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大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ青島製作所。リストラが始まり、歴史ある野球部の存続を疑問視する声が上がる。かつての名門チームも、今やエース不在で崩壊寸前。廃部にすればコストは浮くが――社長が、選手が、監督が、技術者が、それぞれの人生とプライドをかけて挑む「奇跡の大逆転(ルーズヴェルト・ゲーム)」とは。(講談社文庫)

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ルーズヴェルト・ゲームのレビュー一覧

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  • 〈「なあ、細川君。野球で一番おもしろいといわれているスコアがいくつか、知ってるか」突然、青島にきかれ、細川は首を傾げた。「さあ、私はあまり野球には詳しくないので。三対二ぐらいの試合でしょうか」「八対七だ」青島はこたえた。「ルーズヴェルト大統領が、もっともおもしろいスコアだといったというのがそもそもの起源でね。ルーズヴェルト・ゲームだ」「ほう。打撃戦ですね」細川は、四対四のままのスコアボードを眩しく見上げながらいった。「ここからさらに三点と四点をそれぞれ取り合うわけですか」「だが、どう得点するかによって試合の印象はまるで違う」青島はいった。「一点ずつ取り合うシーソーゲームもいいが、私としては点差を追いつき逆転するところに醍醐味を感じるんだ。一点ずつそれぞれが加点して四対四になったのではなく、最初に四点取られて追いついたから、この試合は余計におもしろい。絶望と歓喜は紙一重さ。まるで、なにかと同じだな」〉直木賞作家・池井戸潤の『ルーズヴェルト・ゲーム』の一節です。3月にリリースされて以来、ジリジリと売上げを伸ばしてきた話題の本で、先日連続ドラマの放送も始まりました。物語の舞台は、ビートルズが来日した昭和41年に創業者の自宅ガレージで産声をあげ、オイルショックなどの荒波にもまれながらも、年商500億円、社員1500名、派遣労働者を含めれば1700名の従業員を抱える電子部品の中堅企業に成長した青島(あおしま)製作所。引用中の「青島」は創業者の青島毅(たけし)会長。ドラマでは山崎努が演じています。「細川」は5年前、外資系コンサルティング・ファームにいたとき取締役営業部長にヘッドハンティングされた細川充(みつる)。2年前に青島から指名され、生え抜きの役付役員を飛び越して青島製作所社長の座につきました。唐沢寿明演ずる理論家の若手経営者です。絶望と歓喜は紙一重――。青島と細川が野球場の応援席で交わした会話には、池井戸潤の作品作りのエッセンスが凝縮されています。細川は大口納入先からの仕入れ大幅削減の申し入れに直面、業績低迷、収益力の低下を危惧するメインバンクからは融資の条件として大幅リストラを迫られるという経営上の大ピンチに立たされています。一方、かつては都市対抗野球の東京都代表の常連で歴史ある青島製作所野球部も細川の代になって力を落とし、再建途上にあります。シーズンオフに監督が主力選手を引き連れて宿敵のミツワ電器に移ったあと、無名の新監督を迎えて一からの出直しのシーズンが開幕したところです。ミツワ電器は野球部のみならず、本業でも青島製作所の前に立ちはだかるライバル企業で、青島の技術力に及ばないという判断の下、青島の納入先に対し優位な資本力を背景に価格引き下げ攻勢をかける一方、細川に提携(吸収合併)を働きかけます。さらに秘密裡に未上場の青島製作所の株主を籠絡して経営権を掌握しようと画策しています。かつてない苦境にあることがはっきりして、大幅な人員整理が避けられない以上、いかに名門の野球部といえども、年間3億円もの経費がかかるとあってはもはや聖域ではなく、廃部論が浮上してきています。