書籍の詳細

税金滞納者から問答無用で取り立てを行なう、みんなの嫌われ者――徴収官。そのなかでも、特に悪質な事案を担当するのが特別国税徴収官(略してトッカン)だ。東京国税局京橋地区税務署に所属する、言いたいことを言えず、すぐに「ぐ」と詰まってしまう鈴宮深樹(通称ぐー子)は、冷血無比なトッカン・鏡雅愛の補佐として、今日も滞納者の取り立てに奔走中。納税を拒む資産家マダムの外車やシャネルのセーター、果ては高級ペットまでS(差し押さえ)したり、貧しい工場に取り立てに行ってすげなく追い返されたり、カフェの二重帳簿を暴くために潜入捜査をしたり、銀座の高級クラブのママと闘ったり。税金を払いたくても払えない者、払えるのに払わない者……鬼上司・鏡の下、ぐー子は、人間の生活と欲望に直結した、“税金”について学んでいく。仕事人たちに明日への希望の火を灯す、今一番熱い税務署エンターテインメント第1弾!

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トッカンのレビュー一覧

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  • 〈「帰れー!!」ご近所中にとどろく音量で、本日の訪問対象者、東京都世田谷区尾山台在住、下島絵津子(しもじまえつこ)は怒号をあげた。ドアを開けた彼女は、太くたくましい左腕につやつやとした毛並みの小型犬を抱え、顔はまさに憤怒の形相だ。「あ、あの・・・」対するわたしこと鈴宮深樹(すずみやみき)ときたら、あまりの予想外のお出迎えに、ボーゼンと玄関口につったたままである。(塩・・・、撒かれた・・・)厳しい現実に、その場にへたりこみそうになった。お母さん、あなたの娘はいま塩を撒かれました。出会い頭にその辺のナメクジよろしく。あまりのことに、抗議のコメントすらでてこない〉ライトノベルを数多く手がける女性作家・高殿円(たかどのまどか)が早川書房「ミステリマガジン」に連載した一般小説『トッカン 特別国税徴収官』は、読者を一気に高殿ワールドに引きずり込む、国税局の徴収官vs税金滞納者の対決シーンで始まります。〈「か、帰れって言ってるだろう-!!!」突然、相手にパイプ椅子を投げつける女子プロレスラーよろしく、下島絵津子が髪を振り乱して再び雄叫びをあげたのだ。そのものすごい見幕に、わたしは思わずひっと怯んだ。次の瞬間、足下に何かが降ってくる。――べちゃ。(ん? べちゃ?)音がした。なんだか、考えるだに嫌な音である。わたしは恐る恐る自分の足下を見、そして普通は決して地面に転がってはいないその細長い物体と、そこから漂ってくる香ばしい匂いに仰天した。「ぎゃーっ!!」わたしの視覚が確かならば、それはまさしくたくわんだった。しかもご丁寧にぬか味噌(みそ)に覆われた姿のままだ。それが華麗なる放物線を描いてわたしの頭上に降ってきたのである。な、なんでたくわんが!わたしの頭の中は、一瞬でこの異臭を放ち続けるその漬け物のことでいっぱいになった。ここにくるまで何度となくおさらいした捜索の手順など、完全に吹き飛んでもはや跡形もない〉鈴宮深樹は、25歳。京橋税務署の若手徴収官として、この日、直属上司から、お前ももう一人前だから、一人で行ってこいと仕事を任されてやってきた。一人徴収デビューの日だった。その鈴宮に下島絵津子は雨あられとぬか味噌たくわんの雨を降らせてきた。そのたびに、悲鳴をあげてぎゃーぎゃー言いながらタップダンスを踊る鈴宮深樹。〈(いまだ!)わたしはチャンスを感じた。たくわんが補給されるまでの間、いま突入するしかない。「し、失礼します。下島さん、無駄な抵抗はやめて、ここに捜査許可ののサインを・・・」あちこちにたくわんが散らばる玄関先を突破して、わたしは素早く下島絵津子の元へ駆け寄ろうとした。しかし、ぽと。サインをもらうために広げていた差押調書の上に、なにか冷たい塊(かたまり)が降ってきた。わたしは思わず見上げ、そこにありえないものを発見した。(あ)壺の中に手をつっこんでぬか味噌そのものをかき集め、わたしに向かって投げつけようとしている下島絵津子の姿を。「くらえ、税金ドロボー!!」下島絵津子が長年使用していたのだろうぬか床は、みごとにわたしの額から顔面にかけて命中した。自分でもありえない悲鳴をあげて、わたしは仰向けにひっくりかえった。「いゃああああああああああっ」ごん、と音がして、わたしは後頭部をしこたま玄関ポーチのタイルにぶつけた。空が、青かった〉国税局には、警察をはるかにしのぐ強権が与えられています。警察の取り調べに対しては黙秘ができますが、「質問検査権」をもつ税務署にはできません。国税の花形「マルサ」で有名な査察は、裁判所で強制調査の令状をとり、納税者の同意なしに調査することがきますが、その査察の上を行く力をもつのが、徴収部門です。あまり知られていないのですが、国税徴収法は、日本の法律で最高の強権で、その実態は驚くべきものです。なにせ、裁判所の令状など必要とせずに、問答無用でおしかけていって、金を強奪しても滞納者は何の手出しもできません。本書は、特別国税徴収官(略して特官:トッカン)付きの新米徴収官・鈴宮深樹と彼女の直属上司となるトッカン、鏡雅愛(かがみまさちか)――税金を滞納するあらゆる納税者に対して、問答無用で取り立てる、この世で一番嫌われている存在が主人公の物語です。“京橋署の死に神“の異名をもつ鏡がつけた鈴宮の通称は”ぐー子“。言いたいことをうまく言葉にできないで、「ぐ」と呑み込んでしまうことが多いところから鏡がつけたあだ名ですが、本人の意思にかかわらずあっという間に職場全体に拡がって、ほとんどの同僚が「ぐーちゃん」と呼ぶようになっています。鈴宮は34歳の上司・鏡をひそかに「ハスキー犬」と呼んでいます。ハスキー犬を怒らせて飢えさせ、さらに尻尾を踏んづけたような顔で、つまりハスキー犬もびっくりするほど顔が怖いからです。さらに顔がすごく怖いだけでなく、口は悪いし、デリカシーはない。おまけに女性に対する気遣いもない。はっきり言って人好きするような要素は、この男のどこにもない――と内心、思っている。しかし、仕事はできる、情け容赦なく差し押さえする。なにしろ、鈴宮が下島絵津子のぬか味噌たくわん攻撃にさらされて、仰向けにひっくりかえったところに「なにやっとるんだ、お前は」と現れた鏡は、たちどころに下島が所有するフェラーリに徴収票を貼り付け、クローゼットに収められた衣類ブランド品にかたっぱしから徴収票を貼りまくり、壺、絨毯、カーテンまで金目のものなら何でも――血統書付きの犬まで徴収票を貼り付けていく。「「ぎゃあ、やめて! リリコはあたしの家族なのよ」下島絵津子の悲鳴もどこ吹く風、容赦ない。マンガ原作もこなすライトノベル作家だけあって、二人の徴収官のキャラが立っていて、対する税金滞納者も下島マダムのほか、銀座高級クラブのママなどが登場し、トッカンとの駆け引き、攻防がテンポよく綴られていきます。ほかに同一シリーズ『トッカンvs勤労商工会』もあります。(2013/8/23)
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    投稿日:2013年08月23日