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韓国の歴代大統領のほとんどが平穏な余生を過ごせていないという事実を知っているだろうか。収監、亡命のみならず殺害された者もいれば、自殺に追い込まれた者もいる。コリア・レポート編集長がその内実を明かす。

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大統領を殺す国 韓国のレビュー一覧

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  •  4月16日、韓国南西部の珍島(チンド)付近で発生した旅客船セウォル号の沈没事故を境に朴槿恵(パククネ)大統領の支持率が急落しているという。修学旅行の高校生ら200人以上の死者を出す最悪の事故の原因究明は今後の捜査を待たなければなりませんが、沈没しつつある船に乗客を残したまま、船長以下の乗員が脱出していたこと(責任を問われて逮捕されています)や、そもそも定められた以上の荷物を積み込む過積載などの安全運行の軽視などが次々に暴露されて、遺族はいうまでもなく、韓国国民の多くが国の有り様に対して大きな失望を感じ、政権に対する批判を強めていくであろうことは想像に難くありません。朴槿恵大統領自身、初期対応の不備を遺族や国民に謝罪するなど収拾に努めていますが、政府批判の声は高まる一方のようです。ここで注目すべきは、韓国が議院内閣制の日本とは違って、国民による直接選挙によって選ばれる大統領制であるという点です。朴槿恵は2012年の大統領選挙で勝利して2013年2月大統領に就任しました。任期は2018年2月まであり、事故の責任を厳しく追及されている現在はまだ任期の半ばにもきていません。にもかかわらず、朴大統領の去就に注目が集まるのには理由があります。第18代大統領である朴槿恵の父は3人目の大統領の朴正煕(パク・チョンヒ)です。朴正煕は在任中に側近中の側近、韓国の情報機関KCIA(韓国中央情報部)部長に銃殺されました。こうした非業の死をとげたのは朴正煕だけではありません。韓国の大統領のほとんどすべてが、退任後、在職中の「罪」を問われ、暗殺、自殺、亡命、隠遁、逮捕、死刑宣告といった形で、政治家としての「死」を迎えているのです。この歴史的な事実に着目して、その背景と韓国社会の先行きを検証したのが、今週紹介する『大統領を殺す国 韓国』です。著者の辺真一(ぴょん・じんいる)さんは、1947年東京都生まれ。明治学院大学卒業後、新聞記者を経てフリーのジャーナリストとして活動。1982年、朝鮮半島問題専門誌『コリア・レポート』を創刊。紙媒体のみならず、テレビやラジオなど幅広いメディアで評論活動を展開するコリア・ウオッチャーです。本書の冒頭に「歴代韓国大統領一覧」と題した表があります。一人目(第1代~第3代)の李承晩(イ・スンマン)から十一人目(第18代)の朴槿恵まで歴代大統領を顔写真付きで一覧にしたものですが、在任期間の下の「状況欄」が面白い。以下に就任順に抜き書きしてみます。[1]李承晩(イ・スンマン)学生革命で失脚→亡命 [2]尹〓善(ユン・ボソン。〓は日本語の漢字にない文字)軍事クーデターにて辞任 [3]朴正煕(パク・チョンヒ)在任中に暗殺される [4]崔圭夏(チェ・ギュハ)クーデターにて辞任 [5]全斗煥(チョン・ドゥファン)退任後に死刑判決(無期懲役に減刑、その後に特赦) [6]盧泰愚(ノ・テウ)退任後に懲役17年(後に特赦) [7]金泳三(キム・ヨンサム)自宅軟禁状態(本人談)次男逮捕 [8]金大中(キム・デジュン)一族の不正で三人の息子が逮捕 [9]盧武鉉(ノ・ムヒョン)退任後に自殺 [10]李明博(イ・ミョンバク)実兄が逮捕、本人も不動産購入における不正資金疑惑 [11]朴槿恵(パク・クネ)? どうでしょうか。最高権力者たちがその任を退いたあとは必ずと言っていいほど、断罪されていっているのです。辺さんはこう指摘しています。〈二〇〇三年から二〇〇八年まで大統領を務めた盧武鉉(ノ・ムヒョン)は退任後、崖から身を投げて亡くなった。