書籍の詳細

「そこ」で働く女性は三〇万人以上。そんな一大産業でありながら、ほとんど表で語られることがないのが性風俗業界だ。どんな業態があるのか?濡れ手で粟で儲かるのか?なぜ女子大生と介護職員が急増しているのか?どのレベルの女性まで就業可能なのか?成功する女性の条件は?業界を熟知した著者が、あらゆる疑問に答えながら、「自らの意思でポジティブに働く」現代日本の風俗嬢たちのリアルを活写する。

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日本の風俗嬢(新潮新書)のレビュー一覧

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  • 独特の語釈で知られる「新解さん」、「新明解国語辞典」(三省堂)で「苦界」を引いてみると、こうあります。くがい【苦界】〔苦痛の絶える時の無い世界の意〕〔仏教で〕生まれ変わり、死に変わりして、救いの無い生活を繰り返すものとしての生物一般の境遇。〔身売りした遊女の境遇の意にも用いられる〕『五番町夕霧楼』は、貧しさ故に京・西陣の色町に売られてきた少女と幼馴染みの青年僧との悲恋――最後は二人が自ら生命を絶つことになる、水上勉の代表作です。繰り返し映像化され、苦界に身を沈めた女のあわれが多くの人の涙を誘ったものですが、いまでは「苦界に身を沈める」「苦界に身を落とす」という言い方は“死語”というべきなのかもしれません。2014年夏に発刊されて以来、注目の新書としてロングセラーとなっている『日本の風俗嬢』(新潮新書)で、著者の中村淳彦氏は言い切っています。〈「お金のために腹をくくって裸の世界に飛び込み、涙を流しながら性的サービスを提供している」といったイメージはすでに過去のものである。〉そして中村氏は日本の女性たちに訪れた劇的変化の歴史的経過をこう説明しています。〈九〇年代から性風俗関連の取材を続けてきた私の感覚だと、ブルセラ世代と呼ばれた一九八〇年生まれが二〇歳になった二〇〇〇年あたりから性の売買に抵抗のない女性は急増した。その後、数年間を費やして一〇代~四〇代の多くにその意識が浸透している。この期間に女性たちは性に対してポジティブになった。「肉食女子」などという言葉が生まれたのも、そのあらわれかもしれない。現在のように性風俗関連の仕事をポジティブに捉える女性が本格的に増えたのは、二〇〇八年の世界不況(リーマンショック)で雇用が本格的に壊れてからである。九〇年代までは性を売る行為は転落の象徴であり、大多数はそこまで落ちたくないという意識がまだ根強かったが、その頃と比べて、意識はまったく変わっている。「自分の才能や技術に対して、男性客が安くはないお金を払ってくれている。誰にも頼らずに生きているのだから、私は平均的な女性と比べても勝っている。むしろ上層にいる」という意識すら見られるのだ。二〇〇〇年代以降は友人の紹介だったり、求人サイトで自分の意思で応募をしたり、繁華街でスカウトされたりと、多くの女性が性風俗にポジティブに足を踏み入れている。志願者が増えすぎたその結果、需要と供給のバランスが崩れ、今は以前のように簡単に商品価値が認められなくなった。つまり、女性なら誰でも参入できるビジネスではなくなったのである。〉かつて水上勉などが描いてきた「苦界に身を落とす」という感覚はとうに薄れ、性風俗の仕事が職業選択のひとつとして意識されるに至った結果、著者によれば日本の風俗嬢はおよそ35万人に達すると推測されるという。推計の詳細は本書をご参照いただければと思いますが、いずれにしても「風俗嬢35万人」という数字には驚かされます。ちなみに彼女たちが大量に流れ込んでいるデリバリーヘルスなど無店舗型第一号営業タイプだけでも1万7204店舗の届出があり(2011年警察白書調べ)、これはセブン・イレブンの店舗数1万6450軒(2014年4月末現在)を上回っています。日本の風俗産業の様変わりする実態に初めて光をあてたのが、本書『日本の風俗嬢』です。著者の中村淳彦氏は1972年、東京生まれ。大学卒業後、フリライターとなって、ノンフィクションやルポを執筆。