花酔ひ

593円 (税別)

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『ダブル・ファンタジー』を超える、衝撃の官能世界!恋ではない、愛ではなおさらない、もっと身勝手で、純粋な何か――。浅草の呉服屋の一人娘、結城麻子はアンティーク着物の仕入れで、京都の葬儀社の桐谷正隆と出会う。野心家の正隆がしだいに麻子との距離を縮めていく一方、ほの暗い過去を抱える正隆の妻・千桜は、人生ではじめて見つけた「奴隷」に悦びを見出していく……。かつてなく猥雑で美しい官能世界が交差する傑作長篇。

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『ダブル・ファンタジー』を超える、衝撃の官能世界!恋ではない、愛ではなおさらない、もっと身勝手で、純粋な何か――。浅草の呉服屋の一人娘、結城麻子はアンティーク着物の仕入れで、京都の葬儀社の桐谷正隆と出会う。野心家の正隆がしだいに麻子との距離を縮めていく一方、ほの暗い過去を抱える正隆の妻・千桜は、人生ではじめて見つけた「奴隷」に悦びを見出していく……。かつてなく猥雑で美しい官能世界が交差する傑作長篇。

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〈服も脱がないうちから、麻子は達し続けた。桐谷の唇に呼吸をふさがれ、桐谷の指で乳首を柔くきつく抓りあげられただけで、頭の中で何度も何度も白い光が爆ぜ、まるで米つきバッタのようにあられもなく腰が跳ねる。どこをどう走ったのか、桐谷が車を乗り入れたのは、閑静な住宅街の奥に突如現れたラブホテルだった。手首をつかまれ、引きずられるようにして個室に入るなり抱きすくめられた。〉〈あっと思った時には、脚を両側へ広げられた後だった。間に腰を割り込ませた桐谷が、手を添えてあてがい、まっすぐに侵入してくる。鈍い痛みと、圧迫感と、それらさえも凌駕(りょうが)する強烈な快感。こらえきれなくなった麻子の口からとうとう悲鳴のような声がもれると、応えるように桐谷までが大きな声をあげた。セックスを、これほど気持ちいいと思ったのは生まれて初めてだった。何度果てても達しても足りなかった。永遠につながっていたかった。眼裏に、さっき見上げた桜が爛漫と咲き誇っては散りしきる。うわごとのように恥ずかしい懇願をくり返す自分の声を、どこか遠くで耳が聞く。止まらない。止めようがない。暴走し、坂道を転げ落ちる快感を、止めるためのブレーキが体のどこにもついていない。〉『ダブル・ファンタジー』(文藝春秋)で女と男の性愛という新境地を切り開いた直木賞作家・村山由佳が、生身の心と身体だけが感知できる「官能」の世界をつきつめた『花酔ひ』の一節です。文藝春秋発行の雑誌「嗜み」「オール読み物」に連載され、単行本として刊行されたのは2012年2月でした。2014年9月、この衝撃作が文春文庫に入り、ほぼ同時に電子書籍で読めるようになりました。2010年、『花祀り』で第1回団鬼六賞の大賞を受賞して小説家デビューした花房観音は、文庫紙版の解説に「想像や知識、視覚だけでは生み出せない〈官能〉を目の当たりにして、私は圧倒された。そこで描かれた色彩の美と、それを纏う女たちと呑まれる男たちの物語に酔った」と書いています。小説に登場するのは、東京浅草の老舗呉服店のひとり娘・結城麻子とその夫でブライダル関係の会社に勤めるサラリーマンの小野田誠司、京都の葬儀屋の娘・桐谷千桜(きりや・ちさ)と、その会社で営業を行う婿養子の桐谷正隆の4人――複雑に絡みあった二組の夫婦が自らの身体の内奥に封印されていた欲望の存在を知ってしまったとき、もはや制御できない欲望にしたがっていった先に何があるのか、内から湧き出る欲望に身を任せて夫婦ではない相手との背徳的な性行為に走った果てに何があるのか。〈〈結城麻子さん、とおっしゃる方はそちらにいてはりますか〉やわらかな京言葉と、低く太い声とのギャップに、麻子はなぜか一瞬、めまいのようなものを覚えて息をのんだ。声からすると四十代くらいだろうか。何の脈絡もなく、店の看板に描かれている鬼の絵が脳裏をかすめる。もしもし、と男は不審げに言った。「失礼いたしました。結城麻子はわたくしですが」気を取り直して答えると、男は「桐谷」と名乗り、電話をかけてきた理由を述べた。先週だったか、骨董業界の集まりに出席するために東京へ出かけたという知人から、あなたのことを聞いた。明治から昭和にかけての古い着物を探していて、品物さえきちんとしたものであればそれなりの額で買い取ってもらえると聞いたが本当か──。そういった内容のことを男は、丁寧ではあるがどこかぶっきらぼうな口調で言った。ぶっきらぼうに聞こえるのは、ざらりと掠れた声のせいかもしれなかった。〉