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2014年4月スタート日本テレビ系ドラマ「花咲舞が黙ってない」原作本!主演:杏「ベテラン女子行員はコストだよ」そう、うそぶく石頭の幹部をメッタ斬るのは、若手ホープの“狂咲”こと花咲舞。トラブルを抱えた支店をまわり(=臨店)、業務改善を指導する舞は、事務と人間観察の名手。歯に衣着せぬ言動で、歪んだモラルと因習に支配されたメガバンクを蹴り上げる!(講談社文庫)

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新装版 不祥事のレビュー一覧

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  •  銀行員経験をもつ池井戸潤による女子行員をヒロインとする『不祥事』と『銀行総務特命』の2作品がテレビドラマ「花咲舞が黙ってない」放送開始(4月16日)を前にして話題となっています。
     ドラマでは杏が演ずる主人公の花咲舞。正義感にあふれる、まっすぐなキャラクターは半沢直樹を彷彿とさせます(もう一つの原作『銀行総務特命』にはもう一人別の女子行員、唐木怜が登場しています。ちなみに執筆開始は『銀行総務特命』が少し早いので、唐木怜が先に誕生したことになります)。
     いずれにしてもヒロインの花咲舞が不祥事に立ち向かい、その背後に見え隠れするトップを目指す真藤執行役員兼企画部長とその取り巻きの思惑や策略を打ち砕いていくストーリーは痛快そのもの。銀行(組織)内の人間模様もきっちり書き込まれていて、『不祥事』は収録8話を短編として愉しむこともできるし、ヒロイン花咲舞と上司の相馬健のコンビが将来の頭取候補・真藤一派と銀行の有り様をめぐってぶつかり合う長編物語としてじっくり読んでいくことでさらに深く味わうこともできるようになっています。
     花咲舞は唐突に相馬の前に現れます。この“出会い”の場面で読者はあっという間に物語に引きずり込まれていきます。相馬健が事務部事務管理グループ調査役として本店に異動して2か月。部長の辛島伸二朗(からしましんじろう)に呼ばれた相馬が部長室に入った場面。第1話「激戦区」より引用します。

    〈「・・・最近の支店動向を見てみると業務の習熟度が低い行員が増えたせいか事務ミスが目立つ。そこで提案なんだが、できれば臨店指導で女子行員たちの意見をもっときき出せる体制をつくってはどうかと思うのだが」
    「ああ、それはいいお考えだと思います」
     心から相馬はいった。「私が本部調査役として臨店すると、支店の行員はやはりどこか警戒するというか、うち解けて話してくれないことがあります。本音をきき出すいい方法はないかと私も考えていました」
     我が意を得たり。辛島は相馬の反応にうれしそうな顔をした。
    「そうか。君のことだからたぶんそういってくれると思ったよ。どうだろう、君にひとり部下をつけるから、しばらく二人で担当してみては」
    「私に部下、ですか」
     相馬はぱっと顔を輝かせた。いま、相馬には部下はいない。代々木支店で二人の部下はいたものの、そのうちのひとりはひどいはねっ返りで上司を上司とも思わない女子行員だった。
     ふと、思い出したくもない名前を相馬は思い出し、顔をしかめる。
     狂咲(くるいざき)──いや花咲舞(はなさきまい)。
     あいつには随分とひやひやさせられた。転勤してこの二ヵ月、なんと心休まる銀行員生活であることか。
    「ありがとうございます」
     心から相馬がいうと、満足したらしい辛島は大きくうなずき、「実はもう人選を済ませて正式な辞令を出してある。支店で三日間引き継ぎをしてもらった後に当部へ来てもらうが、その前に挨拶(あいさつ)に来てくれたので君に引き合わせようと思ってね」
     辛島の言葉が終わらないうちに、背後のドアが二度ノックされ、部長秘書が顔を出した。「ああ、来た来た。どうぞ入ってくれるようにいってくれ」
     どんな部下だろう。相馬は期待に胸を膨(ふく)らませた。「こちらが相馬調査役だ。相馬くん、紹介しよう」
     相馬は、油断するとゆるみそうになる頬(ほお)を引き締めた。立ち上がって、斜め後ろに慎ましく立っている人物を振り向く。
    「相馬で──あっ!」
     相馬は叫んだ。「く、狂咲! なんでお前が──!」(中略)
     唖然(あぜん)として言葉もない相馬に、舞がにっこりと微笑(ほほえ)む。
    「ふつつかものですが、よろしくお願いします」〉

