しんがり 山一證券最後の12人

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負け戦のときに、最後列で敵を迎え撃つ者たちを「しんがり」と言います。戦場に最後まで残って味方の退却を助けるのです。四大証券の一角を占める山一證券が自主廃業を発表したのは、1997年11月のことでした。店頭には「カネを、株券を返せ」と顧客が殺到し、社員たちは雪崩を打って再就職へと走り始めます。その中で、会社に踏み留まって経営破綻の原因を追究し、清算業務に就いた一群の社員がいました。

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負け戦のときに、最後列で敵を迎え撃つ者たちを「しんがり」と言います。戦場に最後まで残って味方の退却を助けるのです。四大証券の一角を占める山一證券が自主廃業を発表したのは、1997年11月のことでした。店頭には「カネを、株券を返せ」と顧客が殺到し、社員たちは雪崩を打って再就職へと走り始めます。その中で、会社に踏み留まって経営破綻の原因を追究し、清算業務に就いた一群の社員がいました。

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 創業100年の記念すべき年に、山一證券は突然「自主廃業」を表明し、消滅していきました。1997年11月24日のことです。「社員は悪くありませんから! 悪いのはわれわれなんですから!」とテレビカメラや報道記者の前で号泣した野澤社長の姿が今も目に浮かびます。
 この時、山一證券社員とその家族三万人が路頭に迷う過酷な運命を突きつけられたわけですが、山一證券はなぜ、滅亡に追い込まれたのか。その引き金となった2600億円という途方もない簿外債務。それはいつ、どのように、誰の決断で生まれ、どのような人間によって隠し続けられたのか──。自分たちの手で疑問を解き、去っていく同僚や家族に明らかにするための最後の調査を引き受けた社員たちがいました。社員だけでなく、役員までもが再就職に走り出していました。その流れに逆らって、会社の闇に光をあてるために再就職を封印した12人の社員たち。3か月間、無給で取り組んだメンバーもいたという。
 山一が破綻した当時、読売新聞社会部デスクとして山一の社内調査や精算業務に携わる彼らの姿を新聞で取り上げたジャーナリストの清武英利氏が、目的を達成し、退職していった彼らを追跡して一冊のドキュメントを書きあげました。『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社)です。初版発行は、2013年11月。2014年度講談社ノンフィクション賞受賞、2015年テレビドラマ化(9月~10月)で人気作となりました。

 山一證券消滅が明らかとなった時、アメリカの有力新聞「ワシントン・ポスト」は号泣する社長の写真を添えた社説を掲げました。見出しは〈Goodbye, Japan Inc.(さよなら、日本株式会社)〉。
「日本株式会社」の根幹だった終身雇用と年功序列の時代が終わったことを告げる涙だったのだと喝破した著者は、そんな時代の荒波の只中で、あえて「後軍(しんがり)」の役回りを引き受けた12人の「なぜ?」を追究していきます。

〈・・・・・・最後の仕事場に、社内権力者の取り巻きやエリート社員の姿はない。債務隠しについて言えば、その秘密を知っていたり、早くから調査を進めたりしていた幹部たちはいたのである。だが、そのエリートたちは調査や清算業務には加わらなかった。
「後軍(しんがり)」という言葉がある。戦に敗れて退くとき、軍列の最後尾に踏みとどまって戦う兵士たちのことだ。彼らが楯となって戦っている間に、多くの兵は逃れて再起を期す。会社破綻を企業敗戦ととらえれば、自主廃業の後で働いた社員たちは、しんがりの兵士そのものであった。
 山一證券の場合、後軍に加わった社員たちは、会社中枢から離れたところで仕事をしてきた者ばかりである。会社の講堂に集めると後列に並ぶような社員たちだ。
 その多くが、「場末(ばすえ)」と呼ばれたビルで仕事をした人々だった。〉

 後軍(しんがり)12人についての紹介が目次のあとにあります。山一にあって、ど真ん中のエリートの道を歩んでいたわけではありません。社内権力者に近い、ど真ん中を走るエリートたちから「場末」を蔑視されてきた社員たちです。その彼ら、彼女たちが「貧乏くじ」と見える最後の仕事を引き受け、その困難な道を一歩一歩切り開いていきます。そしてその仕事をやり遂げることで、しんがりの12人が成長し、魅力的な人間になっていく。損得ではない何かにこだわり、自分が正しいと信じる道を誇りを持ってひたすら進む人間の美しさ――そこが読む者の大きな共感を呼ぶ本書の面白さです。歴史ある証券会社で長い間、隠蔽されてきた不正の実態。秘密のベールを一枚一枚剥いでいくように明らかにしていく過程は圧巻です。文句なしに一級のドキュメント作品といっていいと思いますが、それ以上に心に響く本書の魅力は「しんがり12人」の生き様です。少し長くなりますが、「主な登場人物」を引用します。

