書籍の詳細

「俺とおまえで世界を救いに行こうじゃないか」現代を代表する人気作家ふたりが合作、その化学反応が生み出した問答無用のノンストップ・サスペンス。 世界を揺るがす秘密は蔵王に隠されている! 大陰謀に巻き込まれた小学校以来の友人コンビ。 異常に強い謎の殺し屋と警察に追われるふたり(と犬一匹)は逃げ切れるか。女友達を助けたばかりに多額の借金を背負う羽目になった相葉の手にひょんなことから転がり込んだ「五色沼水」。それを狙う不死身の(ように見える)冷酷非情な銀髪の白人が、死体の山を築きながら彼を追ってくる。五色沼といえ通称「御釜」と呼ばれる蔵王の火口湖、そこは戦後にパンデミックを起こしかけた「村上病」のウィルスで汚染されていて、立ち入り禁止地域になっていた。この水はいったい何なのか。すべての背後にあるのは「村上病」をめぐる秘密らしかった。ウィルスの発生源とされる「御釜」に何があるのか? そして主演男優のスキャンダルを理由に封印された戦隊ヒーロー映画に何が映っていたのか?相葉は逃亡の途中で中学時代の野球部の悪友・井ノ原と再会。ふたりは、太平洋戦争末期に蔵王山中に墜落した米軍機の謎を追う女性・桃沢瞳の助けも借りて謎に挑む。だが事態を解決するためには、あの銀髪の破壊者との直接対決は避けられない―― 平凡な男ふたりが世界を救うために命をかける。その胸にあるのは少年時代の思い出。ちりばめられた伏線が収束し、破滅へのカウントダウンが点滅する中で、白熱のクライマックスに突入する!文庫用に本編の前日譚と後日譚となる書き下ろし掌編小説を、ボーナストラックとして収録!

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キャプテンサンダーボルトのレビュー一覧

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  •  1968年生まれの阿部和重、1971年生まれの伊坂幸太郎。従来のジャンル分けに従えば、純文学とエンターテインメントという異なるフィールドで小説を書きながら、お互いを意識してきた40代の気鋭作家二人が、30代の担当編集者の仲立ちで出会い、その4年後、2014年11月27日に一冊の本を世に送り出しました。
    『キャップテンサンダーボルト』(文藝春秋刊)。師走の出版界で大きな話題となりましたが、それから3年、その注目作が文庫化され「完全版」(阿部和重)となって再配信されました(上・下・合本版、文藝春秋、2017年11月9日配信)。
     二人が初めて会ったのは、2010年6月。出版元の文藝春秋が「本の話WEB」で二人の対談「阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る」(司会・構成:杉江松恋)を公開しています。話題作の内幕が率直に語られていて見逃せません。一部を紹介します。
     伊坂幸太郎の発言――。
    〈嫉妬の話で言うと、春樹(引用者注:村上春樹)さんはもう僕たちよりも二回りも年上の人で、それで日本の小説界の話題を全部持って行っちゃうわけじゃないですか。それは本当にすごいけれど、僕たちもそれに立ち向かわないといけないんじゃないか、という気がしていて。僕はエンタメの人だから、どうしても勝ち目はないんですけれど、阿部和重なら春樹さんと対抗できるんじゃないかと前から思っていたので。だって、『ピストルズ』とか本当に素晴らしい作品ですし。なので、その時に、「阿部さんにこのまま頑張ってほしいんですよ」と伝えたんですよ。そうしたら阿部さんは優しいから(笑)、「いや、ふたりでやろうよ」みたいなことをポロッと言ってくれて。「え?」と思ったら、「何か一緒にやろうよ」と。そのときは具体的なプランがあったわけじゃないんです。だから「『冷静と情熱のあいだ』(引用者注:辻仁成と江國香織の二人が交互連載で完成させ、それぞれのパートが別々の単行本として出版されています)みたいな感じですか?」って、僕はそれほど本気にせずに。〉
     それを受けた阿部和重の発言――。
    〈その時は必然性というか、うまく流れができている気がしたんですね。ふたりの会話によってその必然性が生まれて、やるしかないような気持ちになって。伊坂さんがそれを受け止めてくれて、さらに同じようにやってくれるかは分からないけれど、なんか僕はその時に「いっしょにやろうよ」ってポッと言いたかった。そういう空気がありましたね。あんなこと言っちゃって大丈夫だったのかなと、あとでドキドキしましたが(笑)。〉

