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【第55回 日本ジャーナリスト会議賞受賞・第34回 講談社ノンフィクション賞受賞】 「弱者のフリした在日朝鮮人が特権を享受し、日本人を苦しめている」。そんな主張をふりかざし、集団街宣やインターネットを駆使して在日コリアンへの誹謗中傷を繰り返す“自称”市民保守団体。現代日本が抱える新たなタブー集団に体当たりで切り込んだ鮮烈なノンフィクション。「ヘイトスピーチ」なる言葉を世に広め、問題を可視化させた、時代を映し、時代を変えた1冊。

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ネットと愛国のレビュー一覧

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  • 「JAPANESE ONLY」――浦和レッズのサポーターが「日本人のみ入場可」を意味する横断幕を熱心なサポーター集団が陣取るゴール裏席の入口に掲げた問題で、Jリーグは浦和レッズに対して無観客試合というリーグ始まって以来の厳罰を与えました。問題の横断幕を作成した3人のサポーターは「ゴール裏は自分たちのエリア。他の人たち、とくに外国人が入ってくるのは困る」と説明しているそうですが、浦和レッズは、この3人が所属するサポーターグループに対しては無期限の入場禁止処置をとりました。チーム側の横断幕への対応に不手際もあって問題が大きくなった側面もありますが、いま注視すべきは、「日本人だけ」「日本人専用」といった「気分」が今回の浦和レッズサポーターだけではなく、世の中のいたるところに顔をのぞかせ、広まってきているという点ではないでしょうか。温泉、エステ、カラオケ、レストラン、バー、そして地域的にも北海道から九州・沖縄まで全国に広がっているのが、日本の実情です。ここに一冊の本があります。安田浩一著『ネットと愛国』。フリー・ジャーナリストの著者が外国人、とりわけ在日コリアン(韓国人・北朝鮮人)を排斥する運動を展開する「在特会」(在日特権を許さない市民の会)の存在に着目して、ネットを通じて集まった「普通の男たち」が組織化され、次第に激しい街頭行動をするようになっていく過程を徹底的に追跡したルポルタージュで、2012年の日本ジャーナリスト会議賞、講談社ノンフィクション大賞をダブル受賞した、注目の書です。著者が在特会の大集会を初めて目にしたのは、2010年8月15日。終戦記念日のことでした。〈「ヤスクニ解体」を訴える左翼系団体「反天皇制運動連絡会(反天連)」のデモ行進を迎え撃つべく、在特会は他の「行動する保守」団体とともに靖国神社近くの九段下交差点に結集した。同会らの呼びかけに応じて、当日、交差点周辺には約2000人が集まった。(中略)炎天下、彼らは路上にブチまけられた火薬のようだった。マッチ1本を放り込めば、バチバチッと火花を散らしながら、どこまでも連鎖する。午後3時。反天連のデモ隊が近づいてきた。デモ隊に脅しをかけるように、ウオォォォーッと一人ひとりの叫び声が絡み合い、大音量となって近隣のビルに反響する。まるでコンサート会場のようだ。日の丸の旗がいっせいに打ち振られる。喧騒のなかで白い波が揺れた。デモ隊の前後左右は機動隊の装甲車が囲んでいた。「くそう、(デモ隊が)見えねえじゃねえか!」「機動隊は邪魔をするな!」あちらこちらから警察を非難する声があがる。参加者が陣取る交差点を反天連のデモ隊が通りすぎようとしたとき、興奮は最高潮に達した。「死ねえ! 極左!」「極左を東京湾に叩き込めーっ!」興奮のあまり、「ウォーッ、ウォーッ」と、雄たけびを繰り返しているだけの者もいた。ただひたすら大声を出しながら、腕をぶんぶん振り回している。(中略)デモ隊が交差点を通りすぎた直後も熱狂は続いた。デモ隊を追撃しようと、参加者がわっとその後を追いかけようとしたのである。事前に設置されていた防護柵を乗り越えようとする人々が続出し、機動隊員は暴徒たちの波を必死に押し返す。「邪魔するな!」