司法記者

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地検特捜部が追うゼネコン汚職事件は中央政界にも波及していた。元国交相の収賄疑惑という大スクープの直後、掲載紙の美人記者が絞殺された。逮捕されたライバル紙記者は殺人容疑を全面否認、何かを隠し沈黙する。悲劇の裏に潜むのは、スクープを求める記者の意地と、「正義」と銘打たれた特捜部の横暴で杜撰な捜査だった。記者が守る「秘密」を唯一知る特捜検事は、己が所属する「日本最強の捜査機関」との対決を決意する。

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地検特捜部が追うゼネコン汚職事件は中央政界にも波及していた。元国交相の収賄疑惑という大スクープの直後、掲載紙の美人記者が絞殺された。逮捕されたライバル紙記者は殺人容疑を全面否認、何かを隠し沈黙する。悲劇の裏に潜むのは、スクープを求める記者の意地と、「正義」と銘打たれた特捜部の横暴で杜撰な捜査だった。記者が守る「秘密」を唯一知る特捜検事は、己が所属する「日本最強の捜査機関」との対決を決意する。

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〈ねっとりした靄の中、女が浴槽の外から中に頭を突っ込むようにして倒れていた。八分ほど満たされた湯の中で、女の頭は仰向けになって、のけぞるように完全に水の中に沈んでいる。上半身には長袖の白いブラウスがぴったりと張り付き、その周囲を黒い長い髪が水草のようにたなびいていた。下半身は黒っぽいスラックスで、すらりとした足が浴槽からこちらに向けて、二本の棒のように突き出している。その片足のあたりの洗い場に、その女の物らしい大ぶりの黒いバッグが見えた。立ちすくんでいる永田を突き飛ばすように、竹ノ内は女の体を抱き起こし、洗い場に仰向けに寝かせた。女は目を一杯に見開き、口元を苦しそうに歪めている。脈はなく、胸に耳をあてても、何も聞こえない。ただ濡れた服を通じて、浸かっていた湯の生暖かさだけがじわりと伝わってきた。竹ノ内は女の首の回りの赤いあざを指さしながら、目を上げて永田に言った「絞められた痕だ」(中略)目と目が合い、視線が絡んだ。草食動物のおびえた目。竹ノ内が声をかけようとした瞬間、男は目を見張ったまま、首を大きく振り、糸が切れたように、その場にしゃがみ込んだ。「こんな馬鹿な。何かの間違いだ。俺は知らない。本当です」その腕を掴んで浴室の中に入らせ、肩を押さえながら「この女に見覚えは」と聞く。男は口を大きく開け、「あっ、桜井さん!」と叫び、そのままへたりこんだ〉WOWOWでドラマ化された「トクソウ」原作『司法記者』の冒頭シーン――竹ノ内、永田の二人は、「女性の悲鳴が聞こえた」という110番通報をうけて駆けつけてきた神奈川県警港北警察署地域課の巡査。「男」は東西新聞社会部記者の岡野靖之。岡野のマンション浴室で死んでいた女は、桜井智子。毎朝新聞社社会部記者で、二人はともに検察を担当する司法記者クラブ詰めの新聞記者です。最新の電子式の鍵がつけられていて、ピッキンッグは不可能な密室での犯行ということから任意同行を求められた岡野靖之は、3日後、桜井智子殺害の容疑で逮捕されます。全面否認で動機もいっさい不明のままの逮捕状の執行だった。逮捕事実を読みあげた取調官に何か言いたいことはあるかと問われても、岡野記者は事件当日以来繰り返し述べてきたことをそのまま繰り返します。〈「まったく身に覚えがありません。私が自宅に帰って着替えをしようとしていたところに、警察官がやってきて、その後、桜井智子さんの死体が風呂場で発見されたのです。私は、それまで、風呂場に彼女の死体があることなど知りませんでした」〉刑事の直感とでもいうのでしょうか、何か隠していると感じた取調官はその時司法記者が皆追いかけていたゼネコン汚職を話題に出して「その事件の取材のことで何かあったのではないか」と水を向けてみますが、岡野は関係を否定するばかりです。〈「・・・私は新聞記者です。取材したことは、記事を書く目的以外では、絶対に話すことはできません。それに、その汚職事件のことは、桜井さんが殺された事件とは関係があるわけないんです」〉手詰まりの捜査本部は、結局岡野記者以外には部屋に入ることができないということだけを根拠に逮捕に踏み切ります。