     花咲舞は20代半ばですが、窓口業務のテラーとして評価されて、臨店指導を業務とする事務部に異動してきました。上司としてコンビを組む相馬とは代々木支店で部下上司の関係にあって、理不尽なことや横暴に妥協することなく、まっすぐな行動にでる花咲を相馬は「狂咲」と呼んで、苦手としていました。
     その二人がコンビを組んで初めて臨店指導に入ったのは自由が丘支店。競合他行が立ち並ぶ激戦区ですが、舞たちの東京第一銀行自由が丘支店では3000万円の誤払いが発生するなどトラブルが多発。業績面でも競合と比べて旗色が悪い。そこに事務指導に入った花咲舞は、ベテランの女子行員が次々に辞めていっていることに気がつきます。そして、ただ一人残ったベテラン女子行員は3000万円誤払いの責任を問われている・・・・・・。自由が丘支店の中西課長と花咲舞がトラブル多発の背景をめぐってぶつかります。

    〈「ベテラン、ベテランって、大きな顔をしてるけど、それほど大した事務レベルにあったわけじゃない。余計なコストがかかるだけだ」
     ふと、いい過ぎたと思ったか中西は口を閉じた。「コスト」という言葉が、舞の胸の中へ重く沈んでいった。
    「女子行員はコストですか」
     中西は、その言葉を自分への挑戦とでもとったか、敵意を滲(にじ)ませた。
    「コスト? 当たり前でしょ。あなただってそう。私だってそうだ。経営とはときに冷徹なものさ。あんたにはわからないだろうがね」
     利いたふうな口ぶりだが、そういうあんたはわかっているのかと、問い返したい衝動に駆られる。
    「なるほど。よくわかりました」
     だが、舞は立ち上がり自分を睨み付けている相手を残してさっさとその小部屋を後にした。いま、この男と議論しても始まらない〉

     ベテラン女子行員を「コスト」として位置づけて、過大な目標を課していじめ抜き退職に追い込んでいったのは現場の課長ですが、そうした支店経営の背景には将来の頭取候補といわれている執行役員・真藤とその取り巻きたちの存在があり、その真藤一派こそ相馬・花咲舞コンビの真の敵であり、臨店指導はその一派との代理戦争と化していきます。
     臨店指導を迎え撃とうとする真藤一派のこざかしい支店長や支店幹部を花咲舞が粉砕していくわけですが、そこから半沢直樹でもおなじみのカタルシス――これぞ池井戸小説を読む愉しさです――がもたらされます。
     そして池井戸潤は、読者のカタルシスを100%どころか200%に沸騰させる男を一人、用意しています。新宿支店勤務の入行3年目。大手百貨店オーナーの御曹司・伊丹清一郎です。

    〈伊丹の頬が鳴り、言葉は途中で途切れた。
    「ふざけんじゃないわよ!」
     狂咲の怒りが爆発した瞬間だった。
    「あんたの稟議一つで、一つの会社が倒産し、何人もの従業員が職を失うのよ。住宅ローンを抱え、家族の生活を支えている人たちの幸せな生活が奪われるのよ。それがどういうことか、あんたにはわかっているの? あんたみたいな勘違いした銀行員がいるから、世の中の人から銀行が誤解されるのよ。目を覚ましなさい!」〉(第3話『腐魚』より)

     伊丹清一郎は、個人的恨みから担当企業社長の融資依頼を放置して手形決済日になっても稟議をあげずにいました。午後3時を回って5,000万円を街金で工面した社長が銀行に駆け込んできたところに御曹司行員が素知らぬ顔で外出から帰ってきました。その瞬間、花咲舞が怒りを爆発させたというわけです。じつはこの伊丹清一郎、長編物語としてみた場合、最後の最後(表題作『不祥事』)に決定的な形で再登場してきます。読者のカタルシス沸騰のラストシーンをぜひ本書でお読み下さい。(2014/3/28)
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    投稿日:2014年03月28日