書籍の詳細

微妙に心地よい脳をくすぐる32編 傑作ショートショート集! 郁子が頼まれたアルバイトの内容は、別人になりすまして横浜元町へ行きワンピースを一着買い求め、さらに店で小物入れを忘れて帰ることだった……(「奇妙なアルバイト」より)。せわしないけどありきたりの日常を、いつしか得体のしれない影が蝕んでいく。

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新装版 奇妙な昼さがりのレビュー一覧

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  •  阿刀田高『奇妙な昼さがり』はストーリー作りの名手による軽妙洒脱な小品ながら、それでいて人間の複雑な心理のうつろいを深いところでとらえた言葉のちからを感じさせるショートショートの傑作です。
     あとがきによれば、5冊目のショートショート集ということで、円熟の味わいともいえるのかもしれません。一言で状況を180度転換してみせるショートショートの面白さが随所にでてくるのですが、私の一押しは、「別れの朝」(巻頭収録の「夜の歌」の章の第2篇)。那須高原に日帰りで行ってこようと待ち合わせした駅に遅刻してきた女。新幹線のホームに急ぐ男が言った一言が、女には別の同音異義語に聞こえて、表情が変わった――この瞬間に、ふたりの男と女の関係が一変する。中間色を好むやさしい女と思っていた男に女が一瞬見せた本性(ほんしょう)。男は新幹線が那須塩原に止まるかどうかを確認するといったのが、女の耳には「泊まる」と聞こえてしまった。「いやよ、絶対に」女は新幹線に乗ることなくデパートへ。女がかいまみせた表情は般若に似ていた。そう感じた男は「いいんだよ。いやなら行かなくても」と屈託なく言って、一人で那須高原へ。ほんの5分か10分ほどの「日帰りの旅に出ようとした男と女が一言をきっかけに一転して別れていく物語」ですが、その鮮やかな展開に脱帽です。
     この「別れの朝」の初出は「JR中吊小説」と知れば妙に納得してしまいます。他に「小説新潮」「小説現代」や「太陽」などさまざまな雑誌の求めに応じて書きためた珠玉の小品を31編収録した、蔵書しておいて損のない一冊です。(2010/12/17)
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    投稿日:2010年12月17日