書籍の詳細

日本最強の選挙プロデューサー聖達磨、人呼んで「当確師」。今回、彼に依頼された選挙は、政令指定都市の市長選挙。圧倒的支持率を誇る現職市長を倒すし、無名とも言える候補者を当選させるというミッション。いかに当確師ともいえども、今回の選挙ばかりは敗北必至と思われていたが……。真山仁が政治の世界を描ききった。選挙版「ハゲタカ」とも言える小説。

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当確師のレビュー一覧

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  •  2016、選挙の年だ。参議院選挙が7月に予定されていますが、それにあわせて衆議院を解散してダブル選挙となるのではないかという観測が年初来拡がっています。安倍首相は「絶対にない」と言っていますが、その強弁ぶりがかえって「ダブル選挙」の可能性をうかがわせる――と政界では見られているそうです。2016年になって「挑戦」という言葉を繰り返す安倍首相は、7月の参院選で「憲法改正」発議が可能となる3分の2以上の議席獲得を狙っていることをもはや隠しません。
     繰り返しますが、2016年は選挙の年です。それも、岐路に立つ日本という国の進む道を選択する選挙であり――ダブル選挙となれば、いうまでもなく政権選択の選挙の年となります。
     加えて2016年の選挙は、18歳、19歳の若い世代が初めて参加して何が変わるのか、どう変わっていくのか注目されるわけですが、そもそも、「選挙」というものにつきまとってきた疑問というか、不思議な現象があります。国政選挙、地方選挙を問わず、投票が締め切られて即日開票が始まるとほぼ同時に、「当確」となるケースがしばしば見られます。いったい、日本の「選挙」はどうなっているのか。国際経済小説「ハゲタカ」シリーズで知られる真山仁がその実情に切りこみました。昨年12月下旬、紙書籍が書店に平積みされるとほぼ同時に電子版の配信が始まった話題の書『当確師』(中央公論新社)です。
     真山仁はこの意欲作をこう書き始めています。

    〈選挙は戦争だ──。
     選挙コンサルティングの依頼を受ける時、当確師(とうかくし)、聖達磨(ひじりたつま)は、開口一番にそう断言する。
     誇張ではない。
     候補者にとって選挙は一世一代の大バクチであり、敗れたら社会的地位も私財も失う。その挫折(ざせつ)感は壮絶で、立ち直るのにはよほどの精神力が必要だ。
     しかも、選挙が始まればライバルから誹謗(ひぼう)中傷を受け、プライバシーはすべて白日の下に晒(さら)され、ありもしない汚名まで着せられることだってある。
     そんなリスクを撥(は)ねのけ、一人でも多くの有権者の票を獲得する選挙は、実際に流血沙汰(ざた)がないだけで、まさに戦争そのものだ。
     ならば、戦争に勝つためには戦略がいる。
     いくら人脈が広くても、カネがあっても、それだけでは勝てない。立候補する選挙区の特性と有権者の傾向を把握した上で、確実に票を積み上げる「軍師」が必要なのだ。
     聖という選挙コンサルタントは、「勝てそうにない選挙で、候補者を当選させる」当確師として、その名を轟(とどろ)かせている。〉

     六本木ヒルズに事務所をかまえる選挙コンサルタント、聖達磨。勝てそうにない選挙で、候補者を当選させるところから「当確師」の名で呼ばれるようになったという。聖のアドバイス通りに選挙を行えば、当選確率は99%になると信じる候補者からの依頼が絶えることはありません。
     聖にとって、当確師の最大の醍醐味(だいごみ)は、盤石といわれる現職を叩き潰すことだ。「けっして口外することはないが、聖には一つの哲学がある」――真山仁は、物語の主人公、聖という選挙コンサルをこう描きます。

    〈選挙で、この国を浄化する──。
     そのためには、圧倒的な権力者を叩き潰し、愚かな有権者に妄想を抱かせねばならない。
     すなわち、政治なんて何をやっても変わらないと、諦めてはいけない。民主主義の主役は有権者なのだと。〉

     今回、聖が挑むのは政令指定都市である高天(たかあま)市の市長選挙。人口177万人、有権者数約138万人。日本で一番住みたい都市アンケートでは4年連続1位となり、昨年度には首都を襲う甚大災害対策のための首都機能補完都市に選定されて話題になった。来年秋に予定される市長選挙――現職の鏑木次郎市長は出馬表明した瞬間に当確がうたれるだろうと目されており、実際、三選出馬が確実視されています。
     その強敵に対抗する候補者選びから任された聖。依頼者が提示した対抗馬候補は3人。
     小早川選……鏑木市長の妻、瑞穂(旧姓・小早川)の弟。東京大学で社会学を学び、オックスフォード大学に留学。NPO法人なかまネット主宰。
     黒松幸子……社会活動家。一歳のときに病で聴力を失う。市民相談のNPO「MUTEKI」代表。
     蓑田琢磨……高天大学の政治学の教授。鏑木の政治に様々な注文をつけている。
     この中に、良い玉があったら、面白い選挙がやれる。そう直感する聖ですが、状況は厳しい――。

    〈高天市長に相応しい人物アンケート
    1位 鏑木次郎 五八%
    2位 黒松幸子 一九%
    3位 鏑木瑞穂 一七%
    4位 小早川選 三%
    4位 蓑田琢磨 三%
    市長選挙まであと三五〇日
    【高天テレビ調べ】〉

     市長選挙まであと25日。黒松が追い上げてはいるものの、まだ勝てる見込みは薄い、というか、ない――。

    〈高天市長予想得票率
    1位 鏑木次郎 六〇・三%
    2位 黒松幸子 三四・〇%
    3位 蓑田琢磨 二・八%
    市長選挙投票日まであと二五日
    【高天新聞調べ】

    高天市長になって欲しい人物ランキング
    1位 鏑木次郎 五七%
    2位 黒松幸子 四〇%
    3位 蓑田琢磨 二%
    市長選挙投票日まであと二五日
    【高天テレビ調べ】〉

     チームメンバーの判断は「NO」だが、聖はゲームを捨てません。
     聖のビジネスは、告示前までが勝負だ。
     選挙の勝負は、告示前に決している──。それが選挙の本質だった。
     はたして聖は、圧倒的優位にある現職を大逆転して勝てるのか。起死回生の秘策はあるのか――。

    「日本の選挙」を裸にする興味深い作品です。(2016/1/15)
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    投稿日:2016年01月15日