提出されました。これまで厳しい制約の下に置かれてきた自衛隊の海外での活動の幅を一気に広げるもので、安倍晋三首相は自衛隊を普通の軍隊に変える道に大きく踏み出しました。
 戦前期に満州国創設・運営に力を発揮した岸信介元首相(元A級戦犯被疑者)を祖父に持つ安倍首相が念願の「戦後レジーム」からの脱却に突き進もうとしている時、東西に別れた分裂国家として戦後をスタートし、1990年に東西統一を成し遂げたドイツでは、一冊の本が累計130万部のベストセラーとなり、さらに世界38か国で翻訳出版が決まり、映画化まで決定したという。本書『帰ってきたヒトラー』です。
 訳者の森内薫さんは、あとがきにこう書いています。

〈ナチスのことやヒトラーのことも、家族とはともかく、ドイツの人とはいっさい話したことがない。それは重すぎるテーマだったし、そういうことを軽々しく口にできない空気がたしかにあったと思う。なにしろここは、『わが闘争』(引用者注:アドルフ・ヒトラーの著書。自伝的な要素と政治的世界観の表明・主張から構成されている)は発禁、ナチスの礼賛は法律で禁止、そしてヒトラーは究極のタブーに等しい国なのだから。だから、当時の私に「ヒトラーが現代によみがえってテレビやネットで人気者になる小説が、ドイツで数年後に出版される」とだれかが言ったとしても、絶対に信じなかったと思う。ましてやベストセラーになるなんて──。

 しかし、その本は現実に出版され、ベストセラーとなった。〉

 第2次世界大戦後のドイツ社会にあって、著書の出版が許されないほどの絶対的なタブーとされているヒトラー。そのヒトラーが2011年8月に突然ベルリンで目を覚ました。ヒトラーは敗戦直前に自殺をしているのですが、目を覚ましたヒトラーにその記憶はありません。独特の髪型の彼と出会う現代ドイツの人たちは皆ヒトラーそっくりの芸人と思い込みます。総統の発言はまさにブラックユーモアと解釈され、テレビ番組にレギャラー出演・・・・・・と展開されていくのですが、ヒトラーと周囲の人々の会話は最初から最後まで行き違い続けます。戯画化されたヒトラーとの誤解に満ちた会話、齟齬(そご)の連続。そこにヒトラーのモノローグ(独白)のスタイルで描かれる風刺小説としての面白さが凝縮されています。

 目覚めたヒトラーと現代ドイツの最初の“接触”を紹介しましょう。
手にした新聞から、いま自分がいるのが2011年であることを知って地面に倒れこんだヒトラー。地面に寝ているヒトラーの額に冷たい布を宛てて介抱する男の会話――。
〈・・・・・・「俺、あの映画を見たんだ。『ヒトラー 最期の十二日間』。二回も。主役のブルーノ・ガンツははまり役だったな。でも、あんなの目じゃないね。おたくは全体のたたずまいが……言っちゃなんだが、まったく、あれの本人みたいなんだよね」
私は顔を上げた。「あれの本人?」
「あれ、だよ。〈総統〉!」そう言いながら男は両手を上げ、人差し指と中指をくっつけて数回小さく曲げ伸ばした。私は一瞬目を疑った。ドイツ式敬礼は六十六年の歳月を経てここまで変形してしまったのだ! だが、ともかくそれが受け継がれているのは、私の政治的影響力が今なお残っている証拠ではないか?(この動作が、現代人が言葉を強調したいときに使う〈空中カギカッコ〉であることは、そのときは知るよしもなかった)
私は答礼に肘を曲げ、「私は、総統本人だ!」と言った。
 男はまた笑った。「いやはや、堂にいったもんだね」
 男の底抜けの明るさをどう受け止めるべきか、私ははかりかねた。でも、状況はだんだんのみこめてきた。もしもこれが夢でないとしたら(夢ならば、とんでもなく長い夢だ)、今は現実に二〇一一年ということだ。そして、この世界が私にとって目新しいものであるように、この世界にとっては私自身が奇妙な存在なのだ。この世界がまがりなりにも論理的に動いているなら、私は今、百二十二歳になっているか、ずっと前に死んでいるかのどちらかなのだから。
「ほかの役もやるのかい? どこかで見たような気もするんだけど」
「いや」。私はやや素っ気なく答えた。
「ふうん」。男はいやにまじめな顔をしたあと、ウィンクをしてよこした。
「舞台に出ているんだね? プログラムはある?」
「当然だ」。私は答えた。「一九二〇年に! わが同胞ならあなたも、二十五か条綱領というプログラムを知らないわけがなかろう!」
 男は熱心にうなずいた。
「でも、どこで見たんだか、やっぱり思い出せないな。ねえ、チラシか名刺(カルテ)か何か持っていないの?」
「残念だが」。私は悲痛な声で言った。「地図(カルテ)は本部にしかない」〉

 同じ「カルテ」という言葉ですが、男は「名刺」の意味で言っており、ヒトラーの頭の中にあるのは「地図」です。意思の疎通がはかられているようでいて、実は根本的なところですれ違っている。私たちが日常的にかわしている様々なコミュニケーションへの痛烈な風刺とも思えてきます。
 この齟齬の深層にあるのは、冷凍状態から解凍されたかのようなヒトラーの思考です。たとえば、ドイツの政治状況はヒトラーの目にはどう映っているのでしょうか。

〈それにしても衝撃的なのは、ドイツの政治の現状だ。なにしろ国の頂点に立つのが、女。それも、陰気くさいオーラを自信満々に放っている不恰好な女だ。東独育ちのこの女は、つまりは三十六年もボリシェビキの亡霊とともにあったというのに、女のとりまきはそのことにかけらも不安を感じないらしい。この女が手を組んだのはバイエルンの酒飲みどもが結成している、私の目には国家社会主義の亜流のように見える政党だ。だがこの党は、一見社会主義的でありながらその実、非常に半端なところがあり、彼らはそれを国家主義的信念ではなく、時代遅れのヴァチカン至上主義で飾りたてている。彼らはそのほかの政策的欠陥を、田舎村の防災組合や教会の音楽隊でカムフラージュしようとしているが、そんなもので人の目はごまかされない。嘘つきどもの隊列を、この手でなぐり倒してやれればどんなに気持ちがいいだろうか。〉

 2011年のドイツに甦ったヒトラーの過激な思想。過激な“毒“をもつヒトラーはしかし、その毒が評判を呼んで、アリ・ジョークマンという芸人と一緒にテレビ番組に出演することになります。再び表舞台に立ったアドルフ・ヒトラーは、かつてミュンヘンのビアホールから出発してドイツを率いる総統に成り上がっていった歴史を再現するのか。
 著者ティムール・ヴェルメシュは、ドイツの有力新聞で執筆活動してきた記者で、初めて実名で書いた本が本書です。その風刺の眼はいうまでもありませんが、ドイツ社会だけに向けられているものではありません。例えば――ヒトラーのドイツ式敬礼への愛着、こだわりを読んでいて、国立大学に対して入学式などで国旗掲揚、国家斉唱をなぜちゃんと行わないのかと国会で答弁した安倍首相の姿が頭に浮かんできました。戦後70年のいま、是非とも目を通していただきたい力作です。言葉遊びや駄洒落も多い「ヒトラーの独白」をわかりやすく面白い日本語に訳しきった訳者・森内薫さんの労を多として、この稿を閉じたいと思います。(2015/5/22)
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