昭 田中角栄と生きた女

佐藤あつ子

講談社/文芸

ジャンル:ノンフィクション

1300円 (税別)

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eBookJapan発売日:2012年06月29日

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〈もうひとつのオヤジとの記憶は「すき焼き」です。お手伝いさんがうちにいて、その人が用意はしてくれるんです。でも食べる段になると母とオヤジが二人で、仲良く作っていました。基本的にはうちの母が味付けはするんですが、オヤジはせっかちだから、脇から手を出して、バーッとお砂糖を入れたり、ジャバジャバッとお醤油を入れるんです。私は横で「あぁあぁ・・・・・・これを食べさせられるのか・・・・・・」と思いながら見ているんですが、食べてみると、案の定私には味が濃すぎて美味しくない。オヤジの味付けは常に濃かった。でも考えてみれば、料理に限らず、何においても「過剰」な人でしたね〉佐藤あつ子著『昭 田中角栄と生きた女』の巻末収録の立花隆との対談で、著者自身がこう語っています。「オヤジ」とは田中角栄、そして「母」は、越山会の女王といわれた佐藤昭、いうまでもありませんが、「私」は田中角栄と佐藤昭、二人の間に生まれた娘、著者の佐藤あつ子です。つまり、この本は、実の娘が身近に見てきた父母の素顔を赤裸々に描いた異色ノンフィクションとして注目を集めています。子供の目に映った田中角栄という人間の「過剰」ぶり。自分の女と娘のいる「家庭」でせっかちな父は、母の味付けを待ちきれずに砂糖をたっぷり入れ、醤油をおかまいなしに注ぎ込む。その過剰なすき焼きを、汗をふきふき平らげていく田中角栄の姿が目に浮かぶようです。佐藤昭の名が広く知られるようになったのは、1974年(昭和49年)10月、雑誌「文藝春秋」11月号に掲載された児玉隆也の「淋しき越山会の女王」がきっかけでした。このレポートは同時に発表された立花隆の「田中角栄研究――その金脈と人脈」とともに、当時の日本社会に大きな衝撃を与え、時の総理・田中角栄は退陣に追い込まれ、表舞台からはひいた形となりますが、裏側では党内最大勢力をほこる田中派を使って政権を操る「闇将軍」として君臨するようになります。闇将軍の金庫番となった越山会の女王のところに田中派代議士が日参するようになっていくのも自然の成り行きでした。そんな父と母を娘はどう見てきたのか――。認知はされないまま、親子鑑定もしていない、その田中角栄を「父」と知らされた頃のことを著者はこう綴っています。〈大井町に住んでいた頃、私の家には鼻の下にチョビ髭を生やしたスーツ姿の「おじちゃん」がよく遊びに来ていた。おじちゃんは私に優しかった。その「おじちゃん」が、ある日、「お父さん」になった。母は私にこう言ったのだ。「これからは『おじちゃん』じゃなくて、『お父さん』と呼びなさい」おじちゃんがお父さんになるというのは、子供心に理解不能だったが、とにかく、おじちゃんはお父さんに変わった。お父さんはその後、どんどん偉くなった。いや、偉くなったかどうかの認識は後からのものであり、世間の見方である。ただ、私はいつも変わらず、満面の笑みを私にくっつけてくるオヤジが大好きだった〉新潟からでて、実業から政治の道に進んだ男と、同じ新潟出身で新橋のキャバレーで働いていたこともある女が歩んだ人生。「なぜ私を生まなければならなかったのか」という問いへの答えを求めて、娘は母と父の足跡をたどり直していきます。手がかりとなったものは、母が遺した数え切れないほどの品々――アルバム、帳簿手帳などが年代順に整理されていたそうです。その中に父からの手紙もあった。田中角栄直筆の手紙です。この手紙に関する著者の文章が「田中角栄の恋文」のタイトルで雑誌「文藝春秋」(2011年11月号)に掲載され、文藝春秋読者賞を受賞。これがきっかけで本書が誕生したわけですから、いうまでもなく角栄直筆手紙が収録されています。著者宛の葉書を紹介しておきます。〈「敦子殿 父より」私の本名が書かれたハガキを見て、突然、懐かしさが胸に込み上げてきた。間違いなくそれは、オヤジ、田中角栄の書いた文字だ。(中略)エアメールの中に、生きたオヤジがいた。「マニラ、マラカニアン宮殿で/マニラは日本の十月頃の陽気であさは涼しい。久しぶりで大統領官邸のゴルフ場で一廻りしました。元気です。出掛けにア子にあいさつ出来なくて失敬。タイに訪問に移ります」〉1974年1月、総理大臣としてASEAN5カ国を歴訪した折に、田中角栄が行く先々で高校生の娘宛にせっせと絵はがきを書き送っていたというのですから「おや、まあ、へー」とうなってしまいます。娘への細やかな心遣いを知れば、いまなお根強い庶民人気があることも頷けます。田中角栄を師とする小沢一郎と越山会の女王が一緒に写った写真も収録されていますが、師・田中角栄にはあって、弟子・小沢一郎にはないものも見えてきます。(2012/8/3)
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