ハゲタカ外伝 スパイラル

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芝野と鷲津が帰ってきたーー『ハゲタカ』シリーズ最新作! 金融危機や特許戦争に脅かされる日本のものづくりは生き残れるのか? 電子版特別付録付き! 1.幻の短編『膨張前夜』、2.試読版『ハゲタカIV グリード』。

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芝野と鷲津が帰ってきたーー『ハゲタカ』シリーズ最新作! 金融危機や特許戦争に脅かされる日本のものづくりは生き残れるのか? 電子版特別付録付き! 1.幻の短編『膨張前夜』、2.試読版『ハゲタカIV グリード』。

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 作家デビュー10周年を迎えた真山仁が、人気シリーズ「ハゲタカ」のスピンアウトストーリーを書き下ろしました。シリーズ最新作『ハゲタカ外伝 スパイラル』。巻頭の目次のあとに「主な登場人物」が並んでいますが、シリーズ本編の主役、元ジャズピアニストにして、投資ファンド「ホライズン・キャピトル」(のちにサムライ・キャピタル)を率いる鷲津政彦の名は、末尾に「サムライ・キャピタル社長」と一行あるだけです。
 代わってストーリー展開の軸となるのは、三葉銀行から企業再生家(ターンアラウンド・マネージャー)に転じ、企業再生の過程で鷲津と渡り合ってきた柴野健夫。鷲津政彦は、プロローグに一度登場したあと姿を消します。プロローグ「発芽」に収められたそのシーンが、作者がこの外伝に仕込んだ重要な布石であったことに気がついたのは、真山仁らしい加速する展開を一気読みしたあとでした。

 時は1986年10月・大阪市船場。若きジャズピアニスト鷲津政彦と、なにわのエジソン社の藤村登喜男(ふじむら・ときお)との間で、ある“契約”が交わされるシーン――。少し長くなりますが、引用します。

〈「今日の演奏は、きつかったなあ、ワッシー」
 ムッとして顔を上げると、知った顔がにやけている。
「頼むわ〝博士〟、今日の演奏は忘れて」
 自分と体格の変わらない小柄な〝博士〟はソファに座り込むと、テーブルのウイスキーのボトルを取って空のグラスに注いだ。(中略)
「博士」と呼ばれる男は、常に人を食ったような微笑みを浮かべている。東大阪あたりの町工場の主らしいが、やけにジャズに詳しい。いつから知り合いだったかもう記憶の彼方だが、ジャズクラブでピアノを弾き始めた直後から「ええもん持ってるなあ、あんた」と褒(ほ)めてくれ、何度もライブに顔を出してくれた。
 キースのライブに行けたのも、彼がチケットを融通してくれたからだ。
「悪いけど〝博士〟、俺、今日は虫の居所が悪いねん。帰るわ」
 立ち上がったところで、手首を掴(つか)まれた。
「おまえ、ニューヨークへ行け。そこで、必死にもがいて闘ってこい」
 目の前に封筒が差し出された。
 封筒の口から分厚い一万円札が見えた。
「何の真似(まね)です。貧しい中小企業のおっさんから大金を恵まれる理由が分からんのやけど」
「勘違いするな。これは施(ほどこ)しちゃうで。投資や」
「けど、利子すら払えへん」
 封筒の中を見てみろと言われた。札束の帯封に用箋が挟んである。開くと汚い文字が綴られていた。〉

 誓約書と題して、「藤村登喜男より金百万円の投資を受けた鷲津政彦は、三年以内に大阪の大ホールでジャズピアノのソロ、あるいはトリオのライブを行うことを誓います」とあります。

〈「あんた、カネをドブに捨てることになるで」
「そう思うんやったら、受け取らんかったらええ。言うたやろ、これは投資や。せやからリスクは承知のうえや」
「けど、俺がライブするだけやったら、あんたにカネは戻らんぞ」
 そこでもう一枚、紙ナプキンを渡された。そこにはこうあった。
〝コンサート開催の暁には、鷲津政彦の出演料の全額を藤村登喜男に支払うこととする。〟
 これが、鷲津にとって初めてのハイリスク・ハイリターンなディールだった。〉

 舞台は、町工場が建ち並ぶ東大阪。その一つ、〝博士〟藤村登喜男が遺したマジテック――「独創的な発想と技術力で、魔法のような発明を生み出す」という思いからつけられた名前を持つ町工場です。
 企業再生家・芝野と藤村の出会いは、芝野がまだ三葉銀行船場支店に勤務していた頃にさかのぼります。

