書籍の詳細

青春の思い出を語り合うだけのはずだった。同窓会で再会した洋輔ら四人は、旧交を温め合ううちに、かつての体罰教師への仕返しを思いつく。計画通り暴行し置き去りにするも、教師はなぜか別の場所で溺死体で発見された。犯人は俺達の中にいる!?互いへの不信感が募る中、仲間の一人が殺されて……。衝撃のラストに二度騙される長編ミステリー。

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仮面同窓会のレビュー一覧

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  •  大藪春彦賞受賞作品『犯人に告ぐ』(双葉文庫)で知られる気鋭ミステリー作家、雫井脩介の最新作『仮面同窓会』が書店平台に並んだのは2014年3月、電子書籍になってリリースされたのは1か月ほど前の2014年6月13日でした。400字詰め原稿用紙で554枚、しかも書き下ろしの大作が紙版発行から3か月ほどで電子書籍で読めるようになったわけです。
     紙版の帯には「幻冬舎創立20周年記念特別書き下ろし作品」とあり、出版社、著者ともに力の入った作品であることをうかがわせます。雫井脩介は、最新作にどんな仕掛けを仕込んだのか。
     物語は、冒頭近く、二人の男女の出会い――再会シーンから動き始めます。

    〈「あの、すみません」
     狐狸山駅の駅舎を出て、駅前広場の歩道を歩いているところに、同じ通勤帰りらしいOL風の女性が声をかけてきた。
    「もうすぐ母が車で迎えに来てくれることになってるんですけど、向こうに変な男の人がいて心細くて……」
     洋輔はその女性の困り果てたような顔に、高校時代、片思いをしていた子の面影を見つけてはっとする。〉

     洋輔(新谷洋輔=しんたに・ようすけ)は、大学を卒業してから名古屋にあるシステムキッチンメーカーの営業の仕事に就いた。実家を出てアパート住まいをしている。声をかけてきた女性は洋輔と地元の狐狸(こり)山高校の同級生で、洋輔は彼女にひそかに恋心をよせていた。およそ10年ぶりで再会した彼女はくりっとしたアーモンド形の目に、高校時代の瑞々(みずみず)しさを今も残していた。

    〈直感はほとんど確信に近いものだったが、彼女のほうはまったく洋輔に気づいていないようだった。洋輔としてもまさかという思いもあり、また、彼女の話が少々不穏な空気をまとっていたこともあって、とりあえず意識を向けたのは、彼女が言う「変な男の人」のことだった。
     彼女がちらりと視線を向けた駅前広場には、一人の男がベンチに座っている姿があった。(中略)
    「いいですよ」
     洋輔が男気を見せて請け合うと、彼女は心底ほっとしたように胸を押さえた。
    「ありがとうございます。急いでいるとこ、本当にすみません」
     そう言って頭を下げる彼女を改めて見てから、洋輔は問いかけてみた。
    「あの……もしかして、竹中さんじゃない?」
     すると、彼女はきょとんと目を丸くし、洋輔をしげしげと見返した。
    「覚えとらんかもしれんけど、俺、狐狸高で一緒だった新谷……」
    「え……新谷洋輔くん!?」〉

     高校時代の憧れの子は今、髪をほんのり栗色に染め、ヒールの似合うキャリアウーマン風のいい女になっていた。
    「高校んときだって、そんなに話したことなかったし、むしろ、俺のこと憶えとるほうが驚きで」洋輔がそう言うと、美郷は心外だという感じで「憶えとるよ。球技大会でボールを顔にぶつけて保健室に運ばれたじゃない」と言い返します。保健室で手当をしたのが、保健委員の美郷だった。
     洋輔が美郷を意識するようになったのも、その時のことがきっかけだったのだが、美郷の記憶に自分の存在がそこまで細かく残っているとは思っていなかった洋輔は、ストーカーにつきまとわれて頼ってきた美郷を守ろうという気持を強めて、近づいてくる男を見つめます。
     洋輔たちと同じくらいの年格好で、野球帽を後ろ向きにかぶり、茶色に染めた髪を耳を覆うところまで伸ばしている。目は切れ長で鼻筋も通った整った顔だちである。しかし、その目つきは鋭く、穏やかではない。ポケットに手を突っ込み、ガムを噛みながらふらふらと歩いてくる様子を見ても、安易に近づいてはいけないタイプの人間だというのは明らかだ。
     洋輔の肘をつかんだ美郷の手にも緊張しているような力がこもる。