風俗専門誌の編集に関わり、性風俗やアダルトビデオ関連の取材・執筆を手がけてきました。著書に『名前のない女たち』(宝島社新書。本書を原作とする「まんが 名前のない女たち 企画AV女優―凌辱と金」(上・下)がぶんか社より電子化されています)『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書)『崩壊する介護現場』(ベスト新書)などがありますが、その気鋭ライターが新潮新書編集部の求めに応ずる形で一冊の本にまとめたのが本書です。内容は――「風俗嬢と売春婦は別物なのか」「誰がいつ逮捕されるのか」「裏風俗とはどんなものか」「デリヘルは儲かっているのか」「暴力団との関係はどうなっているのか」「警察との癒着はあるのか」「一般女性が急増している背景とは?」「女子大生はなぜ風俗嬢を目指すのか」「なぜ介護職員は風俗に転職するのか」「主婦はなぜ一線を越えたのか」「実際にどのくらい稼げるのか」――など多岐にわたります。そのなかで、著者は軽々と一線を越えて風俗産業に参入した一般女性の生の声を拾い上げています。驚くべきことに日本を代表する名門大学の慶應義塾大学、神戸大学、千葉大学大学院、東京大学の現役、卒業生風俗嬢が登場して赤裸々に語っています。その中の一人、神戸大学法学部3年の鈴木梨子さん(20歳・仮名)のケースを紹介しましょう。〈鈴木さんは東北地方にある偏差値七〇台の公立進学校を卒業し、神戸大学に進学している。神戸市の大学近くで家賃四万円のアパートに一人暮らし、二年間の授業は皆勤。二年生の夏休みから三宮にあるファッションヘルス、そして専門課程になった今春から福原のソープランドで働くようになった。「一年生のときは、家庭教師と塾講師と携帯販売の仕事を掛け持ちでしていました。家庭教師も塾講師も時給一五〇〇~一八〇〇円くらい。週五、六回働いても一二万円くらいにしかならなかった。公務員試験を受けようと思っているので授業は最優先、かなり無理をしてもそれくらい稼ぐのが限界ですね。風俗を始めたのは、やっぱり親になにも頼れない環境で大学生をしているから」鈴木さんの家庭は、小学生のときに両親が離婚したため母子家庭で生活保護を受給していた。高校は公立、大学進学に関しては受験料から学費、生活費まで親の援助は一切ない。(中略)「親にまったく頼れなくても、国立大学には授業料免除の制度があるので進学が可能です。実際、必要なお金は免除されない分の授業料と引っ越し代金くらい。合格したら家庭の収入を証明する書類をつけて申請して、大学側が予算に応じて誰にするかを決めていくって制度です。だから親に頼れない私立の学生ほど厳しくないけど、やっぱり普通のアルバイトだけだとギリギリの生活するために仕事に膨大な時間が割かれる。勉強する時間も欲しいし、どうしようって考えて風俗しかないかなって」高校時代は進学校の中でも優等生で、男性経験は二人だけ。性風俗についての知識は皆無に等しかったが、大学に通うためにはこれしか道はないと高収入求人サイトで仕事を探し、三宮にある店舗型ファッションヘルスで、すぐに働くようになった。出勤は週三回、平日は学校が終わった後の遅番、日曜は昼番で出勤していた。四〇分一万三〇〇〇円、雑費を引かれて一人につき六〇〇〇円の収入となった。三年生の春から働いているソープランドは一二〇分総額四万五〇〇〇円の高級店で、一人につき二万円の収入となる。「授業のある平日は二本、土日は三~四本くらいですね。ヘルスのときは月収三〇万~四〇万円、ソープの今はたぶん五〇万円くらいかな。四年生になったら時間を公務員試験の勉強にあてたいから、貯金しようと思って先月から福原のソープに転職した。稼ぐには、単価の高いソープの方が合理的ですから。風俗の仕事はそれなりに楽しいし、全然苦痛じゃないです」〉鈴木さんは笑顔で、大学とソープランドを行き来する日常を語ったという。日本の風俗嬢たちは、現代社会の何を映し出しているのでしょうか。(2015/3/13)
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    投稿日:2015年03月13日