書籍の詳細

1996年38歳のとき僕は小説家になった。作家になる前は国立大学の工学部助教授で、月々の手取りは45万円だった。以来19年間に280冊の本を出したが、いまだミリオンセラの経験はなく一番売れたデビュー作『すべてがFになる』でさえ累計78万部だ。ベストセラ作家と呼ばれたこともあるが、これといった大ヒット作もないから本来ひじょうにマイナな作家である――総発行部数1400万部、総収入15億円。人気作家が印税、原稿料から原作料、その他雑収入まで客観的事実のみを作品ごと赤裸々に明示した、掟破りで驚愕かつ究極の、作家自身による経営学。

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作家の収支のレビュー一覧

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  •  いま一冊の本が、本好きの間で熱く語られています。
     作家の森博嗣さんの近刊『作家の収支』(幻冬舎新書、2015年12月18日配信)です。
     とてつもなく面白い、興味深いグラフが掲載されています。1996年、38歳の時に『すべてがFになる』(講談社)で作家デビューして以来、2014年までの年度別印税額の推移を示す折れ線グラフです。
     1996・・・ 1,134万円
     1997・・・ 2,607万円
     1998・・・ 3,368万円
     1999・・・ 7,122万円
     2000・・・ 8,970万円
     2001・・・ 9,533万円
     2002・・・ 9,568万円
     2003・・・ 9,329万円
     2004・・・ 9,888万円
     2005・・・ 9,048万円
     2006・・・ 8,985万円
     2007・・・ 8,989万円
     2008・・・11,222万円
     2009・・・ 5,914万円
     2010・・・ 4,292万円
     2011・・・ 3,548万円
     2012・・・ 4,071万円
     2013・・・ 4,117万円
     2014・・・ 5,997万円

     19年間で12億7,702万円。森博嗣さん自身、この数字について次のように書いています。

    〈ここに挙げた数字は、国内の印刷書籍から得られた印税を年ごとに集計したものである。原稿料など、印税以外のものは含まれていないし、また、海外での出版や、僕の小説を原作にした漫画、それから電子書籍は勘定に入っていない。
     図のとおり、最初5年ほどで上昇し、その後8年ほどはほぼ一定になっている。また、2008年末に、僕は小説家として引退をした(らしい)ので、その後は出版される本が半減した(そうなるようにコントロールしたの意)。そのとおりの数字になっている。
     もちろん、これが全収入ではない。印税が、収入の大部分といえるが、これ以外の印税として、海外で翻訳された書籍のものがある(これまでに50冊ほどが訳されている)。また、僕の小説を原作として、漫画やゲーム、そして映画やTVドラマになったものがあって、これらの売上げからも一定の割合で印税の収入がある。さらに、近年では電子書籍がどんどん割合を高めている。〉

     本の発行部数については出版社によって「○○万部突破!」などと謳われていたり、ベストセラーランキングなどにも部数が表示されていたりしてしばしば目にします。しかし作家自身に入る印税額が具体的な形で公開されることはまずありません。その意味で、森博嗣さんが著書の中で自らの印税収入を開陳したことは前代未聞の出来事で、週刊誌風に言えば、「仰天データ」です。
     森博嗣さんは、作家になる前は国立大学工学部の助教授で、月々の手取りが45万円ほどだったそうです。1996年に作家になって、以来19年間(2014年まで)に得た収入が紙書籍(著者の森博嗣さんは「印刷書籍」と言っています)の印税だけで12億7702万円。すごい実績なのですが、森博嗣さんの〝自己評価〟は、一番売れたデビュー作『すべてがFになる』でさえ累計78万部で、100万部超のミリオンセラーの経験のない、本来ひじょうにマイナーな作家というものです。「マイナーな作家」という〝自己評価〟には違和感がありますが、それはともかく、一番売れたデビュー作発行の詳細な経緯も開陳されています。紹介しましょう。