     そして半年以上たった2011年3月。阿部和重が担当編集者の三枝亮介(クリエーターのエージェント業を業務内容に講談社出身者によって2012年に創業された株式会社コルク副社長。当時講談社「群像」編集部)とともに、仙台の伊坂幸太郎を訪ねます。

    〈阿部 「あの話を進めたいと思う」と。つまり、まだはっきりと言葉にしていないけど、「ふたりで合作をやりましょう」ということだったんですね。〉
    〈伊坂 世間を驚かせてやろう、とかそういう偉そうなのはまったくなくて(笑)。単にやりたいことがあってワクワクしていただけなんです。言っちゃ何ですけど、僕からすると、人生の思い出になる、というか(笑)。だって、阿部和重と一緒に小説を書ける、なんて、経験できない人がほとんどなんですから。実際に始めてみたらワクワクだけじゃなくてしんどいこともたくさんありましたけど(笑)。〉

     タイトルを決めて1週間後の2011年3月11日、東日本大震災が仙台を襲います。仙台在住の伊坂幸太郎は被災し、二人が再会するのは7月1日。8月30日には阿部、伊坂、三枝の3人で蔵王へ取材に出かけます。運転は伊坂幸太郎。アイデアを語りながらのドライブだったようですが、そのあたりの詳細は、文春ホームページをご覧ください。
     ともあれ、伊坂幸太郎がプロットの表を作り、それに従う形で二人が担当の章を書き、それにお互いが修正を入れ、いじり合って、その結果伊坂の文のなかに阿部の表現が入っていたりする、「掛け値なしに合作と言っていい小説」(阿部和重)が出来上がったという。
    「群像」編集部所属の担当編集者が講談社を退社後も引き続きこの異色企画を支え続けて、完成後に文藝春秋からの発刊をエージェントとして仕掛け、紙版と電子版の同時発売が実現しました。出版界の新しい試みとして多くの注目を集めるのは必然といっても過言ではありません。
     舞台は、阿部和重の出身地である山形県と、伊坂幸太郎(出身は千葉県だが、東北大学を卒業)が現在住んでいる宮城県仙台、その線上にある蔵王。主人公は相葉時之と井ノ原悠。二人は山形の小学校時代に少年野球チームで一緒だった。相葉は多額の借金を抱え母が暮らす実家を手放す寸前に追い込まれて、詐欺師から金をまきあげようと企てるが、ちょっとした手違いから銀髪の怪人に襲われ、逃げ込んだ仙台で井ノ原悠と偶然再会。子供の治療費で金に困っていて井ノ原は小悪党の相葉の資金調達に協力することになりますが、立ちはだかる敵は冷酷非情の銀髪の怪人。正体不明の外国人組織内で「メンター」(指導者)と呼ばれています。怪人が何としてでも手に入れようとしているのは、蔵王の沼の水――。
     無教養を装う女、桃沢瞳が広告業界のやり手、隅田周一に近づいていく場面から、物語は始まります。時は2012年8月27日、場所は東京・新宿駅に近い海外資本のホテルのバー。