一度は国家権力のトップに立った人間が、その権力を手放した後に自ら死を選んだのである。盧武鉉は「馬鹿の盧」のキャッチフレーズで売った、庶民的な大統領だった。なぜ、彼のような人間が死ななければならなかったのか。また、「死」とは生命のみを意味しない。政治的、社会的「死」もある。実は、韓国の大統領のほとんどすべてが、退任後、在職中の「罪」を問われ、亡命、隠遁、逮捕、死刑宣告といった「罰」を受けている。これほど光と影のコントラストがくっきりとわかれる権力者ばかりが続く国はそうはないだろう〉辺さんはそうした視点から、建国の父、李承晩に始まり、朴正煕を経て、全斗煥、盧泰愚、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博といった韓国の大統領たちはどんな罪を問われ、どうその罪をつぐなったのかを調べ上げ、建国から66年の韓国――歴代大統領と韓国国民たちの間で何があったのかを検証していきます。ここでは、全斗煥と盧泰愚の時代を見ていきます。軍事クーデターによって大統領の座を射止めた全斗煥は、ともにクーデターに動いた陸士同期の盧泰愚に政権を譲ったあとでどんな処遇を得たのか――。〈大統領となった盧泰愚は、まず前政権の清算から行った。全斗煥の不正蓄財を追及したのである。全斗煥も捜査を甘んじて受け入れ、資産の一部を国庫へ返納すると同時に、山寺で隠遁生活を送ることになった。私は盧泰愚の全斗煥に対する仕打ちを本気だとは思っていなかった。二人はもともと「同期の桜」である。暗黙の了解、阿吽の呼吸で全斗煥に責任を取らせるというパフォーマンスをしているにすぎないと醒めた見方をしていた。いずれ禊ぎを済ませたとして復活を遂げるのではないかと思っていたのだ。しかし、その予想は裏切られた。盧泰愚は本気で全斗煥を切ろうとしていた。全斗煥は早くソウルに戻りたかったのに、もうしばらくそのままじっとしていろと言うばかりで、一向に戻してもらえなかった。盧泰愚は全斗煥の後継者と目されていたが、二人の大統領には大きな違いがある。全斗煥は間接選挙のみだったが、盧泰愚は直接選挙に勝って玉座に座った。このことが盧泰愚を強気にさせたと私は見ている。終生ナンバー2だと思われていた盧泰愚だが、トップに立ったことで本来の自分を出すことができた。そして、自分をもっと光輝かせるためには、影が必要だ。その影の役こそ前大統領の全斗煥だった〉陸軍士官学校同期で粛軍クーデターを先導した二人でしたが、盧泰愚は最高権力者となったとき、自分を後継指名して院政をしこうという前大統領の思惑を知りぬいたうえで容赦なく切り捨てます。盟友を山寺に追いやった権力闘争の凄まじさ。その盧泰愚も、退任後に不正蓄財と光州事件の責任を問われて、金泳三政権下で懲役17年と追徴金2628億ウォン(約277億円)の支払いを義務づけられます。それにしても、この巨額ぶりには驚きます。最後に「韓国人が求めるリーダー」についての辺さんの指摘を紹介して終わりにします。第14代大統領、金泳三は後継者の3条件として以下の三つをあげたそうです。〈一つは強力なリーダーシップ。二つ目に誠実で嘘をつかないこと。三つ目が道徳的にきれいなこと。この三つのうち、歴代の大統領は、誰一人、二、三は守れなかった。しかし、一の強力なリーダーシップについては、李承晩から朴槿惠に至るまで全員に必須の条件だった。(中略)しかし、絶対的な権力を一人の人間に与えたことの反動もある。スキャンダルが起きたときに、大統領をその座から引きずりおろすというエネルギーはすさまじいものになる。大統領に対する国民の支持率の乱高下はその象徴だ〉2002年W杯日韓共催から12年――嫌韓論が声高に語られ、ヘイトスピーチがネット上にあふれる状況です。近くて遠い国、韓国。隣国で何が始まり、何が変わろうとしているのか。お互いを知ろうとする冷静な思考が問われています。その手がかりとなる好著です。(2014/5/23)
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    投稿日:2014年05月23日