書籍の詳細

陽一が郷里を想うとき、いつも決まって想い浮かぶ情景がある。早春の早い午後、幼い陽一は父の営む理髪店の床の上に座りこんで遊んでいる。ぽかぽかと心地よい陽だまりの床。それはどうやら、かなり幼い日のもっとも心なごむひとときのように思われる…。父が死んだとの連絡を受けた陽一は、郷里の鳥取に帰ることになった。十数年ぶりの郷里はすっかり街並みが変わってしまい、なかなか郷里に帰ってきたという実感が湧かない。それでも実家に近づくにつれ、記憶にある景色が目につくようになってきた──。昭和27年4月、鳥取大火の炎によって焦がされた父と子の絆は!?鬼才が「犬を飼う」「欅の木」に続き、三たび挑む人生の機微!!

総合評価
5.0 レビュー総数:2件
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父の暦のレビュー一覧

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  • 葬儀で初めて知る父の想い
    「鳥取大火」で焼け出され、苦労して家族を養っていた父。しかしそのために仕事一辺倒になり、母や子供との間には次第に溝が出来てしまう。そんな父から離れたく、一人上京して自分の家庭を築いた主人公の男性。郷里にもめったに帰らなかったが、父が亡くなったために久しぶりに帰郷し、そこで親戚らから父の苦労話や思いを聞かされる。
    ほぼ全編が「父の葬儀の場」で、親戚らから聞かされる話で父の歩みを回想する。凄い描き方だなぁ・・・。黙して語らない“不器用な昭和の男”な父への不信が瓦解して、ようやく父の思いが理解できたのが、すでに取り返しの付かない時。
    谷口ジローさんらしい、家族の、人情の、語り口だった。
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    投稿日:2017年02月18日
  • 「ふるさとは遠きにありて思ふもの」と詠んだ詩人がいますが、故郷のある人は、千差万別それぞれの想いがあることでしょう。休暇の度に帰郷する人もいれば、故郷を出て一度も帰ったことがないという人もいるでしょう。『父の暦』(谷口ジロー)は、主人公である陽一が十数年ぶりに、父の葬儀のために故郷へ帰るという場面から物語が始まります。陽一にとって、父の死に直面するまでは故郷や実家はずっと意識の外、というか捨ててしまったような状況でした。もちろん、陽一にとっても「ぽかぽかと心地よい陽だまりの」ような家族の全盛期もありましたが、鳥取大火という災害が発端となって、家族の絆がほころび始めてしまいました。以来、家族に対して心を閉ざしがちとなっていた陽一なのですが、通夜で伯父から聞かされた父の話は陽一の知らないことばかり。父の想いを知ったときには、当人はもうこの世にいなかったというわけです。写実的な描写のなかで、陽一をはじめとした登場人物は淡々とした表情で回顧するのですが、逆にそれが日常的なリアリズムを感じさせます。哀しい場面が少なくありませんが、この物語を読んでいて救われた気持ちになったのは、陽一の妻が父と陽一を比較して伝えた言葉です。この作品を読み終えて、私も自らの「陽だまりの」光景が蘇ってきました。故郷を持つすべての人に読んで欲しいマンガです。(2012/5/22)
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    投稿日:2012年05月22日