〈嘉本隆正(かもとたかまさ。五十四歳)
 「場末」の山一證券業務監理本部(ギョウカン)に赴任した硬骨の常務。社内調査委員会を組織し、破綻原因を究明する。「組長」と呼ばれた。
菊野晋次(しんじ。五十八歳)
 嘉本の盟友にしてギョウカンのナンバー2。嘉本の四歳年上の通称「タヌキおやじ」。西郷隆盛(さいごうたかもり)を敬愛する薩摩隼人(さつまはやと)で、「負け戦」の清算業務の責任者を引き受ける。
長澤正夫(五十一歳)
「高倉健」に憧れるギョウカンのナンバー3。直情の業務管理部長で、隠匿資料を発掘して調査報告書作成を助けた。調査委員会の事務局長を務める。
竹内透(四十五歳)
 ギョウカンの検査課次長。山一の「簿外債務管理人」を突き止める。元高校球児で、強情だが正義感に満ちたクリスチャン。
横山淳(じゅん。三十六歳)
 ギョウカン最若手の検査役で、パソコンに強い。複雑な飛ばしマップを作成。
堀嘉文(よしぶみ。五十四歳)
 無給で調査委員会に加わった山一取締役。関西弁の徹底した追及で債務隠しに手を染めた社員に恐れられる。
橋詰武敏(五十四歳)
 寡黙な常務。トレーディング部門を統括し六人目の調査委員となる。菊野同様、農家の出身で、長野県上田高校の元剣道部主将。
杉山元治(げんじ。五十二歳)
 国際畑を歩き、嘉本のヒアリング対象者の一人だったが、山一国際部を批判し、七人目の調査委員に加わる。
印出正二(いんで。三十七歳)
 ギョウカンの業務管理部企画課長。「検事」と呼ばれる切れ者で、当初、簿外債務の調査にあたり、のちに清算業務を指揮する。
虫明一郎(むしあき。三十五歳)
 東京拘置所に通って、逮捕された山一幹部たちのケアを担当する。ギョウカンの業務管理部企画課付課長。菊野の下で印出とともに清算業務を指揮する。
郡司由紀子
 調査委員会を手伝う嘉本の秘書。向こう意気が強く、再就職先で検査役として働く。
白岩弘子
 多額の山一株を失った営業企画部付店内課長。菊野らに見込まれ清算チームへ。〉

 先頭に立って11人のメンバーをひっぱった嘉本隆正氏は、テレビドラマでは江口洋介が演じた梶井達彦のモデルとなった元常務です。そして佐藤B作扮する花瀬俊太郎のモデルである菊野晋次元理事。著者は「文庫版あとがき」で、この二人との間のエピソードを後日譚として披露しています。

〈昨年、『しんがり』が思いがけず、第36回講談社ノンフィクション賞を受賞した時、真っ先に嘉本さんに電話を入れた。
「授賞式に是非お越しいただけませんか」
 すると、嘉本さんはこう言った。
「あれは清武さんの作品ですよ。私の仕事は、社内調査報告書をまとめた時点で終わっています。責任を取るべき山一役員会の末席にもいたので、晴れがましいところはご遠慮したい」
 私は事実を書いたけれども、筆者の存在を離れた客観的事実というものは存在しない。嘉本さんには彼なりの、会社を崩壊へと導いた首脳たちにはその人なりの〝事実〟があり、かつての先輩や仲間をもう傷つけたくないという気持ちが嘉本さんにはあったようだ。さらに、旅行の予定も重なって、授賞式に彼の姿はなかった。
 今年春になって、『しんがり』をWOWOWでドラマ化したいという話があった。監督や脚本家が12人の主だった人々に話を聞きたいと申し出てきた。嘉本さんにそれを伝えると、予想通りぴしゃりと断られた。
「どんなお話をしたところで、ドラマは一人歩きするものです。私が関わることではありません」
 清廉で頑固なリーダーである。その話を菊野さんにすると、「彼らしいなあ」と呵々大笑した。菊野さんは授賞式にも駆け付けてくれた。「よかったな」と肩を叩かれ、「山一戦友会」の仲間になったような気がした。
 山一の最後は、こんな硬軟取り混ぜた「後列」の社員たちが看取っている。私も彼らに囲まれていたから、逃げ出さずに書き続けられたのだ。〉

 引用文中、「山一戦友会」とあるのは、山一の「命日」の月――つまり自主廃業が発表された11月――に毎年、嘉本元常務や菊野元理事ら「最後の12人」が集まって開いてきた小さな集まりです。山一證券が消えてなくなった真相を知りたいという思いを共有して、最後の最後まで戦った12人が、年に一度集まって旧交をあたため、近況を語り合う。
 著者の清武英利氏は、読売新聞社会部記者、運動部長、読売巨人軍球団代表を歴任。専務取締役球団代表兼GM・編成本部長の職にあった2011年11月、コーチ人事を巡ってナベツネこと渡辺恒雄・球団会長(読売グループのトップ)を告発。この「清武の乱」を理由にすべての職を解任された経験をもっています。
 その後、フリーのジャーナリストとして活動を開始した清武氏が取り組んだのが、本書『しんがり』です。授賞式に駆けつけた菊野元理事が「よかったな」と肩を叩いてくれたと著者が書くとき、組織の壁にぶつかった経験をもつ同士だからこそ通い合うものがあることがわかります。
 深まる秋。一人静かに「サラリーマン人生と会社」を見つめ直したい一冊です。(2015/11/6)
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