    〈やだ隅田(すみだ)さん、わたしの胸見てたでしょ。桃沢瞳(ももさわひとみ)はワンピースの開いた胸元を手のひらで隠し、横にいる隅田周一(しゅういち)に微笑みかけたが、笑顔の奥では男の脳の単純な働きについて考えていた。(中略)
     隅田の頭の中では今、さまざまなデータが処理されているはずだ。目の前にいる女がどの程度の知性を持っているのか、胸の実際の膨らみはどれほどなのか、自分に対してどういった感情を抱いているのか。何より、「今日、ベッドで一緒に寝られるかどうか」を探っている。
     そのことを、桃沢瞳は愚かだとは思わない。
     男の回路が、そうなっているだけなのだ。
     興奮するスイッチの大半が視覚に依存しているのも、まわりに肌を露出した女性がいれば目で追ってしまうのも、男の脳の基本的機能に過ぎない。男が、ガイノイド脂肪の大きさにこだわるのもそうだ。好みのバストの大きさも、若い頃の日常体験や鑑賞経験などの刷り込みによって決まっている。(中略)
    「ああ、そういう側面はあるよね。実は」隅田が意味ありげに口を開いたのは、桃沢瞳が新しいカクテルを喉に通した後だ。「あの、『地平線の猫』ってネーミング、どこから閃(ひらめ)いたかと言えば、ほら、さっき君が言った、東京大空襲と関係なくもないんだ」
     仕掛けておいた釣り針に、ぐぐっと重い反応があったかのような感触を、桃沢瞳は覚える。「わ、それってすごい偶然じゃないですか」
    「大空襲の時にさ、墜落した謎のB29の話を知っている?」
    「墜落したんですか? B29が?」
    「しかも東北にだよ。『東京』大空襲の夜に、『東北』の蔵王(ざおう)に墜落したんだ」
    「なんか謎めいてますね。わたし、そういう話弱いんですよ」
    「弱い?」
    「ぞくぞくしちゃうんです」できるだけ性的な興奮を想像させるような言い方で、桃沢瞳は答える。なぜ、謎のB29でぞくぞくするのか、理屈としては意味不明であるし、さすがに怪しまれたのではないか、と後悔するが、予想に反し隅田は嬉しそうに笑みを浮かべ、得意げに話を続けた。
    「東京大空襲の三月十日にね、なぜか三機のB29が蔵王連峰の不忘山(ふぼうさん)に墜落したんだけれど」
    「蔵王って、東京から遠いですよね?」
    「そりゃそうだね」と隅田は、無教養の相手を小馬鹿にするみたいに息を吐いた。
    「わたし、地理とか弱くて」
    「弱い?」
    「これは、ぞくぞくするんじゃなくて、単に苦手って意味です」
    「墜落した近くに、うちの実家の町があるんだよ。あ、ほら、蔵王って言うより、御釜(おかま)って言うほうが分かるだろ。あのレンサ球菌で有名な。あっちのほうだよ」〉

     B29はなぜ、蔵王の御釜エリアに向かおうとしたのか? これが、阿部・伊坂が物語に仕込んだ一つめの謎です。そして戦後――蔵王付近の人間が高熱とともに倒れ、死に至り始めた際、はじめはジフテリアと診断された。が、ワクチンであるジフテリアトキソイドを接種したにもかかわらず、死者が続き、国内はパニック寸前となった。東大の村上教授が菌を特定して、ワクチンが開発された。その発生源とされた蔵王の御釜は立ち入り禁止となっているが、その村上病はほんとうにあるのか? これが二つめの謎。
     この二つめの謎に絡んでくるのが、三つめの謎、幻の映画「鳴海戦隊サンダーボルト」公開中止のほんとうの理由です。謎を解明した先に見えてくるものはなにか? 御釜の水を執拗に求め、そのためなら人の命を躊躇なく奪う銀髪の怪人の隠された狙いはなにか?そして相葉時之、井ノ原悠、桃沢の3人は銀髪の怪人と、どう闘うのか。起死回生の人生大逆転はあるのか。
     しっかりしたキャラクター造形、スピード感に満ちた展開で一気に読了、そのあとに残る爽快感。もの静かに終わるラストシーンのあたたかさが、いい。(2014/12/26、2017/11/9改訂)
    • 参考になった 2
    投稿日:2014年12月26日