壊れる心 警視庁犯罪被害者支援課
壊れる心 警視庁犯罪被害者支援課

770円 (税別)

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私は今、刑事ではない。被害者の心に寄り添い、傷が癒えるのを助ける。正解も終わりもない仕事。だが、私だからこそしなければならない仕事――。月曜日の朝、通学児童の列に暴走車が突っこんだ。死傷者多数、残された家族たち。犯人確保もつかのま、事件は思いもかけない様相を見せ始める。<文庫書下ろし>

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私は今、刑事ではない。被害者の心に寄り添い、傷が癒えるのを助ける。正解も終わりもない仕事。だが、私だからこそしなければならない仕事――。月曜日の朝、通学児童の列に暴走車が突っこんだ。死傷者多数、残された家族たち。犯人確保もつかのま、事件は思いもかけない様相を見せ始める。<文庫書下ろし>

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書籍の詳細

書店員のレビュー

 これまでに誰も書いたことがない、新しい警察小説が生み出された。多くのミステリファンの注目を集める新シリーズの誕生を予感させる文庫書き下ろし作品、堂場瞬一著『壊れる心』(講談社)です。副題に「警視庁犯罪被害者支援課」とあるように、主人公の村野秋生(むらの・あきお)は刑事の経験はありますが、いまは犯罪捜査を行う刑事ではありません。捜査一課時代に膝を負傷する“出来事”があり、それをきっかけに自ら希望して犯罪被害者支援課へ異動して4年。犯罪被害者の家族たちに寄り添うのが、村野の仕事です。ショックの大きい事件直後や深夜の事情聴取など犯罪被害者の家族に負担を強いるような刑事の行動があれば、捜査の流れをぶった切ってやめさせることさえあります。刑事たちの言葉遣いや態度をただすことも支援課の仕事だと村野は考えています。村野たち支援課は警視庁内の「嫌われ者」となっています。〈「おはようございます」「おはよう」子どもたちが挨拶しながら脇を駆け抜ける。釣られてこちらも思わず返事をしてしまう元気のよさだ。この辺の子どもたちは、きちんと挨拶してくれるから好きだな──大住茉奈は、ランドセルにすっかり隠れてしまいそうな小さな後ろ姿を見やりながら、自然に頬が緩んでくるのを意識した。七か月のお腹が重く、通勤は段々苦痛になってきていたが、毎朝ここで子どもたちの姿を見るのは楽しい。(中略)最初の子を授かるまで、結構苦労したんだから。不妊治療を受けようかと思っていた矢先に妊娠が分かった時の高揚感は、今でも忘れられない。今は、この子を無事に産むことだけ考えていればいい。いつの間にか、お腹に手を当てていた。このところ、これがすっかり癖になっている。いつだって、命の息吹を感じていたい。さあ、急がないと。出産は出産、仕事は仕事。ぎりぎりまで続ける気で、周りにもそれを宣言しているし、遅刻は許されない。茉奈は少しだけ歩くスピードを上げた。「危ない!」誰かが叫んだ。〉命の息吹を感じていたくてお腹に手を当てることがすっかり癖になっていた、出産を間近にひかえた女性を襲った突然の暗転――物語はここから始まります。月曜日午前中、毎週恒例のミーティングが開かれていた警視庁犯罪被害者支援課の電話が鳴った。〈「江東署交通課、逢沢です」「支援課、村野です」交通事故、それも深刻な事故だと判断して、私はスピーカーフォンのボタンを押した。支援課のスタッフは、全部で二十七人。スピーカーフォンのボリュームを最大にしたところで、全員がはっきりと聞き取れるわけではないが、これが習慣になっている。「事故です」逢沢の報告は簡潔だった。「江東署管内で交通事故ですね?」言ってしまってから、言わずもがなだった、と反省する。無駄に念押ししてしまうのが私の悪い癖である。「通学の子どもの列に、車が突っこみまして……」その瞬間、椅子を蹴る複数の音が不協和音のように響いた。早くも何人ものスタッフが立ち上がって、部屋を飛び出して行く。電話を取らなければ自分もいち早くスタートできたのに、と悔やみながら、私は逢沢とやり取りを続けた。優里(引用者注:松木優里=まつき・ゆり。村野の大学時代からの友人。支援課では先輩にあたる)が隣の席で手帳を広げ、メモを取っている。「現場は?」「有楽町線豊洲駅前……都道三一九号線です。小学校のすぐ近く」「被害は?」「現状、登校中の子どもが三人、心肺停止状態」私は、鼓動が一気に早まるのを意識した。逢沢の次の一言が、さらに私にダメージを与える。