    〈「来んといてよ」美郷が震える声で言う。
     男の眉が小さく動く。彼女の言葉が変に男を刺激してしまうような気がして、洋輔は彼女を自分の背中のほうに引き寄せた。(中略)
     男が一歩こちらに踏み込んだのを見て、洋輔はぴくりと身体を動かした。いよいよかと覚悟する気持と裏腹に、あまりの緊張感に意識が薄れそうになる。
     しかし、洋輔が反射的に構えたことに相手も反応し、男は逆に一歩退がっていた。
    「じょ、冗談に決まっとるだろ……」
     男は一転、警戒した顔つきになって、慎重な物腰を覗かせた。
    「本気にすんなて」
     そう言って洋輔を疎ましげににらみ、不本意ながらもそうするしかないというように、洋輔たちから離れていく。何度か振り返ったが、やがて小走りになって駅前広場から姿を消した。〉

     その後の3週間、洋輔と美郷の距離は順調に縮まっていきます。“偶然の再会“をきっかけに“高校時代の片思い“の相手だった美郷と付き合い始めた洋輔は、高校同窓会があった日の夜、旧友たち3人と裏路地のジンギスカン屋で落ち合った。洋輔はそこで彼らから体罰教師への復讐を持ちかけられます。
     八真人、希一、和康に洋輔を加えた4人は、小学校、中学校、高校まで仲よく進んで、遊びでもよくつるでいた仲間で、とくに高校時代には管理教育派の一人の教師から生活指導の名の下に繰り返し体罰を受けた記憶を共有しています。その体罰教師・樫村の十八番(おはこ)が天突き体操だ。しゃがんだ状態から、「よいしょ-!」の掛け声とともに両のこぶしを天に伸ばして立ち上がる。樫村は竹刀を手に声が小さいと叱って自ら「よいしょー!」と馬鹿でかい声を上げて、洋輔たちにできるまで繰り返すことを強要する。もともとは刑務所で囚人に課されていた体操で、洋輔は自分の高校生活は囚人並みだったと思えてこの天突き体操が大嫌いだった。
     高校を卒業してから10年、フツーに暮らしてきた20代後半の若者たちはいたずらをするような思いで二度と「平穏な生活」には戻れない復讐劇へとルビコンの川を渡ります。

    〈「樫村、やろうぜ」
    「え……?」
     意味は分からないものの、何かただ事ではない提案をされているのは感じ取れ、洋輔は顔を強張らせる。
     そんな洋輔を、希一は凍ったような笑みを浮かべたままじっと見ている。
    「お前だってそういう気持はあるんだろ。やっちまおうぜ」
    「やっちまうって……何を?」
     洋輔の反応を楽しむように、希一の笑みが大きくなる。
    「何も殺すとかそういうことじゃねえから安心しろよ。ただ、高校時代の借りを返そうぜってことだ」〉

     その日以降、彼ら4人は毎週のようにジンギスカン屋に集まって体罰教師拉致計画を練り上げていきます。ジョギング中の樫村を拉致して閉鎖された工場廃屋に連れ込んで、高校生の自分たちがやらされた屈辱的な天突き体操を当の樫村にやってもらおうという計画は「仮面同窓会」と命名されます。やはり自分たちが樫村から受けた水攻めやいたずらグッズによる電気ショックを与えようなどと、中学や高校時代にちょっとしたいたずらを誰かにしけようとしたときと同じような感覚で話が繰り返され、「仮面同窓会」計画の内容が固められていき、6月の土曜日、実行に移されます。
     雨の中をジョギングしてきた樫村に4人でとりついて、ガムテープで口と目をふさぎ、さらに腕もテープを巻き付けていき、体の自由を奪ってナンバープレートにカバーをかけておいた洋輔の車に押し込む。そして、夕闇の中を工場廃屋へ。4人は体罰教師に天突き体操をやらせてさんざんいたぶった。サソリと称したビリビリペンを体にあてて樫村を半狂乱にさせた。そして、再びガムテープでがんじがらめにしたうえで、樫村を雨の中に放置した。
     洋輔たち4人の復讐劇「仮面同窓会」はそこで終わったはずだった。翌日の日曜日、出勤した洋輔は勤務を終えて狐狸山駅に着いたところで、八真人に電話をかけた。その晩、「仮面同窓会」の打ち上げをやる予定だったのだ。しかし洋輔は電話に出た八真人から「これから希一たちとお前のところに行っていいか。樫村、死んだらしいぞ」と知らされる。樫村が死体で発見されたのは洋輔たちが放置した場所とは1,2キロ離れた溜池だった。いったい、「仮面同窓会」のあとで何があったのか。誰が樫村を殺したのか。
     旧友4人の間に疑心暗鬼が生まれていくのは自然な流れでした。そして、洋輔を心配する美郷、洋輔と美郷の“偶然の再会”のきっかけとなった危険な匂いのする男がからんで予想もしない結末に向かって物語は一気に加速していきます――。(2014/7/18。なお2016年8月5日、待望の文庫本版が紙書籍と同時配信されました)
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    投稿日:2014年07月18日