書籍の詳細

葬儀業界の市場は右肩上がりの一兆六千億円。規模は拡大を続け、家族葬、直葬、合理化と、その形態は多様化している。一方で、団塊世代が八十歳代となる「超多死社会」が間近に。「死」の現場に携わるプロたちの「生の声」、尊厳をもって送るとは? 自らを語ることがあまりなかった職種を通し、葬送の実際をルポする。

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葬送の仕事師たちのレビュー一覧

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  • 数年前、『葬式は、要らない』(2010年、島田裕巳著)という本が話題になり、葬儀業界の不透明な料金体系や営業手法が批判を浴びました。そして、インターネットや流通企業などが葬儀業界に参入し、より現在のニーズに合った葬儀方法のオプションが多数生まれ、業界が大きく変わりました。

    一方、映画『おくりびと』(2008年、本木雅弘主演)の大ヒット以来、葬送の現場で働く人たちに注目が集まっています。日常から外れた「死」というものに、常に向き合う仕事に、映画を観た後、私自身も興味をひかれました。

    先日、葬送の現場で働く人たちを間近で見る機会がありました。父方の祖母が亡くなり、出棺から火葬、通夜、葬式、初七日と参加したからです。祖母は105歳だったので、この葬儀に悲愴感はなく、むしろ久々に親戚一同が集まって、和やかな雰囲気でした。とはいえ、死化粧をした祖母と対面した後、火葬場で焼かれ骨だけになった祖母を見たときは、少なからず衝撃を受けました。火葬場のスタッフは、神妙な面持ちで「御歳を考慮して、600度で55分……」「こちらは骨盤になります……」などと説明していました。

    そんな流れで手に取ったのが、本書『葬送の仕事師たち』です。葬儀の専門学校の生徒、葬儀社の営業担当者、納棺師、エンバーマー、火葬場スタッフなど、葬送の様々な現場で働く人たちの生の声を集めたノンフィクションです。

    現場の人々が接するのは、天寿をまっとうした人だけでなく、生まれて間もなく亡くなった乳児、事故死した人、死後しばらくして発見された人、検死で解剖された後の遺体など、様々です。特に、東日本大震災の遺体安置所の様子は、「戦争が終わった後って、こんなだったのか」という感じだったようです。目を背けたくなる現実です。しかし、葬送の現場の人たちは、遺族の心情に寄り添い、遺体の尊厳を守るべく、現実に正面から向き合います。

    葬送の現場の人たちが発する言葉は、ひと言ひと言が心に染み入りました。なぜだろう、と考えました。彼らが日々接している「死」とは、現世のすべての属性や地位から解き放たれることです。そして、「死」と向き合うという行為は、属性や地位は関係なくひとりの人間として、人生というものと対峙するということだと思います。また、葬送の仕事は、残念ながら差別の対象にもなっています。現場の人たちが悩み、苦しみ抜いた末に掴みとった、自分自身の言葉で語ってくれているからこそ、心にずっしりと残る重みがあるのでしょう。昨今、型通りでオーバーポジティブで空疎な言葉が飛び交うことが多いなか、このような本が存在する意義は大きいと思います。ノンフィクションですが、まるで純文学を読んでいるような感覚になりました。

    いくつか印象に残った言葉を抜粋しようと思いましたが、やめておきます。ここに抜き出すことで、言葉が軽いものになってしまう気がするからです。ぜひ本書を読んでいただきたい。自ら声を上げることの少ない職種の人たちの、ひと言ひと言が胸を打つ名著です。
    • 参考になった 4
    投稿日:2017年04月21日