書籍の詳細

材木問屋の若旦那、栄次郎ときたら、いずれ大店を継ぐ安楽な身の上のくせに、他人を笑わせ、他人に笑われ、ちょっぴり奉られもしたいがために、絵草紙の作者になりたいと思い焦がれている。悲しいかな、その才能は皆無なのだが、それを知らぬは本人ばかり。暢気でお調子者の若旦那を主人公としたこの小説、江戸・寛政期の風俗と実在の戯作者たち、洒落や地口を綺羅星のごとくちりばめて、あまりのばかばかしさに読者が吹きださずにはいられない、第六十七回直木賞受賞作の傑作時代小説。

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手鎖心中のレビュー一覧

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  • 井上ひさしさんが逝った――。「むずかしいことをやさしく、そしてやさしいことを深く」を追求しつづけてきた「ことばの人」でした。その井上ひさしさんが直木賞をうけたのが、「手鎖心中」(1972年)です。十返舎一九、曲亭(滝沢)馬琴、式亭三馬ら江戸の戯作者たちの物語で、絵草紙を書いて有名になりたいといって彼らの仲間入りをした大店の若旦那が、親に勘当を願い出、さらにはお上へのあてこすりを内容とする絵草紙を出して手鎖3日間の処分をうけたあげく、洒落に発する誤解から人の恨みをかって殺されるというのが筋書きで、ストリップ劇場浅草フランス座の文芸部員兼照明係として働いた浅草体験が、江戸の戯作者気質の描き方などに色濃く反映されています。また、井上作品の特徴の一つとなっている言葉遊びも随所にでてきます。「女と酒に入れあげて、身上がてんつるてんのすりきりになる・・・」「両親の許さぬ中は鰻なり、無理に裂かれて身をこがすなり・・・」20数年前、週刊誌編集者として対談原稿のゲラを市川(千葉)にあったご自宅に届けたことが幾度かありました。1階のソファで待っているのですが、井上さんがその特徴ある文字でゲラを直して下りてきたときには夜が明け始めていたこともありました。一字一句を大事にする井上さんゆえの「遅筆堂」ぶりでしたが、井上ひさしという作家の姿勢が見事に表れた、いまとなっては懐かしい思い出です。本書「手鎖心中」の最後の場面。いまからは「十返舎一九」と名乗ると宣言した近松与七の心憶え帳には大きな酔っぱらったような字で、「…わたしの行く道は活写。絵草紙を読む人々の毎日の暮しを、髪床や風呂屋での人々の会話(やりとり)を、そして、浮世のすべてを活写すること!」とあります。さようなら、井上ひさしさん。(2010/4/23)
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    投稿日:2010年04月23日