    〈『すべてがFになる』は1996年の4月にノベルス版が発行された(引用者注:講談社ノベルス)。僕は、賞を狙って投稿したのではなく、ただ、作品を書いたので適当な出版社へ送っただけだったが、「メフィスト賞」という賞が突如創設され、受賞第1号としてこの作品が出た。このあとも、メフィスト賞を受賞してデビューした作家が何十人も出ているのだが、メフィスト賞に応募しないで受賞したのは僕だけである。(中略)
     この作品は、ノベルスの初刷は1万8000部だった。発行は4月。その後9カ月の間に第6刷まで増刷され、初年に6万1000部になった。これは印税にすると約600万円になる。また、この作品以降、3カ月ごとに新作が発行された。『すべてがFになる』が発行されたときには第5作まで書き上がっていたので、連続出版となったわけである。
    『すべてがFになる』の文庫版は、初刷が6万部だった。2年後の12月に出たので、初年はこの初刷だけであるが、翌年には第2刷~第5刷が増刷され、集計では2年目の方が部数が多くなっている。〉

     森博嗣さんは、ノベルス版と文庫版のトータルな部数やそれぞれの動き方の違いなどについて、こう続けています。

    〈一般に、増刷で刷る部数は初刷よりは少ない。小刻みに刷を重ねるのが普通だ。『すべてがFになる』では、ノベルス版が第24刷まで出て、累計13万9600部、文庫版が第60刷まで出ていて、累計63万9300部である。この集計は印刷書籍だけの数字であって、数年前から流通し始め、急速に販売数が増えている電子書籍版は、ここには含まれていない。これについては、後述するつもりである。(中略)
     ノベルス版は、出版年が一番売れて、徐々に少なくなっているが、文庫版の方は、毎年コンスタントに出ている数字といえる。ちなみに、一番沢山売れたのは、昨年(2014年)の142000部で、これは、この作品がフジテレビで連続ドラマになったためのセールスである。〉

     1996年に刊行が始まったノベルス版と2年後の1998年に始まった文庫版それぞれの年度別発行部数の経緯の表が収録されていますので、ぜひ目を通してみてください。ある出版物がどのように売れていくのかの実例モデルとしても興味深いものがあります。
     紙書籍の場合、書籍の定価×印税率×発行部数が作家の収入となります。この印税率が作家にとっては極めて重要な数字となるわけですが、森博嗣さんは以下のように書いています。

    〈現在は、ほとんどの出版社が、書き下ろし(未発表の作品のこと)ならば12%、書き下ろしでないとき(文庫化や雑誌に一度掲載されたものを書籍にする場合)は10%である。
     印税率とは、本の価格に、印刷される部数を乗じた「売上げ」に対して作家が受け取る印税の割合のことだ。すなわち、1冊1000円の本を1万部印刷すると、1000円×1万部=1000万円が売上げになるから、印税率が12%ならば、120万円が作家に支払われる。(中略)
     売れてからではなく、印刷した時点で印税がもらえるのは、僕が小説家になって一番驚いた点だった。というのも、小説家になる以前にも、僕は何冊か本を書いて出版していたが、そのときは、売れた部数が出版社から定期的に報告があって、それに対して印税が支払われていた。僕が書いていたのは、大学などで使われる教科書や技術書の類(たぐい)だった。このような専門書では、そういう支払いシステムになっていることが多いようだ。一度印刷しても、売れるのに時間がかかるのが理由で、リスクを出版社が背負えないためだと思われる。
     このように、印税の支払いシステムも法的に決まっているわけではなく、作家と出版社の契約に基づいている。ただし、だいたいの場合、その条件の交渉といった機会はなく、出版社が自社のルールを決めていて、それに従っている作家が多い。
     出版社側から見ると、印刷した時点で全量の印税を支払う条件では、印刷した分がすべて(なるべく多く)売れてもらわないと困る。したがって、この作家でこの傾向の作品ならばこれくらいは売れるだろうと予想を立てて印刷する部数を決定している。この部数を決めるときには、作家には相談はない。出版社内の事情なのである。〉

     ちなみに『すべてがFになる』の場合、ノベルス版、文庫版あわせて6000万円を超える印税を手にしたそうです。著者はそれをもとに、この作品に関する時給を100万円と割り出しています。
     あなたが手にしている小説の先にある作家の〝フトコロ事情〟――森博嗣さんが19年間の作家活動に関する客観的事実のみを列挙した作家という職業の収支。本好きの間で熱く語られるこの一冊。もう読みましたか?(2016/1/22)
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    投稿日:2016年01月22日