絶体絶命の窮地に追い込まれた青島製作所。奇跡の大逆転[ルーズヴェルト・ゲーム]はあるのか――。会社の存亡を左右する開発の責任を負いながらも技術者魂を守り通して安易な妥協を拒む技術者、その頑なともいえる姿勢を否定することなくひたすら待つ細川社長ら役員たち、そして野球部監督、選手たち、応援を買ってでた社員たちがそれぞれの人生を賭けて奇跡の大逆転に挑んでいきます。野球部部長を兼ねる取締役総務部長の三上文夫(みかみ・ふみお)は人員整理を断行する立場にあります。その三上が人知れず試みた「挑戦」のエピソードです。〈製造部から解雇候補者の一次リストが上がってきたところだ。製造部は、いうまでもなく青島製作所の中心部門であり、抱えている社員数は最も多い。リストアップされた解雇候補者数は約百五十人。総務部の仕事は、この中から最終的に退職勧告すべき者と社員として留め置く者との振り分けをすることだ。部下に仕事を振る前、とりあえず三上は自分で人事ファイルを当たり、果たしてこの者たちを本当に整理対象としていいか、それを検討してみようとした。リストから無作為にピックアップしてみる。真鍋和孝、二十九歳。府中第一高校卒。派遣会社を経て、三年前から正社員──。リストの上位にある男だった。製造部の所感曰く、〝勤務態度に熱意がなく、コミュニケーション能力にも疑問がある。スキルアップも期待レベルに程遠く、当社にとって必要な人材とはいいかねる〟。「コミュニケーション能力か……」ひとりごちた途端、そういえば以前、製造部で喧嘩した奴がいたな、と思い出した。仕事のやり方を巡ってライン長と若手がとっくみあいになった事件だ。確かあのときの若手が真鍋じゃなかったか。案の定、真鍋の人事ファイルにはそのときのレポートが挟まっていて三上の記憶が正しいことを告げていたが、呆れたことに、製造部の真鍋評は、そのときのレポートの受け売りに近かった。レポートを作成したのはグループ長の今西で、喧嘩の当事者だ。喧嘩の相手が都合よくまとめたものが果たしてフェアといえるか? それをろくな検証もせず解雇理由に挙げてくる製造部の評価態度も問題ではないか。リストラの人選がそんな杜撰であっていいはずはない。「真鍋にだって家族がいるんだぞ」人事ファイルによると、一昨年結婚して、今年の一月、赤ん坊が生まれたばかりだ。(中略)三上は、人事部がいままでに行った様々な研修や技能講習での真鍋の成績を見てみた。「悪くないじゃないか」いや、それどころか優秀だ。一方、真鍋にダメ出しをした今西のほうは、研修結果を見ても種々問題が多い。好き嫌いで解雇リストになんか挙げられたんじゃ、たまったもんじゃない。生真面目だが熱血のところがある三上は、舌打ちをひとつ洩らすと、「真鍋和孝」の名前を赤ボールペンで強く消し、真っ先に解雇リストから外したのであった〉通り一遍、深い検討もなく「たかが工員」と数合わせの切り捨てを図ろうとする製造部のリストを前に、切られる側の立場になってやれるのは自分だけだ。人事システムを運用する自分は所詮、組織の歯車かも知れないが、組織のために回る歯車であると同時に、それは社員に寄り添う歯車でもありたいと思う。そう考えた三上は、ただちに人事課長を内線で呼んで、製造部があげてきた解雇リストを全面的に見直すように命じます。三上は総務部長としてリストラの指揮をとる一方で、野球部の部長として銀行からも突きつけられる「廃部論」とリストラのはざまで悩み抜きます。生真面目な熱血漢の姿・・・・・・。熱くなって思わず「頑張れ」と声をかけているシーンが少なくとも4回はありました。そんな積み重ねの先にどんな「奇跡の大逆転」が待っているのか。絶望と歓喜は紙一重の池井戸ワールド。「グラウンドでひとつに!」を合い言葉に、青島製作所の男たちが巻き起こす[ルーズヴェルト・ゲーム]にとっぷりとつかってください。(2014/5/2)
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    投稿日:2014年05月02日