結城麻子は祖父が遺した着物のコレクションを利用して時代着物のショップをオープンしたところだった。〈ちょっと微妙な問題もありますよって、もしおいでになるんやったら、こちらの言うたとおりにして頂かなならん場面もあるかと思うんですが……ほんまにええ着物やら帯やらを探してはるんやったら、おそらく後悔はしはらへんと思います〉という桐谷の突然の申し入れに、麻子は自分でも戸惑うほどの昂揚のかたまりが足もとから突き上げてきて、思わず「わかりました、参ります」と答えていた。〈この男には、どうにもペースを乱される。そもそも、いったい何者なのだ。「失礼ですが、ひとつだけお訊きしてもかまいませんか?」何でしょう、と答える男が、受話器の向こうで軽く眉を寄せるのが見えるようだった。かまうものかと、麻子はひとつ深呼吸をして言った。「桐谷さんも、骨董関係のお仕事をなさってるんですか?」〈いいえ〉「じゃ、どういったご関係の……?」今度は、向こう側でひと呼吸つく気配があった。〈──葬儀屋です〉と、桐谷は言った。〉東京の桜がほとんど散り終わった、ある午後にかかってきた一本の電話で始まった結城麻子と桐谷正隆の交際。二人は一年後、桜が咲き始めた京都で背徳の悦びに身体を震わせる関係を結びます。冒頭のシーンはこう続きます。〈目尻から、涙がひと筋こぼれた。肉体の欲求だけではない。桐谷との間に確かに心が交わされている、そう思えることがこんなにも嬉しく眩(まぶ)しいとは──。「ほんまになんにも知らへんのやな、この体は」静かな声で、桐谷が言った「……え?」「こんなん初めてやと思うてるんやろ。それも、このへんでもう終わりやて」「ち……違うの?」「あほ。まだほんの、とば口やぞ」両腕をついて体を起こした桐谷が、上から麻子を見おろす。「もっと深いこと、知りたいか」麻子は、桐谷の目を見上げた。無言で頷く。「もっといろんなこと、して欲しぃか」こみあげてくる涙をこらえながら、頷く。「そんなら、『欲しい』て言え」「ほ……」──いったい、私は何を。そう思う心は、すでに麻子のものではなかった。「欲……し……」声になったかどうかのかすかなささやきに、桐谷が、再び動き始めた。〉背徳の悦びに走った麻子の夫・小野田誠司と、桐谷正隆の妻・千桜はそれぞれある性的な嗜好とそれゆえの焦がれるような渇望を内に秘めて日々を送っています。麻子と正隆が時代着物の取引を始めてまもなくの頃、京都の千桜が麻子を訪ねてきた晩のことです。仕事を終えて帰宅した小野田誠司は、玄関先で歩けば刺さりそうなほど鋭いピンヒールの靴に目を奪われます。〈しゃがみこみ、ピンヒールの先端を、そっと左のてのひらにあててみた。喉が鳴る。思いきって太ももに押しあてた。ぐっと力をこめる。ズボンの布地越しでも、いくらかの痛みがある。いつかの日傘の女が、この靴を履いて自分を踏みつけているところを思い描く。もっと力をこめて押しつける。ヒールの先が肉に沈んでゆく感覚に、息があがる。半眼になって顔をあげた時だ。すぐ目の前のドアが開いた。洗面所から出てきた見知らぬ女が、ぎょっと立ちすくんで誠司を凝視する。放り投げるように靴を戻しながら立ちあがり、「あ・・・・・・どうも、いらっしゃい。麻子の夫の小野田です」取り繕う声が、みっともなくふるえた。「だ、大事な靴を倒してしまって。すみません」え? と靴に目をやった女がようやく腑に落ちた顔をする。「いいえ、こちらこそすみません、お留守の間に上がりこんでしもて」気を取り直した彼女は、改めてきっちりとお辞儀をした。「お帰りなさいませ。京都の、桐谷千桜と申します。奥様にはお世話になっております」京言葉の柔らかなイントネーションが、誠司の動揺をなだめるかのように響く。(中略)ありがとうございます、と会釈した千桜の視線はしかし、再び、上がりがまちの靴のほうへ流れた。鼓動がはね上がった。千桜は、何か考え込むように自分の靴を眺め、それから誠司に目を戻した。永遠にも思える数秒だった。その数秒で、すべてを見透かされた気がした。あの尖った靴で、何をしていたのかも。まだ妻にさえ告白したことのない、恥ずかしい性癖も。心臓が暴れすぎて息ができないほどだ。罵倒の言葉か、少なくとも無言の軽蔑を覚悟して体をこわばらせる誠司を、千桜がしげしげと見上げてくる。と――ふいに、艶然と微笑(ほほえ)んでよこした。形のよい赤い唇の端だけが、釣られたようにきゅっと上がる。その瞬間。誠司は、この女に狂うと思った。〉島本理生が官能の世界に初めて挑んだ『Red(レッド)』(中央公論新社)など若い女性作家による性愛小説が注目を集めています。そうした潮流の先頭を走る村上由佳の官能世界――麻子と正隆、千桜と誠司、背徳の魂を解き放った4人がもつれあいながら辿りつくのは生か、死か。悦楽と背徳の物語にとっぷりつかってみてください。(2014/10/3)
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