ルーキー

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少年は、幼い頃から熱い夏を夢見ていた。少年は、いつの日か熱風の吹くグラウンドに立つことに憧れていた。そして――少年は、とうとう熱い夏の頂点に登りつめた。それは、若き獅子(ライオン)の誕生でもあった……高校球児“清原和博”から、西武ライオンズ“キヨハラ”になるまでを描いたスポーツ・ノンフィクション。

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少年は、幼い頃から熱い夏を夢見ていた。少年は、いつの日か熱風の吹くグラウンドに立つことに憧れていた。そして――少年は、とうとう熱い夏の頂点に登りつめた。それは、若き獅子(ライオン)の誕生でもあった……高校球児“清原和博”から、西武ライオンズ“キヨハラ”になるまでを描いたスポーツ・ノンフィクション。

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 2016年(平成28年)冬。覚せい剤所持の容疑で逮捕されて以降、新聞や雑誌に氾濫した元プロ野球選手・清原和博の写真は、年月の経過が人をこうも変えてしまうこともあるという人生の残酷さを示して余りあるものでした。
「40歳を過ぎた人間は自分の顔に責任を持たなければならない」――第16代アメリカ大統領リンカーンが遺した名言です。考え方、意識の在りようなど人の内面はその表情や顔つき、目つきに顕れるというわけです。清原和博の「顔」は、その荒んだ内面をそのままうつしているように見えました。

 1986年(昭和61年)春。PL学園を卒業、西武ライオンズに入団した清原和博のルーキーイヤー。スポーツ・ノンフィクションの名手・山際淳司は、けた外れの新人とマウンドで対峙した甲子園出場校やライバル球団の投手たちなど清原和博と交錯した選手たちへの取材を積み重ねて、一冊の作品を世に送り出しました。『ルーキー』(角川文庫、2016年2月19日配信)。
 山際淳司は、ルーキーイヤーを新人王で飾った清原和博の物語を、その頃パリーグを代表する投手だった山田久志(阪急)の決め球「シンカー」をめぐって起きた、とっておきのエピソードから始めます。

〈ホームランは、バックスクリーンの右に突きささった。
 センターを守っていた阪急ブレーブスの熊野輝光は、その打球を追ってフェンスぎわまで走り、そして見送った。ふり向くと、背番号〈3〉をつけた男が跳びはねるようにダイヤモンドをまわっていた。セカンドベースを蹴り、三塁へ。そこでコーチに背を叩かれホームベースへ。レオのマークのマスコット人形を受けとり、それを左腕にかかえると軽快な足どりで一塁側ダグアウト前へ走った。そこにナインが待ち受けている。
 ダグアウトのベンチにどっかと腰をおろすと、ナインが声をかけてくる。よう飛んだな。一直線にバックスクリーンだ。打ったのは何だ?
 真っすぐか?
 ちょっと変化したようにも見えたけどな。
「シンカーじゃないですか」
 かれは答えた。
「外角寄りの、シンカーだと思います」
 シンカーか、そうかシンカーを打ったのか──。そう聞くと、周囲は深くうなずかざるをえない。
 マウンドにいるのは山田久志である。(後略)〉

 清原と山田が初めて対戦したのは、開幕間もない4月12日、満員の西宮球場。9回表、清原はピンチヒッターで打席に立った。1死、ランナー1塁、3塁。2-2から2球ファウルで粘った清原に対し、山田が投じた7球目はシンカーだった。清原のバットはボールの上っ面を叩き、内野ゴロ、併殺。
 5月に入ってスターティングメンバーに常時、顔を連ねるようになった清原和博と山田久志の二度目の対戦――5月22日、西武球場。1打席目、初対戦と同じく併殺打に打ち取られていた清原は、第2打席、カウント2-1からの4球目をバックスクリーンの右に突き刺し、打ったのは「シンカー」と語ります。
 新人の発言を伝え聞いた百戦錬磨のベテラン投手はどう出るか? このあたりの駆け引きを超えた選手同士の機微が面白い。山際淳司はこう描きます。

〈それはシーズン五本目のホームランであり、清原にとってはこれから何百本と打っていくであろうホームランのなかの、ワン・オブ・ゼムでしかない。
 打たれた山田も、被本塁打はすでに四〇〇本を超えている。その一本一本にこだわってはいられない。
 しかし、そのホームランがお互いに、記憶に残るホームランであることは間違いない。
「シンカーを打ったといっているのか?」
 山田が聞きかえした。
 ゲームが終わると山田はダグアウト裏にひきあげてきた。敗戦投手だった。九回を投げきったものの、4失点。ライオンズは先発の渡辺久信から郭泰源へと継ぎ、4─2のスコアで逃げきった。山田は清原に対して、ホームランを打たれたあとピッチャーゴロ、センターフライに打ち取り、打ちこまれることはなかった。が、四回に清原の打ったホームランが勝利打点になった。清原にしてみればプロ入り後、初の勝利打点である。
 山田は清原への一投に関して質問を浴びせかけられることになった。
「あれは真っすぐや」
 と、山田はいった。
 間を置いて、こうもいった。「あれがシンカーに見えるようじゃまだ本物とはいえないな。ちゃんと球が見えていないんだよ」
 投げたほうは速球だといい、打ったほうはシンカーだといっている。〉

