硝子の葦

1280円 (税別)

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母の愛人だった男が、私の夫。愛なんて最初からなかった、はずなのに。夫の事故ですべてが狂い始めた――。善悪の彼岸へ近づく日常。私たちの“仮面”は崩壊し“怪物”が顔を出す。死ぬって、恰好悪いこと?忘却不能の最後まで、あなたの心は震え続ける!必読のミステリー。読み逃せば、後悔する。間違いなく!

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母の愛人だった男が、私の夫。愛なんて最初からなかった、はずなのに。夫の事故ですべてが狂い始めた――。善悪の彼岸へ近づく日常。私たちの“仮面”は崩壊し“怪物”が顔を出す。死ぬって、恰好悪いこと?忘却不能の最後まで、あなたの心は震え続ける!必読のミステリー。読み逃せば、後悔する。間違いなく!

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書店員のレビュー

〈盆が明けた。厚岸(あつけし)の町に秋風が吹き始めていた。〉『ホテルローヤル』(集英社刊)で2013年(上期)直木賞を受賞した桜木紫乃の長編ミステリー『硝子の葦』の書き出しの一行は、舞台となる北海道の季節感、生活状況を、彼女らしい余計なものを削ぎ落とした文体で表していて、読む者をいきなり物語に引きずり込んでいきます。〈男が腰を下ろしたのは、幅の狭いカウンターに丸椅子が五席という一杯飲み屋だった。客のほとんどがつき出しの煮付けと、その日港に入った魚に銚子数本で満足して帰る。小路の入り口アーチには『すずらん銀座』と書かれていた。もともとは白かったはずの鉄板も、錆で縁取られている。幅五メートルほどの狭い通路の両側に、十軒ずつスナックの看板が並んでいた。営業しているのは通りの両端にある二軒だけだ。好漁だった時代の町には、こんな通りがいくつもあった。〉かつては漁が町を潤し、賑わいをみせていたスナック街も、いまはシャッター街と化し、まだお盆あけだというのに吹きはじめた秋風に“冬”を感じとる・・・・・・。そんな北海道道東の厚岸のスナックで、ひとりの女性が焼死します。〈『すずらん銀座』の中ほどにあるスナックから、鮮やかなオレンジ色の火柱があがっていた。炎は星を焦がさんばかりに黒い煙を押し上げている。男が走り寄ると、『バビアナ』と書かれた看板が熱と煙によってかたちを失った。消防車、と叫んだ女将が走って店に引き返した。男は自分の胸ポケットに入っている携帯電話のことも忘れ、炎の勢いと煙のすさまじさに後ずさりした。木製ドアの隙間から、黒煙が噴き出している。小路の向こう側から『みどり』の店主が走ってくる。男は先ほどまで腰を下ろしていた『たけなか』を振り返った。小路のアーチの下に人影が現れた。アーチ下の人影は左右に揺れたあと、真っ直ぐこちらに近づいてきた。人影は歩調を緩める様子がなかった。男は思わず炎に近づいてゆく者の腕を掴んだ。「中に、人がいるんだ」声を裏返し叫んでいる男を、羽交い締めにする。酔いは目の前の火によってほとんど醒めた。「中に、誰がいるんですか。あなたはこの店の関係者ですか。私は厚岸署の都築と言います」呆然とする男の腕を掴んだまま胸ポケットから警察手帳を取り出した。手帳を見せられた男は瞳に炎を映し、何度も「人がいる」と訴えた。瞬く間に両隣の二店舗が火に包まれる。消防車が到着する頃には既に、両側へ広がった炎は容赦なく小路の店舗を呑み込んでいた。「失礼ですが、あなたのお名前とお仕事、住所をお聞かせ願えますか」都築は彼を観察しながら、途切れがちに返ってくる質問の答えをメモした。『澤木昌弘 四十歳 税理士 釧路市にて会計事務所を経営』建物の中にいるという人物が誰かを訊ねた。都築はじっと澤木の唇が動くのを待った。〉火災現場から発見された性別不明の遺体は、澤木の証言から「幸田節子 三十歳」と発表されます。幸田節子は釧路でラブホテルを経営する幸田喜一郎の妻。この時、喜一郎は交通事故で意識が戻らない状態で、節子は担当税理士の澤木とともに厚岸の実家に来ていたのだ。釧路に帰ろうと、澤木が運転して車を出したところで、忘れ物をとりにいくと言って、節子が車を降りて実家に戻り、そこで爆発火災が起きた。