「バカヤロウー! 警察は極左の味方か!」機動隊員に体を押さえつけられながら、大声でわめいている男性がいる。通しなさいよ! なぜ止めるのよ!」若い女性はいまにも泣き出しそうな表情で金切り声をあげていた。──それから20分も経った頃だろうか。喧騒は止み、靖国の木立から漏れる蝉時雨だけが周囲に響いていた。「いやぁ、暑かったねえ」「おつかれさん」あれほど暴れていた参加者たちはそんな言葉で互いの労をねぎらいながら、三々五々、散っていった。各々の表情からは「極左を逃した」といった悔しさや、行動を制した国家権力への怒りといったものは、微塵も見ることができなかった。彼らの上気した顔には、むしろ、なにかをやり遂げたかのような達成感が浮かび上がっていたのだった〉2000人が連帯し、団結し、一つになった。こんなにも熱狂できる〝祭り〟がほかにあるだろうか――在特会が主張する「在日特権」に対し本当に「特権」といえるのかという疑問を抱いた著者は夏の日、眼前で飛び、叫び、ハネ、精一杯の熱情をブチまけた彼ら彼女らの「なぜ?」を追い求めていきます。大阪の環状線鶴橋駅周辺は日本最大のコリアタウンです。著者によれば「戦後」の風景が生き延びているような街。ハングル文字の看板が目立ち、日本語と韓国語の入り混じった「在日語」の会話が耳に飛び込んでくる。〈そうした空間に突然、数十人の日の丸集団が現れた。集団は駅前のガード下に立ち位置を定めると、大型のトラメガ(トランジスタメガホン=拡声器)を路上に置いて街頭宣伝の準備を始めた。音量のチェックをしているのだろう。キーンという耳障りなハウリング音が環状線のガードに反響する。それが妙に私の気持ちをザラつかせた。(中略)日の丸を掲げているのは一見、「右翼」というパッケージには程遠い連中である。周囲を威圧するかのように睨みを利かすコワモテが1人、2人いないわけではないが、彼らの多くは、スーツ姿のサラリーマン風であったり、おとなしそうなオタク風の若者であったり、ジーンズ姿やOL風の若い女性であったり、あるいはくたびれた感じの初老の男性であったりと、服装も雰囲気も年代も、まるでまとまりがない。 (中略)リーダー格の青年がマイクを手にした。「みなさん、こちらは在日特権を許さない市民の会です!」トラメガを通して、その声は路地裏まで響き渡った。「本日は、この鶴橋において、在日朝鮮人の生活保護の問題について街宣したいと思います」千日前通りを歩く人々の一部が足を止めた。マイクを手にした青年は穏やかな表情をしている。だが、紳士的な言葉遣いは冒頭だけだった。「大阪ではね、1万人を超える外国人が生活保護でエサ食うとるんですよ。生活保護でエサ食うとる××××(引用者注:原文は在日コリアンの蔑称、カタカナ4文字が記されていますが、抜き書きのここではそのままの引用は控えました)、文句あったら出て来い!」集団がいっせいに「そうだ!」「出て来い!」「××××、いるのか!」と合いの手を入れる。 演説というよりは挑発である。ガード下を奇妙な高揚感が渦巻いた〉在特会の街宣活動は凄まじい。いったいどうしたらこんな言葉を投げつけることができるのか、と思わざるをえない、過激な差別語を速射砲のように撃ちづけます。しかも、そのメンバーは一人ひとりを見れば、どこにでもいる「普通の人」なのです。在特会会長の桜井誠も、中学や高校の同級生たちを訪ねると、皆口を揃えて「どちらかといえばおとなしい、目立たない存在だった彼が・・・」と驚くという。そういう彼ら彼女たちが街宣活動の熱狂の中では、飛び、叫び、ハネる。その在特会のメンバーたちに秘かに共感し、暗黙の支持を与える声なき人びとが少なからず存在することに、著者は本当の怖さを感じ取っています。先の都知事選で極右の姿勢を明確にした田母神候補に投じられた61万票の意味をもっと掘り下げる必要があるようです。日本の社会の奥深いところで、地殻変動ともいうべき変化が始まっています。(2014/3/21)
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    投稿日:2014年03月21日