書籍の詳細

横浜地検の検察官、岩崎紀美子の最初の事件。日弁連の大物弁護士西垣文雄が横浜の自宅で惨殺された。西垣が恨みを買いそうな案件を調べる岩崎は、背後の闇の深さに直面する。検察庁と日弁連の確執、組織の軋轢…… そして東京地検が日弁連に強制捜査に入る事態に発展。孤軍奮戦の若い岩崎にも、脅迫者の影が迫る。日本にもスケールの大きい本格リーガル小説が誕生したと絶賛された乱歩賞受賞作、読みやすい新装版化!

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検察捜査のレビュー一覧

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  • 〈男は、自分の足もとに倒れている老人の死体を強く蹴り上げた。衝撃で小柄な身体がわずかに持ち上がったが、反応はない。まちがいなく絶命している〉中嶋博行『検察捜査』は、冒頭に殺害直後の犯人を登場させ、そこから物語が展開されていくという異色のミステリーです。日本弁護士連合会(日弁連)次期会長の座をうかがっていた大物弁護士が横浜市の自宅で死体となって発見された。西垣文雄、67歳。法制審議会の委員も務める法曹界の重鎮だ。第一発見者は公用車で迎えに来た内閣法制局の秘書官――。〈部屋に足を踏み入れた瞬間、秘書官はよろめくようにあとずさった。乱雑に散らかった部屋の中央に西垣文雄が仰向(あおむ)けに倒れていた。死んでいることはすぐ分かる。秘書官を震え上がらせたのは死体の形だった。四本の手足は別々の方向にねじれ、首も背中の方にまでまがっている。折れまがった首の上から西垣の顔が秘書官をにらんでいた。その顔は、自分の身体に加えられた理不尽なあつかいから生じる激痛にゆがんでいた〉拷問(ごうもん)の跡が残る大物弁護士の死の裏で何があったのか。『検察捜査』は1994年度江戸川乱歩賞を受賞した、中嶋博行のデビュー作品。著者自身、横浜弁護士会に所属する弁護士だけに、司法界のディテールがしっかり書き込まれた一級のリーガルサスペンスとなっています。最近でこそ、検察官による証拠改竄が露見するなど検察の暴走が社会問題化していますが、検察が揺るぎない威信を誇っていた1990年代半ばに、本書は検察の内情にメスを入れた問題作として注目を集めました。検察不信が高まる今日、読み直してみてその先見性に改めて驚きました。大物弁護士の異様な死に、横浜地検は神奈川県警との合同捜査という異例の態勢で臨みます。その担当に指名されたのが任官して2年の若手検事、岩崎紀美子。〈「死因は何ですか」「首の骨を折られている。それが直接の原因だろう。しかし犯人は、西垣を単に殺せばいいと思っていただけじゃないようだ」「というと」「西垣の死体には拷問(ごうもん)のあとがあるんだ。発見した秘書官はいまでも震え上がっている」「・・・・・・拷問。西垣さんの年齢はいくつとおっしゃいました」「六十七歳だ」「六十七・・・・・・」それを聞いて、岩崎は気分が悪くなった。六十七歳の老人が拷問のあげく、殺害されている。犯人は西垣によほどの恨みを持っているか、気の狂ったサディストにちがいない。(中略)「事件が事件だけに、本来であればベテランの検事を担当にまわしたいところだが・・・・・・。きみも知っているとおり、他の者はたくさんの事件を抱えてぎりぎりの状況でね。とても、この事件に専念するわけにはいかない。その点、きみは修習生を担当していたから、フリーの状態だ。西垣の件は、きみに担当してもらおうと思う」岩崎は思わずむっとした表情になった。主席の言葉は、彼女の担当ではいかにも力不足という言い方だった。(中略)「きみが担当になったことは、私から県警に連絡しておく。向こうでは刑事部捜査二課がこの事件をあつかっている。今後の捜査状況は、どんな細かいことでも逐一、報告を入れてほしい。報告は、直接、私のところにもって来るように」佐伯はそう命じると、自分の執務室から岩崎が立ち去るのを見送った。ドアが閉まり、佐伯は天然のオーク材でつくられた年代物のデスクに戻った。彼は机のはしにある電話をとりあげると外線のボタンを押し、短縮で登録されている番号を呼び出した〉横浜地検のナンバー2、佐伯主席の謎めいた言動は事件の鍵のひとつとなっていきますが、ここではこれ以上触れないでおきます。事件担当を命じられた岩崎検事は、過去一年間、司法修習生のリクルート活動に従事してきたが、獲得ゼロという惨憺たる結果でその任を解かれたばかり。検事の辞職が相次ぎ、人員不足の中でやむを得なかったとはいえ、担当事案ゼロの岩崎紀美子に大物弁護士殺害事件の担当が割り当てられた。岩崎は、在職2年にして横浜地検の伝説のひとつとなった型破りの存在です。〈はじめて担当した事件で、決裁権限を持つ主席検事と起訴の方針をめぐって激しく衝突し、岩崎は当時の主席検事から陰険にやり込められた。新人だった女性検察官の目もとには悔しさで涙がこみあげたが、それでも一歩も引かずに彼女は泣きながら主席を罵倒した。それ以来、岩崎の存在は有名になり、早くも横浜地検の伝説のひとつになっている。その後も、彼女のおそれを知らない態度に変化はなく、フットワークの軽さも相変わらずだった。そして、時々、思いつきで行動して失敗した〉行動力を誇る、美しい女性検事はコンビを組む検察事務官とともに、被害者の西垣弁護士の事務所に乗り込んで、彼が担当した裁判記録を片っ端から調べていきます。復讐を考えるほどの恨みを抱き、憎悪の炎がくすぶり続けている存在はいないか――。西垣がいなくなることで得するのは誰か――。浮上してきた日弁連会長選挙との関わり――。重要なヒントと情報をもたらした第一発見者が直後に殺された。西垣と同じように拷問を受けたような死体だった。真相に一歩一歩近づいていく岩崎に、危険が迫る。戦慄のラストシーン――。秋にふさわしい極上のミステリーです。(2013/8/30)
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    投稿日:2013年08月30日