〈現場検証により、火元は『バビアナ』の奥にある住宅の居間部分と特定された。遺体の状況から、自らガソリンをかぶって火を点けたと思われた。発見されたとき既に遺体は黒い骨となっており、爆風や崩れ落ちた建物のせいですべてを拾いきることができなかった。確認のためにやってきた澤木昌弘は、かき集められたものを見てもまだ何が起こったのか分からない様子だった。都築が彼女との関係を訊ねると、澤木は顔を上げ睨むような眼差しで言った。「彼女が置かれていた状況を理解していましたから、これから先は僕が支えるつもりでした」(中略)「こうした選択をほのめかすような言動に、お気づきじゃなかったですか」「突然、ご主人の会社を従業員に譲渡したいと言い出して、そのあとに厚岸へドライブに誘われたんです」厚岸に誘われた理由に心当たりはないかと訊ねた。「ここが自分の生まれた家だと言って古いアルバムを見せてくれました」澤木昌弘のひとことは、幸田節子の覚悟を推し量る大きな要因となった。それ以上の質問を都築はしなかった。「あなたは、自分の命があることを感謝しなくちゃ」何気なく呟かれた刑事の言葉は、心の内を透かし見せることとなった。都築は幸田節子がこの男を巻き添えにするつもりで厚岸にやってきたという推測が大きく外れていない確信を得て、『バビアナ』の火災に関する事情聴取を終えた。〉『バビアナ』のママである節子の母は、かつて喜一郎の愛人だった。節子は二十歳の時に喜一郎の紹介で澤田の面接を受けて、会計事務所の事務員として働き始めた。そして5年後、25歳の節子は喜一郎と結婚します。母の愛人を奪った形ですが、二人が男女の仲であることに澤田が気付くのは、節子と関係をもって1年近く経ったころでした。澤木は男で、幸田喜一郎はパトロン、というのが澤木が自分に与えたひとつのいいわけだった。幸田節子の死は、警察が結論づけたような、自殺だったのか――。夫の喜一郎が交通事故を起こしたのは、厚岸の節子の実家に近い場所だった。なぜ、そんな場所で? 頭蓋骨が陥没し、手術によって一命をとりとめたものの、意識が戻る可能性はほとんどないという。夫の病室に通う節子の心の奥底には、夫は母の元に行っていたのではないか、結婚後も夫と母の関係は続いていたのではないかという疑念が生まれていきます。幸田節子の謎めいた行動がもうひとつ。節子が参加する短歌会のメンバー、佐野倫子。いつも小学2年生の娘、まゆみを連れてきます。二人は幸せそのものを演じていますが、節子はまゆみの腕に内出血痕を発見します。指先でつねったものだ。幼い頃、節子の手足にも紫から黄緑、黄色と色とりどりの内出血痕が咲いていた。そして――夫の病院の玄関を出ようとした節子は、ふと、通り過ぎた景色の中に視線を感じます。自販機の前、ひとりですわっていたまゆみと目が合った。〈まゆみはジーンズのポケットから紙切れを取り出し、精一杯手を伸ばして節子に差し出した。受け取るのを躊躇(ためら)っていると、少女が頭を下げた。『少しのあいだ、この子をあずかってください。私の携帯は使えない状態です。必ず迎えに行きますので、どうかお願いします』〉まゆみの着ているTシャツの肩口に血が滲んでいるのをみつけた節子は、襟を肩の方へ少しずらした。白いガーゼがあてがわれていて、その下からは何か角のあるもので叩かれたかのような裂けた皮膚があらわれ、腫れて熱をおびていた。「その傷、お母さんがつけたの?」との問いに、まゆみは首を振り、「では、お父さん?」と訊ねると、黙り込んだ。佐野倫子はいったい何を思ってまゆみを節子に押しつけてきたのか。倫子の家庭でいったい何が始まろうとしているのか。序章で描かれた「節子の死」は、このまゆみを押しつけられた数日後のことで、このクライム・ノベルは心うつラストシーンに向かって一気に動き始めます。お盆明けの秋風の季節に始まった、行き場のない孤独な女と男の物語は、雪が舞う冬になって終わります。〈大粒の雪が、擦れあいもつれあいながら落ちてくる。すべてを白く塗りつぶし、降りしきる。〉「すべてを白く塗りつぶし」のフレーズがこの傑作ミステリーの思いもかけぬ結末にこめた桜木紫乃のモチーフを象徴しているようです。(2014/6/27)
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