【挿絵収録版】ミカドの肖像

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なぜ、西武グループ創始者・堤康次郎は皇族の土地にプリンスホテルを建てたか?なぜ、オペレッタ「ミカド」が欧米人から喝采を浴びるのか?なぜ、明治天皇の「ご真影」は西洋人の風貌になったのか?世界史の中で「天皇制」を読み解くという壮大な構想のもと、猪瀬直樹が世界をめぐり、膨大な資料を集積して「日本」を解き明かした、渾身ノンフィクション。第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。初版本掲載の石丸千里の挿絵を電子化、復刻収録しました。

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なぜ、西武グループ創始者・堤康次郎は皇族の土地にプリンスホテルを建てたか?なぜ、オペレッタ「ミカド」が欧米人から喝采を浴びるのか?なぜ、明治天皇の「ご真影」は西洋人の風貌になったのか?世界史の中で「天皇制」を読み解くという壮大な構想のもと、猪瀬直樹が世界をめぐり、膨大な資料を集積して「日本」を解き明かした、渾身ノンフィクション。第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。初版本掲載の石丸千里の挿絵を電子化、復刻収録しました。

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書店員のレビュー

 2012年12月16日の東京都知事選を控えて、いまや時の人となった猪瀬直樹さんが、ノンフィクション作家としての地位を確立したのは、大宅壮一ノンフィクション賞受賞(1987年)の本書『ミカドの肖像』によってです。
『天皇の影法師』(中公文庫、2013年7月5日配信)という秀作を発表、一部で注目を集めていた猪瀬さんが「世界史の中で天皇制を考える」という大テーマに挑戦した週刊ポストの長期連載『ミカドの肖像』が単行本になったのが、1986年(昭和61年)の12月。奥付日付は12月20日。当時、週刊ポスト編集部に在籍していて担当編集者だった私にとっては、とにかく12月中に出版しないとその年の大宅賞の対象に入らなくなってしまうという追い込まれた状況でのぎりぎりの編集作業でした。
 翌87年4月、第18回大宅賞受賞の知らせを受けて猪瀬さんの仕事場に駆けつけ、近くのレストランで痛飲した夜のことはいまでもよく覚えていますが、その本が四半世紀を経て電子書籍としてリリースされたのが2012年3月です。
 このイーブックジャパン版にはリフロー版(小学館、2014年10月31日配信)にはない特長があります。文字サイズの変更ができない固定型ですが、電子デバイスに最適化された読みやすい組版に加えて、イラストレーター・石丸千里さんの了解を得て、『ミカドの肖像』に欠かせない、大事な要素であった彼女の挿絵が復刻収録されたのです。リフロー版には石丸さんのイラストは収録されていません。

 とまれ、猪瀬直樹さんの天皇制を問い直す旅は、皇居を見下ろす丸の内の一角に建設が計画された、ある高層ビルをめぐる物語から始まります。
 東京丸の内の一角に東京海上火災保険(現在の東京海上日動火災保険)による東京海上ビルが完成したのは1974年(昭和49年)3月ですが、建築確認申請が東京都に提出されたのは、それよりもずっと早い時期、1966年(昭和41年)10月でした。確認申請から竣工に至るまでに8年もの年月を費やしたわけですが、異常事は時間の経過だけではありませんでした。

〈当初計画は高さ百二十八メートル、地上三十階建て(地下五階)だった。約三十メートルも高さが削られたこと、さらに、計画から完成までに費やされた不必要な時間の長さのなかに、東京海上ビル建設担当者と設計者の苦悶が堆積されている。
 彼らの忘れられた冒険をいま掘り起こそうというのである。冒険とあえて表現したのは、禁忌(タブー)に挑んだがためだった。計画が難航したのも、ビルの高さが当初の計画より低く押さえられたのも、すべて“空虚な中心”から発する奇怪な電波によって引き起こされた結果であった。そこで、電波の発生源を探し求めて歩くことになるのだが、追い詰めるとその都度、発生源は雲散霧消してしまうという不思議な現象にぶち当たった。
 僕は、それを天皇をめぐる不可視の禁忌と呼ぶことにする。
 当時の東京海上社長山本源左衛門は、ビル建設計画推進の責任者も兼ねていた。その証言は、不可視の禁忌という奇怪な現象を、あますところなく表現してはいまいか。〉

 高さ197.6メートルの新丸ビル、179.2メートルの丸ビルが林立する現在の丸の内からは想像できないかもしれませんが、当時の丸ビル、新丸ビルはどちらもピタリ百尺(約30メートル)でした。その一角に皇居を見下ろすことになる100メートルを超えるビルを建設しようというわけです。不可視の禁忌を巡る著者の冒険──山本社長インタビューの一部を引用します。

〈いろいろといきさつがあったようですが・・・・・・。
「ヘリコプターを飛ばしたんですよ。ヘリコプターってのは、そんなに低く飛べませんからね、三百メートルくらいの高さになります。そこから見えるかどうかとね。いろいろな角度から実験してみたんです」
 どちらを?
「あそこですよ。あ、そ、こ。三百メートルもの高さだって見えやしませんよ。見えたって、御文庫の玄関と車寄せのところがせいぜいですよ。覗こうたって覗けるもんじゃありません。そういう実験をしたんだから、大丈夫という自信があった」
 見えないのなら、あちらの方面が反対する根拠はありませんね。
「そう、そうなんですよ。それで、当時の宮内庁長官の宇佐美(毅(たけし)、昭和28年~53年まで長官)さんのところに出掛けた。そして、こういうビルをつくるけれど、いっさい見えないから安心してください、と報告しました。するとそういう話は宮内庁では問題にしてません、と言ったんです」
 じゃあ、誰が問題にするんでしょうかねえ。
「右翼、ということも考えられますから、つてをたどって児玉誉士夫(こだまよしお)さんのところに挨拶に行ったほうがいいんじゃないかと、まあ、そういうことになりまして。児玉さんはこう言ったですよ。“そんなバカなことをね、この時代に言うのが右翼だと短絡するのが困るんだ。天皇さまが、あそこのお庭を歩いているのが見えたりするのも、皇后さまが三越でショッピングできるようになったりするのも、あっていいんだ。そうして国民に親しむのがこれからの皇室のありかたなんですよ”」〉

 自信をもって宮内庁長官に説明をしにいきますが、「そんなことは問題にしない」というばかりで事態は進捗しない。伝手をたよって右翼の児玉誉士夫にも挨拶にいくが、やはりここでも「問題」はない。どこにも「問題」はないのだが、それでも新たな問題が次から次へと発生して、結局8年がかり、高さを30メートル削って、ようやく竣工の日を迎えることができたというわけです。
 東京海上ビル問題への小さな疑問から昭和ニッポンの禁忌(タブー)の存在に行きついた猪瀬さんは、「ミカド」という記号を軸に近代日本の足跡をたどり直したノンフィクションの不朽の名作を世に送り出しました。
 本書に続くシリーズ第2弾『土地の神話』(小学館、2013年4月12日配信)、第3弾(完結編)『欲望のメディア』(小学館、2013年5月3日配信)も併せてお読みください。
(2012/11/23、2018/2/16追補)
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