 こういう喰いちがいは、よくあることだ。ベテランバッターは、わざと打った球種を間違えていうことがある。フォークボールを打ったのにあれはカーブだったといってみたり、シュートを打ったのにあれは真っすぐの球だったといってみたりする。それを翌日のスポーツ紙で見た相手バッテリーが、あいつは球がよく見えていないなと思ってくれればいいのだ。狙って打ったホームランではなく、偶然、当たったホームランだと思ってくれれば、次のゲームでの攻めも甘くなる。逆に、ピッチャーがちがったことをいうこともある。球種を正直に話さなければいけないというものでもない……山際淳司はこう続けた上で、山田久志の〝ホンネ〟をこう明かしています。

〈「あの場面でいうと、こっちがちょっといい格好しようとした。それが裏目に出たね」
 いい格好をしようとした?
「全部、真っすぐで勝負しようと思った。変化球なんか使わずにね、全部、ストレート。だからあの、四球目もストレートですよ」
 たとえていえば、こういうことだ。一方が素手で構えている。他方が手に武器を持っているとする。それを持ちつづけたほうが有利ではあるのだが、あえてそれを捨ててみたくなる。山田が、「いい格好をしたくなった」というのは、そういうことだ。
 それまでに二度、清原を内野ゴロ併殺に打ちとっている。ランナーがいたせいでもある。
 ところがホームランを打たれたときは一死で、無走者。小細工、かけひきなしの勝負ができる。
 そこでこの、超一流投手は「いい格好」をしたくなってしまったのだ。〉

 山田久志がどれほど清原をいいバッターだと思っていたかがわかります。ついこの間まで高校野球をやっていたのに、いきなりプロ野球の公式戦に出てきた。それにしてはバッターボックスで落ち着いている。他の選手とは一味も二味もちがう。そういうルーキーだからこそ、同じ土俵に立って投げてみたくなった、正面から直球勝負したくなったというわけです。
 球界を代表する一流投手にそこまでの思いを抱かせたルーキー。そして、その渾身の力を込めた〝直球〟をバックスクリーン右側に打ち返したルーキー。
 大投手が「いい格好をしたくなった」ルーキーがその年残した記録は、126試合に出場。打数404。安打123。ホームラン31本。塁打236。打点78。盗塁6。四死球60。三振109。打率3割4厘4毛。打率はベストテンの8位にランクされるものでした。そして、ほぼ満票で、パリーグの新人王に選ばれました。

 清原和博がつけた背番号は〈3〉。背番号3といえば、長嶋茂雄ですが、長嶋が清原のことを語るときに必ず、話のマクラにつけるエピソードがあると、山際淳司はこう綴っています。

〈それは、初めてあの長島が、あの清原に会ったときのことだ。
「あの清原クンがぼくにいうわけですよ。背番号3というと、これまで長島さんのことだったんですが、これからはぼくが背番号3と呼ばれることになります。よろしく。清原クンが会うなりそういうんですよ。これはもうたいへんな自信ですよ」
 それくらいの自信をもってプロ球界に入ってくる選手がいることはたのもしいことだと、長島さんはつづけるのだが、内心、びくっとしたことだろうと思う。まして、他球団で背番号3をつけている選手はなおさらのことである。〉

 背番号〈3〉の選手として長嶋茂雄は歴代74番目あたり、清原は126人目だそうです。
「あの」という連体詞を使って説明できる人物は多くはありません。そのなかの一人、長嶋茂雄は病に倒れた後、ますます「いい顔」になってきたように思います。ルーキーの頃、清原和博も「いい顔」をしていました。ルーキーが放つ輝きは、その時代をともに戦った多くの選手たちの記憶に刻み込まれていきました。一級のノンフィクションライターが、一人のルーキーと、野球というゲームを通じてすれちがった人々の側から「ルーキー」を描いてみようという意欲的な試み。ルーキー清原和博とは何だったのかを描いた作品は、そのまま20世紀後半の野球を語る傑作として今も色褪せることなく読み継がれています。
 本書あとがきに、「野球は夏のスポーツだ」という印象的な一行があります。
 私たちは今、強い日差しの照りつけるグランドに育まれた「ルーキー」を待ち焦がれています。(2016/2/26)
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