〈なにわのエジソンを自称する藤村は、大阪大学工学部で博士課程まで進みながら、教授と喧嘩して研究室を飛び出し町工場を興している。持ち前の器用さと柔軟な発想を武器に、電気電子機器関係で数々の発明品を創り出し、時に海外からも依頼があるという〝天才〟だった。
 藤村率いる「なにわのエジソン社」を初めて訪れた日のことを、芝野は今でも鮮明に覚えている。
 薄汚れた五〇坪ほどの工場だったが、見たこともない工作機械があちこちに置かれ、ユニークな製品と試作品が山をなしていた。藤村が当時取り組んでいたのは、寝たきりの障害者が自立歩行できる補助器の開発だった。大阪大学人間工学科の助教授と共同で自立歩行のメカニズムを研究し、実際に伝い歩きができるレベルまでは開発が進んでいた。ほかにも、昆虫の羽の動きをヒントにして作った垂直上昇するラジコン機や、ファックスの画像をより鮮明にプリントするノズルの開発なども手掛けていた。
 工場に溢れていた試作品の中で、製品化され採算が取れたのは一〇に一つもなかった。それでも、従業員五人のほか藤村夫人が忙しく働き、年に二度の社員旅行ができるほどには利益を上げていた。(中略)
 融資を依頼されたのは、車のスライドドアが安全かつ滑らかに自動開閉する駆動制御装置の開発だった。もともと自立歩行器の開発のために考案したシステムをスライドドアに応用したものだ。工作や機械系の知識がない芝野は、試作品をテストする際のアシスタント役とコスト管理を主に担当した。頑固一徹に見えた藤村だが、素人である芝野の意見にも熱心に耳を傾け、製品の改良を続けた。顧客から突きつけられる無理難題を克服して製品を完成させた時には、芝野は柄にもなく号泣した。〉

 藤村登喜男は「天才は1%の閃きと99%の汗でできている」というエジソンの言葉を、「1%の閃きがなければ、99%の努力は無駄になる。才能なき者は、無駄な努力をするな──」と解釈する男でした。傲慢とも言えるその解釈こそ、そのまま藤村の生き様でした。
 その藤村の突然の訃報に接した時、
「藤村さん、逝くには早すぎるよ」
 思わず呟いた芝野の中である決意が固まっていきます――藤村が遺したマジテックを守り抜くと心に決めた芝野は東大阪の町工場に身を投じます。
 マジテックにとって、社長の死は同時に会社の死を意味していました。社長兼開発責任者兼営業マンの藤村の急死によって、複数の取引先が発注の一時中断を伝えてきました。そして何より痛かったのは新規受注した部品開発の見合わせで、数千万円という設備投資費がマジテックの経営に重くのしかかっていた。
 債務残高2億4000万円余り。年間売上げは3億ほどあるものの、いかんせん利益率が悪く、金利を返すのがやっとで、何か抜本的な手を打たない限り半年先は真っ暗という状況です。
 マジテックの強みは藤村が遺した独自の技術、なかでも、MG――マジテック・ガードは、さまざまな可能性を秘めた技術として注目を集め始めていました。生まれつき関節が拘縮(こうしゅく)を起こし、四肢が不自由になる先天性多発性関節拘縮症という病で、2歳になってもハイハイどころか、指しゃぶりもできなかった正木希実(まさき・きみ)が、自力でベビーチェアに座れるようになった。右手に鈴を持ち、左手で打って鈴を鳴らすこともできるようになった。藤村が開発した補助器具――希実の関節の動きを助けるために、背骨を補強し、さらに四肢の動きを補正する補助器具MGによって、寝たきりのまま一生を過ごさざるを得ないと思われていた希実の未来に光がさしたのです。
 独自の技術に誇りを持ち、それを社会に生かそうとする強い意志と使命感にあふれたスタッフの存在。マジテックの可能性を信じ、専務としてマジテック再生に取り組む芝野の前に、巨額資金を持つハゲタカ・ファンドが立ちはだかります。
 三葉銀行時代の芝野に不正行為を指摘されて銀行を追われた村尾浩一(むらお・こういち)は、給料半減の浪花(なみはな)信用組合で荒(すさ)んだ生活を送っていましたが、芝野に対する復讐心がすべての支えとなっていました。その芝野が突然、目の前に現れたのです。浪花信組はマジテックに対し5000万円の融資残高を持っている関係です。村尾の胸のうちに、ある計画が浮かびあがります。マジテックの債権を買い集め、芝野が必死で再生しようとしている会社をハゲタカ・ファンドに売り払う――想像するだけで笑いが止まらない村尾・・・・・・。

 ハゲタカ・ファンドの名は、ホライズン・キャピトル。かつて鷲津政彦がトップを務めたファンドです。米国防総省や軍需産業からの依頼で日本の先端技術の買い漁りに動いているという噂も囁かれています。
 マジテックは、そして芝野は、ホライズン・キャピトルに飲み込まれてしまうのか。マジテックが守ろうするMGもまた会社とともに奪われてしまうのか。MGに生きる望みを見いだした障害者の正木希実はどうなるのか。
 絶体絶命のピンチに陥った芝野は、捨て身の反撃を決断します。鷲津も絡んで、予想を裏切るラストシーンへ。
 新聞記者から作家に転じて10年。ジャーナリスティックな視点、問題意識でエンターテインメント作品を世に送り出してきた真山仁は、企業再生ストーリー『ハゲタカ外伝 スパイラル』を次の一行で締めくくります。

〈――カネは毒にもクスリにもなる――。〉(2015/9/4)
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