「詳細不明ですが、通勤途中のサラリーマン二人もはねられ、意識不明の重体です」「クソ!」思わず荒っぽく吐き出してしまった。〉松木優里とともに事故現場に急行した村野は、様子を見た瞬間、息を呑み、唇を引き結んだ。事故を起こした車があり得ない格好でひっくり返っている。潰れたボンネットが道路の方を向いている。歩道のガードレールに衝突して、縦に180度回転したかのようだ。トランク部分も潰れていたが、これは歩道脇にあるマンションに激突したからだと一見して分かる。壁のタイルが剥がれ落ちている……車は、フロントからガードレールに突っこみ、その勢いで、前転する格好でトランク部分からマンションに衝突したらしい。村野はズボンのポケットに手を突っこんだまま、その場に立ち尽くします。警察官になって13年、交通事故をいやというほど見てきた村野にしても、ここまでひどい現場は初めてだった。死亡5名――児童3名、成人2名。2名の成人の1人は、大住茉奈、妊娠7か月でした。そして、事故を起こした男はその場から逃げ去った……。〈「医者は!」ようやくまともな台詞が聞き取れたが、私はそこに危険な香りを嗅ぎ取った。この男がおそらく、大住茉奈の夫なのだろう。三十代前半、細いストライプのスーツに白いワイシャツ、シルバーをベースにしたストライプのネクタイという、ごく普通のビジネスマンの格好である。左手に黒いブリーフケース、右手にスマートフォンというのも、街を歩くサラリーマンの集団に埋もれそうな感じだ。ただし、表情は凶悪そのものである。「医者は!」もう一度叫ぶ。声はかすれていた。「どこだ!」意を決したように、照屋(引用者注:大住茉奈を処置した江東中央病院の医師)が前に出る。白衣の男を見て、夫がいきなり走り出した。まずい──私は咄嗟の判断で、照屋の前に立ちはだかった。同時に、パンチが飛んでくるのが見える。腕が伸び切る前にパンチを受けるため一歩を踏み出し、顔を少し下げて衝撃に備えた。拳が額にぶつかり、激しい痛みが突き抜ける。しかし向こうは、もっとひどい痛みを味わったかもしれない。殴りかかってきた時の様子からすると、格闘技にも喧嘩にも慣れていない、素人丸出しのフォームである。しかも拳は、私の顔ではなく硬い頭にヒットした──力は自らに跳ね返り、手を痛めた可能性もある。(中略)「何だ、あんたは!」男が息巻く。私は額の痛みを堪えるのに精一杯で、何も言えなかった。廊下の端にいた梓(引用者注:江東署刑事・安藤梓。村野と組む。初期支援員として初仕事)が遠慮がちにバッジを示し、「警察です」と告げる。「警察?」男が梓とバッジ、それに私の顔を交互に見た。何とか事情は呑みこめた様子だが、それで医者への怒りが収まったわけでもなさそうだ。「警察が何で……」「犯罪被害者支援課です」ずきずきする痛みに耐えながら、私は何とか説明した。素人パンチだと舐めていたのだが、それなりのダメージは受けている。「ああ」ようやく男が我を取り戻したようだった。それと同時に顔を歪め、自分の右手首を左手できつく掴む。やはり指を折ったのかもしれない。「失礼ですが、大住茉奈さんのご主人ですか?」「そうです。茉奈は?」男の目は、照屋を見据えていた。この時点ではまだ、警察ではなく医師を頼りたいようだ。「残念ですが……」照屋が蒼褪めた表情のままで言った。「子どもは!」男が叫ぶ。「申し訳ありません」照屋が頭を下げた。「手遅れでした」「そんな……」男が膝から廊下に崩れ落ちる。痛めた右手を拳に握り、床に叩きつけた。泣き声は聞こえない。骨折の痛みを自分に負担させることで、涙をこらえているのかもしれない。その姿を見ながら、彼に対するケアは相当厄介なことになるだろう、私は覚悟した。彼は、まるで床が敵であるかのように、拳を叩きつけ続けている。〉梓から「どうして黙って殴られたのか」と問われた村野は「医者を殴らせるわけにはいかなかった。あそこで抑えたら、ご主人の怒りは行き場を失ってしまう。少しぐらい爆発して、発散させた方がいいんだ」と答えています。百の事件には、百通りの被害者の哀しみがある――を信条とする村野と妻と生まれてくるはずだった娘を一瞬にして喪った男の間に何が起きるのか。“6人の命”を奪った「暴走」は本当に過失によるものだったのか。膠着状態の捜査線上に思いもかけない疑惑が浮かび上がり、衝撃のラストシーンへ。村野と梓が歩きながら短い会話を交わす。〈俺は人に二度も命を救ってもらった。だから、この恩は必ず還元するつもりなんだ〉村野秋生が再登場する第2弾を待ち望む気分が一気に高まるエンディングが秀逸です。(2014/9/19)
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