いわば窮余の一策で、任意の聴取から逮捕に切り換えることで落とす(自供させる)という賭けに出たわけですが、司法記者である岡野記者もそれは当然予測できることで、それでもなお供述を変えることなく、甘んじて逮捕という事態を受け容れていくのは何故なのか。いったい何を守ろうとしているのか――一つの殺人事件から始まる物語は、ここから東京地検特捜部が立件を目指す大手ゼネコンと政界を舞台とする贈収賄事件につながっていき、主人公の織田俊哉検事(WOWOWドラマでは吉岡秀隆が演じています)と東京地検特捜部副部長・鬼塚剛(三浦友和)が逮捕したゼネコン幹部の取り調べ方針をめぐって衝突し、織田検事はゼネコン贈収賄事件の捜査、ひいては特捜部のあり方そのものに深い疑問を抱くようになっていきます。鬼塚副部長に対して捜査の方向性について進言したものの、けんもほろろに追い返された織田は深夜、信頼する先輩検事、道上文雄を部屋に訪ねます。〈「あのね、織田。特捜部の捜査って、そんなに立派なもんじゃないよ。おまえは何かさ、少し幻想を抱き過ぎているんじゃないか」驚いた。「そうなんですか」(中略)道上はゆっくりと煙を吐いてから天を仰ぎ、やれやれと、口の中で小さく呟いた。「だから、割るといったら割るんだ。何が何でも自白させる。特捜部の看板で、相手を力ずくで押しつぶすというやり方しかできないということだ。ある先輩が言ってたけど、『ここの仕事は、国立大学を出た頭ではついていけない。私立文系の体育会系の頭じゃなければダメ』ってことさ」「そんなことで、日本最強の捜査機関って言えるんですか」〉著者の由良秀之氏は、巻末の略歴によれば「東京大学卒業、民間会社勤務を経て、1983年検事任官。東京地検特捜部、法務省法務総合研究所等に勤務。2000年に退官、弁護士登録。大学教授として研究・教育にも従事」とあります。じつは「由良秀之」はミステリー作家としてのペンネームです。由良氏は、略歴にある通り、現在弁護士として活躍している郷原信郎氏です。郷原氏は東京地検特捜部や公正取引委員会などの経験を持ち、地検次席検事時代には、検察自らが事件解明に動く独自捜査を推進するなど、検察のあるべき姿を追求した人物です。それだけに退官後、頻発した特捜検察の暴走ともいうべき事件には厳しい論陣をはったことは記憶に新しい。一方、大阪地検特捜部の証拠改竄事件では、被告となった大坪弘道元特捜部長の弁護人に名を連ねています。検察不祥事を個人の問題に還元しようという組織の姿勢に異議を唱えようという考えからでしょう。とまれ、郷原信郎氏は作家デビュー作『司法記者』で、身をもって知り抜いた特捜検察という組織の病理――巨大な権力を持つ組織、そこに蠢く人間たちの功名心、出世願望、保身感情、そしてひとりよがりな「正義感」の行く末をあますところなく、克明に描き出しました。その意味、価値は単に元検事が書いた検察の物語にとどまりません。それはタイトルに検察を取材対象にする新聞記者をもってきたところに現れています。それによって検察という狭い世界の中の物語にとどまらず、フィクションとしての可能性が広がっていったといっていいでしょう。ブームの「警察小説」に並ぶ、新たな「検察小説」の誕生です。電子版未収録ですが、作家の雫井脩介氏は同時発売の紙の講談社文庫版に解説をよせ、こう評しています。「作家がいい小説を書くためには、想像力の翼を存分に羽ばたかせないといけない。しかし、あまりに知りすぎた世界であると、その羽ばたきが鈍ってしまうのだ。本当はこんな人間はいない。書類仕事で一日が終わってしまうのが実情だ・・・・・・等々、現実を知っているがゆえに、原稿の上にフィクションとしてのその世界を広げられないことが出てくるのである。そこで由良氏は、特捜検事の周辺にいる司法記者を引っ張り出し、彼らを動かすことによって物語の推進力を得ようとした。(中略)物語を最後まで読めば、タイトルが『司法記者』であることもなるほどと腑(ふ)に落ちるだろうし、殺された者を含めて、それぞれの司法記者が血肉の通った人間として描きこまれていることにうならされるだろう」ミステリー作家・由良秀之の次作が今から待ち遠しい。(2014/6/6)
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