書籍の詳細

ストリップに身をわななかすかと思えば、エサのない針を悠然と海に垂らし、美人がいるときけば秋田くんだりまで飛んで行く。またある時は碩学岡潔センセイの前に端座して頭をたれ、チリ紙交換の車に同乗して「毎度おなじみ……」をやり、はたまた競輪学校へ入学し、あげくのはては日本のプロ野球に八つ当たりするという、融通ムゲというべきか、ゆき当りバッタリというべきか、当代人気漫画家・東海林さだおの身を挺しての爆笑ルポ。名作『助けてください』も収録。

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ショージ君のにっぽん拝見のレビュー一覧

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  • 朝の髭剃りの時に、カミソリの刃がちょっと皮膚を傷つけてしまった。出血。そんな瞬間に、あなたはどんな連想が働きますか。われらが東海林さだおさんの場合は、さすがは漫画家、連想力が鍛えられています。こんな具合です。傷→出血→破傷風菌→入院→収入の途絶(とぜつ)。ここまで一気に迅速かつ、なめらかに連想が拡がっていきます。そしてその次にくるものは貧窮。ここから再び発想の連鎖が始まります。貧窮→借金→親子三人路頭に迷う→一家離散→行き倒れ。“借金”と“親子三人路頭に迷う”の間に生活保護を入れてもいいナ、などと考えている一方で、東海林さんの頭の中では、縦方向の連想力だけでなく、横方向への豊かな空想力も遺憾(いかん)なく発揮されていきます。例えば、”親子三人路頭に迷う”のところでは、アカにまみれたオヤコサンニンが、路頭をうろつく光景アリアリと目に浮かぶ。折しも降りしきる師走の雪。背中で泣き叫ぶ幼児・・・・・・。そして夫に行き倒れられた女房は、一念発起して子供を捨て、夜の蝶になり果てる。凍てついた冬の夜、棄てられた幼児は、空の哺乳ビンしっかり握りしめて、破れ障子の中で息たえる。そのそばには歯形のついたカボチャが一つ・・・・・・。つまりカミソリ傷一筋の発端から破れ障子に歯形つきカボチャにまで、連想は止めどなく発展してしまうというわけですが、鍛えに鍛えた発想力、ここで留まるわけではありません。ちょっとした頭痛が起きれば、たちまち”脳溢血”に連想が及ぶのです。そして連想力の暴走といってもいいくらいの勢いで、脳溢血→体不自由→貧窮→一家離散→親子三人路頭に迷う→女房夜の蝶→歯形つきカボチャまで一気呵成に到達してしまいます。目がちょっと充血したら、たちまち“失明””貧窮“”一家離散“”女房夜の蝶“ときて、最後はやっぱり”歯形つきカボチャ”です。発端はいろいろであっても、行き着く先は一定していて、問題は発端から結末に到達するまでの時間が恐ろしく短縮されてきたこと。コホンと空咳(からせき)ひとつすると、すぐ”歯形つきカボチャ”という具合に中間がなくなって、どうにも悲惨な状況になっている。どうにも息がつまりそうだ。息がつまると、やはりすぐに”心筋梗塞“”カボチャ“となる。これじゃあ、たまらない。だれか助けてください――という東海林さだおさんの哀願で締めくくられているのが、ずばり「助けてください」と題して、本書『ショージ君のニッポン拝見』に収録されている傑作エッセイ。鋭い感性、豊かな連想力、空想力。創作の源となる才能の持ち主の知られざる”葛藤“を垣間見て、やっぱり抱腹絶倒して、楽しんでしまいました。もともとは『漫画読本』『オール読物』の連載企画として書かれた文章です。斯道(しどう)の大家、田中小実昌さんとともに立川に出かけた「ストリップ観劇行」、炭鉱からフラダンスに大転換して3年目のハワイアン・センターを訪ねた「東北のフラ娘たち」、園内での結婚が盛んに行われているという奈良県の養老院を訪ねた「ジジババ結婚地帯をゆく」などなど、29のエッセイはいずれも特異な連想力が発揮されて出色の読み物となっていて、東日本大震災で社会状況が一変した2011年の今読み直してもその内容は決して色褪せてはいません。文春ウェブ文庫ですからiPad読書も可能。おなじみのショージ君のイラストも多数収録、あわせてお楽しみいただけます。(2011/10/28)
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    投稿日:2011年10月28日